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生方蒼甫の譚
罪悪感
しおりを挟む王都のSランク冒険者達に助けられ安息を得たように思えたが、その後もアイとサトシの受難は続く。ゴブリンが襲来しアイは竈に匿われる。恐怖におびえながらも声を潜めじっと耐えていた。が、やはりゴブリンに捕らえられてしまう。助けに来たサトシがゴブリンに殺され失意の中アイは気を失う。
次の場面は、死んだはずの母との逃避行だ。またゴブリンに襲われ囚われの身となる。今度は母と共にアイも殺されている。
まただ。完全にタイムリープしてるな。タイムスタンプは……やっぱり戻ってる。現実時間のタイムスタンプがあるから時系列で追うことが出来るが、このタイムリープは頂けない。一体何が起こってるんだ?
その後再度サトシと出会うが、サトシにもタイムリープの記憶があるようだ。俺の設定からは大きく逸脱しているし、これでは実験にならない。おそらくサトシの心は壊れかかってる。いや、データだから問題ないのかもしれないが……
いくらデータとは言えこんな人道に反する実験をするつもりはなかった。
俺の研究は至ってものぐさな理由からスタートしている。自分の代わりに仕事をしてくれるクローンとしてのAI。それが作りたいだけだ。本来なら俺の記憶データで実験できるのが最良だが。研究所(うち)で使わせてもらえるシナプススキャンの精度ではデータの欠落が多すぎた。以前使った時には記憶の欠損部分を埋める事すら叶わなかった。
そんな中、趙博士のデータは欠損がほとんどなく完全に近いデータで理想的だった。もともとの被験者との比較ができないため厳密な実験ができるわけではないが、人間と同様の反応を示してくれれば実験としてはおおむね成功と言える。
だから、現代日本とさほど変わらない環境下での受け答え。行動原理の確認ができるだけでよかった。
そう、その程度でよかったんだよ。
ここまでの負荷を与えるつもりは全くなかった。
ゲームの中ではこの数年。サトシ、アイと共に暮らして二人の人となりが十分に理解できるようになってきた。が、その根底にこんな過酷な記憶があったとは。
いくらデータとは言えとんでもない罪悪感に苛まれる。
俺が望んだことではない。
確かにそうだが、そんな言い訳、今のサトシに伝えて許してもらえるだろうか?
何よりサトシの心は大丈夫なのか?
これだけの経験をして壊れない事があるのか?
頭の中に罪悪感と疑問が絶え間なくめぐり続ける。
頭を抱えたまましばらくデスクに突っ伏した状態で動けなかった。
データを初期値に戻す。
そんな考えが浮かんでは否定する。それを繰り返す。
確かに初期化するのが研究としては最善策だろう。
が、その決断が下せない。
奴らとはこの1年以上の期間、生活を共にしてきた。馴染み過ぎたか……
考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎる。気が付けば俺がログアウトしてから2年が経過していた。
初期化するか、続けるか。判断を保留するために時間を止めようとクリックしたそのタイミングで画面に警告が現れる。
「再びチート行為を確認しました。粛清します」
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