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第二部 時空越境
40 無自覚な好意
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「……あー。もちろん、お前にも挨拶するつもりだったよ」
『本当?!』
えらく落ち込んだ様子のカルラに、俺は声を掛けた。
挨拶が無くて怒ってるのかと思ったからだ。
しょぼくれて暗くなっていたカルラは、途端に明るくなった。
『当然よね! アウロラ帝国の守護神である、この私に一声掛けるのは! ふっ、アダマス王国より帝国の方が、ずっと広くて豊かで格が高いんだから』
「おい!」
黙って聞いていたら、好き勝手言いやがって。
確かに帝国の方が広いけど、アダマス王国の技術や文化や軍事力も負けてないんだからな!
『ふたりとも、駄目だよー。喧嘩しちゃ』
リーシャンが空中で旋回しながら、俺たちを嗜めた。
俺は我に返る。
カルラと喧嘩しに来た訳じゃない。
『積もる話の前に、カナメの問題を片付けないと』
リーシャンは逸れそうな話の方向を矯正してくれた。
ナイスフォローだ。
カルラも冷静になったらしく、向こうから話題を振ってきた。
『問題……皇帝暗殺がどうとか言っていたわね』
「犯人に間違われたんだ」
『アダマ……カナメがそう言うなら間違いないわね。私の神官たち、そこの震えている可哀想な人間たちを釈放しなさい』
カルラは、巻き込まれた食堂の人を解放するように指示した。
神官が「承知しました。さあ、こちらへ」と食堂の人を別の場所に連れて行く。
「枢さん……?」
「席を外してくれないか、大地、椿、夜鳥」
俺の仲間である大地と椿と夜鳥も、控え室に行ってもらう事にした。
カルラの神としての尊厳を保つためにも、他の人のいないところで腹を割って話した方が良いだろうと判断してのことだ。どうも俺とカルラが話すと子供っぽい喧嘩になるからな。
躊躇いながら広間を出ていく大地たち。
最後に残った神官が、カルラに恐る恐る問いかける。
「あの、この方はいったい……?」
守護神カルラと対等に話をする俺の正体が気になったらしい。
カルラは厳かに告げる。
『彼はアダマス王国の守護神、聖なるクリスタルに宿る意思』
「!!」
仰天する神官に向かって、俺は人差し指を唇の前に立ててみせる。
「秘密な」
「……は、はい!」
神官は首を縦にカクカク振って「私は扉の外に出ておりますので、ごゆっくり」と退出していった。
室内は俺とリーシャンとカルラだけになる。
カルラは赤みがかった金色の羽毛をふくらませ、興奮した様子で俺に聞いてくる。
『それで、聞きたかったんだけど! その姿なに?!』
「何って人間の姿だけど」
『なんでずっと石に閉じこもってたのよ! 宿敵の私には、その姿を見せられなかったとか?』
「色々事情があって、今まで人間の姿になれなかったんだ。それにしても改めて久しぶり、カルラ。こうやって話ができて嬉しいよ」
『!!!』
俺はカルラに微笑みかける。
カルラはプシューっと湯気をあげて、翼で顔をおおった。
いったいさっきから、その反応は何なんだ。
『ああ、今なら燃え尽きてもいい……』
「何言ってんの??」
リーシャンは腹を抱えて笑っている。
ふたりの反応の理由がよく分からずに、俺は首をかしげた。
『皇帝暗殺と言えば!』
途中でカルラは復活した。
『私の可愛いエルが寝込んでるの! カナメあなた、解毒が得意だったわね。力を貸しなさい』
「エル?」
『アウロラ帝国二十代目皇帝のエルロワよ。あなたの連れてきた人間や魔族を見逃してやったのだから、これで貸し借り無しよ!』
魔族の椿がいることに気付いていたらしい。
ここは協力せざるをえない、か。
「分かった」
俺はカルラに協力することを約束した。
大地は神官に連れられて大広間を退出しながら、ちらりと枢を振り返った。枢はもう大地たちを見ずにカルラと何か話し込んでいるようだった。
「マジにアウロラ帝国の守護神カルラと知り合いなんて」
雑談でそれらしい話が出ていたが、冗談か何かの例えだと思って深く考えなかった大地である。
枢は何者なのだろう。
隣の夜鳥を見ると、彼(?)も困惑している様子だった。自分と同程度しか枢の事を知らないと見える。
控え室に通されて、神官たちが離れた後、椿が口を開いた。
「何? あなたたち、近藤の正体を知らないの?」
「お前は知ってるのかよ」
椅子に座ってうつむいていた大地は顔を上げた。
「詳しくは知らないけど、推測はできる」
椿は腕組みしながら答えた。
「Lv.999の転生者は、だいたい化け物だと思った方が良いわ。永治もそうだったけど、近藤もたぶん伝説に残るようなことをしていると思う。異世界転生で名前が違ってるから近藤だと分からないだけで、実は有名人なんじゃないかしら」
大地は夜鳥と顔を見合わせた。
枢はのほほんとした人畜無害そうな青年だ。
伝説に残る有名人と言われても、まさかアダマス王国のクリスタルや聖晶神アダマントと結びつけて考えられない二人だった。
『本当?!』
えらく落ち込んだ様子のカルラに、俺は声を掛けた。
挨拶が無くて怒ってるのかと思ったからだ。
しょぼくれて暗くなっていたカルラは、途端に明るくなった。
『当然よね! アウロラ帝国の守護神である、この私に一声掛けるのは! ふっ、アダマス王国より帝国の方が、ずっと広くて豊かで格が高いんだから』
「おい!」
黙って聞いていたら、好き勝手言いやがって。
確かに帝国の方が広いけど、アダマス王国の技術や文化や軍事力も負けてないんだからな!
