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第三部 魔界探索
90 神様は休業中?
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「俺は聖なんちゃらじゃない。人違いだ」
「カナメ……」
頭上でリーシャンが呆れた気配がした。
アグニも戸惑った表情になる。
「俺の鑑定でもハッキリ出ているぞ……?」
向こうの方が鑑定のレベルは上のようだ。
しかし俺はキッパリと言う。
「見間違いじゃないか」
魔界のこんな暑苦しい場所で、少年漫画よろしく決闘する気はないのだ。そういうのは今までに何回もあったので飽きている。
「神なのに、神じゃないと主張する奴は初めて見たぞ。普通は自分から名乗るものなのに……ハッ、もしや病気か何かで本当に自覚がないのか」
俺の回答が腑に落ちないらしく、魔神アグニは悩み始めた。
「しかし竜神と共にいるし、少なくとも無関係なはずは……」
「じゃあな」
「ちょっと待て!」
アグニが悩んでいる間に来た道を戻ろうとした。
だが背を向けようとした瞬間、呼び止められる。
俺は舌打ちした。
「ちっ……何の用だ。俺は忙しいんだよ」
「お前本当に聖晶神か?! ガラが悪いぞ!……まあいい。聖晶神だろうとなかろうと、俺を前に動じない強者であることは確かだ」
どうあっても戦いは避けられないらしい。
俺は諦めて立ち止まる。
アグニは大仰にファイティングポーズを取った。
武器は無い。素手で戦うスタイルのようだ。
「試させてもらうぞ……てやっ!」
踏み込みと共に一瞬で距離を詰め、メリケンサックの付いた拳を叩き付けてくる。
「光盾」
俺は用意しておいた防御魔法を使った。
六角形の光の板が現れ、アグニの攻撃を防ぐ。
激しい火花が散った。
「まだまだあっ! アチョチョチョチョッ!」
アグニは連続で左右の拳を繰り出す。
光盾はびくともしない。
「無駄だよ! 僕ら光の七神の中でも、カナメは最も堅固な盾を持つと言われてるんだ!」
俺の頭上でリーシャンが自慢した。
だからそんな設定知らんっちゅーに。
「ふっ……ならば」
アグニは後ろに大きく跳躍して距離を取った。
「我が全身全霊の攻撃で、その盾を貫いてみせよう……!」
アグニの体から赤いオーラが立ち上る。
ひゅーっと深い呼吸と共にオーラが大きく燃え立ち、アグニの拳に炎が宿った。
「カナメ、ヤバイよヤバイよ」
「お前さっき俺の盾が最強だとか威張ってなかったっけ……?」
リーシャンは俺の背後に隠れた。
やれやれ。
「ゆくぞ……昇炎拳!」
アグニが流星のように突っ込んでくる。
接触の瞬間、自動車が電信柱に激突したような音が鳴った。
俺の前の光盾が凹み、ヒビが入る。
「……」
アグニがニヤリと笑う。
「追加で光盾×2」
俺は冷静に防御魔法を展開し、一枚を壊れそうになっている光盾に重ね、もう一枚は前方右側に浮かせた。
浮かせた方の光盾を遠隔操作して、横からアグニを殴る。
「のおおおおおおおおっっ?!」
アグニは豪快に吹っ飛んだ。
一瞬で姿が消え、地面をえぐりながら隣の家に飛んでいく。
小さな家は老朽化が進んでいたのか、木っ端微塵になった。
思ったより派手な結果に俺は驚いた。
「あれ? 変だな。加減を誤ったかな」
自分の指先を見つめるが、答えが出る訳もなく。
諦めて顔を上げる。
無言でゆっくり十秒数えた。
アグニは起き上がってこない。
「もうダウンか? まさか、そんなはずないよな」
瓦礫に近寄って、アグニが埋もれてるあたりを光盾でスコップした。
「うおおおぅ!」
アグニの体が上に飛んで、まっ逆さまに落ちてくる。
地面に上半身がめり込んだ。
「……」
「カナメの勝ちで良いんじゃない?」
魔神ともあろうものが、こんな簡単でいいんだろうか。
これは何かの罠に違いない。
