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第二部 時空越境
38 誤解を解く方法
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数日の船旅を経て、俺たちはアウロラ帝国に上陸した。
街道を徒歩で北上して帝都プラズマに向かう。道中で旅に必要なものを買いそろえた。コーウェンの街で腕時計を換金してもらっていたので、費用の捻出には困らない。
旅の途中で行商人の父子と仲良くなって、一緒に帝都まで歩いた。
「わーい、ウサギギツネだ! 毛皮にするために飼ってるの?」
「いや……」
子供が無邪気すぎて怖い。
行商人パックさんの息子(推定十二歳)は、俺の腕に巻き付いたウサギギツネに興味津々だ。
ウサギギツネは良質の毛皮が採れるので、よく狩りの獲物にされる。
異世界に戻ってきてもウサギギツネのメロンは俺にべったりだ。今も子供の手を避けて「キュー」と鳴き、俺の服の下に潜り込んでいる。
「椿ちゃん、荷物持とうか?」
「結構よ!」
大地は椿の手荷物に手を伸ばして拒否され、肩を落としている。
なんだかんだで椿が気になるらしく、大地は彼女の世話を焼こうとあれこれ気を回していた。しかし我がままな女王様気質の椿は、よっぽど機嫌が良い時でない限り、大地の手を拒否する。
普通ならへこたれそうなものだが、ポジティブな性格の大地はめげずに椿に話しかけに行っていた。
微笑ましそうに彼らのやりとりを見ていたパックさんは、俺に声を掛ける。
「カナメさん、帝都が見えてきましたぞ」
「……あれがそうか」
峠を越えた辺りから、大河の中流を囲むように発達した街並みが見えてきた。
普通の街ではない。
空に建物が浮いている。
普通に地面に建った建物と、空中に浮いた建物が、橋や階段でつながって、複雑な立体構造を形成していた。街の中央付近には、朱金に輝く鳳凰の彫像が飾られている。鳳凰は翼を広げくちばしに炎の花をくわえている。アウロラ帝国の守護神カルラを模しているのだろう。
「何度見ても帝都はすごいですなあ。魔法技術の結晶です。いろいろな場所を旅してきましたが、これと比べられる都市と言えば……アダマス王国のクリスタルの都でしょうか。石造りの芸術的な街並みでしたなあ」
「……ありがとう」
「はい?」
アダマスを褒められたので、俺は密かに嬉しくなって礼を言った。
パックさんは不思議そうにしている。
『カナメ、あの街の中に、カナメの仲間がいるよ』
透明化しているリーシャンが、俺の耳元でこっそりささやく。
ミニマムサイズに変身しても竜神のリーシャンは目立つので、人の多いアウロラ帝国では透明に見えるよう魔法を使って姿を隠しているのだ。
「案内してくれ、リーシャン」
帝都プラズマに着くと、俺たちは行商人のパックさんと別れた。
「それではカナメさん、お元気で」
「いろいろありがとう」
パックさんは親切に帝都の構造などを教えてくれた。良い人だったなあ。
空に向かって塔のように構成された帝都の街は、一般市民が住む下層と、貴族や王族が住む上層に分かれているらしい。下層から見上げると、グリフォンに騎乗した警備の兵士が上空を飛んでいたりする。
リーシャンは俺たちを下層の街の中にある、下町の食堂に案内した。
「いらっしゃいませー!」
家族経営らしいこじんまりとした食堂だ。
昼時を少し過ぎた時刻なので閑散としている。
「ご注文をどうぞ」
席につくと黒髪のボーイッシュな女の子が注文を取りに来た。
水、と言いかけて俺は噴きそうになる。
「夜鳥?!」
「ああ?!」
「えーっ?!」
なんと女の子は夜鳥だった。
性別は変わっているが、日本人特有の黒髪や彫りの浅い顔立ちで、帝都の一般市民から浮いている。何より雰囲気が、いつも教室で俺の隣の席に座っている夜鳥だった。
「お、お前どうして女の子の恰好してるの??」
「どうしたもこうしたもない! 全部アマテラスのせいだ!」
客がいないことを良いことに、夜鳥は驚愕する俺たちのテーブルに椅子を持ってきて座り込む。
食堂の奥にいる年配の女性が俺たちの様子を困惑してみているが、夜鳥の行動を止める気配はない。
「アマテラス?」
「そう。太陽神アマテラスが俺に憑依したんだ。おかげでレベルが上がったけど、太陽が出ている間はアマテラスの影響で体が女に変わっちまう。夜間は男に戻るから助かってるけど……」
「えぇ? 憑依?」
俺は夜鳥を鑑定した。
『ツカサ(夜鳥 司) Lv.20(Lv.185) 種族: 人間 クラス: 料理人見習い(暗殺者)』
括弧の中は偽装していない本当のステータスである。
状態の欄には「憑依(太陽神アマテラス)」との記載が……。
「アマテラスと話はできるか?」
「いや。俺に憑依して以来、眠ってしまっているみたいで」
夜鳥は浮かない顔をする。
