76 / 159
第三部 魔界探索
76 白灰砂漠《アイボリア》
しおりを挟む
「大変だ! カナメが魔界にさらわれちゃった! 神様連絡網が通じないのは魔界だけなんだよー」
白い小さな竜、祝福の竜神リーシャンは、空中を無駄に右往左往する。
真は消え去ってしまった枢を探すように、しゃがんで床を撫でた。心菜の肩がピクリとふるえる。呪いが解けて、覚醒が近くなっているのだろう。
「……偶然とは思えない」
低く呟いて、ここまで案内してくれた人魚を振り返る。
「おい、この先は本当に地上か?」
「も、もちろんです」
真の詰問に、人魚は慌てて首を縦に振る。
「地上のどこだ?」
「!」
「言えないよなあ。嘘を付く時は、嘘を付かなければバレない。俺も昔、よく使った手だ」
人魚は一気に青ざめた。
それを見て、真はやはり……と確信を深める。
自分たちは魔界に連れこまれようとしているのだ。
「え? お姉さん、嘘を付いてたの? レベル上限解放アイテムってのも嘘?」
大地はカラクリに気付いていないのか、仲間の中で一人ポカンと間抜け顔をさらしている。
魔族の椿はもとより、夜鳥も苦い顔をしていて、真と同じことに気付いている様子だ。
「人魚の血の効能は、嘘じゃないだろうさ。全部飲むと、厄介な呪いにかかるって書いてないだけで、便利なアイテムには違いない」
真は小瓶の蓋を開けると、ネオンブルーの液体を一口飲んだ。
「あ!」
「うん、不死者(仮)って称号が付いたな。カッコ仮ってなんだよもう」
効果は人魚の言った通り、レベル上限解放と、多少傷の治りが早くなるようだった。
蓋をしめて、小瓶を大地に放る。
そして険しい表情をしている人魚に笑いかけた。
「人魚のお姉さん、俺たちを魔界に案内してくれよ。元から、そのつもりだったんだろ?」
今度は自分たちが枢を追いかけて、助ける番だ。
砂の海でポツンと一人、佇む俺。
記憶のところどころに穴が空いている。
俺は誰かともう一度会うために、異世界で頑張って千年過ごし、神と呼ばれるようになった。その頑張った理由が分からないから、自分の記憶に自信が持てないのだ。
アダマスの守護神をやっていたという記憶が自分ごとと思えなかった。
「くっそ、どこだよここ……」
途方に暮れている間に、砂嵐が吹き始めた。
視界が灰色の風に閉ざされる。
しゃがみこんで砂を握りしめる。
「喉が乾いた……」
自動防御がきいていて砂嵐のダメージは無いが、このままでは渇き死にしそうだ。
その時、砂がボコリと盛り上がって、中から人影が現れた。
「……ん? どうしてこんなところに人間がいるんだ?」
トカゲと魚のあいのこのようなモンスターに跨がって手綱を握り、露出度の高い服装をした女の子が俺を見下ろしている。
尖った耳に、肌に浮かぶ透明な鱗と独特な模様。
『サナトリス Lv.501 種族: 魔族 クラス: 蜥蜴族長』
神聖境界線の内側に、ここまでレベルの高い魔族は現れないはずだ。ということは、ここは魔界か。
サナトリスは手に持った槍を俺に向けた。
「人間は滅多にないご馳走だ。狩って帰ろう」
魔族にとっちゃ、人間は食べ物らしい。
俺はステータスを偽装しているから、レベルの低い人間の魔法使いに見えているだろう。
槍の穂先を見つめながら、他人事のように、のんびり考える。
さて。敵だらけの場所をどうやって抜け出そうか。
「どうした? 命ごいしないのか、人間」
サナトリスは、冷静な俺を見て怪訝そうにする。
俺はフッと笑った。
「……俺にとっても、あんたは飛んで火に入る夏の虫、って事さ」
手を伸ばして槍の柄をつかむ。
動揺するサナトリスの顔を見ながら、大地属性の重力魔法を無詠唱で発動、相手を動けなくして槍を奪い取った。
乗り物のトカゲの頭を踏んづけ、槍の穂先をサナトリスの首筋に添える。
「貴様!」
「ここは魔界のどの辺か、帰り道はどっちか、教えてくれると助かるよ」
我ながら、悪役じみた台詞だと思った。
でもいいか。一人旅だし、誰かに気をつかうこともない。
というか考えてみたら、仲間を地球に帰してあげるために頑張る理由もないし、神様業させられるアダマスに帰る必要もないんじゃないか。
魔界をのんびり旅するのも良いかもしれないな!
