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第二部 時空越境
28 沸きあがれ神様パワー
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草原を歩いていくと海辺に出た。
ザブーンザブーンと波の音が聞こえてくる。
「海はちょっと緑がかってるなー」
セーブクリスタルをしていた時は内陸にずっといたから、 異世界の海を見るのは初めてだ。
地球と違い、異世界アニマの動植物は目に鮮やかなものが多い。
若草色が混じるターコイズブルーの海を眺める。
「お、港街を発見」
海辺に沿って歩いていった先に河口があり、沿岸に大きな街がある。川に挟まれた位置関係上、街に入るには橋を渡るしかなさそうだ。
橋の付近には、見張りと思われる兵士の姿も見える。
兵士は機能的な金属の軽装鎧を着ていた。
異世界アニマは地球よりやや文明は遅れているが、魔法技術の発展もあり、独自の高度な文化が築かれている。都市部では、庶民でも着心地のよいお洒落な服装をしていた。
「街に入れてもらえるかな……俺、普通に不審者だよな」
異世界の服装はさすがに目立つだろう。
荷物も持たずにフラフラしてる理由を聞かれたら、どう答えようか。
「僕ら神クラスなんだから、ピカーって光りながら偉そうなことを言えば、人間は皆言うこと聞くよ!」
リーシャンはミニマムサイズの白竜の姿のまま、俺の頭上を飛びながら答えた。
「目立つからよせ」
これ以上、事態がややこしくなるのはごめんだ。
目立たないように服や雑貨を街で調達できないものか。
「カナメー、人が人を殺そうとしてるよー」
「ん?」
街の中から縄でくくられた女性と子供、兵士が三人が出てきた。
「さっさと歩け!」
「お願い、私はどうでも良いから、この子は助けて!」
兵士の一人は縄を持ち、女性と子供を蹴りつけて歩かせている。
「うるさい! ルールを破って街の外へ逃げようとした者は、殺して海に落とす、そういう決まりだ!」
横暴な決まりだ。
この街の領主は、独裁者か何かなのだろうか。
「カナメ、助けてあげようよ!」
「まあ待て様子を見よう」
「沸き上がれ、僕の神様パワー!」
「おい!」
リーシャンは急に元の竜神の姿に戻った。
俺の五倍くらいの体長の、神々しく輝く純白の竜が、兵士たちの前に舞い降りる。
「愚かな人間たちよ。何をしている」
厳かな声に、兵士たちの動きは止まった。
皆ポカンとしてリーシャンを見ている。
俺は頭を抱えた。
「り、竜神?!」
鑑定スキルを持っている人間は多い。
兵士の一人が鑑定を使ったらしく、リーシャンを見上げて口をパクパクさせている。
「か弱い女性や小さな子供を、海に落とすとは」
「俺たちは、領主さまに言われてやっているだけだ! 何も悪くない!」
女性と子供を蹴っていた兵士が開き直った。
「成敗!」
リーシャンの目がピカッと光り……。
「目からビーム?!」
俺は驚愕した。
目から発射された光線で、開き直った兵士が地面に倒れた。
残った兵士二人はガタガタ震えている。
呆然としていた女性と子供は、縄が切れたことに気付くと、一目散に逃げ出した。
「領主の命令ね。なら、君たちの領主に会わせてもらおうか」
「……は、はい」
リーシャンは勝手に交渉を進めている。
残った兵士は「もう自分が判断できる状況ではない」と考えているらしく、上司か領主の元に連れていくことを承諾した。
彼らの視線が、橋のたもとで驚き呆れて突っ立っている俺の方に向く。
「ええと……?」
誰だろう。どうしてここにいるのだろう、と問いかける目線だ。
俺が答える前に、リーシャンが言った。
「カナメは僕の友達だから、手荒にしないでね」
「はい!」
竜神さまさまだな。
どうぞこちらへ、とぎこちない動きで先導を始める兵士二人に続き、リーシャンは低空飛行で、俺は徒歩で移動を開始する。
リーシャンは俺にこそこそ耳打ちした。
「ね? 街に入れたでしょ?」
「それはそうだけど、領主に会ってどうするんだよ」
「うーんと、殺したら駄目だよ、って叱る?」
