69 / 159
第三部 魔界探索
69 リーシャンの回想<前編>
しおりを挟む
「アダマスに戻れて良かったね、カナメ」
大聖堂の屋根にちょこんと座って、リーシャンは月を見上げていた。
リーシャンは「祝福の竜神」と呼ばれている、北西の国ユークレースの守護神だ。
本当は大きな純白の竜の姿なのだが、今は行動しやすいように一抱えほどのサイズに化けている。ついでに人前では透明化の魔法を掛けて、正体を悟られないようにしていた。
「カナメと出会って何百年経ったかなあ」
尻尾を振って首をかしげる。
リーシャンが「聖晶神アダマント」ことアダマスの守護神である枢に出会ったのは、とてもとても昔のことだった。
今でもその時のことをはっきり思い出せる。
あの頃、リーシャンは退屈して旅に出ていた。
旅の途中で、まだ小さな国だったアダマスに立ち寄ったのだ。
「ここにキラキラ光る石があるんだってー?」
リーシャンは光るものが大好きだった。
金属や宝石で気に入ったものは、人間からもらって(奪って)、巣に持ち帰ることもある。
アダマスの教会にあるという青いクリスタルの噂を聞き、自分のコレクションに加えたいと思った。
「とうちゃーくっ! おお……結構おおきいなあ」
小さい竜の姿に化け、こっそり教会に忍び込む。
設置されていた青いクリスタルは人の子供くらいの大きさがあった。
リーシャンは石の輝きに目を奪われる。
クリスタルの奥で青白い光が揺らぎ、心臓の鼓動のように明滅して、微細な星の欠片を思わせる鱗粉を吐き出していた。石の表面は温かいのだろう。不思議な熱気がクリスタルから発散されている。まるで石そのものが生き物のようだった。
「なんだろう。これ、本当に石なの?」
リーシャンは青いクリスタルを見上げて疑問に思った。
「――こちらにどうぞ」
その時、教会の中に人間が入ってきた。
人に見つかると面倒なことになる。
リーシャンは急いでクリスタルの台座の陰に隠れた。
「こちらが癒しの奇跡を起こすクリスタルです。旦那さまの病気も立ちどころに癒えるでしょう」
「おお!」
太って顔色の悪い男が、側仕えに支えられながら入ってくる。
嫌な感じの人間だと、リーシャンは見ていて思った。
悪い人間はすぐに分かる。誰かを傷つけたり殺したりして憎まれている人間は、怨念や陰気を引きずっているからだ。太った男は誰かの恨みを買っているらしく、黒く濁った気配をまとっていた。
男はクリスタルの近くまで歩いてきて、立ち止まる。
「どうした? なぜ奇跡が起こらない?!」
「おかしいですね。いつもはクリスタルの前まで来ると、ぱあっと光って全快されるのに」
人間たちが何やらさわいでいる。
「せっかく高額の寄進をしたというのに! くそっ、こんな教会、つぶしてやる!」
「申し訳ありません。奇跡が起こらない理由を調べて、必ず旦那さまの病気が治るようにしますから!」
怒る男を、神官がなだめた。
それでも憤慨する男は、文句を言いながら教会から出ていく。
神官も出て行って、教会は静かになった。
「……あいつが悪人だったから、癒さなかったの?」
リーシャンはクリスタルを見上げた。
つぶやきに反応するように、クリスタルが一瞬まぶしく光る。
「なんだか怒ってる?」
竜神の鋭敏な感覚で、クリスタルの気配に怒気が混じっていることに気付いて、リーシャンは首をかしげた。
ぴかり。
リーシャンの疑問を肯定するように、クリスタルが光る。
「わかった! 君は生きてるんだね!」
クリスタルに意思があることを確信して、リーシャンは尻尾をピンと立てた。
悪人を無視する姿勢や、リーシャンに対する反応から、クリスタルに宿る意思は高い知性と清らかな心を持っていることが察せられた。
なんて綺麗で、素晴らしい石なのだろう。
持って帰って巣の真ん中に置いておきたい。
だけど意思のある生き物を、無理やり移動させるのは、リーシャンの主義に反する。
まずは仲良くなって、一緒に暮らすよう説得するところからだ。
「あいつ、教会をつぶす、って言ってたよね。よし! 僕があいつをやっつけてあげるよ!」
リーシャンはクリスタルに恩を売ることにした。
クリスタルが困惑するように光るのを無視して、教会から飛び出す。
悪人さえやっつければ全て解決だと、この時のリーシャンは考えていた。
