中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ

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魔王の譚

視察する男

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 というわけで、これから王都に向かうため茶室を出て転移部屋へと移動した。
 ここからはルークスと行動を共にするが、サトシの方はカールと一緒に刀鍛冶に勤しんでいるようだから問題ないだろう。エリザが心配ではあるが……

 それはさておき、今回王都で確認したいことがいくつかある。
 
 一つは騎士団進軍だ。
 俺が王都に侵攻するとの情報を受けて、王国騎士団が進軍してきたとのことだった。

 確かに俺は王都に向かう予定だった。
 とは言っても、別に侵略する意思はなかった。奴らが気づいていないだけで俺はたまに王都に出向いている。王都には顔見知りもいるしな。

 今回も当然侵攻ではなく「お忍び」での視察をする予定だった。
 王都にも俺が経営している店や組織が幾つかあって、数年に一度、運営状況を確認する為に行っている。
 その情報は俺の側近……つまりNPCしか知らないし、情報統制は完ぺきのはずだった。

 が、それが漏れていた。それもかなり正確な日時まで。

 確かに王都は俺の顔を知らない奴らばかりだし、情報が漏れたところで即騒ぎになる事もない。とはいえ、俺のはかり知らないところで情報が流れているってのは気持ちのいい物じゃぁない。状況を確認する意味でも王都で直接情報を集めたい。

 そしてもう一つ。今回のサトシとルークスの一件だ。こいつらの実験が原因で地域によって時間軸がねじ曲がってしまっている。クレータ街やデールは影響を受けていないが……むしろ一番受けているのか?……ヨウト、ウサカ、エンドゥ、ウルサンについては時間が随分進んでいる。王都も少なからず時間が進んでしまっているようなので俺との通信が途絶えている間、王都がどうなっているのか確認する必要がある。

 どちらも頭の痛い問題だが、取り敢えずは状況確認が必要だろう。

 だが、王都に行く理由としてはそんな気の重い問題ばかりでもない。ルークスの石油精製プラントについても途中で立ち寄って視察したいと思っている。何より石油はありがたい。今までこの世界では採取できていなかったからな。これが安定的に手に入れば、今の魔力頼みの生活ともおさらばだ。現在クレータ街で利用されている電力の8割は魔力だ。ルークスとサトシの協力を受けて火力発電所を建設できるなら、一気にクレータ街の近代化が進むってもんだ。

「なあ、ルークス。王都へ行く前にお前の石油プラント見せてもらいてぇんだが、良いか?」
「あ?ああ、別に構わんけど。でも、あんたがエンドゥや王都に言ったら大騒ぎにならんか?」
「なんで?」
「だって、「魔王」が来るんだよ?そりゃ町行く人たちもビビるだろ?」
「どうやって「魔王」だって気づくんだ?」
「そりゃ……あ、まあ、そうか。顔知らねぇもんな。「魔王」の……
 いや!でも「鑑定」系のスキル持ってる奴なら気づくだろ。あんたの異常なステータスに」

「ああ、そこは大丈夫だ。ほれ。見てみな?」
 俺はそう言うと、自分のステータスを偽装する。NPCのステータスを変更することに比べれば、自分のステータス偽装なんぞ朝飯前だ。

「ああ~」
 感嘆の声か、ため息か、区別がつかなかったがルークスは納得したらしい。

「じゃあ、行くとするか。まずはエンドゥだな」
「ああ、でもどうやって?」
「お前も転移できるんだろ?」
「そりゃ、まあ」
 誘導尋問に以上に弱いと言うか何と言うか。こっちがカマをかけるとあっさりと認めるあたり人を疑うことを知らない、と言うかまあ、人は良いんだろうな。こいつ。

「じゃあ、連れてってもらえるかい?」
「俺がか?あんたの方が魔力潤沢だろうが!」
「魔力の大小の話じゃねぇんだよ。取り敢えず安全に飛べる場所に連れてってくれればいいからさ」
「あ~。まあ、そうか。そういうことか」
 ちょろいな。こいつも。
「じゃ、そう言うことで頼むよ。まずは石油プラントを見せてくれ」
「わかった。じゃあ「転移」」
 ルークスを中心として足元に転移の魔法陣が広がる。
 初めて見る魔法陣だな。子の魔法陣はかなり魔力効率がよさそうだ。なるほど。こんなところでも天命の書板は役に立つか……。こいつはかなり使えそうだ。

 周囲の景色が歪み、辺りが明るくなる。開けた場所に俺たちは立っていた。
 ビルの上か?足元には「H」の文字。ヘリポートだな。おいおい、随分なもの造ってんじゃねぇか。よくこれで粛清受けなかったな。
「ここがオフィスだ。どうする?うちの従業員にもあっていくか?」
「ああ、テンスたちか。そうだな。合うと話がややこしくなりそうだ。やめておこう」
「な!?テンス知ってんのか?」
「ああ、あいつ俺が運営してる孤児院出身だからな」
「孤児……あ!?あんたが人買い組織のボスか!?」
「人買いって……人聞き悪すぎるだろ。一体何処で聞いてきたんだよ。こっちは真っ当な商売してるっつーのに」
 ルークスに詳しく聞いてみると、どうやらハルマンからそのあたりの話を聞いたらしい。あの野郎。話を盛りやがって。実際人買いと言われれば反論は難しいが、NPCから生まれた「魂持ち」の保護と育成をしてるだけだ。魔力を持つ奴らはいろんなところから狙われるからな。貧しいNPCの親では我が子守ることは難しい。だから彼らには正当な対価を支払って、物心つく前に「魂持ち」の保護を行ってる。そんな悪いことしてるわけじゃねぇんだけどな。
「じゃあ、プラント見てみるか?」
「そうだな」
 ヘリポートからはエレベーターで地下へと降りてゆく。なんだよ。こいつら、もうエレベータ作ってやがるのか。俺200年以上かかったのに。
 エレベーターから降りた俺は信じられないほど近代的な設備を目の当たりにすることになった。
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