91 / 159
第三部 魔界探索
91 闘技大会の裏事情
しおりを挟む
俺は風呂から上がって着替えながら、静かに待っている魔族の男を観察した。
あのバトル大好きな魔神アグニに仕えている割には、まともそうだ。
しっとり涼しそうな黒髪と翡翠の瞳は女子受けしそうだし、俺の行動に文句を付けずに待つ姿勢からは冷静で理知的な思考が伺える。
ばれるかな、と思いながら鑑定する。
『ソーマ Lv.999 種族: 魔族 クラス: 魔神』
おや、こいつも魔神か。
「……鑑定されましたか?」
ソーマが聞いてきた。
タオルでリーシャンを包んでわしゃわしゃしながら、俺は首肯する。
「悪い。気に障ったか?」
「構いません。魔界では力ある者が絶対……あなたが聖晶神なら、私より格上です」
その上下関係は、俺が魔族でなくても適用されるのか。
それにしても、魔神アグニに仕えているということは、こいつはアグニより格下ということになる。おかしいな。アグニよりソーマの方が強そうだぞ。
「お前も魔神なのに、アグニに仕えてるんだな」
「ああ、アグニがあまり強くないので拍子抜けされましたか? あれは私の不肖の兄です。私は表舞台に立つのは面倒で嫌なので、能力を隠して宮殿でのんびり暮らしているのです」
「なるほど……」
俺はリーシャンを抱えて、テーブルのある客間に移動する。
ソーマが優雅な動作でテーブルに紅茶の入ったティーカップを置く。腰がくびれた耐熱ガラスのティーカップだ。ティーカップには複雑な模様が彫られており、なかなかお洒落である。
「アグニは魔神の中でも、そんな強くはありません。ただ、この灼熱地獄の街イグナイトは彼が作ったと言っても過言ではない。魔神の称号を与えると宣伝し、闘技大会を運用して魔族たちを集め、大金持ちになったのです」
「商売かよ……」
「まさしく。この宮殿も闘技大会で得た利益で建てたものです。しかし近年、街の老朽化が進み、再開発に費用を投じるため、アグニは各方面に借金を作りました。金を稼ぐには闘技大会の決勝戦を催す必要がある。アグニと挑戦者が戦う決勝戦は、一番、多くの観覧者が金を消費するイベントなのです」
こんな異世界のしかも魔界の奥で、金の話になるとは思わなかった。
俺は紅茶を飲みながら遠い目をする。
「それで……決勝戦が催せないと金が稼げないから、奴隷の人間を売り飛ばそうって?」
「その通りです」
「お前が代わりに決勝戦やればいいじゃん。今まで表舞台に立たなかった弟の魔神登場、さぞ盛り上がるだろうよ」
「嫌です。戦いを見世物にするなんて、兄じゃあるまいし。そのくらいなら奴隷を売って埋め合わせします」
「むう……」
顎に手をあてて考え込む。
アグニとソーマの話を聞かなかったことにして立ち去るのが正しい選択だ。
しかし、俺がアグニをやっつけてしまったばかりに、罪のない人間たちが犠牲になるのだとしたら、放っておけない。
かといって魔族の金稼ぎに協力するのは、いかがなものか。
「カナメ……?」
黙考する俺の頭の上によじのぼり、リーシャンがのぞきこんでくる。
俺はリーシャンの尻尾をにぎにぎした。
「ふあっ、くすぐったいよカナメ!」
「決めた。明後日の決勝戦とやらは出てやるよ。一回だけだからな」
ソーマは目を丸くした。
「あなたは光の七神のひとりでは……? てっきり断られるものかと思っていました」
「気が変わったんだよ」
リーシャンが俺の顔を見ながら「カナメの笑顔が黒い……」と呟いている。
だれも俺の企みの内容に気付いていない。今はまだ。
ゆったりティータイムを楽しんだ後、サナトリスと待ち合わせしていたことを思い出した。
ソーマに頼み、彼女を宮殿に連れてきてもらう。
「カナメ殿! ここは魔神アグニの宮殿ではないか! 今度はいったい何をやらかしたのだ?!」
「キュー!」
騎乗用モンスターのメロンが俺に突進してくる。やめろ、抜け毛が服に付くから。
サナトリスは、魔神の宮殿というロケーションに落ち着かない様子だ。
「まあまあ、気にするなよ。ちょっと拳をかわして魔神と仲良くなったんだ」
「まさか……勝ったのかカナメ殿」
「……単体で比べれば、我々魔神よりも光の七神の方が強いですからね。でなければ神聖境界線で一方的に魔界と人間界を分断できません」
俺が答える前に、ソーマが勝手に解説した。
だからそんな設定は知らん。
「さすがだな、カナメ殿。私も闘技大会で修行しようと思う」
「そういえばサナトリス、大会の出場登録は無事にできたのか?」
「ああ」
サナトリスは脳筋的思考で、大会で強者と戦えば強くなると思っている。
なんだよその少年漫画的な考えは。俺はずっとアダマスに引きこもりで、闘技大会なんて出たことないんだぞ。どちらかといえば魔法使い系ジョブの俺には理解できない暑苦しい修行方法だ。
勝手にやってくれ、と思いながらメロンを撫でていると、サナトリスは気になることを言った。
「そういえば今、すごく強い人間のパーティがやってきて、闘技大会を勝ち進んでいるようだぞ」
「何?」
「特に刀を持った人間の少女が凶悪だとか……いったい何者なんだろうな」
「……」
まさかな。
俺は想像したくない現実から目をそらした。
真たちは今、魔界のどの辺にいるのだろうか。
