上 下
84 / 94
第2巻 新革党の選挙戦

渦川俊郎の戦場③コミ ストゥッドゥ アップ アゲイン

しおりを挟む
 選挙終盤に差し掛かる頃、一気に劣勢になった候補者がいた。他でもない古味良一だ。
 古味良一は初日に駅前の演説で水園寺親子と渡り合い、優勢をものにしたかのように見えた。その後も、ヨーツーベでの選挙動画など、得意のインターネットを利用した選挙戦術が功を奏し、新革党の中でも当選にいち早くたどり着くように見えた。しかし、数日するとそんな選挙戦術が裏目に出る。まあ、インターネットで垂れ流すだけの選挙運動などもともと褒められたものでもないが、どうやらそれを逆に利用したものがいるらしい。ある日を境に古味の評判が逆転し、掲示板の中で否定的なコメントが目立つようになっていた。ついにはネットを利用して楽をしているだけの烙印を押され、このままでは当選はおぼつかないかもしれない。
「これはいけない」
 渦川は急遽予定を変更し、夜中であったが茨城県まで車を飛ばすことにした。

 こちらは古味の選挙事務所、俺は事務所の椅子に座りながら、インターネットの評判が芳しくないことに悩んでいた。もともと炎上選挙で勝ったことは何度も言っている通り、俺はネット戦略に自信があった。先日アップした選挙動画も自信作であったし、掲示板のやり取りでも反発を受けないように自分の評判を上げるようにうまく誘導していたと思った。
 しかし、ここ数日、なんというかじわじわと俺の悪口が増えている気がする。特にこたえたのはあまり駅前に姿を現さないという評判だ。先日、水園寺親子とかち合ってから意識して姿を現さなくしたのだが、そのことが裏目に出てしまったらしい。選挙カーであればかち合うことなく周れるのに、選挙カーがパンクしてしまったのが痛手である。パンクの修理はまだなのか。。。
「はーっ」
 選挙期間にも関わらず俺は酒でも飲みたい気分になった。ちょっとぐらいいいかとコンビニに行きそうになったが、下手に深酒して明日二日酔いではそれこそネットの評判通りになってしまう。
「仕方がない。夜風にでもあたるか」
 とりあえず今できるもっとも手っ取り早い気晴らしに向かうことにした。
 
 ガチャ

  しかし、ドアを開けた瞬間、何者かの黒い影が事務所に入ってきた。
「うおっ」
 影の主はなんと渦川である。いやっ滋賀県にいるはずの渦川がここにいるはずがない。
「誰だ」
「渦川だよ」
 意味のわからないやり取りをしばらく繰り返しているうちに俺も冷静さが戻ってきた。

「きょっ今日はどういうご用件で?」
「古味君。君は選挙演説してないようだね」
 ちっそのことが渦川の耳にも入ってしまったか、と校舎裏で煙草をふかしているのを見つかったかのように舌打ちをする。
「君が水園寺親子と何かあってこのような状況になっているのは私もよくわかっている。しかし、そんな子供の喧嘩のようなことになってしまっていいのかい?それで君は今まで支持してくれた人たちに答えたと言えるのだろうか」
「・・・・・」
「君が当選したのは確かにインターネットの影響が大きかっただろう、だが、それからの君の行動は、果たしてインターネットだけのものだったのか?」

 むむむ、俺はまた人前で言い争いになるのが嫌であの親子を避けるようになっていたかもしれない。しかし、それではこの俺を見たい、俺の話を聞きたいという人たちを裏切ることになるのか。国会議員になってから俺は体を張ってきたじゃないか。
「なるほどわかりました」
 渦川は黙って俺の方を見ている
「自分がやってきたのは炎上選挙だけではありません。明日からは体当たりで有権者に訴えてきます」
 渦川は頷く
「それでこそ古味良一だ。それでこそ君を支持する人達や。君の後ろ姿を追いかけようという人たちの期待に答えることができると思うよ」

 俺の後ろを追いかける?そうか俺も今回当選すれば二期目になる。後ろから追ってくる者もいるかもしれない。高野清一を意識した渦川の言葉であったが、古味が彼だとわかるのはもう少し先である。

 俺はよしっと駆け出そうとしたがまだ夜中だぞと渦川に止められこの場は寝ることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ
ファンタジー
自身の暗い性格をコンプレックスに思っていた男が死んで異世界転生してしまう。 転生した先では性別が変わってしまい、いわゆるTS転生を果たして生活することとなった。 せっかく異世界ファンタジーで魔法の才能に溢れた美少女になったのだ。元男は前世では掴めなかった幸せのために奮闘するのであった。 これは前世での後悔を引きずりながらもがんばっていく、TS少女の物語である。 ※この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...