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魔王の譚
騎士と鍛冶屋
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「ワシもおぬしに聞きたいことがあるんじゃが?」
あきれ果てていた俺に向かってシャルロットが質問してきた。
「なんだ?一体」
「カールはどうなった?」
シャルロットは今までと打って変わって真剣な面持ちで俺に問いかける。
「ああ、それか。ちゃんとうちで預かってるよ。変態小僧(ルークス)の連れと仲良くやってるさ」
「では、皆息災か?」
「ああ、Sランクの奴らも楽しそうにしてるさ。お前の孫も含めてな」
「そうか。ならよい」
俺の言葉を聞いて安心したようで、視線を天井に向けて大きくため息をついた。
「って事は、この情報で貸(かし)ひとつって事で良いか?」
「ふざけるでないわ!これは本来おぬしが報告に来るべきものであろうが!」
「左様け。ちっ。業突く張りめ」
というか、まあ、確かに俺の依頼だからな。良しとしよう。
「誰が業突く張りじゃ!まったく……で、聞きたいこととはなんじゃ?」
シャルロットはそう言うと、椅子に掛けなおし背筋を伸ばす。
俺はクレータ街でカールから聞いた話を確認する。
「ジークムント。いや。ここではルドルフか。カールの父親は何で殺された?
いや、どうやって殺すことが出来た?」
「うむ」
今度は値踏みするような眼でシャルロットは俺の事を見つめている。奴の周囲には複雑な感情が入り乱れている。
「俺相手に嘘は無駄だって事は……わかってるよな?」
ぐるぐると回っていた感情がぴたりと動きを止め、諦めの色が濃くなる。
「仕方ないのぉ。まあ、ワシにわかることも多くは無い。何より、カールの父親がジークムントだと分かったのもほんの最近じゃ」
「気づいてなかったってのか?」
「ああ、情けない限りじゃがな。おぬしからの情報が無ければカールすら見つけられなんだ」
「英雄騎士団長の孫だろ?少なくとも素性調査はしてんじゃねぇのか?」
「これに関しては、流石はジークムント、いや初代王(ルドルフ)と言うべきじゃろうな」
「そこまで狡猾だったか?俺には間抜けなおっさんにしか見えなかったがな」
「それも奴のなせる業というべきかもしれぬな」
「何をすっとぼけたこと言ってやがるんだ」
「おぬしですら見抜けなかったという事じゃろ?奴の実力を」
「それは……どうなんだろうなぁ」
正直そこまで老獪だとは思えないが……
「で、俺の話は良いとして、ルドルフはどうなったんだ?」
「おぬしが聞いた通りだ。死んだよ。殺された」
「誰にだ?あんな化け物を殺せる人間が居るのか?」
カールも化け物だが、親父のルドルフはそれに輪をかけた化け物だ。この世に神が居るのなら、それに最も近い男だろう。
「居たんだから仕方ない」
「よほど名の有る殺し屋か?」
「いや、そ奴は魔力すら持たぬ、うだつの上がらん木っ端騎士じゃ」
「魔力を持たない?」
は?どういうことだ。それこそルドルフみたいな化け物を|魂無し(NPC)ごときが殺せるわけねぇだろ?
