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生方蒼甫の譚
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やべ、気づいたら結構時間たってたな。そろそろ宿屋の期限だ。
慌ててログインすると、俺は薄汚れた板壁に囲まれた部屋の中央で椅子に座っていた。
「さて、王都にでも行ってみるか」
サトシに念話をつなぐ。
『なあ、サトシ。順調か?』
『あ!?、ルークスさん!何してたんですか!?全然応答してくれないし。めちゃくちゃ忙しいんですよこっちは!』
繋がるなりサトシはまくしたてる。
『どうした?』
『ストーブがルイスさんのとこでめちゃくちゃ売れちゃって。エンドゥの鍛冶屋で作ってもらったくらいじゃ全然追いつかないし。原油の精製もしなきゃだし』
あ、いけね。あっちは俺がすることになってたな。
『どこに行ってたんですか!?』
『ちょっといろいろ嗅ぎまわっててな。隠密行動だったんでな。念話も傍受されるとまずいから切ってたんだよ』
などと、適当な理由を言ってみた。
『それならそうと言っといてくださいよ。もう。まあ、何とかなりそうだからいいですけど。あ、原油の精製だけでもやっといてもらえると助かります。俺農場も手伝わないといけないし』
……素直な子で助かるよ。
というか、考えるのが面倒なほど忙しいのか?
『ああ、そうだな。わかった。精油は任せとけ。で、すまないが、またちょっと遠出する。王都に用事ができたんだ。またしばらく連絡がつかないと思うが、心配はしないでくれ』
『あ~。そうですか。できれば手伝ってほしいですけど……。まあ、いいでしょう。精油だけでもしてもらえると助かります』
『わかった。作れるだけ作っとく』
念話を切ると、さっそく部屋を出て受付に向かう。
「あ、ほんとにいたんですね」
「どういう意味だよ!」
新顔の受付嬢がずいぶん失礼な物言いで俺の顔をまじまじと眺める。
「いや、ほんとにあの部屋に人がいたんですね。全然出てこないから」
「新顔か。いつもの二人は今日は休みかい?」
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくな。で、いったんチェックアウトだ。また次頼む」
「毎度あり~」
軽い言葉に送られながら宿屋を出て製油所に向かう。
どのくらい精油できるかなぁ。とりあえず、早めに王都に向かいたいので必死で励むことにしよう。
……
作業すること2時間。
いやはや、働いたなぁ。
地下埋設タンクにたっぷりと貯蔵しておいた。灯油としては10kリットルほど。そのほかの油は今のところ使い道がないので貯蔵はしているが放置状態だ。早く利用できるといいが。
ついでにエンドゥの鍛冶屋に寄ってみる。
「おう、久しぶりだな旦那。若旦那の方がせっつくもんでよ。こっちとしては随分急ぎでやってんだが、なかなか間に合わなくってよ」
忙しそうな顔ではあるが、随分満足げだ。結構売れてるんだろうな。
「で、どう?売れてる?」
「ああ、若旦那が販売もこっちに任せてくれたからよ。随分儲けさせてもらってるよ。今は職人を増やして増産中だ。何とか注文に追い付けるように頑張ってるよ」
「そうか。頼む。ところで、新しい……」
「いや、勘弁してくれ。やりたいのはやまやまだが、手が回んねぇや。軌道に乗るまではストーブだけで勘弁してくれ」
「ああ、わかった。じゃあ、頼む」
残念。まあ、いいか。とりあえずは何とかなりそうだな。
でも、この勢いでストーブが売れると、灯油が足りなくなるな。何とか精油できる人材を集めないと……
炎の魔法が使えないとなぁ。
あ。
『サトシ』
『なんです?灯油できました?』
『ああ、10kリットルくらいはできたよ。しばらく持つだろう』
『ありがとうございます。助かります』
『でもさ、俺が留守にする間、この量じゃ足んないと思うんだよね。で、人を雇おうと思うんだけど』
『いいですね。心当たりあります?』
『テンス』
『は?え?』
『テンス?』
『いや、聞こえてますよ。なんでそいつなんですか?商売敵じゃないっすか』
『まあ、そうなんだけどさ。魔法使えるし。炎だし』
『でも、裏切りません?』
『いや、大丈夫だろ?お前の怖さ知ってるんだしさ』
『ほんとですかぁ?石油精製施設乗っ取られたらシャレになりませんよ?』
『どうせお前、また見せしめにとんでもないことするだろ?』
『まあ、しますけど』
するんかい!
『大丈夫だよ。ちょっと誘ってみるよ。で、お前パラメータ弄れなかったっけ?』
『ああ、弄れますけど……、あ、テンスは無理ですよ』
『そこを何とか』
『いや、そう言う事じゃなくって。ほんとに無理なんです。なんていうんだろ。MPを持ってないやつは結構簡単にパラメータ弄れるんですけど、MP持ちはあんまり増えないんですよね』
『あ、そうなの?』
『今はレベルがかなり上がったんでどうかわかりませんけど、前はそうでしたね。ってか、パラメータ弄るよりも、魔方陣とか呪文教えたほうが早くないっすか?』
ああ、そうか。
『確かにな。お前頭いいな!』
『あっはい。いや、まあ、いいか。製油所は任せます。確かにテンスたちは今苦労してると思います。この前ジョイスさんの店に行ったときに仕入れ困ってるって言ってましたから』
そりゃそうだろうな。あの状態で今まで通りに収穫できないだろ。
『じゃあ、ちょっと誘ってみるわ。で、あそこの従業員も何人か使おうと思うから、そっから油運ばせるよ。あ、それと、キャンプ用のコンロってできた?』
『ああ、作ってますよ。結構数あります。まだルイスさんの店には持って行ってないですけど、アイが試作品使って喜んでますよ』
『あれ、ナフサでイケるだろ?』
『ああ、はい。いけますね』
『あと、焼玉エンジン作ってもらえない?動力は必要だと思うんだよね』
『設計図があればすぐ作れますけど……、焼玉……エンジンですか。なんです?それ』
『エンジンなんだけど、構造が簡単なんだよね。まあ、俺もイベントで見ただけだけど。油は重油でも経由でも、結構何でも回るんだよ。』
『はあ、ガソリンエンジンとか、ディーゼルじゃダメなんすか?』
『いきなりは難しいだろ?ガソリンエンジンは点火系統が必要になるから発電必須だしな。ディーゼルも燃料噴射するとなるとハードル高かろ?』
『確かに、精度が必要だとちょっと難しいですね。時間はかかると思います』
『焼玉エンジンだと、点火系も要らないし、焼玉で燃料を気化させるから、構造も簡単だしさ。馬力は出ないけど。今はそこまで必要ないだろうし』
『でも、急にどうしたんです?』
『いや、灯油の需要ばっかり伸びても困るんだよ。ほら、精油すると重油とか軽油もできちゃうからさ』
原油から生み出される油は、バランスよく使わないとどれかがダブついてしまう。利用方法のバリエーションも増やしていく必要があるからな。
『とりあえず、テンスに話付けたら、そっちに行くよ』
『わかりました』
まずは、テンスを説得するか。
慌ててログインすると、俺は薄汚れた板壁に囲まれた部屋の中央で椅子に座っていた。
「さて、王都にでも行ってみるか」
サトシに念話をつなぐ。
『なあ、サトシ。順調か?』
『あ!?、ルークスさん!何してたんですか!?全然応答してくれないし。めちゃくちゃ忙しいんですよこっちは!』
繋がるなりサトシはまくしたてる。
『どうした?』
『ストーブがルイスさんのとこでめちゃくちゃ売れちゃって。エンドゥの鍛冶屋で作ってもらったくらいじゃ全然追いつかないし。原油の精製もしなきゃだし』
あ、いけね。あっちは俺がすることになってたな。
『どこに行ってたんですか!?』
『ちょっといろいろ嗅ぎまわっててな。隠密行動だったんでな。念話も傍受されるとまずいから切ってたんだよ』
などと、適当な理由を言ってみた。
『それならそうと言っといてくださいよ。もう。まあ、何とかなりそうだからいいですけど。あ、原油の精製だけでもやっといてもらえると助かります。俺農場も手伝わないといけないし』
……素直な子で助かるよ。
というか、考えるのが面倒なほど忙しいのか?
『ああ、そうだな。わかった。精油は任せとけ。で、すまないが、またちょっと遠出する。王都に用事ができたんだ。またしばらく連絡がつかないと思うが、心配はしないでくれ』
『あ~。そうですか。できれば手伝ってほしいですけど……。まあ、いいでしょう。精油だけでもしてもらえると助かります』
『わかった。作れるだけ作っとく』
念話を切ると、さっそく部屋を出て受付に向かう。
「あ、ほんとにいたんですね」
「どういう意味だよ!」
新顔の受付嬢がずいぶん失礼な物言いで俺の顔をまじまじと眺める。
「いや、ほんとにあの部屋に人がいたんですね。全然出てこないから」
「新顔か。いつもの二人は今日は休みかい?」
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくな。で、いったんチェックアウトだ。また次頼む」
「毎度あり~」
軽い言葉に送られながら宿屋を出て製油所に向かう。
どのくらい精油できるかなぁ。とりあえず、早めに王都に向かいたいので必死で励むことにしよう。
……
作業すること2時間。
いやはや、働いたなぁ。
地下埋設タンクにたっぷりと貯蔵しておいた。灯油としては10kリットルほど。そのほかの油は今のところ使い道がないので貯蔵はしているが放置状態だ。早く利用できるといいが。
ついでにエンドゥの鍛冶屋に寄ってみる。
「おう、久しぶりだな旦那。若旦那の方がせっつくもんでよ。こっちとしては随分急ぎでやってんだが、なかなか間に合わなくってよ」
忙しそうな顔ではあるが、随分満足げだ。結構売れてるんだろうな。
「で、どう?売れてる?」
「ああ、若旦那が販売もこっちに任せてくれたからよ。随分儲けさせてもらってるよ。今は職人を増やして増産中だ。何とか注文に追い付けるように頑張ってるよ」
「そうか。頼む。ところで、新しい……」
「いや、勘弁してくれ。やりたいのはやまやまだが、手が回んねぇや。軌道に乗るまではストーブだけで勘弁してくれ」
「ああ、わかった。じゃあ、頼む」
残念。まあ、いいか。とりあえずは何とかなりそうだな。
でも、この勢いでストーブが売れると、灯油が足りなくなるな。何とか精油できる人材を集めないと……
炎の魔法が使えないとなぁ。
あ。
『サトシ』
『なんです?灯油できました?』
『ああ、10kリットルくらいはできたよ。しばらく持つだろう』
『ありがとうございます。助かります』
『でもさ、俺が留守にする間、この量じゃ足んないと思うんだよね。で、人を雇おうと思うんだけど』
『いいですね。心当たりあります?』
『テンス』
『は?え?』
『テンス?』
『いや、聞こえてますよ。なんでそいつなんですか?商売敵じゃないっすか』
『まあ、そうなんだけどさ。魔法使えるし。炎だし』
『でも、裏切りません?』
『いや、大丈夫だろ?お前の怖さ知ってるんだしさ』
『ほんとですかぁ?石油精製施設乗っ取られたらシャレになりませんよ?』
『どうせお前、また見せしめにとんでもないことするだろ?』
『まあ、しますけど』
するんかい!
『大丈夫だよ。ちょっと誘ってみるよ。で、お前パラメータ弄れなかったっけ?』
『ああ、弄れますけど……、あ、テンスは無理ですよ』
『そこを何とか』
『いや、そう言う事じゃなくって。ほんとに無理なんです。なんていうんだろ。MPを持ってないやつは結構簡単にパラメータ弄れるんですけど、MP持ちはあんまり増えないんですよね』
『あ、そうなの?』
『今はレベルがかなり上がったんでどうかわかりませんけど、前はそうでしたね。ってか、パラメータ弄るよりも、魔方陣とか呪文教えたほうが早くないっすか?』
ああ、そうか。
『確かにな。お前頭いいな!』
『あっはい。いや、まあ、いいか。製油所は任せます。確かにテンスたちは今苦労してると思います。この前ジョイスさんの店に行ったときに仕入れ困ってるって言ってましたから』
そりゃそうだろうな。あの状態で今まで通りに収穫できないだろ。
『じゃあ、ちょっと誘ってみるわ。で、あそこの従業員も何人か使おうと思うから、そっから油運ばせるよ。あ、それと、キャンプ用のコンロってできた?』
『ああ、作ってますよ。結構数あります。まだルイスさんの店には持って行ってないですけど、アイが試作品使って喜んでますよ』
『あれ、ナフサでイケるだろ?』
『ああ、はい。いけますね』
『あと、焼玉エンジン作ってもらえない?動力は必要だと思うんだよね』
『設計図があればすぐ作れますけど……、焼玉……エンジンですか。なんです?それ』
『エンジンなんだけど、構造が簡単なんだよね。まあ、俺もイベントで見ただけだけど。油は重油でも経由でも、結構何でも回るんだよ。』
『はあ、ガソリンエンジンとか、ディーゼルじゃダメなんすか?』
『いきなりは難しいだろ?ガソリンエンジンは点火系統が必要になるから発電必須だしな。ディーゼルも燃料噴射するとなるとハードル高かろ?』
『確かに、精度が必要だとちょっと難しいですね。時間はかかると思います』
『焼玉エンジンだと、点火系も要らないし、焼玉で燃料を気化させるから、構造も簡単だしさ。馬力は出ないけど。今はそこまで必要ないだろうし』
『でも、急にどうしたんです?』
『いや、灯油の需要ばっかり伸びても困るんだよ。ほら、精油すると重油とか軽油もできちゃうからさ』
原油から生み出される油は、バランスよく使わないとどれかがダブついてしまう。利用方法のバリエーションも増やしていく必要があるからな。
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