上 下
22 / 94
第1巻 1期目 特別会

エクスチェンジ ルーム オブ 議員会館

しおりを挟む
 今日は特別会最終日だ。首相指名選挙以外の議題はほぼ俺にとって興味を引く話題でなく座っているだけの状態だったと言っても過言ではなかった。
 この後、国会は1カ月の休会期間に入るので、俺にとってニート期間を除けば学生時代以来の長期休暇となる。この期間に意欲のある政治家は地元の支持者を巡り票固めや新たな支持者の開拓に努めるのだろうが、俺はどうやって過ごそうか悩んでいた。

 もう次のことは諦めてどこか遠くに旅行でも行こうか・・・

 そんなことを考えていると午前の審議が終わったころ国会の事務局の女性が声をかけてきた。

「古味先生。先日申し込んでいただいた議員会館の件ですが、部屋を確保できたので後で事務室に来ていただけますか」
 あーそうだ。自分に取って無用のものかもしれないがせっかくあるのに使わないのももったいないので申し込んでいたのだった。そのままお昼休みだったので俺は事務局に行った。

「じゃあこれが古味先生の部屋の鍵です」

 事務局の受付の女性から鍵を受け取ると言われた部屋に向かうことにした。俺が事務局を出ると、入れ替わりに渦川俊郎が事務局に入ってきた。俺からの因縁はあるが(現時点では向こうにも因縁があることは知らない)面識はないので、挨拶もせずに素通りしていった。

「ん?今の男は・・・」

 渦川の方もすれ違った相手が古味良一と気づいたようだが、用事があるのでこちらも素通りした。この時、渦川は奇しくも議員会館に関する用事で事務局に来ていたのだ。

「以前も話していましたが私の部屋が上の階過ぎるので、高齢の支持者が来たとき困るんですよ。なんとかなりませんか」
「そうは言っても空きがありませんし」
「今すれ違った若者は何の用事できてたんですか?」
 勘がいいというか、古味良一が議員会館に入館を許されて鍵を受け取っていったことを聞き出したようだ。

「だめだよあんな若造にそんないい部屋を渡しちゃ」
どこの部屋に入館するのかを聞き出すや否や大声でそう叫んで古味の後を追いかけて行った。

 事務局で渦川が自分のことを聞き出したのは知らず議員会館の俺の部屋に入った。今回、俺が自分の部屋と言い渡されたのは1階の玄関近くの部屋だった。別に来客の予定もないのでもっと奥の方でもいいとか、人通りが多くてうるさそうだなと考えていると、乱暴にドアを開けて渦川が入ってきた。

「なんなんです!」

 俺は突然の渦川の乱入に痴漢に叫ぶ女性がごとく渦川に叫んでいた。

「すまない。この部屋と私の部屋を交換してくれ」
 渦川は少し謝りながらも強引に議員会館の部屋の交換を要求してきた。

 この言葉を聞いて、俺は別にどうでもいいと思っていたこの部屋が急に惜しくなった。

 まず、有名な政治家とはいえ自己紹介もなしに人の部屋に入ってきた渦川の態度が許せなかったし、初対面の相手に部屋を交換しろとはどういうことだろう。俺は民自党の議員でもないのだ。

「お断りします」
はっきりと断ると。

「君は国会議員になったばかりでここのことを何も知らないんだな。世間一般の会社と同じで年長者には譲るものだよ」
「同じ選挙で選ばれた国会議員同士に年功序列があるとは知りませんでした」

 ーこれだから無所属の議員は・・・渦川は内心舌打ちしたが、これ以上強引に言っても譲らなそうなので説得を始めることにした。

「それならば聞くが君はこの部屋をどういう目的に使うんだね。聞くところによると無所属の君は別に後援会や支持団体があるわけでもない。来客もないのにこんな玄関に近い部屋は不要だろう」

 図星であったが俺も言い返した。
「不要も何もさっき事務局でこの部屋だって鍵を渡されたんですよ。議員同士で勝手に部屋の交換したりしていいんですか?」

「そういったことは後で私から事務局に話をしておく。とにかく私にはこの部屋が必要なんだ譲ってくれ」
多少のルール違反も自分で正当化する政治家らしいと言えばらしいのだが。。。

 さらに、理不尽な要求をしている自覚のある渦川はここからは懇願モードを織り交ぜてきた。

 まあ、これが同じ会社の中で別部署の部長の要求を突っぱねる平社員になっていたとしたらやっぱりクビだろう。相手は懇願しているわけだし、自分には言われる通りこの部屋にこだわる理由はないし、相手は大臣クラス(今回はどの省庁の大臣になったんだっけ?)の大物だ。シャクに障るがここは譲った方が敵対するよりはましかもしれない。

「じゃあ勝手にこの部屋使ってください」
俺はそう乱暴に言い放ち、鍵を渡すとこの男のいる部屋から出て行った。

 渦川は古味が出ていく様子を見て我ながら今までになく意固地になっていると感じていた。ポケットから煙草を取り出し火をつける。空き部屋に灰皿はなかったが、携帯用の灰皿を持っていた。

 とにかく勝手な言い分だが、古味に譲らせたことから渦川には少し優越感が戻っていた。それは秋屋誠二から受けた屈辱への返答でもあった。

「俺はホームドアはやらないよ。踏み切りだって事故は起こるからね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...