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第五部 晴天帰路

131 謎また謎

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 イロハのために、ホルスの神器に代わるアイテムを作ることにしたのだが、アイテムの材料が足りないことに気付いた。
 
「やっぱり神器と同等か、それ以上の出力を出すなら、核には特級の魔石を使わないとな……」
 
 宝物庫には、それなりの魔石があったのだが、俺の理想には程遠い。
 
「神器には魔石が必要なんですか?」
「心菜」
 
 工房に様子を見に来た心菜が、隣に椅子を運んできて腰かけた。
 
「神器だけじゃなくて、魔法を付与するアイテムには常に必要なんだけどな」
 
 魔石は、魔力を帯びた石のことで、魔法を収納することができる。
 魔物の体内から見つかる他、限られた場所にしか産出しない貴重な石だ。
 上等な魔石ほど、強力な魔法を収納できる。
 余談だが、俺の聖晶神の杖には、クリスタルの俺の欠片が使われている。クリスタルの俺は、特大の魔石が進化したモノだったから、自分の体を神器の材料にすることもできたのだ。ただし、俺の魔力が染み付いているから、俺の神器以外には使えない代物になる。
 
「魔界に行って、取ってくるかなー」
 
 上等な魔石は、魔界の強力な魔物から採れる。
 俺は伸びをして立ち上がった。
 
「待ちたまえ」
  
 いつの間にか現れたホルスが、俺の肩をがしっと掴む。
 
「聞けばジョウガの国マナウは、一刻を争う状態ということではないか。暢気に魔界に行っている場合か」
「う。そうだな。アイテムを作るのは諦めて、現地マナウに飛んで、霧を吹き飛ばす方法を考えるか」
 
 ついアイテム作りに夢中になってしまっていた。
 反省しつつ、他の手段を考えていると、ホルスが言った。
 
「我の神器を貸し出せば済む話だろう」
「!! それじゃタンザナイトが」
「数年程度なら、神器無しでも問題ない。その間にカナメ、君が神器の代わりのアイテムを作るのだろう」
「数年も掛からないよ! ありがとうホルス!」
 
 ホルスは心までイケメンだった。
 ジョウガの奴、素直に打ち明けてれば、もっと早く解決しただろうに。
 
「じゃあイロハに神器を渡して……」
「我の神器を貸し出すのだ。カナメ、君かリーシャンのどちらかが、イロハと一緒に行って神器を見張ってほしい」
 
 ホルスは条件を出した。
 大事な神器を貸し出すのだ。第三者が監視に入るのは、信頼性の面から見て当然だろう。
 だが俺がイロハと行くと、魔界に魔石を取りに行けなくなる。
 
「……リーシャン、頼めるか」
「まっかせて~!」
 
 リーシャンに神器の監視を頼むことにした。
 俺の頭上で尻尾をパタパタ振っている。
 
「む。尻が軽いリーシャンだけは不安だ。ふらふら旅に出かけかねない……そうだ。カナメ、君の連れ合いをリーシャンに付けてくれまいか」
「連れ合いって、心菜か」
「私?」
 
 ホルスは途中で条件を追加し始めた。
 あれ? もしかしてまた心菜と別行動になるのか……?
 
「いいですよ」
「心菜?!」
 
 ごねるかと思った心菜があっさり承諾したので、俺は驚いた。
 
「マナウはご飯が美味しい国だって聞きました! ステーキランチに~ベリーケーキに~」
「そうだよな、お前って色気より食い気だよな……」
 
 飯に負けた、と俺はがっくりした。
 
「暴走ストッパーに、真を付けるか」
 
 まとめると、俺と夜鳥とサナトリスは魔界に行く。
 リーシャンと心菜と真と大地は、神器を持ってジョウガの国マナウに向かう。
 
「魔界に行くのだな、カナメ。気を付けたまえ。魔界の奥には、時の神クロノアの神殿があると聞く」
「クロノアの……分かった」
 
 ホルスは俺の行く先を確認して、忠告をくれた。
 今の時点で過去のクロノアと出くわすのはマズイ。奴の謀略を阻止するために過去に戻ったのに、肝心の本人に察知されたら、未来がどうなるか分からなくなる。
 リーシャンが、てしてしと俺の頭を叩いた。
 
「カナメ、黙示録獣アポカリプスはどうなってるんだろう。そう遠くない内に、魔神ベルゼビュートが封印を解くんだよね?」
「そうか。黙示録獣が、もうすぐ目覚める頃合いだ……!」 
 
 俺はリーシャンを頭から引きずり降ろしながら、過去の記憶を掘り返した。
 
「……確か10年くらい前に、魔界から飛び立った黙示録獣に、クロノアが動きを遅くする魔法を掛けたって、連絡があった……」
 
 黙示録獣は、飛び立ってすぐにアダマスにやって来た訳ではない。
 神聖境界線に入る手前で、クロノアが数年、足止めをしていたのだ。
 
「今思うと、クロノアの奴なんで足止めしてたんだろうな」
 
 黙示録獣の開放も奴の差し金なら、わざわざ破壊を押し留める理由はない。だが、時の神クロノアは人間たちのために、体を張って黙示録獣の侵攻を遅らせた。
 その当時、必死に黙示録獣を止めていたクロノアを、俺も仲間だと信じて疑わなかった。
 
「あと、神聖境界線をすり抜けた理由も謎だ……」
 
 クロノアの妨害を突破した後、黙示録獣は、神聖境界線を壊さずに、まるで壁など無いように、すり抜けた。
 すり抜けた。
 黙示録獣は、神聖境界線を無視した。
 神聖境界線は、黙示録獣を止めなかった。
 人界を守る神聖境界線が、まるで意味を為さなかったのだ。
 ただ、この時に破壊されなかったおかげで神聖境界線は存続し、魔神ベルゼビュートが破るまで、魔族を防ぐ役目をまっとうしていた。
 改めて考えてみると、一連の出来事には謎が多い。
 
「……」
「カナメー。考えても分からないよー。動いて調べに行かないと」
「そうだな」
 
 リーシャンに頭を叩かれて、俺は気持ちを切り替えた。
 
「よし、魔界に行こう」
 
 
 
 
 ホルスから神器を借りられると聞いて、イロハは驚愕していた。
 
「お前はビックリ箱のような人間だな」
 
 まだ俺の正体に気付いていないようだ。
 竜神を頭にのっけて、天空神とタメ口で話す人間がどこにいるんだよ。いい加減、気付いても良さそうなのにな……。
 
「偽装看破された腹いせに、つい勢いで呪いを掛けてしまったが、解いておこう……すまなかった。私はお前を信じることにする」
「どうも」
 
 ステータスから「女神の言封」の文言が消えた。
 自分で解くこともできたのだが、術者本人に解いてもらえるに越したことはない。
 イロハは、出会った時よりも打ち解けた様子で俺を見ている。 
 
 そういえば、彼女に聞きたいことがあった。
 魔界に出掛けるとしばらく会えなくなる。この際、聞きたいことを聞いておこう。
 
「感謝の気持ちがあるなら、教えて欲しい事がある」
「なんだ?」
「スキルレベルを無限にする方法を教えてくれ」
 
 断られるかもしれないと思っていた。
 個人のスキルや、修行方法は、秘密にするのが常識だ。
 だがイロハはあっさり教えてくれた。
 
「対象のスキルをLv.999まで上げ、しかるのちにそのスキルを消去し、もう一度Lv.1から始めるのだ。再度、限界まで上げれば、Lv.1000の代わりに無限が表示される」
 
 スキルを一旦、破棄するだって?!
 苦労してレベル上げしたスキルを手放すのは、相当の覚悟がいる。
 これはよくよく考えないとな。
 
「カナメ、お前ならばいつかは辿り着くであろう。研鑽するがいい」
「……ありがとう」
 
 イロハに礼を言った後、心菜と真に向き直る。
 
「心菜……あんま暴走するなよ」
「枢たんこそ! うっかり世界を滅ぼしたりしないで下さいね」
「俺は魔王かよ……真、心菜を頼む」
「任されません。俺じゃストッパーにはならねーよ。さっさと帰ってこい」
 
 彼女と親友と、いつも通りの会話をした後、ずっと無言の大地を見た。
 
「大地。いざって時は、お前がマナウを救ってくれ」
「?! ……それってどういう」
「信頼してるってことだよ」
 
 俺は、驚いて顔を上げた大地の胸を、片手で軽く叩いた。
 
「魔界には空を飛んで行くのが早いからね、僕の部下を呼んでおいたよ!」
 
 リーシャンが、心菜の肩によじ登りながら、得意そうに胸を張った。
 彼方から黄金色の竜が飛んでくる。
 やけに鱗がキラキラして威厳がある竜だな……。
 金色の竜は軽やかに着地すると、腹這いになって、俺たちに頭を下げる。
 
「私はリュクスと申します。聖晶神さま、どうぞ私の背に乗って下さい」
「……ちなみにリュクスは、僕の国ユークレースの王様なんだ!」
「国王を乗り物にすんなよ?!」
 
 リーシャンの奴、神だからって横暴だぞ。
 俺はサナトリスと夜鳥と一緒に、黄金の竜によじ登る。
 竜が翼を広げて離陸した。
 地上で見上げている仲間たちの姿が小さくなる。
 すぐに戻って来ようと思いながら、俺は視線を空に移した。
 目指すは魔界の奥深く。
 一度は素通りした……災厄の谷が目的地だ。
 
 
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