上 下
12 / 159
第一部 世界熔解

12 手合わせは俺の勝ちでいいよな

しおりを挟む
 俺と心菜は同時に呆気に取られる。
 城山大地という青年は、なぜか俺に試合を申し込んできた。
 
「お台場の戦闘を見たので、鳳さんの戦い方は分かりました。そっちのLv.1の詐欺師は見るからに普通の戦闘向きじゃないから、魔法使いの人で」
「い、いや俺はそういうのは……」
 
 いきなり戦闘に引きずりだされそうになって、俺は慌てて断ろうとした。
 だが城山はにっこり微笑む。
 
「俺は魔法剣士というクラスなんですが、この世界では剣が無いので、実力の半分も発揮できないんですよ。近藤さんがLv.50の魔法使いでも良い勝負だと思いますよ。ちょうど良いでしょう?」
 
 城山は自信満々の口調で、よく聞くと失礼なことを堂々と宣った。
 俺の偽装しているステータスを見て勝てると踏んでいるらしい。
 ちょっと馬鹿じゃないかな。
 
「う、うーん」
 
 俺が断り文句を頑張って考えていると、心菜がぼそりと言った。
 
「枢たんの格好いいところ見たいにゃー」
「あのな心菜」
「枢たん、勝つ自信ないのにゃー?」
「……」
 
 そんな挑発に乗ってたまるか……いや、ちょっと待て。ここで勝負を断って俺にメリットがあるのか、逆に。もう名指しされている時点で目立ってしまっているので、断って地味を装うのは無理だ。
 
「分かった」
 
 俺は手合わせを受けることにした。
 石の身体の時とスペックが少し違うようなので、その違いを検証するのに良いかもしれない。例えば、セーブクリスタルだった時はMPが無限だったが今は固定値だ。スキルの使い方にも違いが出てくるはずである。
 
 
 
 
 真は腕組みして、向かい合う枢と城山を眺めた。
 隣では心菜が「枢たんガンバ!」と声援を送っている。
 
「なあ心菜ちゃん。枢の奴、隠してるレベルどのくらいだと思う?」
 
 真は心菜に聞いてみた。
 この手合わせ、枢が負けるとはどうも思えない真だった。
 色々隠している風な枢だったが、真は「詐欺師」なので枢を積極的に責めるつもりはなかった。真だって異世界での出来事について、枢に話していない事もある。お互い様というやつだ。
 責める資格があるとすれば、心菜だろう。
 恋人の彼女にも、異世界での事を打ち明けていないようだから。
 
 だが心菜は、真の質問の答えとは別なことを言い出した。
 
「真くん、枢たんが辛いもの苦手って知ってる?」 
「あーそういえば」
 
 寿司はワサビ抜き、カレーは甘辛止まり。
 幼馴染みの食べ物の好みを思い出して、真は頭をかいた。
 
「心菜の前では格好つけて、辛いものを無理に食べるんだよ!」
「……レベルの話とどう関係あんの?」
 
 心菜はぐっと拳を握った。
 
「へたれな枢たんだから、実は心菜よりレベル低いことを気にして隠してるのかも?!」
 
 それはどうだろう、と真は思ったが、否定する要素もないので無言で戦いを見守ることにした。
 
 
 
 
 体育館の中央で距離を置いて向かい合う、俺と城山。
 
「もしかして偽装してます?」
 
 城山は俺の冷静な態度に、ステータス偽装の可能性に気付いたようだ。
 
「当たり前だろ。自分の手札を全部オープンにする訳がない」
「ま、そうですよね」
 
 肩をすくめる城山。
 
「レベルが戦いの全てを決める訳じゃないですからね……蛇霊呪カース!」
 
 対戦が始まってすぐ、呪いの呪文が飛んでくる。
 抵抗レジストできるけれど、俺はあえて呪いを受けた。
 本当は自動防御オートシールドで楽々防げるが、それじゃ戦いにならないだろうと思ったので、今回そのスキルはOFF状態だ。
 ステータスの状態の項目が「呪い」になり、状態異常のアイコンがHPのバーの横で点滅する。へえ、呪いってこういう表示になるのか。
 全スキルを強制的に「Lv.10」の状態にする呪い……面白いな。
 
