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カールの譚
美女と野獣
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「まあ、それはいいとして、女将さんさぁ、鉱山のこと他にも何か聞いたことないかい?」
「そうさね。魔獣が出る少し前だと思うんだけど、抗夫たちの羽振りが急によくなったね。」
「なんかあったのか?」
「ああ、なんでも珍しい鉱石が取れ始めたとかなんとか」
「珍しい?なんて鉱石だ?」
「ミスリルだっけ?なんかそんな奴と、あと、オリ……なんたらってやつだったと思うけどね。」
「オリハルコンか?」
「ああ、そうそう。そんなこと言ってたよ。」
ミスリルはSランク冒険者の認識票にも使われる金属だ。銀色でプラチナに似た風合いだが、わずかに魔力を帯びていて鋼をはるかに凌ぐ硬さと粘り強さを併せ持った理想的な金属だ。鍛冶屋としては素材として扱ってみたいが、あいにく希少金属なので、なかなかお目にかかる機会もない。
オリハルコンは金色の金属で、見た目は金に似ているが、強度はミスリルをも凌ぐといわれている。正直俺もお目にかかったことはないが……
「臨時ボーナスが出たらしいよ。でもほんの数日だったね。そのお祭り騒ぎも。」
「魔獣が出て封鎖か。」
「そう。こっちはいい迷惑さ。」
「おうい、酒とグラスをくれ!」
「あいよ。ちょっと待っとくれ。」
女主人はけだるそうに、後ろの客に酒瓶とグラスを持っていく。
「ところで、マンティコアを見たってのは誰が言ってたんだ?」
正直気になるのはこの情報だ。マンティコアに会うまでに、デュラハンやらサイクロプス。ミノタウロスまでいた。Sランクならともかく、普通の抗夫があんなところまで進めるとは思えないし、何よりあのサイズのマンティコアがひょいひょいいろんなところを動き回るとも思えない。実際にいたんだから、誰かが見たのは確かなんだろうが、どうやって見ることができたのかが知りたい。
「どうだったかねぇ。あたしゃまた聞きのまた聞きみたいなもんだからねぇ。」
女主人は定位置に戻ると、また頬杖をついて話し始める。思い出しているというか、上の空といった雰囲気だ。
「この店に出入りしている抗夫は見たことがないって言ってたね。見た奴の話を聞いたって言ってたよ。」
そうか、あんまり確かな情報じゃなさそうだな。だが、実際いたことは確かだし、倒した後に消えたのも事実だ。不可解なことが多すぎる。
「で、話を聞くだけ聞いて、何も飲まないつもりかい?」
「ああ、悪いな。この後また鉱山に潜るつもりだからな。」
「あっちの嬢ちゃんは出来上がってるようだけどいいのかい?」
は?あっちの嬢ちゃん?
後ろを振り返ると、店の奥で木の板を眺めてにやにやしていた爺と、エリザが仲良く酒を酌み交わしている。ちょっと!何やってんの?
「おい、エリザ?」
「あぁ、カール、このおじいさん面白い人ですよ。色々教えてくれるんです。」
いや、爺が面白いかどうかは置いといて、結構酔ってんじゃねぇか。情報収集にしちゃぁやりすぎじゃねぇか?
「おう、お前さんカールってぇのか?いい名だな。お前もこっちに来て飲め。おい!こっちにグラス一個。それと酒も追加だ!」
ずいぶん気前がいいなぁ、おい。
仕方ねぇ。付き合うか。
爺とエリザはずいぶん親しげに話しこんでいる。エリザも出来上がっているようだ。いつもより随分陽気な雰囲気だ。
「わしはエェンリゥルっちゅうもんじゃ。このあたりで〇◇××▽な□〇×△をちょっとな。」
もう、何言ってるかわからん。ドンだけ飲んだんだ。
「なかなきゃいいぢょうぼうもらえぞうでづよ」
エリザも何言ってるかよくわからん。彼女も酒はいけるくちのはずだが、ここまで乱れてるのは初めて見たな。
「ああ、わかったわかった。で、鉱山のことで何か知ってるのか?爺さん。おうい、女将!こっちに水頼む!」
「ぎょらぁ!ずぅいいざんとはだんだ!ぶえんでぃづとよべ!」
ん~。飲むのは好きだが、酔っぱらいの相手はかなわんなぁ。どうしたもんだか……
「ああ、わかったわかった。ブエンリルだっけ?で、何か知ってんのかい?」
「だんだと!ちゃんと「さん」をつけんか!このデコスケ野郎!」
ああ、酔っぱらいめんどくさい。怒るときだけはっきりしゃべりやがる。もう怒ったまんまでいいんじゃねぇか?
「ばぁばぁ。いいぢゃありまでんか。べんでぃづだん。だっきのはだでぃをでぃであげでぐだだい。」
エリザ大丈夫か?ろれつが全く回ってないぞ。
「まあ、このお嬢さんに免じて、教えてやろう!おい。よく聞け!」
「ハイハイ。悪うございました。で、どんな話です?」
「けっ!まあ、いい。あの山はもともとこの町の守り神を祭った古代の神殿だったんじゃ。」
おい、急な説明口調だな。ずいぶん矍鑠(かくしゃく)としてきたじゃねぇか。さっきの泥酔状態はどこ行った?その後も爺の説明は続く。爺口調ではあるが内容は理路整然としていてわかりやすい。非常に助かる。で、爺の情報はこうだった。
太古の昔、この町を統べる神と、それに仕える民がこの辺りには住んでいた。民の中から代表となる王が立った。王は町の中心に神殿を作り、神に対して忠誠を誓う。その後王が没した後も、その子、孫と代々神を信仰していた。しかし、100年ほどたったある日、大地震とともに、空から多くの岩や火の粉が降り続く。町のほとんどは破壊され岩と灰に埋まってしまった。1000年近い時が流れ、神殿だった場所は小高い山となった。この山は神殿に眠る財宝が溶け出し希少な金属を豊富に含有する豊かな鉱山となった。山から掘り出される希少な金属を求めて多くの人が集まり、やがて町となる。町では鉱山で財を成したものが領主となり、一気に発展し現在に至るそうだ。
なんともはや。君何歳?って話だが、まあ、昔から語り継がれてるおとぎ話か伝承の類なんだろうな。ま、話半分としても、山の中に神殿があったのは間違いなさそうだ。
「この町の領主が代々短命なのは、神殿に祭られている神の呪いだ。神殿の奥には信仰を失い、奈落に落ちた邪神が心が眠っている。」
ほほう。邪神と来ましたか。マンティコアを出したり消したりできるのもうなづけるな。
「その邪心は、人の顔と獅子の体。鷲の翼と、サソリのしっぽを持っている。」
えぇ~と。もう一度聞いていい?
「べんでぃづさんだっけ?もう一回聞いていい?その邪神って、どんな奴?」
「だから!人の顔と獅子の体。鷲の翼と、サソリのしっぽを持っている。マンティコアと呼ばれる魔獣だ!」
ほほう。どうしよう。この話。聞かなかったことにしようか。
「そではあでですで。カールがだお……」
「エリザ!まあ飲め!!」
エリザの口にグラスを持っていき無理やり水を飲ませる。
「いやいや、無礼なお前に比べると、この嬢ちゃんはいい!気に入った!こいつをやろう!」
爺は胸元をごそごそまさぐると、何やらもふもふの丸い塊を取り出した。
テーブルの上に置かれた毛むくじゃらの丸い塊には、二本の角が生えている。結構立派な角だな。と、眺めているともぞもぞと動き出した。エリザも酔ってシバついている目を細めながらその塊を凝視する。
ガサガサ!
「ヌー!」
「それはヌーじゃ。お嬢ちゃんにやろう。」
「ヌー!」
ヌーと呼ばれたその塊は、毛足が長いためよくわからないが、どうやら四つ足の動物らしい。よく見れば角の付近には目と鼻と口らしきものも見える。
「ヌーもお前さんを気に入っているようだ。」
ヌーは飛び上がると、エリザの肩に飛び乗った。上手に角をよけながら毛むくじゃらの顔でエリザの綺麗な顔に頬擦りしている。
「きゃわわわわ~!」
エリザ!どうした?壊れた?
なんだかよくわからんが、エリザに仲間が増えた。
「そうさね。魔獣が出る少し前だと思うんだけど、抗夫たちの羽振りが急によくなったね。」
「なんかあったのか?」
「ああ、なんでも珍しい鉱石が取れ始めたとかなんとか」
「珍しい?なんて鉱石だ?」
「ミスリルだっけ?なんかそんな奴と、あと、オリ……なんたらってやつだったと思うけどね。」
「オリハルコンか?」
「ああ、そうそう。そんなこと言ってたよ。」
ミスリルはSランク冒険者の認識票にも使われる金属だ。銀色でプラチナに似た風合いだが、わずかに魔力を帯びていて鋼をはるかに凌ぐ硬さと粘り強さを併せ持った理想的な金属だ。鍛冶屋としては素材として扱ってみたいが、あいにく希少金属なので、なかなかお目にかかる機会もない。
オリハルコンは金色の金属で、見た目は金に似ているが、強度はミスリルをも凌ぐといわれている。正直俺もお目にかかったことはないが……
「臨時ボーナスが出たらしいよ。でもほんの数日だったね。そのお祭り騒ぎも。」
「魔獣が出て封鎖か。」
「そう。こっちはいい迷惑さ。」
「おうい、酒とグラスをくれ!」
「あいよ。ちょっと待っとくれ。」
女主人はけだるそうに、後ろの客に酒瓶とグラスを持っていく。
「ところで、マンティコアを見たってのは誰が言ってたんだ?」
正直気になるのはこの情報だ。マンティコアに会うまでに、デュラハンやらサイクロプス。ミノタウロスまでいた。Sランクならともかく、普通の抗夫があんなところまで進めるとは思えないし、何よりあのサイズのマンティコアがひょいひょいいろんなところを動き回るとも思えない。実際にいたんだから、誰かが見たのは確かなんだろうが、どうやって見ることができたのかが知りたい。
「どうだったかねぇ。あたしゃまた聞きのまた聞きみたいなもんだからねぇ。」
女主人は定位置に戻ると、また頬杖をついて話し始める。思い出しているというか、上の空といった雰囲気だ。
「この店に出入りしている抗夫は見たことがないって言ってたね。見た奴の話を聞いたって言ってたよ。」
そうか、あんまり確かな情報じゃなさそうだな。だが、実際いたことは確かだし、倒した後に消えたのも事実だ。不可解なことが多すぎる。
「で、話を聞くだけ聞いて、何も飲まないつもりかい?」
「ああ、悪いな。この後また鉱山に潜るつもりだからな。」
「あっちの嬢ちゃんは出来上がってるようだけどいいのかい?」
は?あっちの嬢ちゃん?
後ろを振り返ると、店の奥で木の板を眺めてにやにやしていた爺と、エリザが仲良く酒を酌み交わしている。ちょっと!何やってんの?
「おい、エリザ?」
「あぁ、カール、このおじいさん面白い人ですよ。色々教えてくれるんです。」
いや、爺が面白いかどうかは置いといて、結構酔ってんじゃねぇか。情報収集にしちゃぁやりすぎじゃねぇか?
「おう、お前さんカールってぇのか?いい名だな。お前もこっちに来て飲め。おい!こっちにグラス一個。それと酒も追加だ!」
ずいぶん気前がいいなぁ、おい。
仕方ねぇ。付き合うか。
爺とエリザはずいぶん親しげに話しこんでいる。エリザも出来上がっているようだ。いつもより随分陽気な雰囲気だ。
「わしはエェンリゥルっちゅうもんじゃ。このあたりで〇◇××▽な□〇×△をちょっとな。」
もう、何言ってるかわからん。ドンだけ飲んだんだ。
「なかなきゃいいぢょうぼうもらえぞうでづよ」
エリザも何言ってるかよくわからん。彼女も酒はいけるくちのはずだが、ここまで乱れてるのは初めて見たな。
「ああ、わかったわかった。で、鉱山のことで何か知ってるのか?爺さん。おうい、女将!こっちに水頼む!」
「ぎょらぁ!ずぅいいざんとはだんだ!ぶえんでぃづとよべ!」
ん~。飲むのは好きだが、酔っぱらいの相手はかなわんなぁ。どうしたもんだか……
「ああ、わかったわかった。ブエンリルだっけ?で、何か知ってんのかい?」
「だんだと!ちゃんと「さん」をつけんか!このデコスケ野郎!」
ああ、酔っぱらいめんどくさい。怒るときだけはっきりしゃべりやがる。もう怒ったまんまでいいんじゃねぇか?
「ばぁばぁ。いいぢゃありまでんか。べんでぃづだん。だっきのはだでぃをでぃであげでぐだだい。」
エリザ大丈夫か?ろれつが全く回ってないぞ。
「まあ、このお嬢さんに免じて、教えてやろう!おい。よく聞け!」
「ハイハイ。悪うございました。で、どんな話です?」
「けっ!まあ、いい。あの山はもともとこの町の守り神を祭った古代の神殿だったんじゃ。」
おい、急な説明口調だな。ずいぶん矍鑠(かくしゃく)としてきたじゃねぇか。さっきの泥酔状態はどこ行った?その後も爺の説明は続く。爺口調ではあるが内容は理路整然としていてわかりやすい。非常に助かる。で、爺の情報はこうだった。
太古の昔、この町を統べる神と、それに仕える民がこの辺りには住んでいた。民の中から代表となる王が立った。王は町の中心に神殿を作り、神に対して忠誠を誓う。その後王が没した後も、その子、孫と代々神を信仰していた。しかし、100年ほどたったある日、大地震とともに、空から多くの岩や火の粉が降り続く。町のほとんどは破壊され岩と灰に埋まってしまった。1000年近い時が流れ、神殿だった場所は小高い山となった。この山は神殿に眠る財宝が溶け出し希少な金属を豊富に含有する豊かな鉱山となった。山から掘り出される希少な金属を求めて多くの人が集まり、やがて町となる。町では鉱山で財を成したものが領主となり、一気に発展し現在に至るそうだ。
なんともはや。君何歳?って話だが、まあ、昔から語り継がれてるおとぎ話か伝承の類なんだろうな。ま、話半分としても、山の中に神殿があったのは間違いなさそうだ。
「この町の領主が代々短命なのは、神殿に祭られている神の呪いだ。神殿の奥には信仰を失い、奈落に落ちた邪神が心が眠っている。」
ほほう。邪神と来ましたか。マンティコアを出したり消したりできるのもうなづけるな。
「その邪心は、人の顔と獅子の体。鷲の翼と、サソリのしっぽを持っている。」
えぇ~と。もう一度聞いていい?
「べんでぃづさんだっけ?もう一回聞いていい?その邪神って、どんな奴?」
「だから!人の顔と獅子の体。鷲の翼と、サソリのしっぽを持っている。マンティコアと呼ばれる魔獣だ!」
ほほう。どうしよう。この話。聞かなかったことにしようか。
「そではあでですで。カールがだお……」
「エリザ!まあ飲め!!」
エリザの口にグラスを持っていき無理やり水を飲ませる。
「いやいや、無礼なお前に比べると、この嬢ちゃんはいい!気に入った!こいつをやろう!」
爺は胸元をごそごそまさぐると、何やらもふもふの丸い塊を取り出した。
テーブルの上に置かれた毛むくじゃらの丸い塊には、二本の角が生えている。結構立派な角だな。と、眺めているともぞもぞと動き出した。エリザも酔ってシバついている目を細めながらその塊を凝視する。
ガサガサ!
「ヌー!」
「それはヌーじゃ。お嬢ちゃんにやろう。」
「ヌー!」
ヌーと呼ばれたその塊は、毛足が長いためよくわからないが、どうやら四つ足の動物らしい。よく見れば角の付近には目と鼻と口らしきものも見える。
「ヌーもお前さんを気に入っているようだ。」
ヌーは飛び上がると、エリザの肩に飛び乗った。上手に角をよけながら毛むくじゃらの顔でエリザの綺麗な顔に頬擦りしている。
「きゃわわわわ~!」
エリザ!どうした?壊れた?
なんだかよくわからんが、エリザに仲間が増えた。
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