「……念のため、この辺一帯を更地にしとくか。魔界だし遠慮しなくて良いよな」
全属性を束ねる最強呪文の詠唱を始める。
なぜかリーシャンが「やり過ぎなんじゃ」と頭上で呟いた。
魔法の気配を感じたのか、アグニの下半身がバタバタしはじめる。
「待った! 俺の負けだから! お願いだから止めて!」
復活して、ゾンビのように地面を這いながらアグニが懇願する。
仕方がないので俺は呪文の詠唱を中断した。
風呂付きの宿とは、アグニの宮殿の事だった。
俺をアラブ風の宮殿に案内した後、アグニは消沈した面持ちで去っていった。
「良い湯だな~」
プールのような大浴場を貸し切りだ。
天井付きの半露天からは、赤い花の咲く丘陵が見渡せる。爆発炎上してなければ、非常に美しい光景だ。
俺は久しぶりにゆっくり湯に浸かった。
「気持ちいい~。カナメがお風呂にこだわってた気持ちが、ちょっと分かったよ」
リーシャンが犬かきで泳ぎながら言う。
灼熱地獄という地名から熱帯のような気温を想像していたのだが、実際は少し寒いくらいの気候だった。
しかし、この温水は地下から沸いているのだろうか。
だとしたら地下にはマグマ溜まりがあるということになるが。
「……あなた方が、アグニ様に勝ったという勇者か!」
ぼんやりしていた俺たちの元に、使用人の格好をした男が飛び込んで来た。
「明後日の闘技大会の決勝戦、負傷して寝込んでいるアグニ様の代理で出てもらいたい!」
「はあ?」
男は魔族には珍しく人間の姿をしていた。
黒髪にエメラルドグリーンの瞳、痩せた体格の真面目そうな男性だ。
種族はもしかして竜人なのかなと思いつつ、俺は当然ながら男の要求を断った。
「アグニが回復したら決勝戦すれば良いだろ」
サナトリスはともかく、俺は闘技大会に出るつもりは毛頭ないのだ。
男は俺の返答を聞いて肩を落とした。
「そうか、そうだな。そう言われると思った……決勝戦延期では借金を返せない。奴隷の人間を百人ほど、食肉用に売り飛ばすか……」
「おい」
人間の肉が食用だとか、グロい言葉を聞いて俺は眉をしかめた。
「その話、もっと詳しく聞かせろよ」
「カナメ……」
頭上でリーシャンが呆れた気配がした。
アグニも戸惑った表情になる。
「俺の鑑定でもハッキリ出ているぞ……?」
向こうの方が鑑定のレベルは上のようだ。
しかし俺はキッパリと言う。
「見間違いじゃないか」
魔界のこんな暑苦しい場所で、少年漫画よろしく決闘する気はないのだ。そういうのは今までに何回もあったので飽きている。
「神なのに、神じゃないと主張する奴は初めて見たぞ。普通は自分から名乗るものなのに……ハッ、もしや病気か何かで本当に自覚がないのか」
俺の回答が腑に落ちないらしく、魔神アグニは悩み始めた。
「しかし竜神と共にいるし、少なくとも無関係なはずは……」
「じゃあな」
「ちょっと待て!」
アグニが悩んでいる間に来た道を戻ろうとした。
だが背を向けようとした瞬間、呼び止められる。
俺は舌打ちした。
「ちっ……何の用だ。俺は忙しいんだよ」
「お前本当に聖晶神か?! ガラが悪いぞ!……まあいい。聖晶神だろうとなかろうと、俺を前に動じない強者であることは確かだ」
どうあっても戦いは避けられないらしい。
俺は諦めて立ち止まる。
アグニは大仰にファイティングポーズを取った。
武器は無い。素手で戦うスタイルのようだ。
「試させてもらうぞ……てやっ!」
踏み込みと共に一瞬で距離を詰め、メリケンサックの付いた拳を叩き付けてくる。
「光盾」
俺は用意しておいた防御魔法を使った。
六角形の光の板が現れ、アグニの攻撃を防ぐ。
激しい火花が散った。
「まだまだあっ! アチョチョチョチョッ!」
アグニは連続で左右の拳を繰り出す。
光盾はびくともしない。
「無駄だよ! 僕ら光の七神の中でも、カナメは最も堅固な盾を持つと言われてるんだ!」
俺の頭上でリーシャンが自慢した。
だからそんな設定知らんっちゅーに。
「ふっ……ならば」
アグニは後ろに大きく跳躍して距離を取った。
「我が全身全霊の攻撃で、その盾を貫いてみせよう……!」
アグニの体から赤いオーラが立ち上る。
ひゅーっと深い呼吸と共にオーラが大きく燃え立ち、アグニの拳に炎が宿った。
「カナメ、ヤバイよヤバイよ」
「お前さっき俺の盾が最強だとか威張ってなかったっけ……?」
リーシャンは俺の背後に隠れた。
やれやれ。
「ゆくぞ……昇炎拳!」
アグニが流星のように突っ込んでくる。
接触の瞬間、自動車が電信柱に激突したような音が鳴った。
俺の前の光盾が凹み、ヒビが入る。
「……」
アグニがニヤリと笑う。
「追加で光盾×2」
俺は冷静に防御魔法を展開し、一枚を壊れそうになっている光盾に重ね、もう一枚は前方右側に浮かせた。
浮かせた方の光盾を遠隔操作して、横からアグニを殴る。
「のおおおおおおおおっっ?!」
アグニは豪快に吹っ飛んだ。
一瞬で姿が消え、地面をえぐりながら隣の家に飛んでいく。
小さな家は老朽化が進んでいたのか、木っ端微塵になった。
思ったより派手な結果に俺は驚いた。
「あれ? 変だな。加減を誤ったかな」
自分の指先を見つめるが、答えが出る訳もなく。
諦めて顔を上げる。
無言でゆっくり十秒数えた。
アグニは起き上がってこない。
「もうダウンか? まさか、そんなはずないよな」
瓦礫に近寄って、アグニが埋もれてるあたりを光盾でスコップした。
「うおおおぅ!」
アグニの体が上に飛んで、まっ逆さまに落ちてくる。
地面に上半身がめり込んだ。
「……」
「カナメの勝ちで良いんじゃない?」
魔神ともあろうものが、こんな簡単でいいんだろうか。
これは何かの罠に違いない。
「……念のため、この辺一帯を更地にしとくか。魔界だし遠慮しなくて良いよな」
全属性を束ねる最強呪文の詠唱を始める。
なぜかリーシャンが「やり過ぎなんじゃ」と頭上で呟いた。
魔法の気配を感じたのか、アグニの下半身がバタバタしはじめる。
「待った! 俺の負けだから! お願いだから止めて!」
復活して、ゾンビのように地面を這いながらアグニが懇願する。
仕方がないので俺は呪文の詠唱を中断した。
風呂付きの宿とは、アグニの宮殿の事だった。
俺をアラブ風の宮殿に案内した後、アグニは消沈した面持ちで去っていった。
「良い湯だな~」
プールのような大浴場を貸し切りだ。
天井付きの半露天からは、赤い花の咲く丘陵が見渡せる。爆発炎上してなければ、非常に美しい光景だ。
俺は久しぶりにゆっくり湯に浸かった。
「気持ちいい~。カナメがお風呂にこだわってた気持ちが、ちょっと分かったよ」
リーシャンが犬かきで泳ぎながら言う。
灼熱地獄という地名から熱帯のような気温を想像していたのだが、実際は少し寒いくらいの気候だった。
しかし、この温水は地下から沸いているのだろうか。
だとしたら地下にはマグマ溜まりがあるということになるが。
「……あなた方が、アグニ様に勝ったという勇者か!」
ぼんやりしていた俺たちの元に、使用人の格好をした男が飛び込んで来た。
「明後日の闘技大会の決勝戦、負傷して寝込んでいるアグニ様の代理で出てもらいたい!」
「はあ?」
男は魔族には珍しく人間の姿をしていた。
黒髪にエメラルドグリーンの瞳、痩せた体格の真面目そうな男性だ。
種族はもしかして竜人なのかなと思いつつ、俺は当然ながら男の要求を断った。
「アグニが回復したら決勝戦すれば良いだろ」
サナトリスはともかく、俺は闘技大会に出るつもりは毛頭ないのだ。
男は俺の返答を聞いて肩を落とした。
「そうか、そうだな。そう言われると思った……決勝戦延期では借金を返せない。奴隷の人間を百人ほど、食肉用に売り飛ばすか……」
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