20 / 321
カールの譚
激闘
しおりを挟む
『驚いたな。あれに耐えるか。おもしろい』
トンでもねぇのが残ってた。一番忘れちゃいけないやつだった。どう逃げる。
音もなく上空から降りてくる。
「なかなかの手練れのようだな。」
ああ、もう駄目だろうな。奴らだけでも逃がせるか?とりあえず、時間を稼ごう。
「普通に話せるんだな」
「ああ、先ほどのか?警告は全員に聞こえなければ意味がないのでな。」
悠然と話してはいるが、まったくスキがねぇ。逃げようにも逃がしてくれるそぶりも見せねぇ。
「まあ、そう焦るな。」
全部お見通しってところか。だが、気さくに話しかけてくる様子は本当に人間と変わりない。近所のおっさん(元イケメン)と言われても信じるほどだ。年は俺と変わらないくらいか。ただ、まとう雰囲気が人間とは別物だ。さっきの攻撃をもう一度受ければ今度は全員助からないだろう。
できるだけ小声でエリザとヨハンに伝える。
「エリザ、ヨハン、俺が時間を稼ぐ間に、キャラバンを引き連れてできるだけ遠くへ逃げてくれ。馬車は置いてゆけ、足が遅い奴は馬に乗せて、後は一目散に逃げろ。それしか手はない。」
「カールはどうするんですか?」
「スキを見て逃げてみるが、おそらく無理だ。全員でかかったところでどうにもならん。いいから逃げろ。もしできるなら、エリザは離れたところから俺にバフをかけてくれ。頼む。」
「いえ、それなら我々も戦います。3人なら勝機があるかもしれません。」
「これ相手に本気か?」
「だから言ったろ?そう焦るな。」
魔王が軽く掌をこちらにかざす。
「なっ!」
途端に体の自由が利かなくなる。俺はわずかに動けるが、エリザとヨハンは地面に倒れこんだ。
やべえ、これは殺気か?どうなってるんだよ。奴は全く本気になっている様子はない。なのにこっちは身動きすらまともにとれん。こんなの相手に勝てるわけねぇ。
と、泣き言を言ってても仕方ない。やるしかない。かろうじて動く腕に魔力を込め、剣を抜く。
「ん?ほう!それは……そうか、そういうことか。あっはははっ!なるほどな。道理で動けるわけだ。よかろう。試してみよう。」
奴は愉快そうに笑ったかと思うと、俺に向かって手をかざす。
うはっ!
急に体が動くようになった。なんだ、術を解いてくれたのか?これは、いけるかもしれねぇ。奴は俺に対してかなり油断しているようだ。先手必勝だ!!
軽くしゃがみ込み、一気に地面を蹴って魔王との距離を詰める。両手で剣を下段から振り上げる。
キィン!!
「な?!」
甲高い金属音がして、俺の太刀筋がずらされる。
正直一世一代の一撃だったはずだ。なぜ?
はっ!?魔王の手にあるのは……
カタナか!?
「俺のは紛い物でね。お前のそれが本物かどうか試してみたい。さあ、来い。」
奴が、俺の攻撃を受けてくれるならまだ機会(チャンス)があるかもしれない。先程より強く魔力を込める。ほぼ限界だが仕方ない。
一気に剣を振り抜く!
シュイン!!
振り抜いた剣先は地面を深く切り裂くが魔王の体には届かない。
キィン!!
カキィン!!
すべて奴のカタナではじかれる。
「良いぞ。どうやら本物のようだな」
こっちは必死だってぇのに、どんだけ余裕なんだよ。
限界を超えて魔力を高め、手数を増やす。仕方ない。腹の中に魔力をためてあふれさせる。
斬撃の速度は当初の倍以上になり、時折剣先から衝撃波が発生している。それでも魔王の体には届かない。さも楽しそうに軌道をそらされる。
横なぎに放った斬撃を上方に逸らされた。
左手一本で上から切り下し、空いた右手で
「ファイアボール」
五本の指からファイアボールが5発放たれる。この至近距離だ、どれか当たってくれ!!
魔王は、目の前でカタナをぐるりと一周させる。
すると、振り下ろされる剣先と5発のファイアボールすべてを弾き飛ばされた。そんなのありか?!無茶苦茶だ。どうやったら一撃を浴びせられる?
これだけやっても、奴は一撃もこちらを攻撃していない。すべて受け流すだけだ。
どれだけ余裕なんだよ。
「さあ、そろそろ終いにしようか?」
トドメを刺されるのか?覚悟を決めるしかないな。
「同感だね」
自棄(やけ)だ、
俺は後ろに飛びのき、剣に最大の魔力を込めて奴に向かって放り投げる。これで両手が空いた。
その両手で、あらん限りのファイアボールを乱れ打つ。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
100発、200発 魔力が尽きるまで打ち続ける。
目の前が火柱で何も見えない。奴がどうなったかもわからないが、おそらく毛ほどの傷もつけられていないだろう。でも打つしかない。
1000発、1500発
目の前は炎で埋め尽くされている。その時横から声がした。
「いい加減にしろ!」
左わき腹にとんでもない衝撃が来た。それが蹴りだとわかるのにずいぶん時間がかかった気がする。
吹き飛ばされながらその方向を見ると、魔王が手をかざしてこちらを見ている。
「ソウルスティール」
グンッ!!
体が魔王の掌に引っ張られる!
でも、遠くへ吹き飛んでゆく感覚はそのままだ。いま、意識だけが引きずり出されている。
これ魂だけ吸われてねぇ?ヤバいつじゃないか?
これは確実に殺しにかかってるな。
やっちまった感が半端ない。
ああ、肉体から魂が抜ける感覚ってこんなか……。
意外に気持ちいいもんだな。
トカゲや蛇の脱皮もこんな感じなんだろうか?
ああ、胴体は完全に離脱した、指先と足先でかろうじて耐えている。
頑張れ俺。
負けるな俺。
ああ、指先がぁ……あ、足抜けた。
やべ、
あっ。
死ぬときって、こんなにゆっくり時間が流れるのな。
おお、どんどん魔王の手の方に吸い込まれていく。
死ぬときは走馬灯のように思い出がって聞いた気がするけど、そんなのないんだな。
ああ、やりたい事まだ一杯あったのに。
玉鋼も手に入らないし…
ま、仕方ないか。
……
なんだ、何かが目の前に何かが飛び出してきたぞ
ああ、少年だ……生きてたんだな。よかった。
じゃねぇよ。おいおい君、そこに出てくると危ないぞ、
俺とぶつかるし、君も魂吸われるんじゃないか?
ほら言わんこっちゃない、
ちょっとはみ出てるぞ、君。
吸われてますって!
逃げたほうがいいよ!
おお、俺加速してる。やべ、止まれねぇ。
あ、少年にぶつかる。
ああ、止まれーエ
痛てぇーーーーーー!!
トンでもねぇのが残ってた。一番忘れちゃいけないやつだった。どう逃げる。
音もなく上空から降りてくる。
「なかなかの手練れのようだな。」
ああ、もう駄目だろうな。奴らだけでも逃がせるか?とりあえず、時間を稼ごう。
「普通に話せるんだな」
「ああ、先ほどのか?警告は全員に聞こえなければ意味がないのでな。」
悠然と話してはいるが、まったくスキがねぇ。逃げようにも逃がしてくれるそぶりも見せねぇ。
「まあ、そう焦るな。」
全部お見通しってところか。だが、気さくに話しかけてくる様子は本当に人間と変わりない。近所のおっさん(元イケメン)と言われても信じるほどだ。年は俺と変わらないくらいか。ただ、まとう雰囲気が人間とは別物だ。さっきの攻撃をもう一度受ければ今度は全員助からないだろう。
できるだけ小声でエリザとヨハンに伝える。
「エリザ、ヨハン、俺が時間を稼ぐ間に、キャラバンを引き連れてできるだけ遠くへ逃げてくれ。馬車は置いてゆけ、足が遅い奴は馬に乗せて、後は一目散に逃げろ。それしか手はない。」
「カールはどうするんですか?」
「スキを見て逃げてみるが、おそらく無理だ。全員でかかったところでどうにもならん。いいから逃げろ。もしできるなら、エリザは離れたところから俺にバフをかけてくれ。頼む。」
「いえ、それなら我々も戦います。3人なら勝機があるかもしれません。」
「これ相手に本気か?」
「だから言ったろ?そう焦るな。」
魔王が軽く掌をこちらにかざす。
「なっ!」
途端に体の自由が利かなくなる。俺はわずかに動けるが、エリザとヨハンは地面に倒れこんだ。
やべえ、これは殺気か?どうなってるんだよ。奴は全く本気になっている様子はない。なのにこっちは身動きすらまともにとれん。こんなの相手に勝てるわけねぇ。
と、泣き言を言ってても仕方ない。やるしかない。かろうじて動く腕に魔力を込め、剣を抜く。
「ん?ほう!それは……そうか、そういうことか。あっはははっ!なるほどな。道理で動けるわけだ。よかろう。試してみよう。」
奴は愉快そうに笑ったかと思うと、俺に向かって手をかざす。
うはっ!
急に体が動くようになった。なんだ、術を解いてくれたのか?これは、いけるかもしれねぇ。奴は俺に対してかなり油断しているようだ。先手必勝だ!!
軽くしゃがみ込み、一気に地面を蹴って魔王との距離を詰める。両手で剣を下段から振り上げる。
キィン!!
「な?!」
甲高い金属音がして、俺の太刀筋がずらされる。
正直一世一代の一撃だったはずだ。なぜ?
はっ!?魔王の手にあるのは……
カタナか!?
「俺のは紛い物でね。お前のそれが本物かどうか試してみたい。さあ、来い。」
奴が、俺の攻撃を受けてくれるならまだ機会(チャンス)があるかもしれない。先程より強く魔力を込める。ほぼ限界だが仕方ない。
一気に剣を振り抜く!
シュイン!!
振り抜いた剣先は地面を深く切り裂くが魔王の体には届かない。
キィン!!
カキィン!!
すべて奴のカタナではじかれる。
「良いぞ。どうやら本物のようだな」
こっちは必死だってぇのに、どんだけ余裕なんだよ。
限界を超えて魔力を高め、手数を増やす。仕方ない。腹の中に魔力をためてあふれさせる。
斬撃の速度は当初の倍以上になり、時折剣先から衝撃波が発生している。それでも魔王の体には届かない。さも楽しそうに軌道をそらされる。
横なぎに放った斬撃を上方に逸らされた。
左手一本で上から切り下し、空いた右手で
「ファイアボール」
五本の指からファイアボールが5発放たれる。この至近距離だ、どれか当たってくれ!!
魔王は、目の前でカタナをぐるりと一周させる。
すると、振り下ろされる剣先と5発のファイアボールすべてを弾き飛ばされた。そんなのありか?!無茶苦茶だ。どうやったら一撃を浴びせられる?
これだけやっても、奴は一撃もこちらを攻撃していない。すべて受け流すだけだ。
どれだけ余裕なんだよ。
「さあ、そろそろ終いにしようか?」
トドメを刺されるのか?覚悟を決めるしかないな。
「同感だね」
自棄(やけ)だ、
俺は後ろに飛びのき、剣に最大の魔力を込めて奴に向かって放り投げる。これで両手が空いた。
その両手で、あらん限りのファイアボールを乱れ打つ。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
100発、200発 魔力が尽きるまで打ち続ける。
目の前が火柱で何も見えない。奴がどうなったかもわからないが、おそらく毛ほどの傷もつけられていないだろう。でも打つしかない。
1000発、1500発
目の前は炎で埋め尽くされている。その時横から声がした。
「いい加減にしろ!」
左わき腹にとんでもない衝撃が来た。それが蹴りだとわかるのにずいぶん時間がかかった気がする。
吹き飛ばされながらその方向を見ると、魔王が手をかざしてこちらを見ている。
「ソウルスティール」
グンッ!!
体が魔王の掌に引っ張られる!
でも、遠くへ吹き飛んでゆく感覚はそのままだ。いま、意識だけが引きずり出されている。
これ魂だけ吸われてねぇ?ヤバいつじゃないか?
これは確実に殺しにかかってるな。
やっちまった感が半端ない。
ああ、肉体から魂が抜ける感覚ってこんなか……。
意外に気持ちいいもんだな。
トカゲや蛇の脱皮もこんな感じなんだろうか?
ああ、胴体は完全に離脱した、指先と足先でかろうじて耐えている。
頑張れ俺。
負けるな俺。
ああ、指先がぁ……あ、足抜けた。
やべ、
あっ。
死ぬときって、こんなにゆっくり時間が流れるのな。
おお、どんどん魔王の手の方に吸い込まれていく。
死ぬときは走馬灯のように思い出がって聞いた気がするけど、そんなのないんだな。
ああ、やりたい事まだ一杯あったのに。
玉鋼も手に入らないし…
ま、仕方ないか。
……
なんだ、何かが目の前に何かが飛び出してきたぞ
ああ、少年だ……生きてたんだな。よかった。
じゃねぇよ。おいおい君、そこに出てくると危ないぞ、
俺とぶつかるし、君も魂吸われるんじゃないか?
ほら言わんこっちゃない、
ちょっとはみ出てるぞ、君。
吸われてますって!
逃げたほうがいいよ!
おお、俺加速してる。やべ、止まれねぇ。
あ、少年にぶつかる。
ああ、止まれーエ
痛てぇーーーーーー!!
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。
遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。
その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる