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終章
3人
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『3人……』
ルークスは視線をサトシに移す。
特に気取られている様子はない。いや、サトシに気づかれても問題ないはずだ。あえて念話(チャット)を使った理由。
『エリザベートか?』
ルークスはフリードリヒに確認する。
『いや、エリザじゃない』
『じゃあ、誰だよ?』
ルークスは不自然にならないように天命の書板を再び呼び出して中を確認するふりをしていた。
『一人は親っさん……初代魔王だ』
『マジか!?確かなのか?』
『ああ、仕事内容と特徴が一致する』
『にしても、あんなざっくりとした仕事と特徴なんて、結構誰でも該当するだろ?』
『いや、親っさんについてはかなり確信が持てる』
『なんで言い切れるんだよ』
『親っさんは俺の元上司だ』
『へ!?』
フリードリヒは「勘だ」と言い逃れる事も出来たが、敢えてそうしなかった。
ある意味ここまで実験対象である自分たちに情報を開示した生方に敬意を表した形だ。
『上司って、同じ会社か?あんたら』
『まあな。直属って訳じゃないが、か……役職は親っさんが上だったって事だな』
『そりゃぁどこの……』
とルークスは言いかけて言葉を飲み込む。以前話した時に教えてもらえなかったことを思い出したからだ。何より、初代魔王はすでにこの世界で死んでいる。確認のしようが無いことから、これ以上の詮索は無用だと判断した。
『いや、それは良い。後二人は?』
『もう一人はルドルフだ。初代王の』
『初代王?あんたなんでそんなことまで知ってんだよ』
『昔、奴もクレータ街に住んでたからな。その時に色々話してくれたんだよ。同じ転生者同士』
『そうか。でも初代王もなんやかんやで今この世界に居ないよな?』
『ああ、殺されたらしいな。本人には確認が取れんが……』
『「本人には……」ってなんだよ。なにか秘策でもあんのか?』
『奴の本名を知ってる。それと住んでた場所もな』
『へぇ。結構親しかったんだな』
『親しいも何も、こんな話転生者同士しかできねぇんだから、同類に会ったらおのずと話すだろ?』
『ああ、そう言うもんか。で、本名がわかったらなんなんだ?』
『お前がログアウトした時にでも調べてもらいてぇんだよ。本人が生きてるのかどうか』
『いや。生きてんだろ。シナプススキャンが実用化されてからそんなに経ってないし、確か33人の中に高齢の被験者は居なかったはずだ』
『消されてるって事もあるんじゃねぇか?』
『おい、怖い事言うなよ』
『……本当にか?
確かにお前の実験目的は理解したよ。なんだかくだらん目的で研究してるとは思うけどな。だが、他の被験者のデータをどういう目的で利用してるのかがさっぱりわからん。加えてさっきのサトシのあれだ』
「あれ」とは、最終段階(ファイナルフェーズ)に到達したというあの表示の事だ。ルークスもそこは気になっていた。
『くだらんとは失礼な!……まあ、反論しずらいな。でも研究なんてそんなもんだろ?なんか便利になればいいなぁ~ってところから始まるんだろうが!チキショウ。まあいいや。そうだな。たぶんあれは趙博士の研究なんだろうな』
『ならなぜ俺たちに同じことが起きない?』
『それこそ俺に分かる訳無いだろ!何がトリガーになってるのか、俺が知りたいくらいだよ!
で、なんで本人を調べる必要がある?』
『奴がこの実験に協力した理由を知りたい。あいつから聞いた話にそんな実験の事は無かった。それに俺にもそんな記憶はない。サトシも同じなんだろ?』
『まあ、確かに言われて見りゃそうだな』
ルークスは自分がシナプススキャンをした時の事について思い出していた。
全身に電極を取り付けた上で頭に大きな機械を装着して、休憩を挟みながら合計数十時間にわたって脳の内部をスキャンする。かなり大掛かりな作業になるうえに、静脈から放射性元素を含む薬液を注入しておく必要がある。
ただ、放射性元素を含むと言っても自然界から受ける放射線量や健康診断時のレントゲン検査よりはるかに低い値で健康上直ちに問題になる事は無い。
とは言え、少なくとも長時間の拘束と内部被ばくの危険性がある実験だ。街角アンケートのようにホイホイ依頼を承諾するような類の物ではない。
おそらく誓約書も書くだろうし、数日間は仕事や学業を休む必要があっただろう。
そう考えると、一番印象に残っているはずの最新の記憶がないというのはおかしな話である。
『少なくともお前は研究者なんだ。被験者に会っても怪しまれんだろ?』
『そうだなぁ。まあ、時間があれば調べてみるか』
『ああ、頼む』
『で、あと一人は?』
『……』
その問いにフリードリヒは言い淀む。その様子を不審に思ったルークスは視線をフリードリヒに向ける。