白い小さな竜、祝福の竜神リーシャンは、空中を無駄に右往左往する。
真は消え去ってしまった枢を探すように、しゃがんで床を撫でた。心菜の肩がピクリとふるえる。呪いが解けて、覚醒が近くなっているのだろう。
「……偶然とは思えない」
低く呟いて、ここまで案内してくれた人魚を振り返る。
「おい、この先は本当に地上か?」
「も、もちろんです」
真の詰問に、人魚は慌てて首を縦に振る。
「地上のどこだ?」
「!」
「言えないよなあ。嘘を付く時は、嘘を付かなければバレない。俺も昔、よく使った手だ」
人魚は一気に青ざめた。
それを見て、真はやはり……と確信を深める。
自分たちは魔界に連れこまれようとしているのだ。
「え? お姉さん、嘘を付いてたの? レベル上限解放アイテムってのも嘘?」
大地はカラクリに気付いていないのか、仲間の中で一人ポカンと間抜け顔をさらしている。
魔族の椿はもとより、夜鳥も苦い顔をしていて、真と同じことに気付いている様子だ。
「人魚の血の効能は、嘘じゃないだろうさ。全部飲むと、厄介な呪いにかかるって書いてないだけで、便利なアイテムには違いない」
真は小瓶の蓋を開けると、ネオンブルーの液体を一口飲んだ。
「あ!」
「うん、不死者(仮)って称号が付いたな。カッコ仮ってなんだよもう」
効果は人魚の言った通り、レベル上限解放と、多少傷の治りが早くなるようだった。
蓋をしめて、小瓶を大地に放る。
そして険しい表情をしている人魚に笑いかけた。
「人魚のお姉さん、俺たちを魔界に案内してくれよ。元から、そのつもりだったんだろ?」
今度は自分たちが枢を追いかけて、助ける番だ。
砂の海でポツンと一人、佇む俺。
記憶のところどころに穴が空いている。
俺は誰かともう一度会うために、異世界で頑張って千年過ごし、神と呼ばれるようになった。その頑張った理由が分からないから、自分の記憶に自信が持てないのだ。
アダマスの守護神をやっていたという記憶が自分ごとと思えなかった。
「くっそ、どこだよここ……」
途方に暮れている間に、砂嵐が吹き始めた。
視界が灰色の風に閉ざされる。
しゃがみこんで砂を握りしめる。
「喉が乾いた……」
自動防御がきいていて砂嵐のダメージは無いが、このままでは渇き死にしそうだ。
その時、砂がボコリと盛り上がって、中から人影が現れた。
「……ん? どうしてこんなところに人間がいるんだ?」
トカゲと魚のあいのこのようなモンスターに跨がって手綱を握り、露出度の高い服装をした女の子が俺を見下ろしている。
尖った耳に、肌に浮かぶ透明な鱗と独特な模様。
『サナトリス Lv.501 種族: 魔族 クラス: 蜥蜴族長』
神聖境界線の内側に、ここまでレベルの高い魔族は現れないはずだ。ということは、ここは魔界か。
サナトリスは手に持った槍を俺に向けた。
「人間は滅多にないご馳走だ。狩って帰ろう」
魔族にとっちゃ、人間は食べ物らしい。
俺はステータスを偽装しているから、レベルの低い人間の魔法使いに見えているだろう。
槍の穂先を見つめながら、他人事のように、のんびり考える。
さて。敵だらけの場所をどうやって抜け出そうか。
「どうした? 命ごいしないのか、人間」
サナトリスは、冷静な俺を見て怪訝そうにする。
俺はフッと笑った。
「……俺にとっても、あんたは飛んで火に入る夏の虫、って事さ」
手を伸ばして槍の柄をつかむ。
動揺するサナトリスの顔を見ながら、大地属性の重力魔法を無詠唱で発動、相手を動けなくして槍を奪い取った。
乗り物のトカゲの頭を踏んづけ、槍の穂先をサナトリスの首筋に添える。
「貴様!」
「ここは魔界のどの辺か、帰り道はどっちか、教えてくれると助かるよ」
我ながら、悪役じみた台詞だと思った。
でもいいか。一人旅だし、誰かに気をつかうこともない。
というか考えてみたら、仲間を地球に帰してあげるために頑張る理由もないし、神様業させられるアダマスに帰る必要もないんじゃないか。
魔界をのんびり旅するのも良いかもしれないな!
31
お気に入りに追加
3,937
あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる