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生方蒼甫の譚
飲み屋にて
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「で、何が知りたい?」
小綺麗な部屋に通され、俺たちはギルマスと向かい合う形でソファーに座っている。
何が知りたい?いやいや、全部だろう。知ってること全部教えろよ。
「正直なところ、何を知らないかがわかってないので、全部教えてもらえると助かりますね。」
サトシがド直球だった。
しばらくの沈黙の後、ギルマスが口を開く。
「そうか。そうだな。」
何ひとりで納得してんだよ。当たり前だろ?とりあえず情報全部出せ。
「まあ、今ギルドにある情報のほとんどは若干信ぴょう性に欠けるものもあるし、推測の域を出ないものも多いがそれでもいいか?」
「ああ、情報の有る無しで随分攻略の難易度が変わるからな。」
憶測で判断するのもよくないが、とりあえず聞くだけ聞いておきたい。
「鉱夫たちからの『また聞き』情報がほとんどだがな。」
そう前置きすると、ギルマスはその情報について話し始める。その内容は次のようなものだった。
坑道を掘り進めてるうちに、やたらと硬い層にぶち当たった。掘削は重労働だったが、その砕石には希少な鉱石が多く含まれていて、この町は一時大賑わいだったらしい。鉱夫たちは硬い層を嬉々として掘り進んでいたが、ある日空洞を掘り当てる。それが神殿の廊下だった。
神殿の廊下には豪奢な調度品が多く飾られていたらしい。最初にそれを発見した鉱夫たちは、そのことを上役には報告せずに、知っている者たちだけでそれらのお宝を盗み出そうと考えたようだ。つながった入り口を一時的に隠して、その日の作業終了後、そのことを知っている数人でお宝を運び出すつもりだったらしい。
そのメンバーは、夜になって坑道に忍び込み、神殿の中へと入っていった。すると、そこには日中はいなかったデュラハンやサイクロプス、ミノタウロスが居たらしい。数人の鉱夫はそこで慌てて逃げかえったようだが、逃げ遅れた奴らが魔獣に掴まって神殿の最奥まで連れていかれた。そこでマンティコアに「鉱山には近づくな」と命令され解放されたらしい。が、その鉱夫たちは鉱山を仕切る上役にその話をした途端、喉を掻きむしるように苦しみながら死んだそうだ。
「なるほど。全部伝聞なんだな。」
「そう言う事だ。」
となると、これ以上の情報はここでは手に入りそうにないな。
「そうか、ところでミノタウロスはいくらで買い取ってくれる?」
「今鑑定中だ。あれは野良扱いになるから、討伐料は出ないが、希少部位は結構な値になると思う。しばらく待ってくれ。」
「わかった。じゃあ、行こうか。」
とりあえず聞きたいことは聞いたから、次行ってみようかな。
「あれ?もう行っちゃうんですか?」
「ああ、ここではもう情報手に入らないだろうからな。」
「お金も手に入らないなら調味料はどうするのよ!」
「そっちか。まあ、そう焦んなって。」
「また嘘か。」
アイがため息交じりに俺を蔑む目で睨みつける。
くぅ~!たまらん。
いや、そうじゃない。
「キモイ!」
かぁ!追い打ちをかけてくるか!!
「いや、ちょっとルークスさん。落ち着いてください。取り敢えずここを出ましょう。」
おう、ちょっと取り乱しちまったな。すまん。
サトシに押されて部屋を出た。そのまま階段を下りて受付横を通る時に、受付嬢に声をかけられる。
「あの、ルークスさん。実はロッソさんて方から伝言を頼まれてまして。」
「ロッソさん?」
って、誰だっけ。サトシを見るが、サトシも誰の事かわからないようだ。二人で怪訝な顔をしていると、アイが仕方なさそうに口を開く。
「憶えてないの?飲み屋で飲んだくれてた鉱夫よ。」
すげーな。さすが記録用AI。ちゃんと記録してますね。助かったよ。
俺もサトシも「ああ!」という顔になった。それを見て受付嬢が安心したように話を続ける。
「お子さんを助けていただいたお礼をしていないので、出来れば出会った飲み屋にお越しいただきたいと……」
イベント進んでるな。良い感じだ。取り敢えずそっちの話を聞きに行くか。
「そっか。わかった。ありがとよ。サトシ、とりあえず飲み屋に向かうか。」
「え~。また飲み屋ぁ」
「まあ、そう言うな。ちゃんと前に進んでんだからよ。」
アイをなだめつつ、3人で飲み屋へと向かう。
街の往来は閑散としている。夕飯時の飲み屋街なのだからもう少し人がいてもいいと思うが、閉山した鉱山の街はこんなものなのだろう。
店に到着し扉を開ける。
外以上に店の中は活気がない。
「いらっしゃい。」
相も変わらず愛想のない女将だ。
「ああ、あの時の」
なるほど、こいつがロッソか。あんときはよく顔を見てなかったからな。
ってか、ずっとここで待ってたの?暇人か?
