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第二章『学園と黒竜』

エピローグ『そしてフールは』

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「・・・分が悪いようだ。ここは退散と行こう」

つくもの魔力が増大し、威嚇を始めた頃。
男はそう言って、闇の中へ消えていった。
・・・あれが、襲撃の時の裏ギルドか?
相当な手練だった。
万全でも勝てるかどうか・・・

「大丈夫?フール」

「うん。アダムは?」

「僕は・・・少し大丈夫じゃないかも?」

苦笑しながらそう言う。
僕の足はボロボロになり、所々肉がえぐれている。
・・・・・・相当な無茶をしてしまったようだ。
黒竜へ駆け、攻撃しても大したダメージは入らず、さらに僕の体が削られて行った。
それに、衝撃に体が耐えられていなかったようで、骨も数本折れている。
こればっかりは、精進あるのみだ。

「ふん。貴様らも未熟だな」

「つくも・・・ありがとう。来てくれて」

「ま、まぁ?黒竜の気配も無くなったから終わったかと思ってな?来てやったのだ」

素直じゃない。
フールと顔を合わせ、また笑う。
銀色の髪が少し汚れていた。
・・・帰って、綺麗にしないと・・・

「さぁ、帰ろうか。つくも、頼むよ」

「・・・全く。狐使いが荒いわ」

「疲れたぁ・・・」

そうして戦いは終わった。
黒竜は鱗1枚を残して消滅し、全ては終わった。
僕らは寮へ帰り、2人で並んで倒れ込んだ。

「おやすみ。フール」

「おやすみ。アダム」

つくもはどこかへ行ったようだった。
枕がなくて悲しい・・・

§

あれから少し経ち、ある程度の混乱も収まった。
幸いにも死傷者は最低限に抑えられ、死者は脅威のゼロだった。
さすがギルマス。頼りになる。
そして、フールは皇国へ帰ることになってしまった。
交換留学生だったのだが、交換で皇国に行った生徒がこちらへ戻りたがったらしい。
それにフールも力不足だからって、修行しに戻るらしい。
まぁ、仕方ないよね。

「ちょっと寂しいけど、次は武神祭で会おうね」

「うん!もっと強くなってから、また来るから!」

「達者でな」

「つくもちゃぁぁん!尻尾1本ちょうだああい!」

つくもの尾からビンタを受けつつ幸せそうに頬ずりするフール。
・・・こう言う時、この子はいつも、明るく振る舞う。
僕もそれに、何度も助けられた。
だから僕も、笑顔で見送ろう。
また近い内に会えるさ。
そして、卒業する頃には──
共に、生きていけるように。

「目標は最強。君は僕を、僕は君を守る為」

「うん。アダムとボクで、最強だぜ!」

可愛らしくサムズアップしながら宣言するフール。
僕はそれを笑顔で見つめ、フールはこちらに手を振りながら皇魔騎士団の仲間(見たことある?)に連れられて行った。
・・・はぁ、とうとう購買の弁当かぁ・・・
あの見るだけで活力が漲るようなご飯はもうないのか・・・

「・・・まだ手を振ってるぞ」

「そう言う子なのさ」

さっぱりした別れ方はしない。
かと言ってズルズルとした別れ方もしない。
でも、最後までこちらを見ている。
きっと、あの日。
属性を選んだ日にも──
ずっと、見ていたのだろう。

「・・・ずっと思っていたのだが、貴様はフールの事をどう思っているのだ?」

「?どうって?」

「惚れているのか?」

「もちろん」

「そ、そうか・・・」

あそこまで執拗に迫られ、愛されているのだ。
好かれていない・・・なんて、思えるほど僕は鈍感じゃない。
それに僕は、ずっと前から──

「随分ド直球に聞いてきたね。何?嫉妬?」

「寝言は寝て言え。・・・もしフールのひとりよがりなら・・・と思ってな」

どうするつもりだったのだろうか。
しかし僕は、それを聞かない。
きっと、何もしなかったのだろう。
だけど、聞かずに居られなかった。

「大丈夫さ。僕もフールも・・・ちゃんと分かっててこの関係なんだ」

「・・・貴様は少し、精神的に早熟なのだな」

「そう?子供っぽいってよく言われるけどね」

ふん、と鼻を鳴らすつくも。
ギルマスや副ギルマス、ギルドの職員さんには大体『子供だなぁ』と言われる。
まぁ別に否定はしない。
まだ15だしね。

「して、どうするつもりだ?生徒会へも・・・入るのか?」

「うん。前向きに検討しようかな」

早く魔具欲しいし。
それに、武神祭に行かないと。
絶対にフールは来る。
そう、確信していた。
 
§

つくもちゃんにはアダムを任せたし、ボクはボクで力を付けないと行けない。
今回はまだ、死ぬほどの戦いではなかったから良かったけど、もし、もう少し私が弱ければ、あの時殺せなかったら、2人とも死んでいたかもしれない。
それに、あの男・・・
黒竜を軽く屠れるくらいには、ならないと。
じゃないと・・・
ボクが愛した男を、守れない。

「・・・アダム」

空を眺めながら、その笑顔を思い出す。
うっすらと浮かぶえくぼに、優しげな瞳。
黒く、短い黒髪はいつもサラサラだ。
彼はボクの・・・いや、私の理想。
誰にも奪わせないし、触らせたくもない。
だけど、アダムは強くなると言った。
他ならぬ『私』を守る為に。
その為に、つくもちゃんは必要なのだ。
それにしても・・・私を守るって、そういう事だよね?
勘違いしても、いいんだよね?

「ふふ」

笑みがこぼれる。
揺れる馬車の中で、私は。
少しだけ、幸せに溺れていた。

§

時は少し遡り、黒竜戦の直後。
つくもは、月を背景に闇夜に浮かんでいた。
その尾を300広げ、あらゆる情報を探る。
魔力や聴覚、嗅覚に視覚を強化し、おかしなものが無いかをぐるりと探す。
全てはそう。
敬愛すべき我が主の為。

「(なんて、思ってもないが)」

だが、今日くらいはゆっくり休ませてやろう。
体もボロボロだった。
私の魔力で治したとはいえ、それを前提に動いてる節があるから困る。
今回の後始末は、仕方がないからやってやろう。

「・・・・・・やはり、来たか」

そして、目的の男を見つけた。


「探したぞ、男」

「──・・・あの時ガキを庇った神獣か。しかし、その尾の数・・・まさか──ッ」

すかさず剣を抜く男。
黒いフードに身を隠し、その体内には莫大な魔力を蓄えていた。
それは、我が主の首に届きうる・・・
ここで潰す。
物理的に。

「──な、なんだこれは・・・!結界・・・?」

「99999重の結界だ。貴様ごときには、1枚も破れるような代物ではない」

アダムとの戦いでは、1度だけ使ったきり。
精神世界へ招いた時だけだ。
この結界は、我が主の言う『スキル』とやらと同じだと思う。
しかし、スキルは同時に何千、何万も同時に使える訳では無い、そう言っていた。
だが、私にとってこれは、呼吸と同じ。
呼吸が何千、何万出来ない道理はない。
だからこそ、こんなことも出来る。

「ぐっうううぅ!」

段々と、内側の空間が縮小する。
ゆっくり、ゆーっくりと。
男が左右の壁へ手を付き、押し返そうとするが、無駄な話。
例え奇跡的に1枚割れたとして、その外側の結界は内側の数百倍の強度を持つ。
少し特殊な『呼吸』なのだよ。

「ぐぁ、あああああ──!」

「うるさい」

音を遮断し、声が聞こえなくなる。
男はそこで絶望しながら、押しつぶされる。
今までの罪を、噛み締めながら。
ゆっくり、ゆっくり。
骨ごと、肉ごと、魔力ごと、命ごと。
『魂ごと』潰される。
男の動きが完全に止まるが、その縮小は未だに止まることを知らない。
完全に。
存在も。
魂も。
押し潰す。
次第にそれは小指の先程にまで小さくなり・・・
やがて、完全に消え去った。

「・・・フールの失敗作を食うのはこれを試してからにしよう」

我が主の隣で寝ているであろう『友』を思い浮かべ、私は少し笑った。

「失敗していても、美味いのだがな」

そう言って、狐は主の元へと戻る。
残された『闇』は、恐ろしいほど静寂に包まれていた。
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