ヒノモトノタビ

イチ

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5話:村の思い出

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「獣蟲に運ばれてきた私にも、恐れずに接してくれた人がいました。その人のおかげで、今があるんです。」

そう言って、ユウは腰に下げている日本刀に手を添えた。

「腰の刀は、その人からもらったのか。」
「はい。
師匠…その人の名は、トシヒデといいました。ずっと『師匠』と呼んでいましたが。
師匠と出会ったのは私が9歳の頃です。」

「ということは、今から9年前。神歴24年か。」

「ええ、当時ツクバ村は南武蔵国(埼玉南部)の領内で、日本帝国と戦争をしていました。」
「ああ、そうかその時期だな!その年には日本帝国が勝利し、南武蔵国は編入されたんだったな。」

「ええ、師匠は戦争を生き抜き、村に帰って来た元軍人でした。
村人たちは、彼の帰還をとても喜んでいました。きっと戦争前から頼りにされてたんでしょう。
だからこそ、驚いてたんでしょうね。
師匠は、村人から嫌厭される私を、引き取ってくれたんです。
3年間1人で過ごしてきた私にとって、これほど嬉しいことは無かったですよ。」

「…そうだよなぁ。
それで、色々ものを教えて貰ったんだな。」

「師匠には多くを学びましたよ。戦い方はもちろん、道具の作り方や薬草、可食獣蟲の判別方法など多岐に渡りました。
本当に…恩師と呼ぶべき人だと、思ってます。」

「そうだな!今はその師匠、どうしてるんだ?」

「私が村を出る頃には、病でもう大分弱っていました。
おそらく…もう」

「お前さんも中々な人生送ってるな。
さあ、それではその師匠に教わった戦い方。再度見せてもらおうか。」

ユウは話すことに夢中で、駅に近づくにつれ大きくなっている銃声を気にしていなかった。

「あれ…この方向。六本木駅じゃないですか?」

「ああ、おそらくな。六本木駅を避ける訳にはいかん。
これだけの荷物を背負ってくのが嫌だしな、隠れて様子を見にいくぞ!」
「はい!」

先ほどまでの暗い話を打ち消す様に、目まぐるしく状況が変わっていく。

◇   ◇   ◇   ◇


いくつかの倒壊した建物内部を、針で縫う様に進み、駅前を覗ける地点まで来た。

狛犬の大群が、駅を襲っていた。

(さっき遭遇した奴らか。)

距離が縮まったのに、銃声が変わらない。
それだけ兵士が殺されたのだ。

「応援が追いついておらん。このままじゃ駅入り口が突破されるぞ。」

「捜索隊を出し渋っていたのはこういう訳だったんですかね。
結局やられてますが。」

「どれ、一丁手伝ってやるか。なんか貰えるかもしれん。」

「…割に合いますかね。」

「策がある。
通常狛犬はそこまで大群で行動しない。
統率し切らんからな。
だが今回のは『親玉』がおる。
そいつさえ殺せれば、連中は引くぞ。
ほら、あの口元の刃が一際長い奴だ!」

シンヤが指を刺した方向に目を向けると、確かに他とは風貌の違う狛犬がいた。

「あれですね。見えました。」

するとユウはある事に気づく。
警備兵の銃撃から『親玉』を、他の狛犬が身を挺して庇っているのだ。

「気づいたか?
お前さんは向こうの建物へ移れ。
そして、俺とお前の射線が直角以上になるよう位置取るんだ。
お前が銃を撃ったらそれが合図だ。」

「…なるほど。
そうすればシンヤさんから見て『親玉』の手前にいる狛犬は庇いに回り、狙い撃ち出来ると。」

「そういう事だ。」

ユウは頷き、建物を出て道路に降り立った。
(向かい側の建物まで行かなきゃ。)
うまく車の陰に隠れながら進む。
時折流れ弾が飛んできて、ユウの近くでアスファルトを弾く。

(当たりたくないなぁ)

などと当たり前のことを考えてしまう。この策が失敗すれば即ち死であるというのに。


うまく向こうの建物まで着いた。
「短マスケット」に火薬と散弾を詰める。これで合図の用意は良い。
素早く武器をMP5に切り替えられるように、手元に置く。

「さあ、やってやる。」

引き金にかける指に、少しづつ少しづつ力を入れ、反動に備える。
(せっかくだから1頭でも殺りたい!)
轟音と共に無数の散弾が狛犬達に食い込む。

「ゴアルルルル」

一斉に『親玉』を守るように陣形を変える狛犬。

(思ったより多いな…!)

素早くMP5に持ち替えようとした時、「親玉」が爆発で体が欠ける有様を目の当たりにした。

シンヤはベネリM3でフラグ弾を撃ったのだ。
着弾と同時に爆発。
今度は『親玉』の頭が吹き飛んだ。

他の狛犬目掛けMP5を連射するユウ。
近づく間を与えず、狛犬の頭に9mm拳銃弾を捻り込む。

とうとう3度の爆発を喰らい、狛犬達は散り散りになって逃げていった。

「やった!」

ユウとシンヤは建物から這い出て、お互いの無事を確認。
2人はガッツポーズを決め
、血と死骸だらけになってしまった駅の入り口に向かって、歩き始めた。…
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