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第2巻 そして解散へ

思わぬ助っ人

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 さて、1000万円入った紙袋を引っ提げて議員宿舎の俺の部屋にいる。
 気持ちを落ち着けようと何度か深呼吸をする。
 茨城への選挙区替えはまさかの衝撃だった。最終的には納得したとはいえ、結局、水園寺親子という大物と事を構えることになったのだ。

 しばらく考えた後、まずは親に報告するべきと考えた。以前、親父がこっちに来たとき、解散があったら就職すると言った手前もあるし、妹達にも事情を説明しておいた方がいいだろう。取りあえず、スマホを取り出し家に電話をする。電話に出たのは母さんだった。
「良ちゃん。なんだかいろいろ大変みたいだね。ちょこっとだけどニュースに出ていた時もあったよ」
「そうなんだ。で、また今度の衆議院選挙に出ることになっちゃって、いろいろと説明したいんだけど今日家に帰っていいかな?」
「もちろんかまわないけど、お父さんは夕方まで戻らないよ」
 親父が夕方まで戻らないなら好都合だ。母親と妹を懐柔しておいて、来るべき雷に備えておこうではないか。

 何度も行き来した、東京から千葉への電車に乗る。思えば初当選からこっちに来るときもこうして電車に揺られながらいろいろ考えたな。ホームドアは設置するまではいかなかったが、安藤建設とやらと接触することができたし、今度は渦川は完全に味方だ。もう、国交省とは関係なくなったが、自分一人で動くよりよっぽどいいだろう。

 そうこうしているうちに、窓の風景はどんどん田舎になっていく。何度帰ってきてもやっぱり地元はいいもんだ。家の最寄の駅につきロータリーのところで、紙袋を持ってタクシーを待っていると、向こうの方から誰かが声を掛けてきた。
「古味さん」
 遠いので誰かと思って目を凝らしてみると、ひょんなことから知り合いになった目白さんじゃないか。目白さんは元国会議員秘書で、仕えていた国会議員の人が落選したので議員宿舎の部屋を引き払おうとしていたときに、俺が入れ違いに入って知り合った人だ。前会ったときは、こちらに戻って町長さんの事務所の手伝いをしていたようだ。
「いやあ、古味さん。また今度の選挙も出るそうですね」
 そうなんですよ。と軽く返す。持っている1000万円が入っている紙袋が気になってそわそわしていると、ちょっと異様さを感じたらしい。ここではなんだからと喫茶店で落ち着いて話をしませんかということになった。

「えっ茨城の選挙区へ移動ですか?それは党の指示なんですね」
 俺はこの引退済みのこの老人に、若造ばかりの新革党のこと、いわくがある渦川俊郎党首との関係のこと、目下炎上中であり、対立候補である水園寺幸房のことなどを話をする。ふんふんと聞いていた目白さんだかふと紙袋に目を向ける。
「まさかと思いますが、その中身は実弾ではないですか?」
 実弾とはもちろん拳銃に込める弾のことではなく現金のことである。
「そうなんです。ただ、実は使い道に困っていまして、選挙資金など今まであってなきがごとくでしたから」
 俺がそういうと、はっはっはと目白さんは笑った。
「その様子では茨城の選挙区でどう準備するかなど全く決まっていないご様子ですな。もしよろしければお手伝いしましょうか?」
「えっいいんですか?」
「もちろんです。引退済みの身ですが、これまで経験してきた選挙は数え切れません。不詳の見ながら私が古味さんに事務所の構え方から人集め、選挙運動の仕方まで今まで培ってきた選挙のノウハウを伝授いたしましょう」
 俺自身、前回の選挙が選挙だから、こうして政党から立候補するまともな選挙など、どうやっていいかわからない状態だった。それを百戦錬磨の目白さんが教えてくれるというのならなんと心強いのだろう。
「ただ、そのためには条件があります。まず、私のその紙袋からいくばくか現金を頂きたい。そうすれば、まず人やら車やら最小限のものはご用意して差しあげられます」
 俺はこの場で現金を渡すことに多少不安を感じたが、どうせ渦川にもらった金だし、目白さんはなんとなく信頼できる人だと思う。そう考えると、100万円の札束を取り出して目白さんに渡す。
「結構です。この100万円でまずは戦う準備を始めようではありませんか」
 任せてくださいと言うと目白さんはさっそうと喫茶店を出て行った。
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