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第四部 星巡再会

121 侵略者の最期

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 このままでは、密封空間で毒に冒された人々が生きたまま溶けて、阿鼻叫喚の地獄絵図になるぞ。
 承知の上で黒崎に合わせたとは言え、グロいのは見たくない。
 魔法で細工して、中の佐々木さんたちを逃がそうか、と杖を持ち上げたところで、黒崎からストップがかかった。
 
「近藤、あれを見ろ」
「!」 
 
 宇宙船の一部、黒崎の槍が刺さっている部分が、ごっそり滑り落ちる。
 同時に、佐々木の声がした。
 
「……汚染部分を強制分離、空気感染を防ぐために密閉区域を作りました。そして――」
 
 ガシャンガシャンと宇宙船が変形した。
 鋼鉄の腕と足が生え、人型ロボットの形状に。
 
「うお、男のロマン、飛行形態と人型の間で変形する兵器……!」
「感動している場合か、近藤枢!」
 
 俺が見上げている間に、宇宙船ロボットは、内側から結界をこじあけた。
 結界は中からの力に弱いからな。強度を上げるために圧縮コンプレスしたのだが、それでも足りなかったようだ。
 黒崎が舌打ちすると、神器が手元に戻ってくる。
 
「遊びはここまでです。これが何だか分かりますか?」
 
 佐々木の声と共に、宇宙船ロボットは黄色の地に赤い三つ葉マークが描かれたボックスを俺たちに見せてきた。
 
「これは現地住民が降伏を受け入れなかった場合の、最終手段です……」
 
 どこかで見たことのあるマークだな。
 首をかしげていた俺の背中を、夜鳥がどつく。
 
「枢! あれは放射線マークだよ! 核爆弾だ!」
 
 なんだって?!
 大変なものを持ち出してきたな、佐々木さん。
 
「地球生まれの君たちなら、これの危険性をよく知っているでしょう……大人しく」
「ほいほいっと」
 
 俺は杖の先を爆弾に向けた。
 ヒュンと風を切る音と共に、ボックスが消失する。
 
「え……?」
「遠い海に魔法で転送して、圧縮コンプレスで始末したよ。一件落着っと」
 
 絶句する佐々木。
 ちなみに転送先は、海神マナーンと会った海の遺跡の上だ。念のため、転送用の魔法陣を設置しておいたのが役に立った。
 俺は杖を小脇に挟んで、小指で耳をかいた。
 
「佐々木さーん。あのさ、異世界の魔法と比べれば、核なんて遅れてると思うよ? だって魔法は一瞬で物理法則を無視して、世界を問答無用で作り変えるんだから」
 
 黒崎が、神器オエングスを宇宙船ロボットに向けながら言う。
 
「いつでも決着を付けられた。俺も近藤も、手加減をしていただけだ」
「くっ……!」
 
 はじめて、佐々木の声に焦りが混じった。
 
「戦線離脱します! 予備エンジン点火、全力発進――」
「逃がさない」
 
 俺は一瞬で防御魔法をタンザナイト上空に展開した。
 宇宙船ロボットは見えない天井にぶつかって、地面に落ちてくる。
 今が絶好のチャンスだ。
 
「黒崎、今度は俺に合わせてもらうぜ」
「さっさとしろ」
 
 魔法攻撃で一気に宇宙船の外殻を吹き飛ばす。
 
晴天千落雷サウザンドブレイズ!」
黒毒槍ポイズンランス×100」
 
 黒崎がタイミングをあわせて黒毒槍を天空に発生させる。
 俺の起こした雷撃が黒く染まった。
 千の黒雷が地に降る。
 それは、姿勢を立て直そうとした宇宙船ロボットを直撃した。
 白と黒の光が炸裂して目がくらむ。
 爆風と共に、ロボットの手足が胴体から離れ、粉々になって吹き飛んだ。頑丈な胴体にも亀裂が入る。俺の全力を注ぎこみ、黒崎が神器で威力を倍増させた攻撃魔法は、計算通り宇宙船ロボットの膨大なHPを一撃で削りきった。
 最後に、一番丈夫な制御室の残骸が、爆心地のクレーターに残る。
 
「こんな……馬鹿な」
 
 もはや元が何であったか分からない瓦礫の中から、煤に汚れた佐々木さんが、這うように出てきた。
 
「侮っていたのは、私たちの方だったのですね……」
 
 佐々木と部下たちは、消耗しているものの、命に別状はなさそうだ。
 そのことに俺は心密かに安心する。
 
「佐々木さん、あんたには地球に案内してもらう」
 
 俺は厳しい表情を装って、佐々木に歩み寄って杖の先をつきつけた。
 
「近藤くん、君は……」
 
 佐々木は割れた眼鏡の奥から、なぜか眩しそうに俺を見た。
 降参するという言葉が、もう少しで聞ける。
 そう感じたのだが、異変が起きた。
 佐々木と部下の全身スーツの男たちの体が、光の粒子になって分解し始める。
 
「これは……まさか過去が変わったのか」
「佐々木さん?!」
 
 消えていく自分の体を見下ろし、佐々木は何かを納得したように呟いた。
 そして俺の腕をがっしりつかんだ。
 
「近藤くん、未来を変えてください。私たちが異世界を侵略しなくても良い、地球の誰も死ぬことのない未来を、どうか……!」
「どういう意味だ? 佐々木さん!」
 
 頼みます、と俺の腕をつかんで言い、佐々木の姿は光になって消えうせた。
 
「いったい……」
 
 呆然と立ち尽くす俺に、黒崎が声を掛ける。
 
「ダンジョンの最深部へ向かうぞ、近藤枢。その先に答えがある」
「……ああ」
 
 俺は頷くと、仲間を振り返った。
 心菜、真、夜鳥、椿、サナトリス、黒崎の仲間の華美が、俺を見つめ返してくる。
 
「行こう、皆」
 
 嫌な予感の正体は、きっとダンジョンの狭間の扉の向こう側にある。
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