『なあ?あと一人』
『……カールだ』
ルークスは視線をサトシに移す。
特に気取られている様子はない。いや、サトシに気づかれても問題ないはずだ。あえて念話(チャット)を使った理由。
『エリザベートか?』
ルークスはフリードリヒに確認する。
『いや、エリザじゃない』
『じゃあ、誰だよ?』
ルークスは不自然にならないように天命の書板を再び呼び出して中を確認するふりをしていた。
『一人は親っさん……初代魔王だ』
『マジか!?確かなのか?』
『ああ、仕事内容と特徴が一致する』
『にしても、あんなざっくりとした仕事と特徴なんて、結構誰でも該当するだろ?』
『いや、親っさんについてはかなり確信が持てる』
『なんで言い切れるんだよ』
『親っさんは俺の元上司だ』
『へ!?』
フリードリヒは「勘だ」と言い逃れる事も出来たが、敢えてそうしなかった。
ある意味ここまで実験対象である自分たちに情報を開示した生方に敬意を表した形だ。
『上司って、同じ会社か?あんたら』
『まあな。直属って訳じゃないが、か……役職は親っさんが上だったって事だな』
『そりゃぁどこの……』
とルークスは言いかけて言葉を飲み込む。以前話した時に教えてもらえなかったことを思い出したからだ。何より、初代魔王はすでにこの世界で死んでいる。確認のしようが無いことから、これ以上の詮索は無用だと判断した。
『いや、それは良い。後二人は?』
『もう一人はルドルフだ。初代王の』
『初代王?あんたなんでそんなことまで知ってんだよ』
『昔、奴もクレータ街に住んでたからな。その時に色々話してくれたんだよ。同じ転生者同士』
『そうか。でも初代王もなんやかんやで今この世界に居ないよな?』
『ああ、殺されたらしいな。本人には確認が取れんが……』
『「本人には……」ってなんだよ。なにか秘策でもあんのか?』
『奴の本名を知ってる。それと住んでた場所もな』
『へぇ。結構親しかったんだな』
『親しいも何も、こんな話転生者同士しかできねぇんだから、同類に会ったらおのずと話すだろ?』
『ああ、そう言うもんか。で、本名がわかったらなんなんだ?』
『お前がログアウトした時にでも調べてもらいてぇんだよ。本人が生きてるのかどうか』
『いや。生きてんだろ。シナプススキャンが実用化されてからそんなに経ってないし、確か33人の中に高齢の被験者は居なかったはずだ』
『消されてるって事もあるんじゃねぇか?』
『おい、怖い事言うなよ』
『……本当にか?
確かにお前の実験目的は理解したよ。なんだかくだらん目的で研究してるとは思うけどな。だが、他の被験者のデータをどういう目的で利用してるのかがさっぱりわからん。加えてさっきのサトシのあれだ』
「あれ」とは、最終段階(ファイナルフェーズ)に到達したというあの表示の事だ。ルークスもそこは気になっていた。
『くだらんとは失礼な!……まあ、反論しずらいな。でも研究なんてそんなもんだろ?なんか便利になればいいなぁ~ってところから始まるんだろうが!チキショウ。まあいいや。そうだな。たぶんあれは趙博士の研究なんだろうな』
『ならなぜ俺たちに同じことが起きない?』
『それこそ俺に分かる訳無いだろ!何がトリガーになってるのか、俺が知りたいくらいだよ!
で、なんで本人を調べる必要がある?』
『奴がこの実験に協力した理由を知りたい。あいつから聞いた話にそんな実験の事は無かった。それに俺にもそんな記憶はない。サトシも同じなんだろ?』
『まあ、確かに言われて見りゃそうだな』
ルークスは自分がシナプススキャンをした時の事について思い出していた。
全身に電極を取り付けた上で頭に大きな機械を装着して、休憩を挟みながら合計数十時間にわたって脳の内部をスキャンする。かなり大掛かりな作業になるうえに、静脈から放射性元素を含む薬液を注入しておく必要がある。
ただ、放射性元素を含むと言っても自然界から受ける放射線量や健康診断時のレントゲン検査よりはるかに低い値で健康上直ちに問題になる事は無い。
とは言え、少なくとも長時間の拘束と内部被ばくの危険性がある実験だ。街角アンケートのようにホイホイ依頼を承諾するような類の物ではない。
おそらく誓約書も書くだろうし、数日間は仕事や学業を休む必要があっただろう。
そう考えると、一番印象に残っているはずの最新の記憶がないというのはおかしな話である。
『少なくともお前は研究者なんだ。被験者に会っても怪しまれんだろ?』
『そうだなぁ。まあ、時間があれば調べてみるか』
『ああ、頼む』
『で、あと一人は?』
『……』
その問いにフリードリヒは言い淀む。その様子を不審に思ったルークスは視線をフリードリヒに向ける。
『なあ?あと一人』
『……カールだ』
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