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第三部 魔界探索
77 蜥蜴族の里
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「お前、ステータスを偽装しているな。私に見抜けないほど高度な偽装……人間ではないな?」
「俺は人間だけど」
自分の槍を奪われて、逆に追い詰められているのにも関わらず、サナトリスは冷静だった。冷静に見える。俺は、小刻みに震える彼女の拳を見ない振りをした。
「ありえない。無詠唱でこの私を押さえ付ける魔法を放つなど、最低でもLv.500以上だ。たかだか百年そこらの人間の寿命では、到達できないレベルだぞ」
サナトリスの分析は正解だが、この体は地球のものなので、やっぱり種族的には人間なんだろうな。
しかし、彼女にそれを丁寧に説明してやる義理はない。
「案内してくれるのか、してくれないのか?」
「待て!」
槍の穂先をちょっとひねると、サナトリスの首筋から僅かに血が流れる。俺の本気を感じたのか、サナトリスは慌てて制止をかけた。
「分かった、人間だと言い張るなら、それでもいい。お前が卓越した魔法の使い手なら、ぜひ我が里に来て欲しい。地図も見せるし、必要なら魔界の外に案内するとも!」
「ほーう」
話の風向きが変わってきた。
彼女に戦意がなくなったので、俺は槍をひいて、持ち主に返した。行儀悪く踏んづけていた、トカゲのモンスターから降りる。トカゲは「ギュル」と情けない鳴き声を出した。
「里って、蜥蜴族の里か?」
「そうだ。私たち蜥蜴族は強い者が好きだ。歓迎するよ……名前は、なんと呼べばいい?」
「カナメ」
「そうか、カナメ殿、砂走りに乗ってくれ」
サナトリスが指笛を吹くと、砂の中からトカゲもどきが、もう一匹現れた。
この砂漠では、トカゲもどきが馬のような乗り物になっているようだ。砂走りというのか。
おっかなびっくり砂走りに乗ってみる。
砂走りは、俺を乗せてゆっくり動き出した。砂の上を軽快に走っていく。走る軌跡に沿って、スノーボードで雪を蹴散らしたように白い砂が飛び散った。
砂嵐を抜けると、オアシスがあった。
周囲は砂嵐で灰色になっているのに、オアシスだけ晴れて青空が見えている。
木々の間には大小さまざまなテントが張られ、子供がトカゲを追いかけている。
平和な光景だなー。
しかし注意深く観察すると、テントの出入り口付近、ナチュラルに人骨が飾られていた。さすが魔族の里……。
サナトリスは俺を一番大きなテントに案内する。
「蜥蜴族の里にようこそ。食事を用意させよう」
「人肉じゃないよな?」
「キョウボウサボテンの肉だが」
「ちょっと待てサボテンは植物だろ!」
この砂漠のサボテンは動くらしい。
白いサボテン肉は鶏肉の味がした。
「あれは……」
食べながら周囲を見回すと、テントの壁にかけられたタペストリーが目に入った。
タペストリーは深い青色で、白い波線が幾重にも描かれている。
「ああ。この砂漠は昔、海の底だったらしい。その伝承にもとづく絵柄だな」
俺の視線の先に気付いたサナトリスが解説する。
「海の底か。それで……」
砂漠に来る直前、海底遺跡にいた。
海つながりで縁があって転移してきたとうことか。
「そしてこれが魔界の地図だ。我が里は魔界の一番奥まった場所にあり、人間の住む地方に出ようとすれば、その前に災厄の谷を越えなければならない」
「災厄の谷?」
サナトリスは床に巻物を広げた。
動物の皮で出来た紙に、手描きの地図が記されている。紙の黄ばみ具合からして、相当古そうだ。
地図の中央には黒い墨で山脈が描かれており、災厄の谷と記されていた。
「災厄の谷には、Lv.1000以上のモンスター、災厄魔がウヨウヨしている」
「Lv.1000以上?! 神のレベル上限だって999だろ。そんな高レベルのモンスターがいるなんて」
「世界の始まりを知っているか? 何も無いこの世界に、命の種を持った異世界の神やモンスターが転移してきた。世界創世、原初の時代の話だ。災厄の谷は、原初の時代に異世界からやってきたモンスターが残っている、世界で唯一の場所……Lv.999の実力者でも、谷を越えるのは苦労するだろう」
はあー、すごいなそれは。勉強になるわ。
感心していた俺は、ある事に気付いた。
「ん? そんな危険な地域のさらに奥にある砂漠に、俺みたいな人間が訪れることなんてあるのか?」
「竜巻の中に棲む雲竜というモンスターが、たまに人間をくわえてきて、空から砂漠に落とすのだよ」
それで人間がたまのご馳走な訳か。
謎は全て解けた。
俺は腕組みして、地図に記された災厄の谷の文字をにらむ。
サナトリスの話が本当なら、ちょっと厄介な場所だ。
俺が困っていることを察したのか、サナトリスはある提案をしてきた。
「……一ヶ月後にくる霰季は、空から氷のつぶてが降ってくる季節だ。災厄魔も霰季は地面に潜ってじっとしている。カナメ殿が防御の魔法に秀でているなら、氷のつぶてを魔法で防ぎながら、安全に災厄の谷を渡ることが出来るだろう」
「一ヶ月後まで待てってことか」
「その間の衣食住は、私が保証しよう。代金を払えとは言わないが、カナメ殿さえ良ければ、里の子供たちに魔法を教えてやってくれないか」
思わぬ依頼に、俺は驚いた。
魔族の子供に魔法を教えるだって?
