中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ

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サトシの譚

三度(みたび)の襲撃

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「アイ!起きるんだ。良いか?俺がいいと言うまで竈の中に隠れてるんだ。中に鍋を持って入って、それを使って焚口を内側から閉めるんだ。良いね。落ち着いて。さあ」
 サトシはアイに努めてやさしく話しかけたつもりだったが、アイはおびえてしまっている。それがゴブリンの足音のせいなのか、鬼気迫るサトシの表情のせいなのかはわからない。しかし、アイは頷くと両手鍋を持って焚口に入って行く。焚口を塞ぐには少々小さいが、隠れるには問題ないだろう。焚口の中に入っていくアイにサトシは念を押す。
「良いかい。俺がいいと言うまで中でじっとしておくんだ。怖くてもじっとしてるんだ。わかったね。」
 アイは、焚口から顔を出しうなずいた後、鍋の後ろに隠れた。
「さあ。やってやるか!」
 カラ元気に近いが、サトシは自分を奮い立たせる。どんどん大きくなる足音を聞きながら、自分を落ち着けるように装備を整える。足音は畑のあたりまで来ている。
「頃合いかな」
 サトシは魔術錬成で畑を泥沼に変える。まだサトシの力では広い範囲はできないが、4~5匹のゴブリンは足を取られただろう。続いて炎の竜巻をお見舞いする。日中遠隔で魔術錬成を練習していた甲斐があった。大きな火の手が上がりゴブリン達の叫び声が聞こえる。その炎で群れの全容が見えた。
 300以上
 絶望的な数だった。カールたちが葬り去ったゴブリンは200以上は居たと思われるが、それよりもまだ多い。見えている範囲でこの数である。サトシは腹を括るしかなかった。
 連続して魔術錬成を行うことで、頭の中でひっきりなしにファンファーレが鳴り響く。

「経験値5820獲得 アイのレベルが9に上昇、体力の最大値が上昇しました、腕力が向上しました。攻撃力が向上しました。生命力が向上しました。知性が向上しました。防御力が向上しました。素早さが向上しました。運が向上しました。
 アイのレベルが10に上昇、体力の最大値が上昇しました、腕力が向上しました。攻撃力が向上しました。生命力が向上しました。知性が向上しました。防御力が向上しました。素早さが向上しました。運が向上しました。
 アイの……」
「ええぃ!うるさい!少し黙っててくれ!」
「……」
 群れの先頭が小屋の間近に迫っている。サトシは自分自身に行動加速ヘイストをかけながら小屋から飛び出しグラディウスを振るう。前回とは全く違う。ゴブリンの動きがはっきり見える。振り下ろされる棍棒をかいくぐり、一匹一匹急所にめがけグラディウスを突き立てる。
 囲まれそうになると、目の前のゴブリンに行動不能スタンをかけ蹴り飛ばし、後続を足止めする。その間に距離を取り、出来る限り2匹以上とは戦わないよう立ち回る。
 しかし、状況は芳しくない。5匹、10匹、15匹倒しても倒してもきりがない。炎の竜巻と泥沼で足止めしながら距離を取る。
 回復も行うが、腕が上がらなくなってきた。行動加速ヘイストをかけても最初の様な踏み込みができない。数に押されて後退し続けている。すでに集落の中央広場のあたりまで押し込まれてきた。ここでサトシは魔法に見切りをつける。一撃で倒せない上に、魔術錬成には時間が掛かる。それよりは、行動加速ヘイストと回復を連続で使用しながら斬撃に特化したほうが良いと考えた。
 「行動加速ヘイスト三重掛け」
 ゴブリン達が止まって見える。効率よく。無駄な動きを排除してグラディウスを振るう。剣を止めない。舞うように切り進める。ここにきて理想的な動きに近づいた。
 一匹、二匹、三、四五六、七匹と連続で首を切り落とす。今切り捨てたゴブリンの背後にいるホブゴブリンが、バカでかい棍棒でサトシを狙っている。サトシは目前のゴブリンを踏み台にして高く舞い上がりホブゴブリンの頭めがけてグラディウスを振り下ろす。ホブゴブリンの頭は中央で真っ二つに割れ血が噴き出す。その肩を踏み台にして群れの中央に飛び込む。
 ゴブリン達の真ん中に降り立つと、正面のゴブリンの胸にグラディウスを突き立てる。そのままゴブリンを押して後ろの2匹を串刺しにする。
 何が起きたのか理解できないゴブリン達は、サトシから距離を取った。サトシは、グラディウスに貫かれたゴブリンを足で踏みつけると、魔力を流して剣を抜く。切れ味の上がった剣はするりと抜けた。
 サトシが周囲のゴブリンを一瞥すると、ゴブリンがたじろぎ後ずさる。サトシはにやりと笑い、再度切り込む。
 二匹のゴブリンが切り捨てられると同時に、残りのゴブリンが金切り声を上げながら壊走する。
 サトシは逃げるゴブリンの背中を見ながら、ほくそ笑む。
『これで助かった。』
 正直サトシは限界だった。最後の威嚇はかなりの賭けだった。あそこでゴブリンに押し込まれていたらサトシにはなす術はなかっただろう。限界の体でゴブリンを追いながらも、追いつくつもりはほとんどなかった。
 小屋の近くまでゴブリンを追い立てて、気持ちが緩んだ時だった。


「いやぁーーーーーぁ!!」
 アイの悲痛な叫び声が響いた。
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