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冬休み[クリスマス]

第109話 クリスマスイブ (10)

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 ――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN

 ライブハウスで開催されているクリスマスパーティに参加していた駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、この後、駿の部屋に向かうべく、帰り支度をしていた。

「叔父様、綾さん、今夜はありがとうございました」

 龍司と綾に頭を下げる幸子。

「生演奏を聞きながらの食事、すごくステキでした!」
「料理はどれも美味しくて、あーし感動しちゃいました!」

 ジュリアは、料理を提供している店のチラシを手に何枚も持っていた。

「こんなステキなイブ、生まれて初めてです~」

 四人の反応に、龍司と綾も満面の笑みを浮かべる。

「そうか、そうか! みんなに喜んでもらえて良かった!」
「みんなのテーブル、すごく楽しそうだったわ。駿がちゃんとエスコートしてくれたのね」
「はい! もうこれ以上ないくらいに……ね!」

 キララの言葉に、他の三人も笑顔で大きく頷いた。

「良かったわ。駿、えらいわね」

 駿の頬を笑顔で撫でる綾。

「綾さん、オレもうガキじゃないんだから……」
「ふふふっ、駿くん、照れてる」
「さ、さっちゃん、何言ってんの!」

 その場が笑いに包まれた。

「みんなは、この後どうするの?」
「はい、駿の部屋へ遊びに――」
「わっ、キララ、バカ!」

 あっ、という顔をするキララと、頭を抱える駿。

「駿……」
「あー……隠すつもりは無かったんだけど……」
「駿、何事にも間違いってものが――」
「綾さん」

 割って入った幸子。

「違うんです。私たちがお願いしたんです。駿くんの部屋に行きたいって。イブの夜を男の子の部屋で過ごしてみたいって」
「さっちゃん、駿だって男なのよ?」
「以前、私がひとりで駿くんの部屋に行きたいって言った時、駿くんは『絶対ダメだ』って、怒ってくれました。駿くんはそういう男性です」
「でも……」
「駿くんは、私にとってヒーローなんです。ヒーローは、女の子を泣かすような真似は絶対にしません」

 キララがスッと一歩前に出る。

「さっちゃん、それはちょっと違うわ」
「えっ?」
「私にとってヒーロー、じゃなくて『私たちにとってヒーロー』でしょ?」

 幸子にウインクしたキララ。

「はい!」

 悩む様子を見せる綾。

「わかったわ……駿」
「はい……」
「この子たち、泣かすようなことしたら……わかってるわね?」
「わかってる、絶対にそんなことしない。約束するよ」

 綾は、駿に優しく微笑んだ。

「いやぁ、それにしてもスゲェな、駿! こんな可愛い子ちゃんばっかり集めてよ!」

 駿に絡んでくる龍司。

「うらやましいだろ。オレの自慢の友達だからな」
「くぅ~、実際うらやましいぜ! この後は、性なる夜とか言って5Pを――」

 バインッ

 龍司は、無言で顔面を押さえながらしゃがみ込んだ。
 ひしゃげた銀トレイを持って、駿たちを送り出す綾。

「じゃあね、みんな、気をつけてね。メリークリスマス」
「綾さん、ご馳走様でした。メリークリスマス」

 幸子が頭を下げると、他の三人も頭を下げた。

「駿、みんなを頼むわよ」
「うん、わかった」

 お互いに手を振りながら、厚い扉が閉まっていく。

 ◇ ◇ ◇

「綾……」
「なに、龍司さん」
「駿は、いい男になったな」
「そうね、まだまだ青いところがあるけどね」
「綾がいてくれたおかげだな」

 うつむく綾。

「龍司さんに拾ってもらってなかったら……そして、駿がいなかったら……私はきっと今生きてないわ……」
「…………」
「駿は、私の希望そのもの……あんな素敵なガールフレンドたちも出来て……」
「なんだ、綾、焼いてんのか?」

 ふふふっ、と笑う綾。

「ちょっとだけね」

 龍司は微笑みを浮かべながら、綾の頭を撫でた。

「俺は安心したよ。駿はもう一人前だな」
「龍司さん、寂しいんでしょ?」
「ちょっとだけな」

 笑い合うふたり。

「さて、もうひと頑張りしますか!」
「そうね、この後は酔ったお客さんとか、たくさん来そうだしね」
「綾、洗い物頼むな。俺、料理の補充と接客するから」
「わかった、よろしくね」

