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魔王の譚

リオン

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「リオン!」
 少女の悲痛な叫びはその子供には届いていないようだった。変わらず蹲(うずくま)り小刻みに震えている。
 そして近づくハルマン。

 カールは周囲に居る10人ほどのゴロツキ達を回し蹴りで一気に蹴散らし、その勢いのままハルマンの所まで一気に距離を詰める。
 急に目の前に現れたカールにハルマンは一瞬うろたえるが、懐から短剣を取り出すと、カールの首元めがけて逆袈裟に斬り上げる。
 老人とは思えない斬撃。しかし、カールは落ち着いてそれを躱し峰打ちでハルマンの手を狙う。が、ハルマンも負けじと素早くかわす。そして再びカールの脇腹目掛けて短剣を振り抜く。

 そこからはカールとハルマンの激しい斬り合いが繰り広げられる。カールは距離を取るために打撃を交えて攻撃するが、それらもことごとくハルマンに躱される。


「おい!カールと互角に渡り合えるジジイが居るのかよ!?」
 オットーは信じられないと言った面持ちでウルフに詰め寄る。ウルフは黙ったまま二人の動きを眺めている。その表情に焦りはなかった。

「何ボーっと突っ立ってんだよ。あんたが加勢すりゃ何とかなるだろうが!」
 オットーの言葉に、視線だけを向け、ウルフは不敵な笑みを見せる。

「リオン!今のウチに逃げて!!」
 少女が蹲(うずくま)る少年に向かって力の限り叫ぶ。しかし、少年に声が届いていないのか、まったく逃げる様子はない。

 カールはハルマンを少年から遠ざけようとローキックで足払いを掛ける。両足を払われたハルマンは腹のあたりを中心にして縦方向に半回転する。そのままカールはハルマンの腹めがけて蹴りを放つが、ハルマンは空中でカールの蹴りを躱しながら足に絡みつきカールの体を軸に回転しながら元通り着地する。そのまま返す刀でカールの軸足を蹴り払い、カールを地面に転がす。
 転がるカールを横目に見ながらハルマンがリオンの方に駆け寄る。
 ハルマンの手がリオンに伸び、その指が首に触れる。

 カールは転がった状態からばね仕掛けの人形のように飛び上がりハルマンの脇腹目掛けて蹴りを放つ。不意を突かれる形になったハルマンは通りの向こうまで弾き飛ばされる。
 すると、リオンもそのあおりを受けて通りを二度三度と転がってゆく。

「やべ!」
 カールが慌ててリオンに駆け寄り抱き上げる。

「おい!坊主!大丈夫か?」
 カールの呼びかけに、リオンはゆっくり顔を上げる。が、その顔は恐怖というより困惑と言った表情だった。

「けがはないか?」
「……」
 カールの問いかけにリオンは答えない。
 
「エリザ!治癒(ヒール)を頼む!」

 カールはそう言いながら、リオンを抱えてウルフたちの者へ駆け寄る。
 リオンの周りに魔法陣が広がり、緑の光が彼を包み込む。ハルマンに付けられた首元の傷もきれいに消えてゆく。

「おい。坊主。立てるか?」
 カールはリオンをゆっくりと地面に下ろす。リオンは自分の足で立つと、よろよろとウルフたちの方へと進んで行った。

「リオン!大丈夫!?」
 少女の声が聞こえていないのか、弱々しい歩みでウルフの元へとたどり着く。一度ウルフの足に縋りつき、また体制を立て直してエリザの方へと歩いて行く。

「リオン!?どうしたの?どこか痛いの?」
 少女はリオンを心配して駆け寄って来る。が、その少女には目もくれず、リオンはエリザの方に近づきそのままもたれかかる。

 すると、リオンはそのまま膝から崩れ落ち、仰向けになって動かなくなった。

 目は見開かれ、わずかに開いた口は微笑んでいるようだった。

「リオン!リオン!!」
 少女の悲痛な声だけがあたりに響く。リオンは返事をしない。

 少女はリオンを抱き上げるが反応は全くない。力なくぐったりとしたリオンを少女は強く抱きしめる。

「お願いします!リオンを助けてください!!お願いします!」
 ウルフとエリザを交互に見ながら少女は二人に懇願する。

 ウルフは冷たい視線で少女を見つめていた。治癒する気など全くないと言った雰囲気だ。
 それに対してエリザはにこやかに微笑んでいる。少女にやさしいまなざしを向けながら、おもむろに口を開く。

「君。邪魔やね。どいててくれるか?俺はこいつらに用事があんねん」

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