「俺は人間だけど」
自分の槍を奪われて、逆に追い詰められているのにも関わらず、サナトリスは冷静だった。冷静に見える。俺は、小刻みに震える彼女の拳を見ない振りをした。
「ありえない。無詠唱でこの私を押さえ付ける魔法を放つなど、最低でもLv.500以上だ。たかだか百年そこらの人間の寿命では、到達できないレベルだぞ」
サナトリスの分析は正解だが、この体は地球のものなので、やっぱり種族的には人間なんだろうな。
しかし、彼女にそれを丁寧に説明してやる義理はない。
「案内してくれるのか、してくれないのか?」
「待て!」
槍の穂先をちょっとひねると、サナトリスの首筋から僅かに血が流れる。俺の本気を感じたのか、サナトリスは慌てて制止をかけた。
「分かった、人間だと言い張るなら、それでもいい。お前が卓越した魔法の使い手なら、ぜひ我が里に来て欲しい。地図も見せるし、必要なら魔界の外に案内するとも!」
「ほーう」
話の風向きが変わってきた。
彼女に戦意がなくなったので、俺は槍をひいて、持ち主に返した。行儀悪く踏んづけていた、トカゲのモンスターから降りる。トカゲは「ギュル」と情けない鳴き声を出した。
「里って、蜥蜴族の里か?」
「そうだ。私たち蜥蜴族は強い者が好きだ。歓迎するよ……名前は、なんと呼べばいい?」
「カナメ」
「そうか、カナメ殿、砂走りに乗ってくれ」
サナトリスが指笛を吹くと、砂の中からトカゲもどきが、もう一匹現れた。
この砂漠では、トカゲもどきが馬のような乗り物になっているようだ。砂走りというのか。
おっかなびっくり砂走りに乗ってみる。
砂走りは、俺を乗せてゆっくり動き出した。砂の上を軽快に走っていく。走る軌跡に沿って、スノーボードで雪を蹴散らしたように白い砂が飛び散った。
砂嵐を抜けると、オアシスがあった。
周囲は砂嵐で灰色になっているのに、オアシスだけ晴れて青空が見えている。
木々の間には大小さまざまなテントが張られ、子供がトカゲを追いかけている。
平和な光景だなー。
しかし注意深く観察すると、テントの出入り口付近、ナチュラルに人骨が飾られていた。さすが魔族の里……。
サナトリスは俺を一番大きなテントに案内する。
「蜥蜴族の里にようこそ。食事を用意させよう」
「人肉じゃないよな?」
「キョウボウサボテンの肉だが」
「ちょっと待てサボテンは植物だろ!」
この砂漠のサボテンは動くらしい。
白いサボテン肉は鶏肉の味がした。
「あれは……」
食べながら周囲を見回すと、テントの壁にかけられたタペストリーが目に入った。
タペストリーは深い青色で、白い波線が幾重にも描かれている。
「ああ。この砂漠は昔、海の底だったらしい。その伝承にもとづく絵柄だな」
俺の視線の先に気付いたサナトリスが解説する。
「海の底か。それで……」
砂漠に来る直前、海底遺跡にいた。
海つながりで縁があって転移してきたとうことか。
「そしてこれが魔界の地図だ。我が里は魔界の一番奥まった場所にあり、人間の住む地方に出ようとすれば、その前に災厄の谷を越えなければならない」
「災厄の谷?」
サナトリスは床に巻物を広げた。
動物の皮で出来た紙に、手描きの地図が記されている。紙の黄ばみ具合からして、相当古そうだ。
地図の中央には黒い墨で山脈が描かれており、災厄の谷と記されていた。
「災厄の谷には、Lv.1000以上のモンスター、災厄魔がウヨウヨしている」
「Lv.1000以上?! 神のレベル上限だって999だろ。そんな高レベルのモンスターがいるなんて」
「世界の始まりを知っているか? 何も無いこの世界に、命の種を持った異世界の神やモンスターが転移してきた。世界創世、原初の時代の話だ。災厄の谷は、原初の時代に異世界からやってきたモンスターが残っている、世界で唯一の場所……Lv.999の実力者でも、谷を越えるのは苦労するだろう」
はあー、すごいなそれは。勉強になるわ。
感心していた俺は、ある事に気付いた。
「ん? そんな危険な地域のさらに奥にある砂漠に、俺みたいな人間が訪れることなんてあるのか?」
「竜巻の中に棲む雲竜というモンスターが、たまに人間をくわえてきて、空から砂漠に落とすのだよ」
それで人間がたまのご馳走な訳か。
謎は全て解けた。
俺は腕組みして、地図に記された災厄の谷の文字をにらむ。
サナトリスの話が本当なら、ちょっと厄介な場所だ。
俺が困っていることを察したのか、サナトリスはある提案をしてきた。
「……一ヶ月後にくる霰季は、空から氷のつぶてが降ってくる季節だ。災厄魔も霰季は地面に潜ってじっとしている。カナメ殿が防御の魔法に秀でているなら、氷のつぶてを魔法で防ぎながら、安全に災厄の谷を渡ることが出来るだろう」
「一ヶ月後まで待てってことか」
「その間の衣食住は、私が保証しよう。代金を払えとは言わないが、カナメ殿さえ良ければ、里の子供たちに魔法を教えてやってくれないか」
思わぬ依頼に、俺は驚いた。
魔族の子供に魔法を教えるだって?
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