セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

文字の大きさ
上 下
46 / 159
第二部 時空越境

46 永遠に壊れないもの

しおりを挟む
 三雲啓みくもけいが異世界転生した体は、縫いぐるみだった。
 貴族の少女が大切にしていたウサギの縫いぐるみ。
 
「ウサちゃん、あのね。今日お母さんと一緒にピクニックに行ったの!」
 
 少女は縫いぐるみにその日の出来事を話しかける。
 三雲は無言で身動きできず、それを聞いているだけ。
 冗談じゃないと思った。
 しゃべることも動くこともできない、少女の独り言を聞いているだけの毎日。
 気が狂いそうだ。
 
「それでね、それでね……」
 
 無邪気な少女が頬ずりしながら三雲に語り掛ける。
 うざったく思いながらも、いつしかそこに温もりを見出す三雲。
 もし少女の所有物ではなく倉庫にしまわれて誰にも触れられなければ、それこそ本当に寂しくてどうにかなっていたかもしれない。
 しかし、身動きできない以外は平穏だった異世界生活は、突如、終わりを迎える。
 
「お母さん、お母さん! 誰か助けてっ!」
 
 強盗が入ってきて、少女と少女の家族を惨殺したのだ。
 血に濡れたウサギの縫いぐるみに禍々しい光が宿る。
 三雲は少女の死と引き換えに、スキルを手に入れた。
 
「君は死なないよ。今までは僕が君のお人形だったけれど、これからは君が僕のお人形になるんだ」
 
 死んだ少女の魂を、手近な人形に定着させた。
 おびえる少女に優しく語りかける。
 
「大丈夫だよ」
「私が人形になっちゃったの?! 嫌っ、お母さんお父さん!」
 
 助けてあげたのに、救ってあげたのに。
 少女は三雲に恐怖した。
 数日も経たないうちに少女の魂は壊れてしまい、人形は動かなくなった。
 
「あれ? どうしたんだろう……」
 
 スキルの使い方がおかしかったのかな。
 こんなすぐに壊れてしまうなんて。
 次は壊れないように工夫しよう。
 そうだ。僕は永遠に壊れない人形を造るのだ。
 
 三雲は自分がおかしくなってしまったことに気付いていなかった。
 目の前で少女と少女の家族が殺された時に、繊細な少年の魂は決定的に歪んでしまったのだ。
 
 
 
 
 誰もが勝利を確信した時、三雲の身体に異変が起こった。
 
「クソがぁぁぁっ!」
 
 バキバキと音を立てて三雲は一気に二回りでかくなった。
 肌が鉄色に変わり、目が赤くなって身体中に不気味な赤い線が走る。
 
「これが僕の真の姿だ!!」 
 
 俺は三雲を再鑑定した。
 
 
 ミクモ Lv.600 種族: 魔族 クラス: 虚心兎霊ソリチュード
 
 
 またレベルとクラスが変化している。
 どういうことだ。
 巨大な金属の人形に変身した三雲は、後ろに向かって大きく跳躍する。
 呆気にとられるアウロラ帝国の兵士たちを飛び越えて、三雲の姿は帝都の外壁の向こうに消えた。
 
「俺が追いかける! リーシャン、乗せてくれ!」
『いいよー!』
 
 俺はリーシャンに飛び乗った。
 夜鳥が「俺も行く」と言って、するりと後ろに乗り込んでくる。
 まあいいか、素早い夜鳥と一緒なら連携プレイも成立するし。
 
「皇帝を暗殺しようとして毒を仕込んだのって、あいつかな。俺は濡れ衣着せられて散々だ」
 
 夜鳥が眉間にシワを寄せて呟く。
 
「どうかな。暗殺事件は、俺たちが異世界に来た直後だろ。タイミング的に、こっちに来てすぐに暗殺に行くとは思えない。だけど全く関係ない訳でもなさそうだ。皇帝が回復してすぐに見舞いに来たのは、毒がどうなったか確かめに来たんだろうし」
 
 俺は考えながら答える。
 
「黒崎……魔神ベルゼビュートが何かしてそうだよな。神聖境界線ホーリーラインの向こう側の魔族たちは、境界を越えて人間の国を侵略しようと必死だ」
「神聖境界線か……」
 
 夜鳥の言った「神聖境界線」とは、人間に味方する七神が力を合わせて張った結界だ。この結界はLv.500以上の強い魔族を通さない仕組みになっていて、結界の内側では魔族は弱体化する。
 つまりアウロラ帝国内にLv.800のマルチプライが出現するはずがないのだが、そこは神聖境界線を通らないように工夫したか、それか帝国内でLv.800になるまで育てたのだろう。あとは先ほどの三雲のようにレベルを可変にするという手もある。
 
『止まれー!』
 
 リーシャンが目からビームを放ち、跳躍する三雲を撃ち落とした。
 もうすぐ帝都の外だ。
 建物も人も少なくなっているので、戦闘をするにはちょうどいい場所である。
 
「三雲啓!」
 
 俺は奴の気を引くためにフルネームを大声で呼んだ。
 三雲は振り返ってこちらを見る。
 
「なぜ帝都に魔物を放った?! 黒崎の指示か?」
 
 言いながら、リーシャンの背中から飛び降りた。
 もともと日本の標準的な学生並の体力しか無かった俺だが、異世界のレベルと能力が加算された今では、多少高いところから跳んでも平気になってしまった。
 夜鳥に言わせると、地球生まれの身体は異世界で生まれ育った身体より弱いそうだが、それでも普通の人間よりは頑丈だ。
 
「黒崎さんは関係ない……僕は、アウロラ帝国の人間を全部、人形にしてやるんだ……!」
 
 三雲はひび割れた声で俺に答える。
 
「もともと僕はずっと帝都に潜伏して、この国を内側から破壊するための工作を進めていた……僕の夢は、永遠に壊れない人形を造ることだ」
「永遠に壊れない人形?……永遠に壊れないモノなんてある訳ないだろ」
「そんなことはないっっ!」
 
 俺の言葉に、三雲は怒ったようだった。
 声を荒くして主張する。
 
「お前らは皆そう言う! だけど僕は夢を叶えるんだ! 今に見ていろ……!」
「そのために人の命を犠牲にするのか?」
「人間なんてどうだっていい」
 
 およそ正気とは思えない回答だ。
 三雲だって同じ日本人だったはずなのに、ここまで考え方が変わってしまうほど、異世界で何があったのだろう。
 夜鳥が俺の隣に立ってナイフを構える。
 
「説得なんて無駄だぞ、枢」
「分かってる」
 
 俺は夜鳥に「時間を稼いでくれ」と小声で頼んだ。
 夜鳥は頷いて、三雲に向かって跳躍する。
 
「――おれは此の魔法式ねがいの真値を世界に問う」
 
 永遠に壊れないものなんてない。
 もしあるとすればそれは、純粋で尊い人の願いだけだ。
 
「陽の光、月の光、星の光を束ねる……静夜極光サイレントライト
 
 魔族に特攻効果のある魔法を放つ。
 俺の合図に従って、夜鳥がさっと三雲から離れた。
 銀光の柱が天から降り、真っ直ぐに三雲を包み込む。
 
「うぎゃああああああっ」
 
 絶叫する三雲の姿が段々透明になっていく。
 俺は彼の最後を目に焼き付ける。
 もし魂が流転するなら、今度こそ地球で、大事な人たちと幸せな人生を送って欲しい。
 
 
 
 
 ――ウサギさん、一緒にピクニックに行こう!
 
 眩しい光の中、少女が小さな手を三雲に差し出す。
 良かった。
 今度は手を握って一緒に遊べるね。
 三雲は安堵して、小さな手を重ね合わせた。
 

しおりを挟む
感想 396

あなたにおすすめの小説

幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。 「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!  人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。  魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」 どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。 人生は楽しまないと勿体ない!! ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

処理中です...