『ふたりとも、駄目だよー。喧嘩しちゃ』
リーシャンが空中で旋回しながら、俺たちを嗜めた。
俺は我に返る。
カルラと喧嘩しに来た訳じゃない。
『積もる話の前に、カナメの問題を片付けないと』
リーシャンは逸れそうな話の方向を矯正してくれた。
ナイスフォローだ。
カルラも冷静になったらしく、向こうから話題を振ってきた。
『問題……皇帝暗殺がどうとか言っていたわね』
「犯人に間違われたんだ」
『アダマ……カナメがそう言うなら間違いないわね。私の神官たち、そこの震えている可哀想な人間たちを釈放しなさい』
カルラは、巻き込まれた食堂の人を解放するように指示した。
神官が「承知しました。さあ、こちらへ」と食堂の人を別の場所に連れて行く。
「枢さん……?」
「席を外してくれないか、大地、椿、夜鳥」
俺の仲間である大地と椿と夜鳥も、控え室に行ってもらう事にした。
カルラの神としての尊厳を保つためにも、他の人のいないところで腹を割って話した方が良いだろうと判断してのことだ。どうも俺とカルラが話すと子供っぽい喧嘩になるからな。
躊躇いながら広間を出ていく大地たち。
最後に残った神官が、カルラに恐る恐る問いかける。
「あの、この方はいったい……?」
守護神カルラと対等に話をする俺の正体が気になったらしい。
カルラは厳かに告げる。
『彼はアダマス王国の守護神、聖なるクリスタルに宿る意思』
「!!」
仰天する神官に向かって、俺は人差し指を唇の前に立ててみせる。
「秘密な」
「……は、はい!」
神官は首を縦にカクカク振って「私は扉の外に出ておりますので、ごゆっくり」と退出していった。
室内は俺とリーシャンとカルラだけになる。
カルラは赤みがかった金色の羽毛をふくらませ、興奮した様子で俺に聞いてくる。
『それで、聞きたかったんだけど! その姿なに?!』
「何って人間の姿だけど」
『なんでずっと石に閉じこもってたのよ! 宿敵の私には、その姿を見せられなかったとか?』
「色々事情があって、今まで人間の姿になれなかったんだ。それにしても改めて久しぶり、カルラ。こうやって話ができて嬉しいよ」
『!!!』
俺はカルラに微笑みかける。
カルラはプシューっと湯気をあげて、翼で顔をおおった。
いったいさっきから、その反応は何なんだ。
『ああ、今なら燃え尽きてもいい……』
「何言ってんの??」
リーシャンは腹を抱えて笑っている。
ふたりの反応の理由がよく分からずに、俺は首をかしげた。
『皇帝暗殺と言えば!』
途中でカルラは復活した。
『私の可愛いエルが寝込んでるの! カナメあなた、解毒が得意だったわね。力を貸しなさい』
「エル?」
『アウロラ帝国二十代目皇帝のエルロワよ。あなたの連れてきた人間や魔族を見逃してやったのだから、これで貸し借り無しよ!』
魔族の椿がいることに気付いていたらしい。
ここは協力せざるをえない、か。
「分かった」
俺はカルラに協力することを約束した。
大地は神官に連れられて大広間を退出しながら、ちらりと枢を振り返った。枢はもう大地たちを見ずにカルラと何か話し込んでいるようだった。
「マジにアウロラ帝国の守護神カルラと知り合いなんて」
雑談でそれらしい話が出ていたが、冗談か何かの例えだと思って深く考えなかった大地である。
枢は何者なのだろう。
隣の夜鳥を見ると、彼(?)も困惑している様子だった。自分と同程度しか枢の事を知らないと見える。
控え室に通されて、神官たちが離れた後、椿が口を開いた。
「何? あなたたち、近藤の正体を知らないの?」
「お前は知ってるのかよ」
椅子に座ってうつむいていた大地は顔を上げた。
「詳しくは知らないけど、推測はできる」
椿は腕組みしながら答えた。
「Lv.999の転生者は、だいたい化け物だと思った方が良いわ。永治もそうだったけど、近藤もたぶん伝説に残るようなことをしていると思う。異世界転生で名前が違ってるから近藤だと分からないだけで、実は有名人なんじゃないかしら」
大地は夜鳥と顔を見合わせた。
枢はのほほんとした人畜無害そうな青年だ。
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