あのバトル大好きな魔神アグニに仕えている割には、まともそうだ。
しっとり涼しそうな黒髪と翡翠の瞳は女子受けしそうだし、俺の行動に文句を付けずに待つ姿勢からは冷静で理知的な思考が伺える。
ばれるかな、と思いながら鑑定する。
『ソーマ Lv.999 種族: 魔族 クラス: 魔神』
おや、こいつも魔神か。
「……鑑定されましたか?」
ソーマが聞いてきた。
タオルでリーシャンを包んでわしゃわしゃしながら、俺は首肯する。
「悪い。気に障ったか?」
「構いません。魔界では力ある者が絶対……あなたが聖晶神なら、私より格上です」
その上下関係は、俺が魔族でなくても適用されるのか。
それにしても、魔神アグニに仕えているということは、こいつはアグニより格下ということになる。おかしいな。アグニよりソーマの方が強そうだぞ。
「お前も魔神なのに、アグニに仕えてるんだな」
「ああ、アグニがあまり強くないので拍子抜けされましたか? あれは私の不肖の兄です。私は表舞台に立つのは面倒で嫌なので、能力を隠して宮殿でのんびり暮らしているのです」
「なるほど……」
俺はリーシャンを抱えて、テーブルのある客間に移動する。
ソーマが優雅な動作でテーブルに紅茶の入ったティーカップを置く。腰がくびれた耐熱ガラスのティーカップだ。ティーカップには複雑な模様が彫られており、なかなかお洒落である。
「アグニは魔神の中でも、そんな強くはありません。ただ、この灼熱地獄の街イグナイトは彼が作ったと言っても過言ではない。魔神の称号を与えると宣伝し、闘技大会を運用して魔族たちを集め、大金持ちになったのです」
「商売かよ……」
「まさしく。この宮殿も闘技大会で得た利益で建てたものです。しかし近年、街の老朽化が進み、再開発に費用を投じるため、アグニは各方面に借金を作りました。金を稼ぐには闘技大会の決勝戦を催す必要がある。アグニと挑戦者が戦う決勝戦は、一番、多くの観覧者が金を消費するイベントなのです」
こんな異世界のしかも魔界の奥で、金の話になるとは思わなかった。
俺は紅茶を飲みながら遠い目をする。
「それで……決勝戦が催せないと金が稼げないから、奴隷の人間を売り飛ばそうって?」
「その通りです」
「お前が代わりに決勝戦やればいいじゃん。今まで表舞台に立たなかった弟の魔神登場、さぞ盛り上がるだろうよ」
「嫌です。戦いを見世物にするなんて、兄じゃあるまいし。そのくらいなら奴隷を売って埋め合わせします」
「むう……」
顎に手をあてて考え込む。
アグニとソーマの話を聞かなかったことにして立ち去るのが正しい選択だ。
しかし、俺がアグニをやっつけてしまったばかりに、罪のない人間たちが犠牲になるのだとしたら、放っておけない。
かといって魔族の金稼ぎに協力するのは、いかがなものか。
「カナメ……?」
黙考する俺の頭の上によじのぼり、リーシャンがのぞきこんでくる。
俺はリーシャンの尻尾をにぎにぎした。
「ふあっ、くすぐったいよカナメ!」
「決めた。明後日の決勝戦とやらは出てやるよ。一回だけだからな」
ソーマは目を丸くした。
「あなたは光の七神のひとりでは……? てっきり断られるものかと思っていました」
「気が変わったんだよ」
リーシャンが俺の顔を見ながら「カナメの笑顔が黒い……」と呟いている。
だれも俺の企みの内容に気付いていない。今はまだ。
ゆったりティータイムを楽しんだ後、サナトリスと待ち合わせしていたことを思い出した。
ソーマに頼み、彼女を宮殿に連れてきてもらう。
「カナメ殿! ここは魔神アグニの宮殿ではないか! 今度はいったい何をやらかしたのだ?!」
「キュー!」
騎乗用モンスターのメロンが俺に突進してくる。やめろ、抜け毛が服に付くから。
サナトリスは、魔神の宮殿というロケーションに落ち着かない様子だ。
「まあまあ、気にするなよ。ちょっと拳をかわして魔神と仲良くなったんだ」
「まさか……勝ったのかカナメ殿」
「……単体で比べれば、我々魔神よりも光の七神の方が強いですからね。でなければ神聖境界線で一方的に魔界と人間界を分断できません」
俺が答える前に、ソーマが勝手に解説した。
だからそんな設定は知らん。
「さすがだな、カナメ殿。私も闘技大会で修行しようと思う」
「そういえばサナトリス、大会の出場登録は無事にできたのか?」
「ああ」
サナトリスは脳筋的思考で、大会で強者と戦えば強くなると思っている。
なんだよその少年漫画的な考えは。俺はずっとアダマスに引きこもりで、闘技大会なんて出たことないんだぞ。どちらかといえば魔法使い系ジョブの俺には理解できない暑苦しい修行方法だ。
勝手にやってくれ、と思いながらメロンを撫でていると、サナトリスは気になることを言った。
「そういえば今、すごく強い人間のパーティがやってきて、闘技大会を勝ち進んでいるようだぞ」
「何?」
「特に刀を持った人間の少女が凶悪だとか……いったい何者なんだろうな」
「……」
まさかな。
俺は想像したくない現実から目をそらした。
真たちは今、魔界のどの辺にいるのだろうか。
0
お気に入りに追加
3,898
あなたにおすすめの小説
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる