The last war

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韓国 第二次仁川上陸作戦

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ーー「月尾公園」(仁川の西)に上陸してから10時間が経つ。
上陸した際に、東方に我が国の空挺部隊が降りて行くのがみえた。
現在地は仁川中華街。我々は彼らと合流しなくてはならない。

我々海兵隊を輸送してくれた強襲揚陸艦「独島」が敵の攻撃を受け、沈んでいくのを目の当たりにした。
今でも信じたくない。彼らの仇を取らねばならん!


キム下士(軍曹)!!手榴弾!!」

ハッとして回避運動を取る。
部下の一等兵の叫びのおかげで、私の体に破片が突き刺さることはなかった。

仰向けになりながら目を開けると、中華街の建物に挟まれた青空が目に映った。
視界をFA-50軽攻撃機が横切る。
皆、祖国のために戦っているのだ。

起き上がると、丁度北の兵士が見えた。
「敵だ!!」
部下に知らせ、私も遮蔽物に飛び込む。

敵の88式小銃の発砲音が響き渡った。
こちらに銃弾が叩きつけられ、アスファルトの破片が飛び散る。

上等兵!!弾幕を張れ!」
K3(分隊支援火器)を持った部下に指示する。

一定の間隔でリズミカルな牽制射撃が、敵の攻撃を弱めた。
私もK2自動小銃で応戦する。

ACOGを覗き込むと、遮蔽物からはみ出す脚を見つけた。
そこに5.56mm弾を抉り込む。
敵兵は絶叫を上げながら体を曲げ、遮蔽物から顔を出した。
レティクルを彼のはみ出した顔に合わせ…トリガーを引く。
彼の頭は吹き飛んだ。


「金下士!私が前に出て斬り込みます!!」
申一等兵がM7銃剣をK2自動小銃に装着しながら進言してきた。

「わかった。だがその銃剣はに使え。死んでくれるなよ。」

申一等兵は答えずに前進した。
私はため息混じりにK2の弾倉を切り替える。

「私も弾倉変えます!援護を!!」
今度は李上等兵だ。彼の持つK3の弾倉切り替えには少し時間がかかる。
だが、残った敵兵は後3人だ。
対応は難しくない。

その内の2人が同じ遮蔽物に移るのを私は見逃さなかった。
K2の銃身下部に装着しているK201グレネードランチャーを構える。

気の抜ける発射音とは裏腹に、爆発は凶悪だ。
轟音と共に着弾地点付近は吹き飛び、敵兵のが宙を舞った。


残るは後1人…!
と、目を向けるともう終わっていた。
申一等兵が刺突動作を繰り返していた。こちらに気付いて、異常なしのサインを送ってきたのだから思わず苦笑する。
お前に異常ありだ。


「怪我はないんだな?
李天秀イ・チョンス上等兵
申建助ジ・ゴンジョ一等兵。」

部下の状態を確認。先の月尾公園で数人部下を失ったのだ。これ以上は絶対減らせない。

「大丈夫ですよ、金永敏キム・ヨンミン下士!!」

その様だな。本当に元気の良い奴らだ。
「よし。このまま北東を進んで、自由公園に向かう。行くぞ!」


仁川市街は血と死体だらけだった。
北の奇襲を受け、多くの市民が犠牲になったのだ。
あちこちに破壊と略奪の跡が見える。
子供の死体は特に見るのが辛い。
悔しい。悔しい…


大破した62式軽戦車を横目に角を曲がると、『自由公園』が見えた。
街を出たため視界が開け、空が広くなる。

「金下士!あれ…」
李上等兵が指差す方を見ると、敵のMIG-29戦闘機が我が国のF-15K戦闘機を撃墜していた。
敵もまだまだしぶといな。

そう思いながら自由公園に足を踏み入れた途端、戦車のエンジン音が聞こえてきた。

「うちのK1戦車ですかね。」

違う。この音ではない。

「おそらく敵だ…近づいてくる。隠れるぞ!!」


茂みや木の根元、植木に身を隠す。

2、300メートル先に敵のT-72…いや、あの戦車は暴風号ポップンホだ。

北が独自の改修をT-62戦車に施した代物だ。

「みんな、動くなよ。」

このまま通り過ぎてくれれば…
そう思っていだが、なんと不幸なことだろうか。
丁度他の海兵隊員数名が敵戦車の視界に入ろうとしていた。

ここから飛び出せば、彼らを止められるかもしれない。
だが、部下のことを…いや、自分のことを考えると、それはできなかった。

暴風号の主砲が火を吹く。
不幸な海兵隊員たちの目の前に着弾。地面を抉る。
仲間の死骸が宙を舞う。

それを逃れた者も機銃により薙ぎ倒されてしまった。バラバラにされる海兵隊員達。

助けられたかもしれないのに

そう考えると吐き気がする。
だが、私にも守らねばならない者達はいるのだ。
仕方がなかったのだと自分に言い聞かせる。


戦車のキャタピラ音がどんどん大きくなってきた。
今、頭を出したら確実に見つかる。隙間から覗くしかないが、正確な距離は計れない。

耐え切れぬほどの緊張感の中。
突然戦車が停車した。

砲塔が回転する音。
恐る恐る隙間を覗くと、砲塔が少しづつこちらに向きつつあるのを確認する。

まずい、見つかったのか!?

動悸が早くなり、汗が吹き出る。
もう飛び出そうかと思った その瞬間


凄まじい轟音と共に敵戦車の砲塔が吹き飛んだ。車体から火が噴き出す。

「何だ!?」
「何か飛んできて…TOW対戦車ミサイル…?」
予想外の攻撃に驚くも、すぐに攻撃の主が判明した。

韓国陸軍のKUH-1「スリオン」ヘリコプターが飛来してきたのだ。
スリオンは、燃え盛る戦車を確認すると、回頭し南へ飛び去っていった。

なんとも鮮やかな攻撃だった。

なにはともあれ、3人は無事だ。

自由公園内を小走りで駆ける。
「いいか、このまま自由公園を出たら東へ向かう。
そこで空挺部隊と落ち会えれば、この作戦はひとまず成功だ。」

2人が頷く。

まったく良い部下を持ったものだ。
今まで私は下の者と食事に行く事はなかった。だが、この子らとは行きたいものだ。
そうだな。戦争が終わったら。この戦争が終わったら行こう。…


…作戦中に物を考えてしまうのが金の悪い癖だった。

金は、向こうのビルの上で反射する光に気付けなかった。

バズッ

「うああ!」

申一等兵が足を押さえて突っ伏せる。

「狙撃手!!2人とも前方の車の陰に!!」
申一等兵を抱え、力の限り走る。
近くのコンクリートが欠けた。
どうやら2発目は外したようだ。

「ちょっと待ってろ、止血する。」
なんとか車の陰に辿り着いた。
2人で申一等兵に応急処置を施す。

「イッ…」
「頑張れ、耐えろ。」

…痛がる申一等兵には申し訳ないが、止血しなくては。

しかし、どうすれば良い。完璧に身動き出来なくなった。


すると、李上等兵がある事に気付いた。

「金下士。この車…キーが刺さったままです。」

少し外面が傷ついた程度で、かなり良い状態の車だった。
これを使えば、ここを切り抜けられるかもしれない。だが、確実に運転手が狙われるだろう。
おそらく、生きては帰れない。

「…良し。こいつを使おう。」
「では私が運転を…」
李上等兵が名乗り出る。
「ダメだ。」

「私が…どうせ手負いです。両手は使えますよ。」
申一等兵があきらめ口調で言うも

「ダメだ。私が運転する。
この後の動きは先に指示しておいた通りだ。
俺が死んだら李が運転しろ。
良いな?」

「…はい…」

このまま待っていれば助けが来るかもしれない。
車で離脱すれば全員死ぬかもしれない。

だが、なぜかこれが最善に思えた。…


「いいな。行くぞ。」

金が合図し、李上等兵が申一等兵を車の後部座席に乗せ、そのまま2人で倒れこむ。
狙撃手に狙われにくくするためだ。

金は素早く運転席に乗車。
開けたドアの窓ガラスが、銃弾を受け破れるが、金には当たらなかった。

「急げ…いそげ!」

キーを回し、エンジンをかけ、車を出した。

「良し!…グッ…!」

銃弾が腹を掠めた。

「後ろの2人は…大丈夫か!?」
「はい!」

アクセルを思い切り踏む。もしかしたら3人で生きて帰る事が出来るかも知れない。
そんな淡い希望は一瞬で崩れた。

突然車が左へ急カーブしたのだ。

「何だ!?」

一瞬金には何故自分がハンドルを左へ切ったか分からなかった。

急いで右へハンドルを回すと、ハンドルと一緒にぶら下がった左手も付いて来た。
ハンドルを握ったままの左手は、千切れてもそのままだったのだ。

やっと金は自分の片腕を無くした事に気付いた。

叫びたい気持ちを抑える。
頭がグラグラするのを堪え、運転を続けた。



敵の銃撃が届かぬ所まで運転し、李上等兵と運転を交代した。
一応の止血はしたが、自分の事は1番自分が分かっていた。


ずっと涙を流す李上等兵に、何か言ってやりたくて、金は声を振り絞り、

「祖国を頼む」

ただそう言って、
金は助手席に座ったまま、目を閉じた。
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