中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ

文字の大きさ
上 下
96 / 321
生方蒼甫の譚

実験再開

しおりを挟む
 気が付いたら研究室の窓から朝日が差し込んでいた。
 PCの前で寝ていたらしい。

 仮想空間の中にダイブしたのはほんの数時間だが、観察期間はようやく半年となった。
 サトシの行動に関してはすべてログを取っている。実際に疑似人格が実用可能なのか、検証にはより多くのデータと期間が必要になる。1000倍速より早くしたいところだが、さすがに俺の頭が持ちそうにない。
 まだ頭の芯が痛むが、引き続きデータを収集するため、再度仮想空間にダイブする。

 決して、ゲームの続きがしたいからではない。

 まあ、パラメータは多少いじったが。


 HMDヘッドマウンドディスプレイを装着し、うなじにも電極を装着する。
 わずかな痛みの後に、浮遊感が訪れる。

 目の前が整った研究室の壁から、ここ最近見慣れた古い板壁に変わる。俺がダイブすると同時に止まっていた時間が動き出す。
 下の階からは、アイが作る料理の匂いが漂ってくる。

 あ、腹に何か入れとけばよかった。
 この半年、ゲームの中では食事をしているが、現実世界の数時間は何も食べていない。おそらくこれからまた数時間はぶっ通しで観察を続けるだろう。
 もう一度中断して……とも思ったが、めんどくさくなったので、そのまま続けることにした。

 窓の外ではサトシが骸骨騎士の装備品を工房に運び入れるにぎやかな音がしている。

 少し眠ったからか、気分がすっきりしている。

「さて、サトシの様子でも見てくるか。」

 階段を降りると、アイが料理をしている音が聞こえてくる。
 何もそんなにリアルさを追求しなくても、コマンド一つで料理を完成させることが出来るだろうに。

 変なところにこだわりの詰まったゲームだ。作り手のこだわり……というか、狂気を感じる。

 玄関を出ると、サトシが右へ左へと大忙しだった。

「ルークスさん。もう用事はすんだんですか?」
「ああ、大した用事じゃなかったからな。で、どうだ?それは役に立ちそうか?」

 サトシは装備品を見ながら満面の笑みだった。
「これいいですよ。あれだけの衝撃を受けても大した傷みも無いですし、かなりの業物ですよ。これなら何もしなくても高く売れるかもしれません。
 ただ、ルイスさんは、もっと安価なものをご所望だったので、ちょっと予定と違いますけどね。」

「あの神殿をもう少し進めば、狙いの物も見つかるんじゃないか?腹ごしらえしたら早速行ってみるか?」
「そうですね。」

 しばらくすると、アイが呼びに来た。食事の準備ができたらしい。工房での作業を切り上げて、家へと戻る。
 リビングには食事が並んでいた、が、なんだこれ?

「アイ。干し肉使ったの?」
「もったいなかったから。」
「もったいないって。別にこれから使えばいいだろうよ。この後もまた行くんだし。」
「え~。また行くの?メンドクサイ。」
「まあ、そう言わないでサ。」
「う~ん。わかった。」
 なんだ、サトシには従順だな。でもなぜおれへの態度が悪い?
「あ、そういえばサトシ。今回保存食買ったけどさ。よく考えたら、おまえ出せるんじゃない?」
 
 サトシは一瞬ぽかんとしたが、意味を理解したらしく、膝を打つ。
「ああ、そうですね。出せますね。試してみましょうか。」
「そうだな。必要な時になって失敗するのもまずいしな。」

 そう言うと、サトシは掌をかざして、念じ始める。すると、掌からするすると干し肉が出てきた。

「ちょっと食べてみようか。俺にも少しくれ。」

 サトシは今現れた干し肉を、少し引きちぎると俺に手渡す。俺はそのひき肉を口に放り込み、奥歯でかみしめる。

「おお、いいじゃん。なかなかうまいよ。」
 ちょうどビーフジャーキーのようだった。おそらく思い浮かべたのがそれだったのだろう。

「ビールほしいですね。」
「出せるんじゃね?」
 サトシは、わくわくした顔で掌をかざし念じる。徐々に目がマジになってくる。最後は鬼気迫る顔で

 じょろじょろ。

「うわぁ!!」
 なんだよ。掌からじょぼじょぼ直接ビールが出てきたヨ。
「俺はてっきり瓶ビールか、缶ビールが出てくるもんかと思ったが。」

「いや、俺も最初はそれを狙ったんですけどね。容器の中に液体を入れてって言うのが難しくて。ビールだけなら出せそうだなと」
「ちょっと絵面がな。黄色い液体がじょぼじょぼ出てきて泡立って。って」

「いや、それ以上言わないでください。コップか何か用意しとけばよかったですね。」
「だな。でも大量生産は難しそうだな。」
「そうですね。できて一杯ずつってとこですかね。」
「そうか。この農場がもっと広がったら、麦を作ってもいいかもな。」
「ですね。夢が広がりますね。」
 そんな二人を横目に、アイは黙々と食事をしている。あまりこのあたりの会話には入ってこない。ログを取ることだけに集中しているんだろうか。

 そうこうしているうちに食事も終わり、出発の準備に取り掛かる。サトシはティックたちに何か指示したそうにしていたが、あまり間をあけて神殿の魔獣が復活しても困るので、先を急ぐことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...