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終章
エンリル
しおりを挟む 現れたエンリルは天使を怪訝な顔で睨みつける。
顎を触りながら小首をかしげ視線を漂わせる。
「ん~。知らんのぉ。誰じゃ?おぬし」
「あは!なんですか?それは」
エンリルのその言葉を聞いて、天使ははじけるように嗤い始めた。
声の様子を除けば、その様は無邪気な少年のようだった。
「なんだとは何だ?」
エンリルは天使のその姿を見て途端に不機嫌になった。
「いや、失礼しました。その物言いがあまりにも堂に入っているもので。いやはや。それは設定ですか?それとも素でそのような態度を?」
「何とも無礼な奴じゃな。まずは名乗らんか!」
「おや。わかりませんか?
……そうですか。
なら、まあ。良いじゃないですか。趙先生」
「趙……?」
ルークスはそう呟くと口を開けたまま、天使とエンリルを交互に見やる。
エンリルは先ほどまでの不機嫌な顔を一段と険しくする。
「貴様……いったい」
「なるほど」
天使は、視線を虚空へと向け一段と楽しそうに語り始める。
「何もかもを放り出し、この世界に逃げ込んでもう……2000年……ですか。いやはや。随分早い余生を楽しんでおられるようで。大変結構」
天使は左手を前に突き出しながら言葉を続ける。
「……と言う訳にもいかないんですよ」
そう言うと、目の前で掌を握りしめる。
「ウグっ!」
10m以上離れた位置にいるエンリルが途端に苦しみ始める。
「おい!?なんだぁ!?」
慌てた様子でルークスがエンリルへと駆け寄ろうと一歩踏み出す。が、それと同時にエンリルから激しい熱風が吹き付けルークスはたたらを踏んで後ろに飛ばされ尻もちをつく。
「若造。小癪な事をしてくれるな。ワシが誰かわかっておるのか?」
エンリルの目には七色に輝く多重の輝く複雑な魔法陣が浮かび上がる。周囲には刺すような激しい殺気が満ちてゆく。
「ほう。これは恐ろしいですね。現実を受け入れられず恫喝ですか……。あなたが一番嫌っていたタイプの人間になってしまったのではないですか?」
「わかったような口を利くな!」
エンリルの瞳に映る魔法陣は一段と輝きを増し、周囲に吹きすさぶ熱風は嵐のように荒れ始める。
「そうですか。気に障ってしまったようですね。大変失礼いたしました。まあ、そう憤らずに。落ち着いて話そうじゃありませんか」
天使は荒れ狂う熱風の事など意に介さず淡々と話を続け、顔の前に右手を掲げる。
パチン!
天使が右手の指を鳴らすと、周囲の熱風は嘘のように静まり返り、辺りは静寂に包まれる。
「これで落ち着いて話せますね。ねぇ。趙先生」
エンリルの表情は苦く険しいままだったが、目に映っていた魔法陣は消え去り、周囲に放たれていた殺気も消え去っていた。
ルークスは自分が地面にへたり込んでいることに気づき、慌てて立ち上がる。
ローブに着いた砂埃を叩きながら、天使に向かって言葉を選びながら語りかける。
「おい。あんた誰だ? ……それに、こいつが趙博士……なのか?」
天使はルークスに視線を移すと、にこやかに答える。
「趙博士かどうかは、ご本人に尋ねてみてはいかがですか?」
自分の事には触れず、エンリルへと視線を向ける。
エンリルは天使の方を睨みつけたまま何も話さない。
「なあ。エンリル。あんた趙博士なのか?」
全く答えようとしないエンリルに、天使がやれやれと言った表情でエンリルへと歩み寄る。
「趙先生。いい加減研究室に戻ってもらえませんか?あなたの我がままでどれだけの損失が出ているかわかっているんですか?
