上 下
88 / 159
第三部 魔界探索

88 灼熱地獄《バーンヒル》

しおりを挟む
 災厄の谷の出口で、ようやくリーシャンが追い付いてきた。
 
「待ってよカナメ! 置いていくなんて酷いよ!」
「んなこと言ったって、空を飛ぶお前を探すのは難しいだろ」
 
 リーシャンにしても、地下に落ちた俺たちの居場所を知ることは困難だ。結局、外の見晴らしの良い場所に出て合流できたのだ。
 
「次はどこ行くのー?」
「灼熱地獄」
 
 小さい姿に変身したリーシャンが、頭に乗っかってくる。
 
「へえ、暑苦しそうな地名だね! どちらの方角に進めば着くの?」
「んー……」
 
 俺は手のひらを顔の前にかざして、周囲の景色を観察した。
 サナトリスは荷物から小型のコンパスらしきものを取り出し、方位を確認している。
 背後には黒々とした峡谷――災厄の谷がある。
 今いる場所の周辺は、大小の地割れが無数にあった。まるで巨大な獣が大地をかきむしった跡のようだ。亀の言っていた話が本当なら、この地割れは災厄魔が暴れた跡なのかもしれない。
 右手の方角は、黒いトゲトゲが大地に無数に生えている。
 
「北東には魔神ベルゼビュートが治める、死風荒野ブラックヒースがある」
「そっちはパスだな」
 
 俺の視線を追うように、サナトリスが腕を上げて指さし、説明してくれる。
 魔神ベルゼビュートって黒崎だろ。
 あいつは喧嘩を売ってくるから会いたくない。
 
「向かって左、西が賽河原アケロンだ。その向こうに蒼雪峰ブルースノーがある。ここからは遠すぎて良く見えないが、常冬の白い山だそうだ。北に進めば、私たちの目指す灼熱地獄バーンヒルがある」
「じゃあ真っ直ぐ進もう」
「キュー!」 
 
 すっかり騎乗用モンスターになってしまったメロンは、俺が手綱を引くと嬉々として走り出した。
 速度は自転車より速いくらいで、自動車ほどではない。
 だが、舗装された道がない異世界の獣道では十分なスピードと言えよう。
 
 こうして、俺たちは北に向かって進んだ。
 北に進むと途中に森があって、そこで夜になったので一泊した。
 目指す灼熱地獄への距離をうっかり気にしてなかったが、サナトリスも実は知らないらしい。蜥蜴族の里から外に出たことが無かったから、地図と伝承でしか他の地域の事を知らないと言っていた。
 結局、灼熱地獄へは二日掛かった。
 
「魔界にも、花が咲いてるんだな」
 
 森を抜けると一面の野原と低木が繁っている。
 真っ赤なヒナゲシのような花が、あちこちに咲いていた。
 俺は休憩がてら、気になって花に手を伸ばした。
 
「カナメ殿、その花は……」
「何? うわっ」
 
 いきなり花が爆発炎上した。
 自動防御オートシールドがあるから平気だったけれども。
 
「なんて危険な花なんだ……」
 
 燃え尽きてもチロチロ火を灯している植物。
 見回すと赤い花はそこかしこに生えている。
 間違えて踏んだら火だるまになるんじゃなかろうか。
 
「灼熱地獄の花は、少しの衝撃で炎上するらしい。赤火花フレアリリィという花だ。これが咲いているということは、もう灼熱地獄に来ているということだな」
 
 サナトリスが、傷ひとつない俺の手を呆れたように見ながら、解説した。
 
「ふーん。あっちに舗装された道が見えるから、行ってみようか」
「道ということは、誰かと行き合う可能性がある。カナメ殿は人間に見えるから、変装された方が良いと思うが」
「ふむ……」
 
 ここ数日、サナトリス以外の魔族と会ってないから失念していたが、ここは魔界なのだった。魔界では人間の扱いが酷いと聞く。
 それこそ出会った当初のサナトリスのように、いきなり襲いかかられる可能性もあるだろう。
 無用な争いを避けるなら、変装すべきか……?
 
「変装するとしたら、何の種族が良いと思う?」
「そうだな。私と同じ蜥蜴族でも良いと思うが……頭に乗っているリーシャン殿に合わせて竜人でも良いかもしれないな。竜人はレベルの高い者ほど人間に近い姿を取る。そのままの格好でもステータスさえ偽装すれば、間違われないだろう」
「それいいな」
 
 俺はステータスの種族の欄を「魔族」に、クラスを「竜使い」、レベルは魔界標準のLv.500に偽装することにした。
 ついでにリーシャンのステータスも、普通の「白竜」に見えるように偽装する。
 
「ステータスの種族の項目って、一律、魔族なのかよ。蜥蜴族とか竜人とか……」
「魔族同士の鑑定なら、種族は厳密に表示されるぞ。人間には見えないと聞いた事がある」
「ほー」
 
 種族によって見えるステータスに差違があるのか。
 俺の全域マップを見る裏技も、リーシャンや真たちは試しても出来ないみたいだったな。
 
「ねーカナメカナメ!」
「名前を連呼するなよ、リーシャン。いったい何なんだ?」
「あそこの一団って、人間を奴隷にしようとしてるんじゃない?!」
 
 リーシャンが興奮して尻尾を俺の後頭部に打ち付けた。
 だから頭の上で暴れるのは止めろって。 
 道の先に魔族の一団が見える。
 どうやらリーシャンの言う通り、人間を十数人、鎖につないで連行しているところだった。
 
「魔界では、人間の里は管理されて、成長したら食材か奴隷にするため、ああやって連れ出されるんだ」
 
 サナトリスは平然としている。
 魔界では日常茶飯事ということか。
 
「助けようよカナメ!」
「止めろ」
 
 張り切って目からビームを放とうとするリーシャンを、尻尾をつかんで止める。
 
「どうして止めるの?! カナメは身も心も魔界に染まりきっちゃったの? 僕たち人間を守護する光の七神じゃないか!」
「そんな中二っぽい設定を受け入れた覚えはない」
 
 だって石ころだから「違う」と言えなかったんだぜ。
 自分から名乗ったこともないのに、いつの間にか光の七神に連盟させられていた。俺は調印した覚えもないのに。
 
「リーシャンお前の言う通り、俺はやさぐれて神様は休業中なんだよ。こんな魔界のくんだりで 人助けするつもりはない」
「そんな……?!」
「それよりも、あの奴隷商人っぽい魔族と仲良くなって、情報を聞き出そうぜ」
「カナメが……僕のカナメが真っ黒になっちゃった……」
 
 さめざめと泣くリーシャンの首根っこをつかみ、余計な事をしないように押さえ付けながら、俺は足早になって奴隷商人に追い付いた。
 
「おーい、すみませーん」 
 
 奴隷商人と思われる、トサカ頭の魔族が不思議そうに振り向く。
 
「これはこれは、竜人様じゃないですか。これから灼熱地獄に挑戦しにいかれるんですか?」
「実はそうなんです。道に迷ったんで、一緒に付いて行っても?」
「構いませんとも」
 
 トサカ頭はニコニコ笑いながら、鎖につないだ人間の青年を蹴って、荷台に放り込んだ。荷台から悲鳴とすすり泣く声が聞こえる。
 このトサカ頭、情報入手した後は刻んで油でカラッと揚げてチキンにしても良いよな?
 
しおりを挟む
感想 396

あなたにおすすめの小説

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...