セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

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第一部 世界熔解

25 決戦《後編》

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 黒崎は、近藤枢が空中に取り出した杖を見て目を見張る。
 あれは神器だ。
 どうやら本気で戦う気になったらしい。
 
「いいだろう。俺に攻撃魔法を撃ってこい、近藤。その時がお前の最後だ」
 
 黒崎のスキル「滅殺返カウンター」は、刀剣による直接攻撃をのぞく魔法攻撃と特殊スキルを弾き、相手を死に至らしめる。
 戦いの最初に真のイカサマを破ったのも、このスキルの効果だった。
 
 目の前の日本刀を振り回す少女は、いつでも殺せる。
 しかし、あえて泳がせて様子を見よう。
 枢が、魔法を撃ち込む隙があると勘違いするように。
 
「さあ、攻撃してくるがいい」
 
 カウンタースキルの効果は、相手の攻撃が強力であればあるほど、返すダメージも増大する。
 枢ほどの魔法の使い手が全力で撃ち込んでくれば、返すダメージも極大になるだろう。その倍返しは仲間もろとも、枢を自滅へ追いやるのだ。
 心菜と戦いながらその時を待った。
 この判断が間違いだったと、黒崎が悟った時には……もう手遅れだった。
 
 
 
 俺は杖を持ったまま、ひたすら味方の補助と回復を続けた。
 黒崎には攻撃しない。
 そもそも、前に出て戦うのは俺の主義じゃないんだ。
 
「はあっ!」
「無駄だと言っている……何?」
 
 裂帛の気合いと共に繰り出された心菜の刺突を受け流し、黒崎が怪訝な顔をする。その頬に、薄皮一枚の切り傷が走った。
 それまで全く傷ひとつ付けられなかった心菜の攻撃が、徐々に威力を増して黒崎に届きつつあるのだ。
 
「どけやこら!」
 
 城山がゾンビを強引に跳ね返した。
 明らかにパワーが上がっている。
 黒崎は跳躍して俺たちから距離を取ると、状況を俯瞰するように鑑定を使ってきた。
 
『城山大地 Lv.170 種族: 人間 クラス: 魔法剣士』
 
「レベルが上がっているだと?!」
 
 驚愕する黒崎を追って、心菜が地を蹴って高く跳ぶ。
 
『鳳心菜 Lv.191 種族: 人間 クラス: つるぎの巫女』
 
 心菜の日本刀の一閃が、危うく避けた黒崎の髪を切り飛ばし、床に深い爪痕を作った。
 
「これは……これが近藤のスキルか?!」
 
 黒崎の驚愕の叫びに、俺は淡々と答える。
 
「俺の聖戦は発動中、味方のレベルを5秒で1レベル上げる。1分で12レベル上がるんだ。10分もありゃ、お前らに追い付いて、追い越す」
 
 異世界でセーブクリスタルだった俺は、ずっと身動きできない状況だった。何が言いたいのかというと、敵が攻めてきても逃げるという選択肢が使えないってことだ。
 絶対に勝たなければならない。
 敗走イコール死なのだから、負けることはできなかった。
 確実に身を守るためには、周囲の人間の力も借りる必要がある。だから俺は、俺を守ってくれる神官や騎士や冒険者たちを最大限、支援し、一時的に実力以上の実力を発揮させて、必ず勝たせる。
 それが、俺の称号【勝利をもたらすもの】の力。
 
「今度が本番だぜ……いかさま!」
 
 寝たふりをしていた真が、飛び起きてスキルを使う。
 真はずっと敵の隙をうかがっていたのだ。
 俺の聖戦でレベルが上がったことにより、基礎能力値が一時的に向上している。
 今なら敵の抵抗を突破できる。
 
「対象は、お前だ!」
「なっ?!」
 
 八代椿とレベルを交換。
 シシアと戦闘中で不意を突かれた八代は、真のスキルにあえなく屈した。
 
陽光矢サンアロー!」
 
 シシアが放った光の矢が八代に向かって飛んでいく。
 矢を受け止めた手鏡が割れ、眩しい光の欠片が彼女の周囲に飛び散った。
 
「ああっ、目が! 目がぁっ!!」
 
 光に目がくらんだのか、八代は両手で顔を押さえて絶叫する。
 
「椿!」
 
 黒崎は心菜の追撃を避けて、八代のもとへ向かう。
 
「悲しき亡者たちよ、闇に還れ! 陽光矢サンアロー!」
 
 シシアは弓矢でゾンビを狙撃し始める。
 三匹のゾンビは次々に倒れ、動揺した三雲の背後に、夜鳥が忍び寄る。
 
「目標の雛人形、奪取完了」
「しまった?!」
 
 三雲が持っていた、アマテラスが封じられた人形を取り返した。
 
『おお、必ず助けに来てくれると信じていたぞ! これがひろいんの気持ちなのかのう、ドキドキするのう』
 
 黒髪をにょろにょろ伸ばした人形が、目を輝かせて俺を見る。
 なんだか呪いを掛けられてる気がするぜ……。
  
「子供は家に帰って寝る時間だ!」
 
 城山が盾で三雲を殴り倒した。
 ゾンビと三雲は片付けた。
 残るは黒崎と、目の見えなくなった八代のみ。
 
「そろそろ降参した方がいいんじゃないか、黒崎」
 
 俺は聖晶神の杖をかかげて、黒崎に突きつけた。
 
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