それこそ2000年も遊べば十分でしょう。現実世界では大した時間ではないにしても、研究がこれ以上遅れるのは看過できません。場合によっては……」
天使はそこで言葉を区切る。
ルークスを始め、サトシもフリードリヒもその状況を見つめる事しかできなかった。
周囲は再び沈黙に支配される。
「お前らに……何がわかる……」
独り言のように呟いたエンリルの言葉は、今までのしわがれた老人の声ではなかった。
顎を触りながら小首をかしげ視線を漂わせる。
「ん~。知らんのぉ。誰じゃ?おぬし」
「あは!なんですか?それは」
エンリルのその言葉を聞いて、天使ははじけるように嗤い始めた。
声の様子を除けば、その様は無邪気な少年のようだった。
「なんだとは何だ?」
エンリルは天使のその姿を見て途端に不機嫌になった。
「いや、失礼しました。その物言いがあまりにも堂に入っているもので。いやはや。それは設定ですか?それとも素でそのような態度を?」
「何とも無礼な奴じゃな。まずは名乗らんか!」
「おや。わかりませんか?
……そうですか。
なら、まあ。良いじゃないですか。趙先生」
「趙……?」
ルークスはそう呟くと口を開けたまま、天使とエンリルを交互に見やる。
エンリルは先ほどまでの不機嫌な顔を一段と険しくする。
「貴様……いったい」
「なるほど」
天使は、視線を虚空へと向け一段と楽しそうに語り始める。
「何もかもを放り出し、この世界に逃げ込んでもう……2000年……ですか。いやはや。随分早い余生を楽しんでおられるようで。大変結構」
天使は左手を前に突き出しながら言葉を続ける。
「……と言う訳にもいかないんですよ」
そう言うと、目の前で掌を握りしめる。
「ウグっ!」
10m以上離れた位置にいるエンリルが途端に苦しみ始める。
「おい!?なんだぁ!?」
慌てた様子でルークスがエンリルへと駆け寄ろうと一歩踏み出す。が、それと同時にエンリルから激しい熱風が吹き付けルークスはたたらを踏んで後ろに飛ばされ尻もちをつく。
「若造。小癪な事をしてくれるな。ワシが誰かわかっておるのか?」
エンリルの目には七色に輝く多重の輝く複雑な魔法陣が浮かび上がる。周囲には刺すような激しい殺気が満ちてゆく。
「ほう。これは恐ろしいですね。現実を受け入れられず恫喝ですか……。あなたが一番嫌っていたタイプの人間になってしまったのではないですか?」
「わかったような口を利くな!」
エンリルの瞳に映る魔法陣は一段と輝きを増し、周囲に吹きすさぶ熱風は嵐のように荒れ始める。
「そうですか。気に障ってしまったようですね。大変失礼いたしました。まあ、そう憤らずに。落ち着いて話そうじゃありませんか」
天使は荒れ狂う熱風の事など意に介さず淡々と話を続け、顔の前に右手を掲げる。
パチン!
天使が右手の指を鳴らすと、周囲の熱風は嘘のように静まり返り、辺りは静寂に包まれる。
「これで落ち着いて話せますね。ねぇ。趙先生」
エンリルの表情は苦く険しいままだったが、目に映っていた魔法陣は消え去り、周囲に放たれていた殺気も消え去っていた。
ルークスは自分が地面にへたり込んでいることに気づき、慌てて立ち上がる。
ローブに着いた砂埃を叩きながら、天使に向かって言葉を選びながら語りかける。
「おい。あんた誰だ? ……それに、こいつが趙博士……なのか?」
天使はルークスに視線を移すと、にこやかに答える。
「趙博士かどうかは、ご本人に尋ねてみてはいかがですか?」
自分の事には触れず、エンリルへと視線を向ける。
エンリルは天使の方を睨みつけたまま何も話さない。
「なあ。エンリル。あんた趙博士なのか?」
全く答えようとしないエンリルに、天使がやれやれと言った表情でエンリルへと歩み寄る。
「趙先生。いい加減研究室に戻ってもらえませんか?あなたの我がままでどれだけの損失が出ているかわかっているんですか?
それこそ2000年も遊べば十分でしょう。現実世界では大した時間ではないにしても、研究がこれ以上遅れるのは看過できません。場合によっては……」
天使はそこで言葉を区切る。
ルークスを始め、サトシもフリードリヒもその状況を見つめる事しかできなかった。
周囲は再び沈黙に支配される。
「お前らに……何がわかる……」
独り言のように呟いたエンリルの言葉は、今までのしわがれた老人の声ではなかった。
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