善良で純粋な「祝福の竜神」リーシャンらしい言葉だ。
俺は溜息をついた。
ゴメンで済んだら警察は要らないのだ。
ザブーンザブーンと波の音が聞こえてくる。
「海はちょっと緑がかってるなー」
セーブクリスタルをしていた時は内陸にずっといたから、 異世界の海を見るのは初めてだ。
地球と違い、異世界アニマの動植物は目に鮮やかなものが多い。
若草色が混じるターコイズブルーの海を眺める。
「お、港街を発見」
海辺に沿って歩いていった先に河口があり、沿岸に大きな街がある。川に挟まれた位置関係上、街に入るには橋を渡るしかなさそうだ。
橋の付近には、見張りと思われる兵士の姿も見える。
兵士は機能的な金属の軽装鎧を着ていた。
異世界アニマは地球よりやや文明は遅れているが、魔法技術の発展もあり、独自の高度な文化が築かれている。都市部では、庶民でも着心地のよいお洒落な服装をしていた。
「街に入れてもらえるかな……俺、普通に不審者だよな」
異世界の服装はさすがに目立つだろう。
荷物も持たずにフラフラしてる理由を聞かれたら、どう答えようか。
「僕ら神クラスなんだから、ピカーって光りながら偉そうなことを言えば、人間は皆言うこと聞くよ!」
リーシャンはミニマムサイズの白竜の姿のまま、俺の頭上を飛びながら答えた。
「目立つからよせ」
これ以上、事態がややこしくなるのはごめんだ。
目立たないように服や雑貨を街で調達できないものか。
「カナメー、人が人を殺そうとしてるよー」
「ん?」
街の中から縄でくくられた女性と子供、兵士が三人が出てきた。
「さっさと歩け!」
「お願い、私はどうでも良いから、この子は助けて!」
兵士の一人は縄を持ち、女性と子供を蹴りつけて歩かせている。
「うるさい! ルールを破って街の外へ逃げようとした者は、殺して海に落とす、そういう決まりだ!」
横暴な決まりだ。
この街の領主は、独裁者か何かなのだろうか。
「カナメ、助けてあげようよ!」
「まあ待て様子を見よう」
「沸き上がれ、僕の神様パワー!」
「おい!」
リーシャンは急に元の竜神の姿に戻った。
俺の五倍くらいの体長の、神々しく輝く純白の竜が、兵士たちの前に舞い降りる。
「愚かな人間たちよ。何をしている」
厳かな声に、兵士たちの動きは止まった。
皆ポカンとしてリーシャンを見ている。
俺は頭を抱えた。
「り、竜神?!」
鑑定スキルを持っている人間は多い。
兵士の一人が鑑定を使ったらしく、リーシャンを見上げて口をパクパクさせている。
「か弱い女性や小さな子供を、海に落とすとは」
「俺たちは、領主さまに言われてやっているだけだ! 何も悪くない!」
女性と子供を蹴っていた兵士が開き直った。
「成敗!」
リーシャンの目がピカッと光り……。
「目からビーム?!」
俺は驚愕した。
目から発射された光線で、開き直った兵士が地面に倒れた。
残った兵士二人はガタガタ震えている。
呆然としていた女性と子供は、縄が切れたことに気付くと、一目散に逃げ出した。
「領主の命令ね。なら、君たちの領主に会わせてもらおうか」
「……は、はい」
リーシャンは勝手に交渉を進めている。
残った兵士は「もう自分が判断できる状況ではない」と考えているらしく、上司か領主の元に連れていくことを承諾した。
彼らの視線が、橋のたもとで驚き呆れて突っ立っている俺の方に向く。
「ええと……?」
誰だろう。どうしてここにいるのだろう、と問いかける目線だ。
俺が答える前に、リーシャンが言った。
「カナメは僕の友達だから、手荒にしないでね」
「はい!」
竜神さまさまだな。
どうぞこちらへ、とぎこちない動きで先導を始める兵士二人に続き、リーシャンは低空飛行で、俺は徒歩で移動を開始する。
リーシャンは俺にこそこそ耳打ちした。
「ね? 街に入れたでしょ?」
「それはそうだけど、領主に会ってどうするんだよ」
「うーんと、殺したら駄目だよ、って叱る?」
善良で純粋な「祝福の竜神」リーシャンらしい言葉だ。
俺は溜息をついた。
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