まあ、このあたりがゲームだなぁと思うよね。
やべ、サトシ気づくんじゃねぇか?
と、サトシの様子を窺う。
「あなたがロッソさんですか?」
「ええ、この間は子供たちを助けてもらってありがとうございました。」
特に疑う様子はないな。ゲーム脳で助かったよ。
「で、どういったご用件で?」
「実は、お礼と言うほどでもないんですが、もし鉱山に入るなら、抜け道をお伝えしたほうが良いかと思って。」
「抜け道?」
「ええ、実は鉱山の入り口はあそこだけではないんです。」
「でも、ギルドで見せてもらった地図には、一つしか入り口がありませんでしたよ。」
「あの地図は、監督官がギルドに提出したモンだと思います。」
「監督官?」
「ええ、俺たちの上役です。俺たち鉱夫が掘り進めてる時に、たまに方向を間違って進むことがあるんですが、そん時に外に繋がっちまうことがあるです。」
「それが、別の出入り口になるんですか?」
「そうです。でも、計画通りに掘れてないってことになるんで、そのことはだいたい上役には報告しないんですよ。だから、ギルドの地図にはない入り口があるんです。それを使えば坑道の奥まで行けるはずです。」
あちゃぁ~。やっちまった。これ先に聞いておく情報だった。やっぱしあいつら骸骨騎士も含めて倒す必要ないじゃん。
サトシもそれに気づいたのか、若干遠い目をしている。
「情報収集大事だろ?」
「ですね。すいません。」
「いや、次からしっかりやろうな。」
「はい。」
さて、とりあえず、ここまで有益な情報は無いな。
「今日はお客さんロッソさん以外は誰もいないんですね。」
「嫌味なこと言うね。でも事実だから仕方ないね。まあ、ここ数か月はロッソ以外に客が来たためしがないね。」
「あれ?あのお爺さんはあまり来ないんですか?」
「お爺さん?誰の事だい?」
「この間、話を聞きに来た時に、奥で飲んでたお爺さんですよ。」
「何言ってんだい。こないだはアタシしかいなかったじゃないか。その歳でボケちまったのかい?散々アタシから情報聞いといて何言ってんだい。」
「え、あ。そうですか。」
サトシが縋るような目で俺を見てくる。
「まあ、なんだ。取り敢えず店を出ようか。情報ありがとな。じゃあな。」
「なんだい。今日は飲んで行かないのかい。次はちゃんと金を落としてっておくれよ。」
店を出ると、サトシが俺の腕を強くつかみ聞いてくる。
「ルークスさん。覚えてますよね?あのお爺さん。居ましたよね?」
「ああ、居たよ。変な板を持ってニヤニヤしてた爺だろ?」
「はぁ。よかった。俺だけじゃないんですね。アイもルークスさんも何も言わないから、俺だけおかしいのかと思っちゃいましたよ。」
さて、どう説明するべきか。
あれはイベント用のNPCだろう。普段からそこにいるわけではなく、特定のイベントの時にそこに現れる。
普段からこの飲み屋に入り浸っていれば、そこにジジイが居ることで、何かイベントの始まりに気づけるって寸法だろう。
にしても気になるのは、居なかったことにされてるってことだ。これも何かの意味があるんだろうな。
「あの爺さんの存在に、何かしらの意味があるんだろうな。取り敢えず今はよくわからん。あの爺さんが居なかったことになってるってのも大事な情報だと思うぜ。」
「……そうですね。」
サトシは納得してないようだが、事細かに説明するわけにもいかないしな。
どちらにしても、これ以上情報は得られそうにないな……。
やっぱり、レベル上げしかないのかなぁ。
辛い。
小綺麗な部屋に通され、俺たちはギルマスと向かい合う形でソファーに座っている。
何が知りたい?いやいや、全部だろう。知ってること全部教えろよ。
「正直なところ、何を知らないかがわかってないので、全部教えてもらえると助かりますね。」
サトシがド直球だった。
しばらくの沈黙の後、ギルマスが口を開く。
「そうか。そうだな。」
何ひとりで納得してんだよ。当たり前だろ?とりあえず情報全部出せ。
「まあ、今ギルドにある情報のほとんどは若干信ぴょう性に欠けるものもあるし、推測の域を出ないものも多いがそれでもいいか?」
「ああ、情報の有る無しで随分攻略の難易度が変わるからな。」
憶測で判断するのもよくないが、とりあえず聞くだけ聞いておきたい。
「鉱夫たちからの『また聞き』情報がほとんどだがな。」
そう前置きすると、ギルマスはその情報について話し始める。その内容は次のようなものだった。
坑道を掘り進めてるうちに、やたらと硬い層にぶち当たった。掘削は重労働だったが、その砕石には希少な鉱石が多く含まれていて、この町は一時大賑わいだったらしい。鉱夫たちは硬い層を嬉々として掘り進んでいたが、ある日空洞を掘り当てる。それが神殿の廊下だった。
神殿の廊下には豪奢な調度品が多く飾られていたらしい。最初にそれを発見した鉱夫たちは、そのことを上役には報告せずに、知っている者たちだけでそれらのお宝を盗み出そうと考えたようだ。つながった入り口を一時的に隠して、その日の作業終了後、そのことを知っている数人でお宝を運び出すつもりだったらしい。
そのメンバーは、夜になって坑道に忍び込み、神殿の中へと入っていった。すると、そこには日中はいなかったデュラハンやサイクロプス、ミノタウロスが居たらしい。数人の鉱夫はそこで慌てて逃げかえったようだが、逃げ遅れた奴らが魔獣に掴まって神殿の最奥まで連れていかれた。そこでマンティコアに「鉱山には近づくな」と命令され解放されたらしい。が、その鉱夫たちは鉱山を仕切る上役にその話をした途端、喉を掻きむしるように苦しみながら死んだそうだ。
「なるほど。全部伝聞なんだな。」
「そう言う事だ。」
となると、これ以上の情報はここでは手に入りそうにないな。
「そうか、ところでミノタウロスはいくらで買い取ってくれる?」
「今鑑定中だ。あれは野良扱いになるから、討伐料は出ないが、希少部位は結構な値になると思う。しばらく待ってくれ。」
「わかった。じゃあ、行こうか。」
とりあえず聞きたいことは聞いたから、次行ってみようかな。
「あれ?もう行っちゃうんですか?」
「ああ、ここではもう情報手に入らないだろうからな。」
「お金も手に入らないなら調味料はどうするのよ!」
「そっちか。まあ、そう焦んなって。」
「また嘘か。」
アイがため息交じりに俺を蔑む目で睨みつける。
くぅ~!たまらん。
いや、そうじゃない。
「キモイ!」
かぁ!追い打ちをかけてくるか!!
「いや、ちょっとルークスさん。落ち着いてください。取り敢えずここを出ましょう。」
おう、ちょっと取り乱しちまったな。すまん。
サトシに押されて部屋を出た。そのまま階段を下りて受付横を通る時に、受付嬢に声をかけられる。
「あの、ルークスさん。実はロッソさんて方から伝言を頼まれてまして。」
「ロッソさん?」
って、誰だっけ。サトシを見るが、サトシも誰の事かわからないようだ。二人で怪訝な顔をしていると、アイが仕方なさそうに口を開く。
「憶えてないの?飲み屋で飲んだくれてた鉱夫よ。」
すげーな。さすが記録用AI。ちゃんと記録してますね。助かったよ。
俺もサトシも「ああ!」という顔になった。それを見て受付嬢が安心したように話を続ける。
「お子さんを助けていただいたお礼をしていないので、出来れば出会った飲み屋にお越しいただきたいと……」
イベント進んでるな。良い感じだ。取り敢えずそっちの話を聞きに行くか。
「そっか。わかった。ありがとよ。サトシ、とりあえず飲み屋に向かうか。」
「え~。また飲み屋ぁ」
「まあ、そう言うな。ちゃんと前に進んでんだからよ。」
アイをなだめつつ、3人で飲み屋へと向かう。
街の往来は閑散としている。夕飯時の飲み屋街なのだからもう少し人がいてもいいと思うが、閉山した鉱山の街はこんなものなのだろう。
店に到着し扉を開ける。
外以上に店の中は活気がない。
「いらっしゃい。」
相も変わらず愛想のない女将だ。
「ああ、あの時の」
なるほど、こいつがロッソか。あんときはよく顔を見てなかったからな。
ってか、ずっとここで待ってたの?暇人か?
まあ、このあたりがゲームだなぁと思うよね。
やべ、サトシ気づくんじゃねぇか?
と、サトシの様子を窺う。
「あなたがロッソさんですか?」
「ええ、この間は子供たちを助けてもらってありがとうございました。」
特に疑う様子はないな。ゲーム脳で助かったよ。
「で、どういったご用件で?」
「実は、お礼と言うほどでもないんですが、もし鉱山に入るなら、抜け道をお伝えしたほうが良いかと思って。」
「抜け道?」
「ええ、実は鉱山の入り口はあそこだけではないんです。」
「でも、ギルドで見せてもらった地図には、一つしか入り口がありませんでしたよ。」
「あの地図は、監督官がギルドに提出したモンだと思います。」
「監督官?」
「ええ、俺たちの上役です。俺たち鉱夫が掘り進めてる時に、たまに方向を間違って進むことがあるんですが、そん時に外に繋がっちまうことがあるです。」
「それが、別の出入り口になるんですか?」
「そうです。でも、計画通りに掘れてないってことになるんで、そのことはだいたい上役には報告しないんですよ。だから、ギルドの地図にはない入り口があるんです。それを使えば坑道の奥まで行けるはずです。」
あちゃぁ~。やっちまった。これ先に聞いておく情報だった。やっぱしあいつら骸骨騎士も含めて倒す必要ないじゃん。
サトシもそれに気づいたのか、若干遠い目をしている。
「情報収集大事だろ?」
「ですね。すいません。」
「いや、次からしっかりやろうな。」
「はい。」
さて、とりあえず、ここまで有益な情報は無いな。
「今日はお客さんロッソさん以外は誰もいないんですね。」
「嫌味なこと言うね。でも事実だから仕方ないね。まあ、ここ数か月はロッソ以外に客が来たためしがないね。」
「あれ?あのお爺さんはあまり来ないんですか?」
「お爺さん?誰の事だい?」
「この間、話を聞きに来た時に、奥で飲んでたお爺さんですよ。」
「何言ってんだい。こないだはアタシしかいなかったじゃないか。その歳でボケちまったのかい?散々アタシから情報聞いといて何言ってんだい。」
「え、あ。そうですか。」
サトシが縋るような目で俺を見てくる。
「まあ、なんだ。取り敢えず店を出ようか。情報ありがとな。じゃあな。」
「なんだい。今日は飲んで行かないのかい。次はちゃんと金を落としてっておくれよ。」
店を出ると、サトシが俺の腕を強くつかみ聞いてくる。
「ルークスさん。覚えてますよね?あのお爺さん。居ましたよね?」
「ああ、居たよ。変な板を持ってニヤニヤしてた爺だろ?」
「はぁ。よかった。俺だけじゃないんですね。アイもルークスさんも何も言わないから、俺だけおかしいのかと思っちゃいましたよ。」
さて、どう説明するべきか。
あれはイベント用のNPCだろう。普段からそこにいるわけではなく、特定のイベントの時にそこに現れる。
普段からこの飲み屋に入り浸っていれば、そこにジジイが居ることで、何かイベントの始まりに気づけるって寸法だろう。
にしても気になるのは、居なかったことにされてるってことだ。これも何かの意味があるんだろうな。
「あの爺さんの存在に、何かしらの意味があるんだろうな。取り敢えず今はよくわからん。あの爺さんが居なかったことになってるってのも大事な情報だと思うぜ。」
「……そうですね。」
サトシは納得してないようだが、事細かに説明するわけにもいかないしな。
どちらにしても、これ以上情報は得られそうにないな……。
やっぱり、レベル上げしかないのかなぁ。
辛い。
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