アマテラスは日本の神様で、本体はたぶん伊勢神宮にある。
本体から遠く離れた異世界アニマに飛ばされてしまったので、力が弱って夜鳥を依り代に眠っているのではなかろうか、と俺は推測した。
「枢さん、この食堂、殺気立った連中に囲まれてるっす……」
「何?」
大地が険しい顔で、会話に口を挟んだ。
戦士ではない俺には、敵の殺気を感知することは不可能だが、聖騎士のクラスを持つ大地には可能なのだろう。
その時、食堂の入口が開いて黒服の男が入ってくる。
男はカラスが描かれた仮面を被っていた。
「黒鴉!」
夜鳥が立ち上がって、スカートの下に隠していたナイフを抜く。
「知り合いか?」
俺はきょとんとして夜鳥に聞いた。
夜鳥が答える前に、黒鴉と呼ばれた男がくぐもった声で言う。
「……皇帝暗殺を企んだ者たちを一網打尽にするため、わざとお前を泳がせていたのだ。予想通り、国外からやってきた怪しい奴らと接触したな。この食堂は不死鳥騎士団の協力により包囲している。仲間ともどもまとめて尋問に掛けてやろう」
食堂の奥から、フルアーマーを着た騎士が数人現れ、俺たちを取り囲む。
「くそっ、俺は関係ないのに!」
夜鳥は舌打ちした。
『どうする? カナメ』
「うーん」
透明で見えないがリーシャンは楽しそうに俺の頭の上で旋回している。
俺は対応を考えた。
黒鴉の台詞からすると、俺たちは皇帝暗殺を企んだ奴らの仲間だと思われているらしい。
大人しく捕まって尋問を受ける?
本当のことを言って信じるだろうか。いや、無理だな。
夜鳥を連れて逃げ出すか?
例えばリーシャンに元の姿に戻ってもらえば逃げ出せるが、ここは街中で目立つ上に、アウロラ帝国の連中に誤解されたままになる。変な悪評を立てられたら旅がしづらくなるよな。俺たちは何も悪いことをしていないのに、尻尾を巻いて逃げるのは癪だ。
と、すると第三の手段。
「一時停止」
俺は席からゆっくり立ち上がりながら、魔法を使う。
その瞬間、俺たちに向かって剣を抜こうとしていた騎士や黒鴉の動きがピタリと止まった。
この魔法は対象の行動を強制停止させる。
「誤解だ、と言ってもお前らは信じないだろうな。なら、俺の身の証を立てよう。上の神殿にいるアウロラ帝国の守護神カルラと会わせてくれ」
「な、なんだと?!」
黒鴉は仮面の下で驚愕した声を出す。
身動きできなくても声は出せるのだ。
「我がアウロラ帝国の守護神カルラは、悪を為した者に正義の炎で裁きを下す……自ら、命を持って身の潔白を証明しようと言うのか?!」
「そうだよ」
俺の首肯に、黒鴉と騎士たちが息を呑んだ。
こうなったら前にリーシャンが言っていたように、カルラに挨拶しに行こう。
カルラは道理が通らないことはしない奴だし、俺がいけすかなくても皇帝暗殺なんちゃらは否定してくれるはずだ。
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旅の途中で行商人の父子と仲良くなって、一緒に帝都まで歩いた。
「わーい、ウサギギツネだ! 毛皮にするために飼ってるの?」
「いや……」
子供が無邪気すぎて怖い。
行商人パックさんの息子(推定十二歳)は、俺の腕に巻き付いたウサギギツネに興味津々だ。
ウサギギツネは良質の毛皮が採れるので、よく狩りの獲物にされる。
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「椿ちゃん、荷物持とうか?」
「結構よ!」
大地は椿の手荷物に手を伸ばして拒否され、肩を落としている。
なんだかんだで椿が気になるらしく、大地は彼女の世話を焼こうとあれこれ気を回していた。しかし我がままな女王様気質の椿は、よっぽど機嫌が良い時でない限り、大地の手を拒否する。
普通ならへこたれそうなものだが、ポジティブな性格の大地はめげずに椿に話しかけに行っていた。
微笑ましそうに彼らのやりとりを見ていたパックさんは、俺に声を掛ける。
「カナメさん、帝都が見えてきましたぞ」
「……あれがそうか」
峠を越えた辺りから、大河の中流を囲むように発達した街並みが見えてきた。
普通の街ではない。
空に建物が浮いている。
普通に地面に建った建物と、空中に浮いた建物が、橋や階段でつながって、複雑な立体構造を形成していた。街の中央付近には、朱金に輝く鳳凰の彫像が飾られている。鳳凰は翼を広げくちばしに炎の花をくわえている。アウロラ帝国の守護神カルラを模しているのだろう。
「何度見ても帝都はすごいですなあ。魔法技術の結晶です。いろいろな場所を旅してきましたが、これと比べられる都市と言えば……アダマス王国のクリスタルの都でしょうか。石造りの芸術的な街並みでしたなあ」
「……ありがとう」
「はい?」
アダマスを褒められたので、俺は密かに嬉しくなって礼を言った。
パックさんは不思議そうにしている。
『カナメ、あの街の中に、カナメの仲間がいるよ』
