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終章

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「カールはどうなった」
 アズラーイールから距離を取ったフリードリヒにルークスが確認する。

「とりあえず蘇生はできた。体は問題ないが、記憶がどの程度回復するかはわからん」
「今どこだ?」
「あのドームの中だよ。あそこが一番安全だ。まだ目覚めてないんでな」
「そうか……」
 カールが参戦してくれれば形勢逆転も可能だと考えていたルークスはその言葉に悔しさを滲ませる。
「なんだ!?俺だけじゃ不足だってのか?」
「居ないよりはましだよな」
「言ってくれる」
 そうは言いながらも、多少なりとも余裕が出来た。その心境が二人の軽口に現れていた。

「行くぞ!」
「ああ」
 フリードリヒの掛け声に呼応するようにルークスが飛び出し短勁をアズラーイールに放つ。
 当然のように躱されるが、そこにフリードリヒが斬撃を加える。
 これもアズラーイールは左手でいなす。
 
「なるほど。なかなかいい連携ですね。少しは楽しめそうです」
 そういいながらもアズラーイールの声には先ほどまでの余裕は感じられない。
 二人の攻撃が繰り返されるたび、アズラーイールは眉間にしわを寄せる。

『行けそうだ。このまま押し切るぞ』
 フリードリヒがルークスへと念話を飛ばしたその時。

 ドガッ!

 フリードリヒの背後にいたルークスが派手に宙を舞う。
 振り返るフリードリヒの目の前にはアズラーイールの顔があった。

 ガツッ!!

 アズラーイールの膝蹴りで、今度はフリードリヒもんどり打って倒れこむ。

「おいたが過ぎますね。少しお仕置きが必要でしょうか?」
 アズラーイールは二人を見下ろしながら冷たく言い放つ。
 
「それはどうでしょうか?」

 その声の先にはアズラーイールに向かって掌をかざすサトシが居た。

「茨!」
 アズラーイールの顔のあたりに無数の棘が現れる。

「やったか!?」
 にこやかに笑うサトシの懐に残像を伴いながらアズラーイールが現れ、掌底でサトシの顎を上空へ打ち抜く。
 サトシは天高く弾き飛ばされた。

「作戦としては悪くないですが、スキが多すぎますね。相手の力量を正確に分析する必要がありますよ」
 そういいながら、宙を舞うサトシに打撃を加え、吹き飛ばされたサトシの背後に回っては打撃を繰り返す。

 サトシはピンボールのように空中で往復しながら殴打を受け続ける。

 エンリルの支援により回復しているものの、アズラーイール一撃はことごとく重い。バフの重ねがけがなければオーバーキル必死だった。

 よろよろと立ち上がるフリードリヒとルークスは、サトシの救援に向かおうとするが、思うように体が動かない。

「サトシ……あの状態のわりに持ちこたえてるな……」
 ルークスは自分の回復を優先しながらサトシのステータスを確認する。

 確かに、アズラーイール渾身の一撃を往復ビンタの様に食らいながらも、なんとか持ちこたえている。

「ガードにイモータライト使ってるな。それに衝撃も吸収してるぞ。なんかまた新素材生み出してるんじゃないか?」
 
「サトシの奴、なかなかやるな。となれば、おい!エンリル!」
『なんだ!?』
「俺たちの回復を優先してくれ。サトシの救出に向かう」
『お前たちで助けに行けるのか?』
「助けるというよりは、手数を増やして、奴(アズラーイール)の余裕を削ぐって方が正しいな」
『わかった。しかし、じり貧だぞ』
「大丈夫だ」
 ルークスのその言葉には何やら含みがあった。エンリルは問い詰めたい衝動にかられたが回復を優先する。

 体力がある程度回復したところで、二人はサトシ救援へと向かう。
 サトシを殴打し続けるアズラーイールに向かいフリードリヒが斬りかかる。

 アズラーイールは振り向きもせず、易々とその攻撃をかわす、そして背後のフリードリヒに向けて正確な蹴りを打つ。
 その蹴りをルークスが短勁でいなしながらフリードリヒが三連突きでアズラーイールをけん制する。

 回避の方向を制限されたアズラーイールは攻撃対象をサトシからフリードリヒへとシフトした。

 その隙をサトシは見逃さなかった。

「茨!」

 しかし、アズラーイールの反応速度は常軌を逸していた。
 サトシの茨を大きくかわすと、フリードリヒ、ルークス、サトシに連続で蹴りを入れ吹き飛ばす。

 三人は、アズラーイールを中心として三方向へ大きく蹴り飛ばされた。


『あれにも対応するのかよ……』
 ルークスの言葉は嘆きにも似たものだった。
『にしても、サトシ。お前よくあの猛攻をしのいだな』
 フリードリヒの問いかけに、サトシは照れながら答える。
『防御に徹すれば、まあ、時間稼ぎくらいなら。イモータライトの盾を作れば衝撃を分散できますからね。それでも交通事故レベルの衝撃ですけど……』
 サトシの熟練度、防御力はこの世界では魔王やカールに次ぐレベルである。それに加えてイモータライトの盾により、打撃の衝撃を分散させているが、それでも致死レベルの衝撃というのだから始末に悪い。

『これは、万事休すってやつか?』
 フリードリヒが苦い表情でアズラーイールをにらみつける。

「どうしました?これで終わりですか?こちらはまだ本気を出していませんよ。何なら変形でもして見せましょうか?」
「笑えねぇ冗談だな」
 フリードリヒとしては冗談であってほしいという願望だった。

「そろそろ、お二人には研究に戻っていただきましょうか。そのためにはこの世界は邪魔ですね。いっそ更地にした方が清々しいんじゃないでしょうか?」
『おい!とんでもないことしようとしてねぇか?』
 フリードリヒの言葉には焦りの色がうかがえる。アズラーイールならば、そのくらい造作もないことは、今までの戦いで嫌というほどわかっていた。

『……』
 ルークスは沈黙したまま、アズラーイールをじっと見つめる。

「生方先生。このくらいにしましょう。成果もあったことですし。もう十分でしょう?趙先生も、神様ごっこはここまで……」

 アズラーイールはそう言いかけたところで、眉間にしわを寄せる。

「これは……いったい」

 アズラーイールの指先がブロックノイズのようなものでおおわれていた。

 そのブロックノイズは、徐々に大きくなってゆく。そして体のあちらこちからで発生していった。

「『ヒーローは遅れて現れる』ってね」
 ルークスがおどけながらアズラーイールに向かってウィンクをする。

「生方先生。これはどういうことです?」

「なんですか?あれは」
 サトシもアズラーイールのブロックノイズについてルークスに尋ねる。
「だから言ったろ?守護天使だよ。やっと助けてくれるってさ」
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