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第1巻 1期目 当選~特別会前日

久し振りに酒を飲みながらニュースをはしご

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 さて、証書を受け取った安堵から一気に疲れが出てきた。
 今日はもう家に帰ろう。

「コンビニで酒でも買って帰るか」

 そう言うと俺は駅から家までの間にあるコンビニロースンで生ハムの盛り合わせとしめ鯖の刺身、レモン味のチューハイを3本買った。
 若い兄ちゃんがバーコードにバーコードリーダーを当てている。
 ふとレジの横にある夕刊ブジに目をやると組閣の予想表が一面に載っていた。
 流石に無所属一期生の俺には関係ない話だが、政治活動をしていく上で、ここに名前の出ている人達との関係は重要になってくるだろう。

 与党に協力するにしろ、野党に協力して論戦を仕掛けていくにしろ・・・。

 丁度レジ打ちが終わったところに夕刊ブジも追加で購入した。レジの兄ちゃんがさっと追加で入力すると合計金額が変わった。最近のレジは取り消さずに追加注文できるらしい。

「俺が学生時代にコンビニの深夜勤務のバイトしていた頃よりレジも大分進化しているねえ」

 店員の兄ちゃんはそれには答えず、つり銭と商品を俺に渡した。

 家に帰って電気を付ける。妹の恵は昨日既に家に帰っていた。
 引っ越しの段ボールが山積みになっている部屋で、テレビはまだ見れる状態にしてある。
 早速テレビを付けて国営放送にチャンネルを変えると7時のニュースの時間だった。
 生真面目そうな男のニュースキャスターと女のアシスタントがトップニュースは総選挙であることを告げる。
 何人かの政治家が選挙事務所で支持者と万歳しながらダルマの目を黒くする映像が流れていく。
 今回はほとんど一人での選挙活動だったが、もしこの先何年も政治家をやっていくことを考えたら選挙事務所を設けることも考えなければなるまい。

 横眼にニュースを見ながら夕食と晩酌をかねた調理に取り掛かった。

 7時のニュースが終わりあまり面白くないバラエティ番組が始まったが飯を食いながらチャンネルはそのままで21時を待った。

 21時からは民放で俺が大のお気に入りにしている討論番組が始まる。
 人気コメンテーターが司会のその番組ではゲストが歯に衣着せぬものいいで激論を交わしていく。
 今回の総選挙についても滅多切りだった。

 ここで女性のゲストが待機児童問題は女性差別だとこの女性のいつもの切り口でしゃべり始めた。
 男も大変なんだよと周りが否定するのもこの番組のパターンで
「候補者達はみんな待機児童問題を公約に掲げていたが果たして解決してくれるのか」
「どうせ無理だろう」
 しまいには司会者に向かって
「あなたが出馬しなさいよ」というふうに議論が進み番組は終わった。

 22時からはチャンネルはそのままでややリベラル側のニュース番組が始まる。
 そのニュースでもトップニュースは総選挙のことで、内閣改造について組閣の予想表を見ながら批判的に番組は進められていった。

 そこにJR京浜東北線が人身事故で運転見合わせをしているというテロップが流れた。
 時間的にラッシュは過ぎているが、残業帰りのサラリーマンには気の毒なことこの上ないだろう。
 番組に関係ないし、キャスターがそれについてコメントはしていないが、俺が取り組もうとしている課題の一つである。

 その次はまたも待機児童の問題だった。
 未解決なのは行政の怠慢にあると実際に待機児童を抱える母親のインタビューを交えながら番組は進んでいく。
 俺は学生の頃はこのニュースをもっとも信頼し、友達の中でも支持している者が多かった。
 だが、社会人になって自分がくたくたになるまで働いていると、このニュースの中で問題提議していることもなかなかどうして他人ごとに思えてくる。
 しかし、政治家となった今の自分にはそれらの意識を払拭し、このニュースで取り上げていることこそ、積極的に取り掛かっていかなければならないと思う。

「若い政治家に頑張っていただきたいですね」

 ニュースキャスターがそう締めてコマーシャルが流れた。
 30歳の俺は国会議員の中では相当若い部類に入るだろう。自分も含めた若手全員に向けた言葉の筈である。

「頑張らなければ」

 次の日が会社のときはここで就寝することも多かったが今日は遠慮などいらない。

 今度は別チャンネルで23時のニュースに突入だ。

 ジャーナリスト一本で来た老齢のキャスターが司会を務める番組で、多少地味目に番組が進んでいくが、中盤に語る論評には定評がある。
 ぶつぶつと続けられる論評に何となくわかった気になったところで、睡魔が襲ってきてテレビを付けたまま深い眠りについた。
 いつしかテレビはザーザーとしたノイズを映すだけになっていた。
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