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魔王の譚
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クレータ街の事務所に転移してから、カール達のもとに向かう。
カールとサトシは今日も仲良く文明の利器を制作中だ。
ご満悦といった面持ちで大変結構ではあるが、それを遠巻きに見ているエリザのことも少しは気にしてもらえると助かるな。
用もないのに周囲をウロチョロ、チラチラとカールの様子を伺っては声をかけようか迷っているようだ。
カールに与えた工房はビルのテナントのようになっていて、外からガラス越しに中の様子を確認することができる。最初こそ「落ち着かない」と文句を言っていたが、「防犯上の対策だ」と言うと、わかったようなわからないような表情で頷いていた。まあ、わかってないのは丸わかりなんだが。
さて、お楽しみのところ邪魔して悪いが、二人にはご同行願おうか。ついでにエリザも。
「なあ、作業中悪いんだがちょっといいか?」
集中しているためか、なかなか俺の声に反応してくれない。しかたないので念話で話しかけることにする。
『なあ、ちょっと手を止めてくれ』
「な!?」
カールは腰をぬかさんばかりに驚いていたが、サトシは少し怪訝な顔になりこちらを睨みつける。
おいおい、邪魔したのがそんなに気に触ったか?
ッと思ったら、そうでもなかったようだ。サトシのほうは疑念だな。この色は。
カールは単純に念話(チャット)に驚いていたようだが、サトシはナゼ俺が念話(チャット)を使えるのか訝しがったようだ。
「今の、あんたか?」
カールが俺の方に近づいて確認する。
「ああ、お前たちがずいぶん集中してたみたいなんでな」
その間もサトシはじっと俺のことを観察している。
「どうしたよ?ルークスってやつと一緒になんかやってたんじゃねぇのか?」
「ああ、それはそうなんだが、ちょっと状況が変わってな」
「どういうことです?」
ルークスのことが気になったようで、サトシが口を開く。
「ルークスがやられた。相手は不明だがな」
「ルークスさんがどうしたんですか?」
ルークスのことを心配して……というわけでもなさそうだ。
「死んだ」
「死んだ?ルークスさんがですか?相手はそんな手練れなんですか?」
ルークスを倒せるとなると俺やカール、カルロスなんかと同等以上じゃないと無理だろうしな。たしかに気になるだろう。が、ルークス自身を気遣ってって感じじゃないな。
「相手はわからん。それに死んだというのも正確ではないかもな」
「といいますと?」
「仮死状態ってところかな。魂を抜かれてる」
「あんたの仕業ってことねぇよな?」
おいおい。カール。お前の方が俺を信じてねぇのかよ。
「お前俺を何だと思ってやがるんだ」
「そりゃ、一回魂抜かれてるからな。被害者としてはな」
確かにそう言われればそうかもしれんな。これは反論できん。
「でも俺じゃない」
「本当か?」
いまだカールは信用していないようだ。
「まあ、信じるとしてだ」
カール。そう言いながら信じてねぇじゃねぇか。
「あんたなら復活させられるんじゃないか?」
「いや。完全に抜かれちまった魂の補完は俺には無理だ」
「完全に抜かれたってどういうことです?」
「死んで魂が抜けた状態なら、周囲に魂の残渣が残ってることがある。結構長い時間な。そんな状態ならその魂を引っ張って来て元に戻してやれば生き返らせることは可能だ。ただし、肉体が腐って無ければって条件付きだけどな」
「じゃあ、ルークスさんは…」
「ああ、魂が完全に抜かれてる。周囲にも漂ってない。俺にはどうにもできんよ」
そう。嘘は言ってない。
「だから現時点では死んでることになるな」
「「現時点では?」」
カールとサトシがハモる。
「その言葉のとおりだよ。亡骸は今格納魔術で保管中だ。腐敗することはないし、外部からの干渉を受けることもないだろう。一番安全な場所に保管してるってことだ。だから魂が見つかりゃ何とかなると思うぜ」
「格納魔術!?」
後ろからエリザが悲鳴にも似た声を上げる。
「今、格納魔術って言いました!?できるんですか!?」
ああ、そっちに食いついたか。
そりゃそうか。格納魔術っつったら、失われた太古の大魔術だ。王宮魔導研究所でも失われた魔術復元に躍起になってるってシャルロットも言ってたもんな。おそらく復活を熱望してる魔術の筆頭ってところだろうな。
「まあな」
ルークスから掻っ攫ったようなもんだが、それらしい返答をしておく。
「さすが魔王……」
あ、また厄介な納得の仕方しやがったな。
でもまあ、これは確かに仕方ないかもな。
さて、話題を変えるか。
「で、これからちょっとお前らと出かけてぇんだが……エリザもついてくるか?」
「私もですか?」
カールといっしょに行けるなら……と、顔に書いてあるな。感情を読むまでもない。
「オットーたちはどうするんだ?」
カールが散らかった工具類を片付けながら聞いてきた。
「そうだな。アイツラだけ仲間外れってのもアレか」
俺とカールが居れば戦力的には十分だが、奴等だけココに置いておくのも気が引ける。それに……連れて行ったほうが良いかもな。
エリザは微妙な表情になったが、カール・サトシ・エリザの三角関係をずっと見せられるのも正直辛い。ここはあの二人にも道連れになってもらおう。
「カール、サトシ。取り敢えず準備を頼む」
「で、どこに行くんだ?」
「まずはウルサンだな」
「目的は?」
「カルロスだ」
カールとサトシは今日も仲良く文明の利器を制作中だ。
ご満悦といった面持ちで大変結構ではあるが、それを遠巻きに見ているエリザのことも少しは気にしてもらえると助かるな。
用もないのに周囲をウロチョロ、チラチラとカールの様子を伺っては声をかけようか迷っているようだ。
カールに与えた工房はビルのテナントのようになっていて、外からガラス越しに中の様子を確認することができる。最初こそ「落ち着かない」と文句を言っていたが、「防犯上の対策だ」と言うと、わかったようなわからないような表情で頷いていた。まあ、わかってないのは丸わかりなんだが。
さて、お楽しみのところ邪魔して悪いが、二人にはご同行願おうか。ついでにエリザも。
「なあ、作業中悪いんだがちょっといいか?」
集中しているためか、なかなか俺の声に反応してくれない。しかたないので念話で話しかけることにする。
『なあ、ちょっと手を止めてくれ』
「な!?」
カールは腰をぬかさんばかりに驚いていたが、サトシは少し怪訝な顔になりこちらを睨みつける。
おいおい、邪魔したのがそんなに気に触ったか?
ッと思ったら、そうでもなかったようだ。サトシのほうは疑念だな。この色は。
カールは単純に念話(チャット)に驚いていたようだが、サトシはナゼ俺が念話(チャット)を使えるのか訝しがったようだ。
「今の、あんたか?」
カールが俺の方に近づいて確認する。
「ああ、お前たちがずいぶん集中してたみたいなんでな」
その間もサトシはじっと俺のことを観察している。
「どうしたよ?ルークスってやつと一緒になんかやってたんじゃねぇのか?」
「ああ、それはそうなんだが、ちょっと状況が変わってな」
「どういうことです?」
ルークスのことが気になったようで、サトシが口を開く。
「ルークスがやられた。相手は不明だがな」
「ルークスさんがどうしたんですか?」
ルークスのことを心配して……というわけでもなさそうだ。
「死んだ」
「死んだ?ルークスさんがですか?相手はそんな手練れなんですか?」
ルークスを倒せるとなると俺やカール、カルロスなんかと同等以上じゃないと無理だろうしな。たしかに気になるだろう。が、ルークス自身を気遣ってって感じじゃないな。
「相手はわからん。それに死んだというのも正確ではないかもな」
「といいますと?」
「仮死状態ってところかな。魂を抜かれてる」
「あんたの仕業ってことねぇよな?」
おいおい。カール。お前の方が俺を信じてねぇのかよ。
「お前俺を何だと思ってやがるんだ」
「そりゃ、一回魂抜かれてるからな。被害者としてはな」
確かにそう言われればそうかもしれんな。これは反論できん。
「でも俺じゃない」
「本当か?」
いまだカールは信用していないようだ。
「まあ、信じるとしてだ」
カール。そう言いながら信じてねぇじゃねぇか。
「あんたなら復活させられるんじゃないか?」
「いや。完全に抜かれちまった魂の補完は俺には無理だ」
「完全に抜かれたってどういうことです?」
「死んで魂が抜けた状態なら、周囲に魂の残渣が残ってることがある。結構長い時間な。そんな状態ならその魂を引っ張って来て元に戻してやれば生き返らせることは可能だ。ただし、肉体が腐って無ければって条件付きだけどな」
「じゃあ、ルークスさんは…」
「ああ、魂が完全に抜かれてる。周囲にも漂ってない。俺にはどうにもできんよ」
そう。嘘は言ってない。
「だから現時点では死んでることになるな」
「「現時点では?」」
カールとサトシがハモる。
「その言葉のとおりだよ。亡骸は今格納魔術で保管中だ。腐敗することはないし、外部からの干渉を受けることもないだろう。一番安全な場所に保管してるってことだ。だから魂が見つかりゃ何とかなると思うぜ」
「格納魔術!?」
後ろからエリザが悲鳴にも似た声を上げる。
「今、格納魔術って言いました!?できるんですか!?」
ああ、そっちに食いついたか。
そりゃそうか。格納魔術っつったら、失われた太古の大魔術だ。王宮魔導研究所でも失われた魔術復元に躍起になってるってシャルロットも言ってたもんな。おそらく復活を熱望してる魔術の筆頭ってところだろうな。
「まあな」
ルークスから掻っ攫ったようなもんだが、それらしい返答をしておく。
「さすが魔王……」
あ、また厄介な納得の仕方しやがったな。
でもまあ、これは確かに仕方ないかもな。
さて、話題を変えるか。
「で、これからちょっとお前らと出かけてぇんだが……エリザもついてくるか?」
「私もですか?」
カールといっしょに行けるなら……と、顔に書いてあるな。感情を読むまでもない。
「オットーたちはどうするんだ?」
カールが散らかった工具類を片付けながら聞いてきた。
「そうだな。アイツラだけ仲間外れってのもアレか」
俺とカールが居れば戦力的には十分だが、奴等だけココに置いておくのも気が引ける。それに……連れて行ったほうが良いかもな。
エリザは微妙な表情になったが、カール・サトシ・エリザの三角関係をずっと見せられるのも正直辛い。ここはあの二人にも道連れになってもらおう。
「カール、サトシ。取り敢えず準備を頼む」
「で、どこに行くんだ?」
「まずはウルサンだな」
「目的は?」
「カルロスだ」
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