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第2巻 そして解散へ
渦川俊郎の弱点
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「親父に金の無心など学生時代以来だな」
この日、渦川俊郎は久しぶりに父親が経営するホテルを訪ねていた。そのホテルは琵琶湖のほとりに面しているだけあって、ゆっくりと琵琶湖の夜景を楽しみながら眠れることが売りだった。その他、魚介類を使った料理や別料金になるが遊覧船のツアーなどもあり、一泊で琵琶湖を堪能できると言っても過言ではないだろう。実際、利用した客の評判は上々で渦川俊郎の父の経営手腕の表れであったかもしれない。
「社長ですね。少々お待ちください」
受付は父親である社長に連絡して快く通してくれた。社長室は1階フロアの従業員室のさらに奥だ。
「俊郎元気にしていたか」
白髪にしわがよっていて高齢であるのは確かだが、ぴんとした背筋はまだまだ体が壮健であることを伺わせる。
「親父、金だ。金がいる」
「だから言っただろう。政治は金がかかると、でいくら必要なんだ」
政党の現職4人に1000万円ずつ配ってしまった上、集めたその他の公認候補たちへもある程度補助が必要であった。手持ちの金でそこまではどうにかなったが、肝心の自分の選挙資金が心細い状況であった。
「これで最後だぞ」
渦川が民自党を離党したときに苦戦するのは覚悟はしていたのかもしれない。金庫には3000万円の札束が用意されていた。
「恩に着る」
渦川もまた札束を紙袋に入れ、必死の形相でホテルを後にしたのだった。
さて、ここは国土交通大臣室。現在の主は変わらず秋屋だったが、彼は部屋の中でルンルン気分であった。
「渦川の馬鹿が、民自党を出て行ったりして、今頃おけらと閑古鳥の大合唱じゃない♡」
そうは言っても、もちろん渦川の動向の監視に余念はない。秋屋の選挙区は福井県なので滋賀県の渦川と直接戦うことはないが、当然、強力な刺客候補を送るよう民自党幹部には要求している。
「ええーと、刺客ちゃんには誰をよこすのかな?」
秋屋は送られてきた資料の中から渦川の選挙区に出る候補者を確認した。
「福田京子。えっ女?」
参議院からの鞍替え候補者で、当選回数はまだ2回だ。女性の政治家らしく、女性の社会進出に関する政策に積極的であるが、やっぱり執行部よりに発言を控えることが多く、それほど急進的でない。あまり、目立ってメディアに取り上げられるような政治家ではないだろう。
「こんなの当てたって渦川に勝てっこないよ」
どうしてだろう。阿相総理はやはり元味方だった渦川に手心を加えたのだろうか。それじゃあ追い出した俺の立場がないじゃない。
「県連の一部の勢力に渦川に味方する奴までいるみたいじゃないの」
民自党を離党したとは言え、選挙地盤は固かった。民自党内で秋屋にできることはもうなさそうなので、自分の選挙事務所で選挙準備に当たっている秘書に連絡を取ることにした。
「えっ先生。渦川俊郎?それよりもご自分の選挙区のことを考えてくださいよ。こっちもいっぱいいっぱいなんですから」
どうせ、比例名簿の上位に名前のある秋屋は選挙などどうでもよかったのだが秘書は一生懸命らしい。
「支援団体の方がまた何名もいらして秋屋大臣にお会いしたいと。たまには地元の方にも顔を出してください」
「こっちだって、永田町の権力争いを戦ってやっと今の地位にいるんだぞ。渦川叩きだって俺に取っては大事なんだ」
「わかった。わかりました。正直、他の選挙区のことなんか構っている場合じゃないんですけどね。。。こんな情報しかありませんが送っておきます」
しばらくするとFAXで渦川に関する資料が送られてくる。なるほど、自分で政党を立ち上げるだけあって、身辺には気を使っているようだ。流石に政治生命に関わるような金銭トラブルはないらしい。ただ一つ、本人とは直接関係がないが、父親のホテルが地元の漁業組合とホテルの排水絡みで多少のいざこざを抱えているということだ。
「弱点がないのなら見つければいい。それがどんなに小さいものでも」
「ねじこみ」
FAXの紙をまるめ、その穴に指を突っ込む。
「こねくり回し」
指をぐりんぐりん動かす
「引っ掻き回せば」
FAXの紙をびりびりに破り捨てる。
