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新春特別編

ほんの少し後の物語 - 高橋駿と山田幸子と山田澄子 (1)

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 ――一月某日 午後六時 駿のアパート

 ぴんぽーん

 部屋の呼び鈴が鳴った。

 ガチャガチャ ガチャリ

「さっちゃん、澄子さん、いらっしゃい!」
「駿くん、こんにちは!」
「高橋くん、ご招待ありがとう」

 駿が玄関の扉を開けると、おめかしした幸子と澄子がいた。

 幸子は、白のケーブル編みニットとブラウンのチェックのスカートに、淡いピンクのショート丈のテディベアコートを合わせ、幸子の可愛らしさを強調する派手すぎないキュートな装い。

 そして澄子は、マゼンタカラーのハイネックニットと黒に近いダークブルーのアートフラワー柄のフレアスカートに、黒のロング丈のダッフルコートを合わせ、アダルトな配色でありながらもダッフルコートで元々澄子が持っている可愛らしさが強調されており、幸子と姉妹と言ってもおかしくない仕上がりだ。

「わぁ……さっちゃんも、澄子さんも、超カワイイ……」

 思わずこぼれた駿の本音に、ふたりとも頬を赤らめて嬉しそうだ。
 ちなみに駿は、黒の厚手のパーカーにデニムというカジュアルなスタイルだ。

「あっと、狭いところですが、どうぞ上がってください!」
「お邪魔します!」「お邪魔しますね」

 部屋に上がったふたり。
 幸子は随分と慣れたのか、落ち着いている。
 逆に、澄子はきょろきょろと部屋を見渡して落ち着かない様子だ。

「澄子さん、狭くて驚いたでしょ」

 苦笑いする駿。

「ううん、違うの」
「何か気になるところでも……」

 澄子はチラチラと幸子を見ながら口を開いた。

「あの……男の人のひとり暮らしの部屋、入るの初めてで……」

 顔を真っ赤にして恥ずかしげな澄子。
 駿は、そんな澄子に笑顔を向ける。

「澄子さん、いつでも遊びに来てくださいね」
「お母さん、良かったね! いつでも来ていいって!」

 嬉しそうな幸子。

「高橋くん、さっちゃん、ありがとう……」

 澄子も緊張が解けたのであろう、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 ◇ ◇ ◇

「おふたりとも座っててください。もうすぐ準備が終わりますので」

 キッチンで夕食の準備をしている駿。
 幸子と澄子は、ホットプレートが置いてあるテーブルのところに座った。

「美味しそうな匂いがする……」

 キッチンから漂ってくる美味しそうな匂いをクンクンする幸子。

「高橋くん、何を作ってくれるのかしら? ね、さっちゃん」

 澄子は幸子と微笑みあった。

「はい、お待たせしました!」

 テーブルの上に大きなお皿を置く駿。
 そのお皿の上にたくさん並ぶ――

「――餃子?」
「はい、今夜は餃子パーティという趣向です。おふたりとも餃子はお好きですか?」
「大好きです!」
「私も大好きですよ」

 元気な幸子に、嬉しそうな澄子。
 幸子は、お皿の餃子を覗き込んだ。

「駿くん、餃子の具(餡)の色が違いますよ……?」

 幸子の一言に、駿はニヤッと笑った。

「この餃子、色によって味が違うんだ」
「えーっ!」

 驚く幸子と澄子。

「高橋くん、これ作るの大変だったでしょ……」
「ベースの餡を作っておいて、そこに色々な具を足しましたので、言うほどでもないですよ」
「駿くん、どれが何味なんですか?」

 駿は、またまたニヤッと笑った。

「それは、ヒ・ミ・ツ! ロシアン餃子ということで」

 この趣向をふたりとも良い感じに受け取ってくれた様子。
 ホットプレートも温まったようだ。

「じゃあ、早速焼いていきますね」

 油を引き、餃子を並べていく。

 ジュジュチリチリジュチリパチ

 食欲をそそる音だ。
 ホットプレートの上で美しい模様を作り出した十八個の餃子。
 そこに、やかんからお湯を投入。

 ジュワー

「うわぁーっ!」

 立ち上る湯気に興奮する幸子。
 餃子がお湯に浸かったところで蓋を閉める。

「目の前で焼かれると、結構迫力あるわね」

 澄子の笑みに駿も笑顔で返す。

「焼けるまでこちらをどうぞ」

 スープカップをふたりの前に並べる。
 白菜とネギ、ゴマが入った中華スープだ。

「いただきます!」
「高橋くん、ごめんなさい、お先にいただきますね」

 スープをすするふたり。

「わー……あったまる……」
「生姜風味の中華スープね」
「はい、スープはインスタントなんですが、身体が暖まるように生姜を、香ばしさを出したくてゴマと焦がしネギを合わせてみました。あと隠し味にレモンをほんの少し」
「レモン! さっぱりしている感じがするのはそのせいかしら……ちょっと、高橋くん」
「はい、澄子さん何でしょう?」
「私より美味しい料理、作らないで頂戴!」