 ふたりは、笑顔でパーティ会場へと戻っていった。

 ◇ ◇ ◇

 駿の部屋を目指して、夜の街を歩いている五人。

「ねぇねぇ、駿の部屋でなにしよっか⁉」

 先頭を歩くジュリアが、振り返ってみんなに尋ねた。

「おしゃべり……でしょうか?」
「うん、さっちゃんの言う通り、それくらいだよね……」
「駿の部屋、何にもない~」

 ケタケタ笑っているココア。

「いや、何にもないのは、よく知ってるでしょ……やっぱ、ステージワン(複合大型娯楽施設)行こっか」
「それはイヤ!」

 女性陣は一致団結している様子。

「だって……駿の部屋、行きたいし……」

 拗ねるように言うジュリア。

「う~ん……みんなゲームとかってやる……?」

 駿は、恐る恐る四人に尋ねた。

「うん、あーし、結構遊ぶよ。スヴィンチ(任電堂のポータブルも可能なゲーム機)持ってるし」
「私はスマホでたまで暇つぶしする位かな……でも、一時期スヴィンチの『マリアカート(任電堂の女性キャラクター・マリアが登場するレースゲーム)』にハマってた」
「私もスヴィンチ持ってて~、のんびり遊べる『デミちゃんの村(可愛い獣人や魔物、妖怪と一緒に村を開拓していく育成シミュレーションゲーム)』が好き~。スマホと連動させて、スマホでも遊んでるよ~」
「へぇ~、意外とみんなゲーム遊んでるんだな。さっちゃんはどう?」
「あ……私、ゲームとかほとんど遊んだことなくて……」
「そっか……」
「でも、興味はあります。ココアさんがおっしゃっている『デミちゃんの村』って、CMで見て、可愛いなぁって思ってました」

 ちょっと悩む駿。

「そしたら、みんなでゲーム大会やろうか。ウチにもスヴィンチあるし」
「あーし、賛成!」
「うん、いいよ」
「私、鈍くさいぃ~……」
「私にできるかな……」
「さっちゃんも、ココアも、安心して。そういうの気にせず、みんなで遊べるパーティゲームがあるから。操作もかんたんだから、さっちゃんも、ココアも、楽しめると思うよ!」
「うん、そういうのなら、大丈夫かな~」
「私、やってみたいです!」

 ゲームに前向きなふたりを見て、駿も少しホッとした。

 ジュリアは、いやらしくニヤけている。

「じゃあ、敗者には罰ゲームで……」
「待て、ジュリアの言う罰ゲームって、どんなのだよ」
「えっ……いや、その……」
「どうせ、さっちゃんに何かしようって腹づもりだろ……?」

 明らかに動揺したジュリア。

「そ、そんなわけないじゃない! 駿、ウケるわよ、そのジョーク!」
「んじゃ、シッペとか、デコピンとかでいんじゃね?」

 ジュリアは、さらに動揺する。

「そ、それはダメ! せめて、だ、抱きしめられるとか……」
「さっちゃん、抱きしめたい~」
「まぁ、それ位ならいいんじゃない?」

 三人を見て、ため息をつく駿。

「ダメに決まってるでしょーが」

 ジュリアが反発する。

「えー、何でよ! 駿、横暴!」
「冷静に考えろ。オレも一緒にやるんだぞ?」
「うん、やるねぇ~」

 涼しい顔で首を捻ったココア。

「その罰ゲーム、オレに取っては、勝とうが負けようが、ただただラッキーなだけなんだけど」
「た、確かに……」

 キララは、すぐに気付き、顔を赤くする。
 ちょっと考えているジュリアとココア。

「…………!」

 ジュリアとココアの顔も赤くなっていった。

「どうする、罰ゲームは『抱きしめられる』にすんのか? オレは、ぜひそうしてほしいけどな」

 ニヤニヤする駿に、うなだれるジュリア。

「す、すみません……シッペでお願いします……」
「まったく……ジュリアは亜由美レベルの変態になってきたな」
「あそこまでヒドくないかと……」

 ジュリアは、駿の一言に落ち込んだ。

「駿くん、ありがとうございます」

 ジュリアを横目に、幸子は駿に頭を下げる。

「さっちゃん、ギャル軍団の三人は、オレより危険だから気をつけてね」
「はい……」

 苦笑いした幸子。

「じゃあ、気を取り直して……ウチでゲーム大会、決定ということでOK?」
「おーっ!」

 五人は、楽しげに駿の部屋へと向かっていった。

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