「どんどん傷口は広がって、致命傷にだってなるんだもんねー」
秋屋は大臣室で一人大声を上げてその場でスキップを始めた。
この日、渦川俊郎は久しぶりに父親が経営するホテルを訪ねていた。そのホテルは琵琶湖のほとりに面しているだけあって、ゆっくりと琵琶湖の夜景を楽しみながら眠れることが売りだった。その他、魚介類を使った料理や別料金になるが遊覧船のツアーなどもあり、一泊で琵琶湖を堪能できると言っても過言ではないだろう。実際、利用した客の評判は上々で渦川俊郎の父の経営手腕の表れであったかもしれない。
「社長ですね。少々お待ちください」
受付は父親である社長に連絡して快く通してくれた。社長室は1階フロアの従業員室のさらに奥だ。
「俊郎元気にしていたか」
白髪にしわがよっていて高齢であるのは確かだが、ぴんとした背筋はまだまだ体が壮健であることを伺わせる。
「親父、金だ。金がいる」
「だから言っただろう。政治は金がかかると、でいくら必要なんだ」
政党の現職4人に1000万円ずつ配ってしまった上、集めたその他の公認候補たちへもある程度補助が必要であった。手持ちの金でそこまではどうにかなったが、肝心の自分の選挙資金が心細い状況であった。
「これで最後だぞ」
渦川が民自党を離党したときに苦戦するのは覚悟はしていたのかもしれない。金庫には3000万円の札束が用意されていた。
「恩に着る」
渦川もまた札束を紙袋に入れ、必死の形相でホテルを後にしたのだった。
さて、ここは国土交通大臣室。現在の主は変わらず秋屋だったが、彼は部屋の中でルンルン気分であった。
「渦川の馬鹿が、民自党を出て行ったりして、今頃おけらと閑古鳥の大合唱じゃない♡」
そうは言っても、もちろん渦川の動向の監視に余念はない。秋屋の選挙区は福井県なので滋賀県の渦川と直接戦うことはないが、当然、強力な刺客候補を送るよう民自党幹部には要求している。
「ええーと、刺客ちゃんには誰をよこすのかな?」
秋屋は送られてきた資料の中から渦川の選挙区に出る候補者を確認した。
「福田京子。えっ女?」
参議院からの鞍替え候補者で、当選回数はまだ2回だ。女性の政治家らしく、女性の社会進出に関する政策に積極的であるが、やっぱり執行部よりに発言を控えることが多く、それほど急進的でない。あまり、目立ってメディアに取り上げられるような政治家ではないだろう。
「こんなの当てたって渦川に勝てっこないよ」
どうしてだろう。阿相総理はやはり元味方だった渦川に手心を加えたのだろうか。それじゃあ追い出した俺の立場がないじゃない。
「県連の一部の勢力に渦川に味方する奴までいるみたいじゃないの」
民自党を離党したとは言え、選挙地盤は固かった。民自党内で秋屋にできることはもうなさそうなので、自分の選挙事務所で選挙準備に当たっている秘書に連絡を取ることにした。
「えっ先生。渦川俊郎?それよりもご自分の選挙区のことを考えてくださいよ。こっちもいっぱいいっぱいなんですから」
どうせ、比例名簿の上位に名前のある秋屋は選挙などどうでもよかったのだが秘書は一生懸命らしい。
「支援団体の方がまた何名もいらして秋屋大臣にお会いしたいと。たまには地元の方にも顔を出してください」
「こっちだって、永田町の権力争いを戦ってやっと今の地位にいるんだぞ。渦川叩きだって俺に取っては大事なんだ」
「わかった。わかりました。正直、他の選挙区のことなんか構っている場合じゃないんですけどね。。。こんな情報しかありませんが送っておきます」
しばらくするとFAXで渦川に関する資料が送られてくる。なるほど、自分で政党を立ち上げるだけあって、身辺には気を使っているようだ。流石に政治生命に関わるような金銭トラブルはないらしい。ただ一つ、本人とは直接関係がないが、父親のホテルが地元の漁業組合とホテルの排水絡みで多少のいざこざを抱えているということだ。
「弱点がないのなら見つければいい。それがどんなに小さいものでも」
「ねじこみ」
FAXの紙をまるめ、その穴に指を突っ込む。
「こねくり回し」
指をぐりんぐりん動かす
「引っ掻き回せば」
FAXの紙をびりびりに破り捨てる。
「どんどん傷口は広がって、致命傷にだってなるんだもんねー」
秋屋は大臣室で一人大声を上げてその場でスキップを始めた。
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