 微笑みながらむくれる澄子に、駿と幸子は大笑いした。

 カパッ チリチリチリチリ

「うん、いい感じだな」

 フタを取った駿は頷いた。
 ホットプレートのダイヤルを「保温」に合わせる。

「焼けましたので、どうぞ召し上がってみてください。醤油、お酢、ラー油とありますが、だしつゆ入りのポン酢を作ってみましたので、よろしければどうぞ」

 ふたりとも、駿の手作りだしポン酢を小皿に入れた。

「駿くん、いただきます!」
「高橋くん、いただきますね」
「はい、召し上がれ!」

 ホットプレートの上から餃子をつまむふたり。
 だしポン酢をちょんちょんとつけて、パクリ。

「わっ、鮭の味がする!」

 驚く幸子。

「それは鮭餃子。鮭フレークを入れてあるんだ」
「私のはシソ風味ね。さっぱりしてポン酢と合って美味しい!」
「澄子さんのはシソ餃子ですね。ちょっと大人味」

 ふたりは、二個目をぱくり。

「あ、ぷりっぷりの……これはエビね!」
「澄子さんの海老餃子、エビは少し大きめにカットしてあります」
「わっ、辛い! 麻婆豆腐みたいな味がする……! でも、美味しい!」
「ははは、さっちゃん、四川風の辛口餃子に当たったね!」

 美味しそうに餃子を平らげていく幸子と澄子。

「まだまだ色々な味があるからね! どんどん焼きますよ!」

 餃子パーティは続く。

 ◇ ◇ ◇

 餃子パーティの後、スヴィンチ(任電堂のゲーム機)の「マリアパーティ2」のインターネット対戦で、ジュリア・ココア・キララとその親たちとの対戦で大いに盛り上がった。
 最終的には、子どもそっちのけで親同士が盛り上がる事態に。

「さっちゃん、ウチもスヴィンチ買おう!」

 澄子は、ゲームにハマった。

 ◇ ◇ ◇

 ――午後十一時三十分

 カチャリ

 ユニットバスとキッチンで着替えたふたりが部屋に帰ってきた。
 幸子は淡いピンク色の、澄子は淡い水色の可愛らしいパジャマを着ていた。

「ふたりとも破壊力が……」

 自分の部屋に、パジャマ姿の可愛らしい女性がふたりもいる事実に、ただ照れる駿。
 ちなみに駿は、上下グレーのスウェットのお気楽スタイルだ。

「えーと、あの、おふたりはベッドで寝てください」

 幸子と顔を見合わせる澄子。

「高橋くん」
「はい」
「試しに三人で寝てみましょうか」
「は?」

 澄子はベッドの布団に潜り込んだ。

「私、奥に寝るから……さっちゃんは手前ね」
「うん!」
「い、いや、それは――」
「はい、はい、いいから、いいから」

 澄子に腕を引っ張られ、ふたりの間に寝る駿。

「あら、結構狭いわね……さっちゃん、大丈夫?」
「ベッドから落ちそう……」
「じゃあ、ほら。高橋くん、もっとこっちにいらっしゃい」

 澄子に腕を引っ張られる駿。
 左腕には、思いっきり色々と柔らかなものが当たっている。

「駿くん……ちょっと掴まりますね……」

 幸子は駿の腕にしがみついた。
 右腕には、思いっきり色々と柔らかなものが当たっている。

「うん、これなら寝られるんじゃない?」
「お母さん、大丈夫そうだよ!」

 駿は身動きできず、固まっていた。

「さっちゃん、澄子さん……」
「はい?」
「高橋くん、どうしたの?」
「オレの理性が決壊しそうなので、これはダメです……」

 正直な駿。

「あら、高橋くんの理性が決壊したところ、ちょっと見てみたいわ」
「私もー!」

 駿は、何とも言えない表情になった。

「さっちゃん」
「はい」
「意味分かってないでしょ」
「あー、はい……」

 苦笑いする幸子。

「澄子さん」
「はい?」
「からかってるでしょ」
「はい、うふふふふ」

 澄子は笑っている。

 ガバッと起き上がる駿。

「ふたりとも明日の朝食は抜きです!」
「えー」「えー」

 不満そうな声を上げながらも、ケラケラ笑っている幸子と澄子。
 ベッドから出て、そんなふたりを笑顔で見つめながらため息ひとつ。

(あー……あのまま寝ちゃえば、さっちゃんや澄子さんに抱き締めてもらえたのかなぁ……)

 駿も健全な普通の男の子。
 心の中で思わず本音が漏れた。

 三人の夜は更けていく……

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