「喰らえ、白火炎ホワイトフレア!」
光盾シールド
 
 続いて飛んでくる城山の炎の魔法。
 俺は落ち着いて防御の魔法を使った。しかしスキルは「Lv.10」に下がっているので効果が落ちている。
 俺の盾の魔法は、城山の炎の前に砕け散りそうだ。
 
「近藤さん、どれだけ高レベルだろうと、呪いに掛かっちゃ関係ないぜ?!」
「そうだな。じゃあ重ねるか」
「へ?!」
 
 俺は追加で、三枚の盾の呪文を重ねた。
 城山の炎を飲み込んで盾は消滅する。
 
「いやいやいや、おかしいでしょ! 同時に使える呪文は一つでしょ?!」
「え……そんな規則あったっけ?」
 
 城山が焦って喚くのを聞いて、俺は首をかしげた。
 
「こうなったら、俺の最強呪文で……低レベルの呪文を何個使っても、無駄だと思い知らせてやる」
 
 城山は呪文の詠唱を始めた。
 強大な効果がある秘伝級の魔法は、呪文の詠唱をする必要があるのだ。
 俺は彼の呪文を聞いていて、ふと「スキルがLv.10に下がった今の状態で最大威力の魔法を使ったらどうなるんだろう」と興味が沸いた。
 論より証拠。
 俺も手持ちの中で一番強力な、秘伝級の魔法を使うために詠唱を始める。
 
「――おれは此の魔法式ねがいの真値を世界に問う」
 
 呪文を唱えるの恥ずかしいな!
 クリスタルの体の時は、念じるだけだった。
 だが、意外にすらすら呪文が出てくる。
 おっとMPが半分に減った。スキルレベルが下がっていてもMPを食うんだな。
 
「熾天使の炎、氷晶の銀狼の足跡、金剛石の――」
 
 各属性の最強魔法を集約する。
 目の前の空中に銀色の光で魔法陣が描かれ、円に沿うように一個ずつ魔法の灯が燃え上がる。
 本来であれば空に浮かぶ巨大な魔法陣になるはずだが、スキルレベルの低下に伴ってサイズが小さくなっているようだ。
 
「やめんか!」
 
 そして途中で、アマテラスに後頭部を叩かれた。
 魔法が中断される。
 振り返ると金色の扇を持って、空中でアマテラスが仁王立ちしていた。
 
「なんで止めるんです?」
「そんな魔法使われたら、妾の結界に穴が空くわ!」
「多少暴れても大丈夫って」
「なにごとも限度がある!」
 
 言っている間に、城山の魔法が完成した。
 炎と雷撃が混合された秘伝魔法が降ってくる。
 俺は咄嗟に呪いをサクッと解呪して、自動防御オートシールドをONにした。
 あっさり城山の魔法をしのいだのは言うまでもない。
 
「馬鹿な……近藤さん、俺の掛けた呪いは?!」
「あ、ごめん。さっき解いちゃった」
 
 スキルレベルが下がっても、基礎能力値や称号の効果があるから、解呪できてしまうんだよな。
 
「解いちゃった、って……」
 
 城山は絶句すると、がっくり肩を落とした。
 俺は城山を哀れに思った。
 
「あー、悪い。じゃあ剣を使って勝負する?」
「剣はないって……」
「じゃあ作ってやるよ」
 
 魔法で近くの地面から鉱石を手元に呼び寄せると、炎と水と風の魔法を使って加工する。
 千年の間、暇だったから、魔法で剣を作る練習をしていたのだ。
 こっそりドワーフの工房を借りて見様見真似で練習して、鍛冶師のおっちゃんを驚かせたりしたな……閑話休題。異世界で石ころをしていた俺は、石だから大地属性の魔法の使用に各種ボーナスが付く。
 
「はい」
 
 数分で基本のロングソードを作って差し出すと、城山はぎょっとした。
 
「近藤さん、この剣はありがたく頂きます。そして、もう勝負は俺の負けで良いです……」
「いいの?」
「うむ。あまりのチート具合に、プレイヤーの者たちもドン引いておるぞ」
 
 俺はアマテラスの指摘に、プレイヤーの仲間を見渡して愕然とした。
 皆、なぜか遠い目をしている。
 わりと加減して戦ったのに、なんでだ?!
 
しおりを挟む
感想 396

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...