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終章
困惑
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「俺が……データ?」
サトシは自分の手や体を見回しながら、もう一度確認するようにその言葉を口にする。
「ああ、お前は俺が預かった人格データの一つだ」
ルークスの言葉に眉をひそめながらサトシはもう一度確認する。
「俺は疑似人格って事ですか?」
「そういうことだな」
「今、俺がいろいろ考えてることも……戸惑っていることも……今まで、この世界での思い出も……全部疑似人格の物って事ですか?ただのデータの集まりって事ですか!?」
「……シミュレーションの結果であることは間違いない……な」
ある程度想定していたとは言え、この事実はサトシにとって衝撃が大きかった。この世界に降り立ってからのすべての経験、思い出や心の動きすべてが否定されたような。そんな虚無感にも似たどす黒いタールのような感情が心を占領し始める。
それを必死に追い返すように、乾ききってヒリつく喉から必死に言葉を絞り出す。
「でも、そんなこと……そんな簡単にできるなんて……人一人を完全にシミュレートするなんて、どれだけリソースが必要か!」
「ああ、だな。だから、スパコンを使ってる。それも2基も……」
事も無げに言い放つルークスの言葉に、サトシは殺意に似た感情を覚える。
「あぁ~」
消え入るような声を吐き出しながら、サトシは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
その様子をフリードリヒは複雑な気持ちで眺めていた。
彼のスキルはこの世界に生きる人々の本質を見抜く力がある。それが彼の権力の源であるとともに、サトシが今直面している問題を彼自身に気づかせる事にもつながった。
今のサトシの絶望感は、彼がすでに通ってきた道なのである。
しかし、フリードリヒとサトシとでは状況が違っていた。
フリードリヒがその事実に気が付いたのは彼がこの世界に生まれ出でてから300年近く経ってからの事だった。それまで数々の困難と挫折を乗り越えてきた彼だからこそ受け入れることが出来た現実である。
この世界に来て数年。まだ年端のいかぬ青年に越えられるような絶望感でないことが彼には痛いほどわかっていた。
『壊れるか。精神が……いや。壊れる事すら許されんよな。俺達には……』
人の脆弱な心は、壊れることで安寧を保っている。強烈なストレスから精神と肉体を守るためのリミッターや安全装置として健忘や遁走が用意されている。
人の肉体であれば……
しかし、彼らはデータであり演算結果でしかない。健忘や遁走。壊れる事すら許されず、ただその現実を延々と心の最も弱い部分に打ち付けられ続ける。
彼らに残された道は、ただ鈍感になるしかなかったのである。
これはフリードリヒも、王宮魔導士のシャルロットも……そしてリザードキングのキャスバルも乗り越えてきた、いや、乗り越えられず鈍感になることで見ないふりをしてきた事実であった。
長い人生で積み重ねた経験値が、彼らの心を鈍感にし、何とか折り合いをつけながら日々を暮らしている。
他者から見れば異常とも思える趣味や嗜好、言動はある意味彼らなりの安全装置だったのだろう。
フリードリヒはそんなことを考えながら、そしてルークスは申し訳ない気持ちを噛みしめながらサトシのその様子をじっと見つめていた。
その時。
「新たな脆弱接続を発見しました」
無機質なアナウンスが周囲に居る者達の頭の中に響き渡る。
「なんだ!?これは」
フリードリヒは周囲を注意深く確認する。
すると、しゃがみ込むサトシにオーバーレイ表示されたメッセージとプログレスバーが見えた。
「脆弱接続の修正を行います。8/2282168」
サトシは自分の手や体を見回しながら、もう一度確認するようにその言葉を口にする。
「ああ、お前は俺が預かった人格データの一つだ」
ルークスの言葉に眉をひそめながらサトシはもう一度確認する。
「俺は疑似人格って事ですか?」
「そういうことだな」
「今、俺がいろいろ考えてることも……戸惑っていることも……今まで、この世界での思い出も……全部疑似人格の物って事ですか?ただのデータの集まりって事ですか!?」
「……シミュレーションの結果であることは間違いない……な」
ある程度想定していたとは言え、この事実はサトシにとって衝撃が大きかった。この世界に降り立ってからのすべての経験、思い出や心の動きすべてが否定されたような。そんな虚無感にも似たどす黒いタールのような感情が心を占領し始める。
それを必死に追い返すように、乾ききってヒリつく喉から必死に言葉を絞り出す。
「でも、そんなこと……そんな簡単にできるなんて……人一人を完全にシミュレートするなんて、どれだけリソースが必要か!」
「ああ、だな。だから、スパコンを使ってる。それも2基も……」
事も無げに言い放つルークスの言葉に、サトシは殺意に似た感情を覚える。
「あぁ~」
消え入るような声を吐き出しながら、サトシは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
その様子をフリードリヒは複雑な気持ちで眺めていた。
彼のスキルはこの世界に生きる人々の本質を見抜く力がある。それが彼の権力の源であるとともに、サトシが今直面している問題を彼自身に気づかせる事にもつながった。
今のサトシの絶望感は、彼がすでに通ってきた道なのである。
しかし、フリードリヒとサトシとでは状況が違っていた。
フリードリヒがその事実に気が付いたのは彼がこの世界に生まれ出でてから300年近く経ってからの事だった。それまで数々の困難と挫折を乗り越えてきた彼だからこそ受け入れることが出来た現実である。
この世界に来て数年。まだ年端のいかぬ青年に越えられるような絶望感でないことが彼には痛いほどわかっていた。
『壊れるか。精神が……いや。壊れる事すら許されんよな。俺達には……』
人の脆弱な心は、壊れることで安寧を保っている。強烈なストレスから精神と肉体を守るためのリミッターや安全装置として健忘や遁走が用意されている。
人の肉体であれば……
しかし、彼らはデータであり演算結果でしかない。健忘や遁走。壊れる事すら許されず、ただその現実を延々と心の最も弱い部分に打ち付けられ続ける。
彼らに残された道は、ただ鈍感になるしかなかったのである。
これはフリードリヒも、王宮魔導士のシャルロットも……そしてリザードキングのキャスバルも乗り越えてきた、いや、乗り越えられず鈍感になることで見ないふりをしてきた事実であった。
長い人生で積み重ねた経験値が、彼らの心を鈍感にし、何とか折り合いをつけながら日々を暮らしている。
他者から見れば異常とも思える趣味や嗜好、言動はある意味彼らなりの安全装置だったのだろう。
フリードリヒはそんなことを考えながら、そしてルークスは申し訳ない気持ちを噛みしめながらサトシのその様子をじっと見つめていた。
その時。
「新たな脆弱接続を発見しました」
無機質なアナウンスが周囲に居る者達の頭の中に響き渡る。
「なんだ!?これは」
フリードリヒは周囲を注意深く確認する。
すると、しゃがみ込むサトシにオーバーレイ表示されたメッセージとプログレスバーが見えた。
「脆弱接続の修正を行います。8/2282168」
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