大聖堂の屋根にちょこんと座って、リーシャンは月を見上げていた。
リーシャンは「祝福の竜神」と呼ばれている、北西の国ユークレースの守護神だ。
本当は大きな純白の竜の姿なのだが、今は行動しやすいように一抱えほどのサイズに化けている。ついでに人前では透明化の魔法を掛けて、正体を悟られないようにしていた。
「カナメと出会って何百年経ったかなあ」
尻尾を振って首をかしげる。
リーシャンが「聖晶神アダマント」ことアダマスの守護神である枢に出会ったのは、とてもとても昔のことだった。
今でもその時のことをはっきり思い出せる。
あの頃、リーシャンは退屈して旅に出ていた。
旅の途中で、まだ小さな国だったアダマスに立ち寄ったのだ。
「ここにキラキラ光る石があるんだってー?」
リーシャンは光るものが大好きだった。
金属や宝石で気に入ったものは、人間からもらって(奪って)、巣に持ち帰ることもある。
アダマスの教会にあるという青いクリスタルの噂を聞き、自分のコレクションに加えたいと思った。
「とうちゃーくっ! おお……結構おおきいなあ」
小さい竜の姿に化け、こっそり教会に忍び込む。
設置されていた青いクリスタルは人の子供くらいの大きさがあった。
リーシャンは石の輝きに目を奪われる。
クリスタルの奥で青白い光が揺らぎ、心臓の鼓動のように明滅して、微細な星の欠片を思わせる鱗粉を吐き出していた。石の表面は温かいのだろう。不思議な熱気がクリスタルから発散されている。まるで石そのものが生き物のようだった。
「なんだろう。これ、本当に石なの?」
リーシャンは青いクリスタルを見上げて疑問に思った。
「――こちらにどうぞ」
その時、教会の中に人間が入ってきた。
人に見つかると面倒なことになる。
リーシャンは急いでクリスタルの台座の陰に隠れた。
「こちらが癒しの奇跡を起こすクリスタルです。旦那さまの病気も立ちどころに癒えるでしょう」
「おお!」
太って顔色の悪い男が、側仕えに支えられながら入ってくる。
嫌な感じの人間だと、リーシャンは見ていて思った。
悪い人間はすぐに分かる。誰かを傷つけたり殺したりして憎まれている人間は、怨念や陰気を引きずっているからだ。太った男は誰かの恨みを買っているらしく、黒く濁った気配をまとっていた。
男はクリスタルの近くまで歩いてきて、立ち止まる。
「どうした? なぜ奇跡が起こらない?!」
「おかしいですね。いつもはクリスタルの前まで来ると、ぱあっと光って全快されるのに」
人間たちが何やらさわいでいる。
「せっかく高額の寄進をしたというのに! くそっ、こんな教会、つぶしてやる!」
「申し訳ありません。奇跡が起こらない理由を調べて、必ず旦那さまの病気が治るようにしますから!」
怒る男を、神官がなだめた。
それでも憤慨する男は、文句を言いながら教会から出ていく。
神官も出て行って、教会は静かになった。
「……あいつが悪人だったから、癒さなかったの?」
リーシャンはクリスタルを見上げた。
つぶやきに反応するように、クリスタルが一瞬まぶしく光る。
「なんだか怒ってる?」
竜神の鋭敏な感覚で、クリスタルの気配に怒気が混じっていることに気付いて、リーシャンは首をかしげた。
ぴかり。
リーシャンの疑問を肯定するように、クリスタルが光る。
「わかった! 君は生きてるんだね!」
クリスタルに意思があることを確信して、リーシャンは尻尾をピンと立てた。
悪人を無視する姿勢や、リーシャンに対する反応から、クリスタルに宿る意思は高い知性と清らかな心を持っていることが察せられた。
なんて綺麗で、素晴らしい石なのだろう。
持って帰って巣の真ん中に置いておきたい。
だけど意思のある生き物を、無理やり移動させるのは、リーシャンの主義に反する。
まずは仲良くなって、一緒に暮らすよう説得するところからだ。
「あいつ、教会をつぶす、って言ってたよね。よし! 僕があいつをやっつけてあげるよ!」
リーシャンはクリスタルに恩を売ることにした。
クリスタルが困惑するように光るのを無視して、教会から飛び出す。
悪人さえやっつければ全て解決だと、この時のリーシャンは考えていた。
12
お気に入りに追加
3,907
あなたにおすすめの小説
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる