上 下
65 / 159
第二部 時空越境

65 壁上の攻防戦

しおりを挟む
「あれ? 椿と大地はどこに行ったんだ?」
 
 仲間たちに声を掛けようと、皆の泊まっている部屋に戻った俺を出迎えたのは、真と心菜と夜鳥の三人だけだった。
 真が笑いをこらえながら答える。
 
「私より目立つ女は許せないのよ! と叫んだ椿ちゃんが出ていって、大地が情けない顔をして追いかけてったよ。なんだろうな、あの二人。超笑えるわー」
 
 いったい何が起きてたんだ。
 心菜が俺の顔を見て、日本刀を召喚する。
 
「出陣ですね? 殿!」
「いやそうなんだけどさ、お前テンション高すぎるよ」
 
 鼻息荒い心菜にちょっと引く。
 夜鳥はお腹を抱えてベッドにうずくまっている。
 
「悪い。今日ちょっと調子が……」
 
 顔色が悪い。体調が良くないのだろうか。
 
「夜鳥さんはあの日ですね!」
 
 心菜が人差し指を立てて言った。
 俺は、彼女の人差し指を手のひらで包んで折りながら言い聞かせる。
 
「それ以上、言うなよ心菜。男の俺らは知ってはいけないことがあるんだ」
「えぇ?」
 
 体調不良の夜鳥を置いて、大聖堂を出た。
 
「街の人が避難してるなー」
 
 真が通りを見回して呟く。
 商店や屋台は片付けて、建物の中に引っ込もうとする人たちの姿が目立つ。
 俺の指示は問題なく行き渡っているらしい。
 
「……街の外に急ごう」
 
 人が少ない通りを早足で進み、街を囲む高い壁に近付く。
 灰色の石を積み重ねた分厚い壁の上は通路になっていて、一定の間隔で建てられた物見の塔とつながっていた。
 塔の下に、壁に登るための通用口がある。
 通用口の前で兵士と立ち話をしていた神官が、俺を見て頭を下げた。
 
「通してもらっていいか」
「どうぞ」
 
 神官が手配してくれたのか、誰何すいかされることなく塔に入れた。内部の螺旋階段を駆け登って、城壁の上に出る。
 高い壁の上なので、街の様子と、街の外に広がる森や川が一望できた。
 
「あれは……!」
「椿と大地のやつ、何やってんだ?」
 
 予想通り、魔物の群れはアダマス王都に入る手前で結界に阻まれて立ち往生している。
 そして椿は川の水を凍らせて、お立ち台を作り、魔物の群れを見下ろしていた。
 
「七瀬! あなた、私よりも目立とうなんて百年早いのよ!」
「嫉妬はみっともないわよ椿。だいたい、そんなところで何してるの? いえ言わなくても分かるわ。どうせ永治さまに見捨てられて、腹いせに私の邪魔をしようとしてるんでしょ」
「なんですって?!」
 
 椿の氷の魔法と、敵の女の子の雷の魔法が派手にぶつかり合う。
 俺たちは魔物の群れと一緒にぽかーんとその光景を眺めた。
 ちなみに大地は椿の後ろで「落ち着いて椿ちゃん」とおろおろしている。全然なんの役にも立ってない。
 
「女同士の喧嘩って、割って入りにくいよな」
「大義が見えないでござる」
「心菜、その侍口調はいつまで続くんだ?」
 
 戦う前から疲労を感じつつ、魔物の群れの近くまで、壁の上を歩いた。
 真が敵の女の子を指差して説明する。
 
「あの女の子は、千原七瀬。黒崎の部下で、異世界スーパーアイドルを名乗る、ちょっと危ない子だよ。まあ鏡をのぞきこんでブツブツ言う椿ちゃんも相当不気味だけどね!」
「あいつ、危ない女とばっか付き合ってるんだな」
「枢っちに人のことが言える?」
 
 レモンイエローの派手なドレスを着た敵の少女は、七瀬というらしい。真の説明のおかげで大体状況が分かった。
 ついでに余計なことを言う真を軽く殴っておく。
 七瀬と椿は、魔法攻撃と、ののしりあう口撃をぶつけあっていた。
 余波で地形が変わりそうだから、そろそろ止めて欲しい。
 
「おい、」
 
 俺は「喧嘩はよそでやってくれ」と彼女たちに声を掛けようとした。
 途端にすごい形相をした椿と七瀬からシャットアウトされる。
 
「「地味男は黙ってなさい!」」
 
 えぇ?
 
「ドンマイ、枢っち」
「もう帰っていいか……?」
 
 俺はしゃがんで地面にのの字を書いた。
 
「てやっ!」
 
 心菜が刀を抜いて、二人の間に飛び交う魔法を一刀両断した。
 
「争いは止めなさい!」
 
 おお、格好いいぞ、心菜!
 
「こんなところで揉めてないで、好きなら好きと黒崎くんに直接告白すれば良いじゃないですか!」
「……っ。部外者が分かった口を」
 
 七瀬が眉をきりきり吊り上げた。
 
「私はアダマスを攻略する! その成果を引っ提げて、堂々と魔界に凱旋するのよ! そうしたら永治さまも私を見て下さる」
 
 自分の本来の目的を思い出したらしい。
 彼女は真剣な表情で、アダマスの街並みをにらんだ。
 
「私の歌を聞きなさーいっ!」
 
 キーンと金属音が鳴り響き、俺たちは思わず耳を押さえた。
 魔物がヒレをこすり合わせたり、水しぶきを上げて音を出し始める。
 聞いたことのない音楽と共に七瀬が歌を唄い始めた。
 結界がビリビリと震える。
 
「まずいぞ……!」
 
 王都を囲む結界は、物理と一般魔法は問題なく防ぐが、音楽などの特殊な魔法は防ぎきれない。
 これじゃ歌を聞いた街の人に被害が出る。
 
 必死に考えを巡らせる俺の肩を、真がトントンと叩いた。
 お互い耳をふさいでるので聞こえないが、ジェスチャーで真が後ろを指差す。
 振り返って俺は目を見張った。
 
「グレンさん……?!」
 
 そこには息たえだえな杖職人のグレンが立っていた。
 今にも倒れそうな真っ青な顔色で、手に持った白銀の杖を俺に差し出してくる。
 
「これを、カナメさんに!」
 
 ナイスタイミングだ。
 俺は杖を受け取った。
 青い結晶を中心に銀の菱形の飾りを組み合わせた、前と同じようなデザインだが、一点大きく違う点がある。杖に巻き付く白銀の竜が翼を広げ、頂点に居座っていた。リーシャンをイメージしてるのだろうか。
 新しい杖から力が流れ込んでくる。
 これで単純に結界を強化するだけで済む。
 
「――おれは此の魔法式ねがいの真値を世界に問う!」
 
 杖で叩いた地面を中心に、足元から銀の光の環が広がった。


 
しおりを挟む
感想 396

あなたにおすすめの小説

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...