透明化しているリーシャンが、俺の耳元でこっそりささやく。
ミニマムサイズに変身しても竜神のリーシャンは目立つので、人の多いアウロラ帝国では透明に見えるよう魔法を使って姿を隠しているのだ。
「案内してくれ、リーシャン」
帝都プラズマに着くと、俺たちは行商人のパックさんと別れた。
「それではカナメさん、お元気で」
「いろいろありがとう」
パックさんは親切に帝都の構造などを教えてくれた。良い人だったなあ。
空に向かって塔のように構成された帝都の街は、一般市民が住む下層と、貴族や王族が住む上層に分かれているらしい。下層から見上げると、グリフォンに騎乗した警備の兵士が上空を飛んでいたりする。
リーシャンは俺たちを下層の街の中にある、下町の食堂に案内した。
「いらっしゃいませー!」
家族経営らしいこじんまりとした食堂だ。
昼時を少し過ぎた時刻なので閑散としている。
「ご注文をどうぞ」
席につくと黒髪のボーイッシュな女の子が注文を取りに来た。
水、と言いかけて俺は噴きそうになる。
「夜鳥?!」
「ああ?!」
「えーっ?!」
なんと女の子は夜鳥だった。
性別は変わっているが、日本人特有の黒髪や彫りの浅い顔立ちで、帝都の一般市民から浮いている。何より雰囲気が、いつも教室で俺の隣の席に座っている夜鳥だった。
「お、お前どうして女の子の恰好してるの??」
「どうしたもこうしたもない! 全部アマテラスのせいだ!」
客がいないことを良いことに、夜鳥は驚愕する俺たちのテーブルに椅子を持ってきて座り込む。
食堂の奥にいる年配の女性が俺たちの様子を困惑してみているが、夜鳥の行動を止める気配はない。
「アマテラス?」
「そう。太陽神アマテラスが俺に憑依したんだ。おかげでレベルが上がったけど、太陽が出ている間はアマテラスの影響で体が女に変わっちまう。夜間は男に戻るから助かってるけど……」
「えぇ? 憑依?」
俺は夜鳥を鑑定した。
『ツカサ(夜鳥 司) Lv.20(Lv.185) 種族: 人間 クラス: 料理人見習い(暗殺者)』
括弧の中は偽装していない本当のステータスである。
状態の欄には「憑依(太陽神アマテラス)」との記載が……。
「アマテラスと話はできるか?」
「いや。俺に憑依して以来、眠ってしまっているみたいで」
夜鳥は浮かない顔をする。
アマテラスは日本の神様で、本体はたぶん伊勢神宮にある。
本体から遠く離れた異世界アニマに飛ばされてしまったので、力が弱って夜鳥を依り代に眠っているのではなかろうか、と俺は推測した。
「枢さん、この食堂、殺気立った連中に囲まれてるっす……」
「何?」
大地が険しい顔で、会話に口を挟んだ。
戦士ではない俺には、敵の殺気を感知することは不可能だが、聖騎士のクラスを持つ大地には可能なのだろう。
その時、食堂の入口が開いて黒服の男が入ってくる。
男はカラスが描かれた仮面を被っていた。
「黒鴉!」
夜鳥が立ち上がって、スカートの下に隠していたナイフを抜く。
「知り合いか?」
俺はきょとんとして夜鳥に聞いた。
夜鳥が答える前に、黒鴉と呼ばれた男がくぐもった声で言う。
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食堂の奥から、フルアーマーを着た騎士が数人現れ、俺たちを取り囲む。
「くそっ、俺は関係ないのに!」
夜鳥は舌打ちした。
『どうする? カナメ』
「うーん」
透明で見えないがリーシャンは楽しそうに俺の頭の上で旋回している。
俺は対応を考えた。
黒鴉の台詞からすると、俺たちは皇帝暗殺を企んだ奴らの仲間だと思われているらしい。
大人しく捕まって尋問を受ける?
本当のことを言って信じるだろうか。いや、無理だな。
夜鳥を連れて逃げ出すか?
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と、すると第三の手段。
「一時停止」
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その瞬間、俺たちに向かって剣を抜こうとしていた騎士や黒鴉の動きがピタリと止まった。
この魔法は対象の行動を強制停止させる。
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「な、なんだと?!」
黒鴉は仮面の下で驚愕した声を出す。
身動きできなくても声は出せるのだ。
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「そうだよ」
俺の首肯に、黒鴉と騎士たちが息を呑んだ。
こうなったら前にリーシャンが言っていたように、カルラに挨拶しに行こう。
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