俺の疑問を先回りするようにシャルロットは話を続ける。
「当時のルドルフはただの「鍛冶屋」だったからな。確かに王都一、いや、世界一の名工とは謳われているものの、その実、英雄騎士団の家系にありながら騎士にすらなれなかった能無し、というのがもっぱらの評価じゃった。当時王都では『騎士が守るべき国民に対して起こした事件』と言うことの方がよほど問題視されておった」
「動機は何だ?」
「騎士団による尋問が行われたが、まったく要領を得ぬことを言うばかりだったと聞いている。最終的には薬物中毒による衝動的な殺人事件として片が付いた。当人は王宮騎士団の名を汚した罪で死刑。それがワシの知るすべてじゃ」
「殺害方法は?」
「さてな。当時の記録は何一つ残っておらんよ。以前おぬしからルドルフとカールの事を聞いて、司法省の裁判記録から王宮騎士団の軍法会議議事録、果ては王宮衛兵の日報まで虱潰しに調べさせたが、何一つ記録されておらん。まあ、騎士団の醜聞じゃからな。さもありなんと言ったところかのぅ。
確かに当時の事を思い出してみると、王都広場で当該騎士の公開処刑をするなどと言う国民感情に阿った対応を取っておった。が、その裏では正規の手順で裁判を執り行わず、軍法会議にも掛けないという異例な対応で記録すら残さず事件を闇に葬っておる」
「真っ黒じゃねぇか!?確実に何かあるだろう?」
「あるんじゃろうな。が、記録がない以上、それが騎士の醜聞を隠蔽するためなのか、ルドルフ殺害を隠すためなのかは誰も知る由がない」
「そうか……」
俺は大きくため息をつきながら、ソファーの背もたれに体を預け天を仰ぐ。
普通に考えて、初代王(ルドルフ)が騎士、それもNPCごときに殺されるわけがない。何か裏があるに決まってる。
が、現状では手詰まりって事だろうな。
少なくともシャルロットの立場で情報が得られないならこれ以上は確認のしようがない。別の方法を当たるしかないか……
「で、おぬしの知りたいことはそれだけか?」
まともな情報を出せなかったことに後ろめたさがあるのか、シャルロットは早々に話題を変えようと必死に見える。
「いや、もう一つある」
「なんじゃ。まだあるのか?おぬしの方がよほど業突く張りではないか!」
「ルドルフの件は何の情報もねぇじゃねぇか。ノーカンだ。ノーカン」
「な!?得る物の有る無しはおぬし次第じゃろうが!?ワシは情報を与えたんじゃ。一つは一つじゃ!」
と言いながら、シャルロットは無い胸を張る。その様子をルークスが鼻息荒く眺めている。なんなんだ……こいつ。無視したほうがよさそうだな。
さて。
「で、次なんだが……お前、カルロスって名に聞き覚えはあるか?」
あきれ果てていた俺に向かってシャルロットが質問してきた。
「なんだ?一体」
「カールはどうなった?」
シャルロットは今までと打って変わって真剣な面持ちで俺に問いかける。
「ああ、それか。ちゃんとうちで預かってるよ。変態小僧(ルークス)の連れと仲良くやってるさ」
「では、皆息災か?」
「ああ、Sランクの奴らも楽しそうにしてるさ。お前の孫も含めてな」
「そうか。ならよい」
俺の言葉を聞いて安心したようで、視線を天井に向けて大きくため息をついた。
「って事は、この情報で貸(かし)ひとつって事で良いか?」
「ふざけるでないわ!これは本来おぬしが報告に来るべきものであろうが!」
「左様け。ちっ。業突く張りめ」
というか、まあ、確かに俺の依頼だからな。良しとしよう。
「誰が業突く張りじゃ!まったく……で、聞きたいこととはなんじゃ?」
シャルロットはそう言うと、椅子に掛けなおし背筋を伸ばす。
俺はクレータ街でカールから聞いた話を確認する。
「ジークムント。いや。ここではルドルフか。カールの父親は何で殺された?
いや、どうやって殺すことが出来た?」
「うむ」
今度は値踏みするような眼でシャルロットは俺の事を見つめている。奴の周囲には複雑な感情が入り乱れている。
「俺相手に嘘は無駄だって事は……わかってるよな?」
ぐるぐると回っていた感情がぴたりと動きを止め、諦めの色が濃くなる。
「仕方ないのぉ。まあ、ワシにわかることも多くは無い。何より、カールの父親がジークムントだと分かったのもほんの最近じゃ」
「気づいてなかったってのか?」
「ああ、情けない限りじゃがな。おぬしからの情報が無ければカールすら見つけられなんだ」
「英雄騎士団長の孫だろ?少なくとも素性調査はしてんじゃねぇのか?」
「これに関しては、流石はジークムント、いや初代王(ルドルフ)と言うべきじゃろうな」
「そこまで狡猾だったか?俺には間抜けなおっさんにしか見えなかったがな」
「それも奴のなせる業というべきかもしれぬな」
「何をすっとぼけたこと言ってやがるんだ」
「おぬしですら見抜けなかったという事じゃろ?奴の実力を」
「それは……どうなんだろうなぁ」
正直そこまで老獪だとは思えないが……
「で、俺の話は良いとして、ルドルフはどうなったんだ?」
「おぬしが聞いた通りだ。死んだよ。殺された」
「誰にだ?あんな化け物を殺せる人間が居るのか?」
カールも化け物だが、親父のルドルフはそれに輪をかけた化け物だ。この世に神が居るのなら、それに最も近い男だろう。
「居たんだから仕方ない」
「よほど名の有る殺し屋か?」
「いや、そ奴は魔力すら持たぬ、うだつの上がらん木っ端騎士じゃ」
「魔力を持たない?」
は?どういうことだ。それこそルドルフみたいな化け物を|魂無し(NPC)ごときが殺せるわけねぇだろ?
俺の疑問を先回りするようにシャルロットは話を続ける。
「当時のルドルフはただの「鍛冶屋」だったからな。確かに王都一、いや、世界一の名工とは謳われているものの、その実、英雄騎士団の家系にありながら騎士にすらなれなかった能無し、というのがもっぱらの評価じゃった。当時王都では『騎士が守るべき国民に対して起こした事件』と言うことの方がよほど問題視されておった」
「動機は何だ?」
「騎士団による尋問が行われたが、まったく要領を得ぬことを言うばかりだったと聞いている。最終的には薬物中毒による衝動的な殺人事件として片が付いた。当人は王宮騎士団の名を汚した罪で死刑。それがワシの知るすべてじゃ」
「殺害方法は?」
「さてな。当時の記録は何一つ残っておらんよ。以前おぬしからルドルフとカールの事を聞いて、司法省の裁判記録から王宮騎士団の軍法会議議事録、果ては王宮衛兵の日報まで虱潰しに調べさせたが、何一つ記録されておらん。まあ、騎士団の醜聞じゃからな。さもありなんと言ったところかのぅ。
確かに当時の事を思い出してみると、王都広場で当該騎士の公開処刑をするなどと言う国民感情に阿った対応を取っておった。が、その裏では正規の手順で裁判を執り行わず、軍法会議にも掛けないという異例な対応で記録すら残さず事件を闇に葬っておる」
「真っ黒じゃねぇか!?確実に何かあるだろう?」
「あるんじゃろうな。が、記録がない以上、それが騎士の醜聞を隠蔽するためなのか、ルドルフ殺害を隠すためなのかは誰も知る由がない」
「そうか……」
俺は大きくため息をつきながら、ソファーの背もたれに体を預け天を仰ぐ。
普通に考えて、初代王(ルドルフ)が騎士、それもNPCごときに殺されるわけがない。何か裏があるに決まってる。
が、現状では手詰まりって事だろうな。
少なくともシャルロットの立場で情報が得られないならこれ以上は確認のしようがない。別の方法を当たるしかないか……
「で、おぬしの知りたいことはそれだけか?」
まともな情報を出せなかったことに後ろめたさがあるのか、シャルロットは早々に話題を変えようと必死に見える。
「いや、もう一つある」
「なんじゃ。まだあるのか?おぬしの方がよほど業突く張りではないか!」
「ルドルフの件は何の情報もねぇじゃねぇか。ノーカンだ。ノーカン」
「な!?得る物の有る無しはおぬし次第じゃろうが!?ワシは情報を与えたんじゃ。一つは一つじゃ!」
と言いながら、シャルロットは無い胸を張る。その様子をルークスが鼻息荒く眺めている。なんなんだ……こいつ。無視したほうがよさそうだな。
さて。
「で、次なんだが……お前、カルロスって名に聞き覚えはあるか?」
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