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8話:日記
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神歴33年4月20日
目を覚ましてから、3日が経った。僕は1週間も眠っていたそうだ。
診てくれた医師は、あの図書館へロクな知識無く踏み入りながらも、生きて帰ってきた事にとても驚いていた。
どうやら僕らは運が良いようだ。
まだ、指先に痺れを感じる。今日はここまでにしておこう。
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神歴33年4月21日
こうして横になり続けていると、否応がなしに昔の事を思い出してしまう。
僕の記憶が正しければ、父は確かに日本帝国の兵士に殺された。シンヤさんは、帝国に恨みは無いのかと聞いてきたが、どうとも言えなかった。
もちろん、殺した張本人を許す事はない。だけど、この共同体、国自体を恨むのはどうも、ピンとこないのだ。
日本帝国に仇なすべく、生きていけば良いのか。いや、違う。でもそうじゃなければ、僕は何故生きているんだ。
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神歴33年4月22日
ここの所、シンヤさんには迷惑を掛けっぱなしだ。何故僕を見捨てなかったのかは分からないけど、どうにも申し訳無く思う。
思わず、自分に生きている価値が有るのか、と聞いてしまった。シンヤさんは、少し難しい顔をして、ある言葉を教えてくれた。
「自分に価値が無いと思う者こそが、真に価値無き者なのだ」、と。
遠い昔、世界が滅びるよりも、もっと前。海の向こう側で、日本と共に戦った国の軍人が残した言葉だそうだ。
「お前が地上で取ってきた物で、今日も命を繋いでいる人がいるだろう。まあ、直に分かるさ。」
その言葉で、少し心が軽くなった。
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神歴33年4月23日
ほとんど元どおり、歩けるようになってきた。解毒も終わり、後は体の衰え、なまりを取るだけだ。
これ以上滞在すると金が足りなくなるので、明日には出ることにした。気合いを入れよう。
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「なるほど、気合い充分ってとこか。」
ニヤニヤと笑いながら、シンヤが問いかける。
ハッとした様子でユウは振り向き、自分の腰に手を当てる。腰の手帳はシンヤが持っていた。
「ちょ、人の日記読むなんて最低ですよ!」
ユウが顔を赤くしながら、手帳に手を伸ばす。
シンヤはカッカッ、と笑い、手帳を返した。
「元気になって良かったよ。諸々の経費はきっちり頂くぞ?」
「図書館に行こうって言ったのはシンヤさんじゃ…」
「それとこれとは別の話だよ。
ところで、次の駅は?」
シンヤが冗談ぽく言ったのと、介抱してもらった恩もあるため、ユウは引き下がり、おとなしく手帳を開いた。
「次は『駒込駅』ですね。もうしばらく、トンネル歩きですよ。」
「あいよ。そろそろ疲れたんじゃないか?向こうの廃電車の中で休もうや。」
気遣ってくれるシンヤに、感謝…しかし同時に申し訳無さを覚えたユウは、断った。
「いえ、まだ「じゃあ俺が疲れたから休むぞ!」
「あっ、はい。」
間髪入れずに言われ、思わず返事をしてしまったユウ。
「おれも年だからな。そろそろ腰が痛いんだよ。」
それを聞き、先程のはあながち嘘では無かったんだな、と思うユウ。
それと同時に、自分の父親が生きていたら、シンヤと同じ位なんだろうと、思いを馳せていた。
廃電車の座席に座り一息ついたユウは、車内を見渡した。ランタンに照らされる車内には、そこらに過去の遺物…記憶が佇んでいた。
地上が炎に包まれた時の物。片目の取れた人形、菓子の絵が描かれた袋、破けた帽子。
東京メトロ統一戦争時の物。車体に空いた弾痕と黒い染み、穴の空いた水筒、ボロボロの弾倉。
ユウはボロボロの弾倉だけを手に取り、バックパックに放り込んだ。
「腰、大丈夫ですか?」
「おお、大丈夫だよ。お前こそ、体に異常は無いな?」
「はい。そういえば、前に堀人族の話をしてましたが、シンヤさんとどんな関係が?」
シンヤは顔をしかめ
「うーん、何というか、過去の因縁ってやつだな。
…今度教えてやるよ。」
視線を明後日の方向に向けながら答えるシンヤ。ユウは変に思ったが、これ以上聞く必要も無いと判断し、廃電車から出る事を提案した。
「そろそろ行きましょう。」
「よーし、行くか。
今日は次の駅に泊まるとしよう。」
2人は再び、薄ら明かりのトンネルを歩き始めた。
駅の明かりが見えてきた。
だが、どうにも様子がおかしい。
2人が歩みを止めた。
「なんだ?やけに静かだな…」
「それに、変な臭いも…鉄…いや、血です!」
だが、気づいたのが遅かった。
『両手を上げてこちらへ歩いてこい!!』
駅の方をよく見ると、いくつか死体が転がっている。
「クッソ最悪だ…」
2人は、駅に向かってゆっくり歩き出した。
神歴33年4月20日
目を覚ましてから、3日が経った。僕は1週間も眠っていたそうだ。
診てくれた医師は、あの図書館へロクな知識無く踏み入りながらも、生きて帰ってきた事にとても驚いていた。
どうやら僕らは運が良いようだ。
まだ、指先に痺れを感じる。今日はここまでにしておこう。
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神歴33年4月21日
こうして横になり続けていると、否応がなしに昔の事を思い出してしまう。
僕の記憶が正しければ、父は確かに日本帝国の兵士に殺された。シンヤさんは、帝国に恨みは無いのかと聞いてきたが、どうとも言えなかった。
もちろん、殺した張本人を許す事はない。だけど、この共同体、国自体を恨むのはどうも、ピンとこないのだ。
日本帝国に仇なすべく、生きていけば良いのか。いや、違う。でもそうじゃなければ、僕は何故生きているんだ。
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神歴33年4月22日
ここの所、シンヤさんには迷惑を掛けっぱなしだ。何故僕を見捨てなかったのかは分からないけど、どうにも申し訳無く思う。
思わず、自分に生きている価値が有るのか、と聞いてしまった。シンヤさんは、少し難しい顔をして、ある言葉を教えてくれた。
「自分に価値が無いと思う者こそが、真に価値無き者なのだ」、と。
遠い昔、世界が滅びるよりも、もっと前。海の向こう側で、日本と共に戦った国の軍人が残した言葉だそうだ。
「お前が地上で取ってきた物で、今日も命を繋いでいる人がいるだろう。まあ、直に分かるさ。」
その言葉で、少し心が軽くなった。
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神歴33年4月23日
ほとんど元どおり、歩けるようになってきた。解毒も終わり、後は体の衰え、なまりを取るだけだ。
これ以上滞在すると金が足りなくなるので、明日には出ることにした。気合いを入れよう。
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「なるほど、気合い充分ってとこか。」
ニヤニヤと笑いながら、シンヤが問いかける。
ハッとした様子でユウは振り向き、自分の腰に手を当てる。腰の手帳はシンヤが持っていた。
「ちょ、人の日記読むなんて最低ですよ!」
ユウが顔を赤くしながら、手帳に手を伸ばす。
シンヤはカッカッ、と笑い、手帳を返した。
「元気になって良かったよ。諸々の経費はきっちり頂くぞ?」
「図書館に行こうって言ったのはシンヤさんじゃ…」
「それとこれとは別の話だよ。
ところで、次の駅は?」
シンヤが冗談ぽく言ったのと、介抱してもらった恩もあるため、ユウは引き下がり、おとなしく手帳を開いた。
「次は『駒込駅』ですね。もうしばらく、トンネル歩きですよ。」
「あいよ。そろそろ疲れたんじゃないか?向こうの廃電車の中で休もうや。」
気遣ってくれるシンヤに、感謝…しかし同時に申し訳無さを覚えたユウは、断った。
「いえ、まだ「じゃあ俺が疲れたから休むぞ!」
「あっ、はい。」
間髪入れずに言われ、思わず返事をしてしまったユウ。
「おれも年だからな。そろそろ腰が痛いんだよ。」
それを聞き、先程のはあながち嘘では無かったんだな、と思うユウ。
それと同時に、自分の父親が生きていたら、シンヤと同じ位なんだろうと、思いを馳せていた。
廃電車の座席に座り一息ついたユウは、車内を見渡した。ランタンに照らされる車内には、そこらに過去の遺物…記憶が佇んでいた。
地上が炎に包まれた時の物。片目の取れた人形、菓子の絵が描かれた袋、破けた帽子。
東京メトロ統一戦争時の物。車体に空いた弾痕と黒い染み、穴の空いた水筒、ボロボロの弾倉。
ユウはボロボロの弾倉だけを手に取り、バックパックに放り込んだ。
「腰、大丈夫ですか?」
「おお、大丈夫だよ。お前こそ、体に異常は無いな?」
「はい。そういえば、前に堀人族の話をしてましたが、シンヤさんとどんな関係が?」
シンヤは顔をしかめ
「うーん、何というか、過去の因縁ってやつだな。
…今度教えてやるよ。」
視線を明後日の方向に向けながら答えるシンヤ。ユウは変に思ったが、これ以上聞く必要も無いと判断し、廃電車から出る事を提案した。
「そろそろ行きましょう。」
「よーし、行くか。
今日は次の駅に泊まるとしよう。」
2人は再び、薄ら明かりのトンネルを歩き始めた。
駅の明かりが見えてきた。
だが、どうにも様子がおかしい。
2人が歩みを止めた。
「なんだ?やけに静かだな…」
「それに、変な臭いも…鉄…いや、血です!」
だが、気づいたのが遅かった。
『両手を上げてこちらへ歩いてこい!!』
駅の方をよく見ると、いくつか死体が転がっている。
「クッソ最悪だ…」
2人は、駅に向かってゆっくり歩き出した。
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