中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ

文字の大きさ
上 下
91 / 321
生方蒼甫の譚

一時帰郷

しおりを挟む
「とりあえず疲れた。
 一旦休みたい。
 それにあいつら強くなりすぎだろ。なんだよパラメータ8bitが上限だと思ってたのに。考え方が古いのかな。」

 ぶつぶつ愚痴を言いながら階段を上る。

 部屋に入ると、ルークスは椅子に腰かけ
「ログアウト」
 そう宣言すると、目の前の風景が歪み遠くなる。

 ……


 顔に装着しているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を外し、目の前にある机に置く。椅子から立ち上がろうとしたときうなじから伸びるコードが引っ掛かる。

「これもか。」
 うなじに貼ってあるシールをはがす、シールには小さな針がついている。

「いてて。ああ、頭も痛い。なんだよこの倦怠感。すげー疲れる。演算停止っと。」

 俺はキーボードで演算停止命令を入力すると、壁の時計を確認する。23時を指している。ログインしていたのは4時間ほどだろうか。研究室から外に出ると、廊下は明かりが落とされていた。

「アパートに帰るのもだるいなぁ。また泊まるか。」

 こんな生活が3か月ほど続いている。
 事の始まりは政府高官が視察に来た時の何気ない一言からだった。



 ……



生方うぶかた先生、こちら人力資源社会保障部の田……」
「ああ、あなたが生方うぶかた先生ですか。お噂はかねがね」
 研究所の所長ですよ?紹介してくれてるの。食い気味に来るね。
 それに噂と来たか、どうせろくなことは聞いてないんだろうな。

「どうも。生方うぶかたです。」
「何やら面白い研究をなさっていらっしゃるそうで」
「じゃあ、生方先生。説明をお願いしても?」
 所長は『あとはよろしく!』っていう清々した顔をしている。はいはい。わかりましたよ。
 
「わかりました。ではこちらへ。」
 
 俺は研究室へと皆を案内する。まあ、研究室って言ってもPCが並んでるだけなんだが、

「今私は人工知能の高度化に関する研究をすすめております。以前から活用されている機械学習やディープラーニングを用いたAIとは違うアプローチで……」
「ほう。それはどんな?」
 いや、さっきから食い気味でぐいぐい来るね。そんなに興味無かろ?
 どうせ残予算執行のための物見遊山だろ?
 さらっと流してくれよ。メンドクサイ。

 が、

 予算を減らされてもかなわんしな。まあ、一応説明するか。
 
「以前趙博士が発表された『シナプススキャンによる人格・記憶のバックアップ』を活用して……」
「その研究については当部局でも支援しておりまして。」

 ぐいぐい来るね。
 聞けよ最後まで……と言いたいが、まあいい。話す手間が省けた。

「そうでしたか。当研究室では、人から得られた人格・記憶のデータを用いる方がAIとしての利用価値が増えるのではないかと考えまして……」
「なるほど、コンピュータ上で疑似人格をシミュレートすると言う事ですか。しかし、それは難しいのでは?」
「その通りです。実際今までのスーパーコンピュータを活用してもなかなか完全再現と言うのは難しいところがありました。これは量子コンピュータを用いても同じで、根本的な演算方法の違いによるものだと私は考えております。」
「では、解決方法があると?」
「現在申請を検討中なのですが、スーパーコンピュータの『阿吽』を利用したいと考えております。」
「ほほう。『阿吽』ですか。生体コンピュータの。」
「そうです。『阿吽』には人口脳細胞が使用されていますので、シナプススキャンされた人格・記憶との親和性が高いと考えております。」
「しかし、そのあたりの研究は趙博士も実施しているはずですが。」
「確かに趙博士も研究しておられますが、当研究室においては、シナプススキャンで得られるデータをそのまま活用するのではなく、いくつかのレイヤーに分割します。」
「分割ですか。」
「はい。記憶……といっても、それらは視覚・聴覚・嗅覚・触覚等のあらゆる感覚神経からの入力の総称です。それぞれを一纏めで扱っても正しく機能させることが出来ないのではないかと考えております。ですから、それらを得られた感覚神経別データとして分類しレイヤ分けします。脳内のカテコールアミンバランスなどの化学反応データも含めると全部で256のレイヤーに分割した状態で『阿吽』上に展開してやることで疑似人格がシミュレートできるのではないかと考えております。」
「今その研究はどのあたりまで進んでますか?」
「我々の手元にある個体データを用いて、レイヤ分割作業をしているところです。この作業もかなり時間が掛かるので、スーパーコンピュータ「神威3号」利用の申請をしていますが、現在回答待ちの状態です。その作業が終わってから『阿吽』の利用申請となりますので、まだ始まったばかりと言ったところですね。」
 
 あれ、俺結構研究の核心部分話しちゃった?まずったかな。
 でも、まあいいか。
 どうせ聞いてないだろ。

「いや、非常に興味深い内容でした。生方先生の研究が順調に進むことを期待しております。当局にお手伝いできることがあればぜひご連絡ください。」
「ああ、どうも……ありがとうございます。」

 と、名刺を受け取った。
 あ、局長だったのね。
 やべ、トップじゃん。うちの大学、この局の直下だよね?
 失礼なことやってないよな。

 などと心配しながら、局長とお付きの人たちを見送る。

「ふぅ~。」
 やれやれとため息をつきながら、作業に戻る。さっきは簡単にレイヤー分割などと言っていたが、そんな簡単な作業ではない。少なくとも手入力の作業も多いし、入力後の演算が半端じゃない。すべての記憶データに「視覚」とか「聴覚」などというタグが付いていてくれれば言うことないが、実際にはそんなものは無い。言ってみればすべて暗号化されたデータの様な物だ。それを「視覚データだった場合どのような像を結ぶか」というあたりを付けて複合化する。
 それが動画データのように可視化できる結果になれば、それは「視覚情報に基づいた記憶」と言うことになるが、そうでなければ今度は「聴覚」情報として複合化してみる。
 ちょうど一度消去したHDDやSSDに保存されていたデータの復元をしているようなものだ。復元するべきデータの正解がわからない状態でやっているんだから正直先が見えない。
 だれ?こんな事研究するって言った奴。バカじゃねぇの?っていう気分だ。
 自分で言いだしたことじゃなきゃ、とっくにやめているだろう。

 まあ、仕方ないな。と作業していると1時間ほどして、所長が研究室に駆け込んできた。

「ああ、さっきはどうも。」
生方うぶかた先生。朗報ですよ。朗報。」
「なにがですか?」
「早速人力資源社会保障部から連絡がありましてね。先生の「神威3号」と「阿吽」の利用申請。人社部から最優先にするように科学技術部に依頼していただけたみたいですよ。」
「まじっすか?」
「良かったですね。」
「はあ。」
 なんだか、急な話過ぎて理解できない。
「生方先生。ボーっとしてないで、しゃきっとしてください。本学の命運があなたにかかってるんですよ!」
「いや、そう言われましても。」
「よろしくお願いしますね。あ、それと、なにやらいくつか提供できるものがあるって言ってました。」

「『なにやら』ってなんですか?」
「さあ、良くわからない事言ってましたよ。先生専門なんだからわかるでしょ?」
 いや、「なにやら」じゃわからんだろ!?
「はあ、まあ。届けばわかりますよね。」
「そうでしょうね。じゃ、よろしく。」

 所長は風のように去っていった。なんだあの人。

 さて、ともあれスパコンが両方使用できるのはありがたい限りだ。これで一気に研究が進みそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...