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第一部 世界熔解
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「枢たん、メッセージ見てないのかなあ」
心菜は既読の付かないSNSアプリの画面を見て嘆息した。
今朝、心菜は枢にメッセージを送っていたのだが、枢が魂だけ異世界に飛ばされていたなんて知るよしもない。
SNSアプリは閉じて、今度はニュースや異世界関連の情報をチェックする。
「昨夜、大量に出現したモンスターの群れを、誰かが魔法で一気にやっつけたみたいだけど……誰がやったのかな」
異世界転生者の間で、モンスターの残骸の写真などと一緒に「炎か雷の魔法だな」「一人でこの数を倒すのは無理だから、複数の魔法の使い手が連携したか」などと討論されている。
今日も学校は休みらしい。
祖母は台所で料理をしており、弟は調子が悪いらしく自室で休んでいた。心菜は一人、縁側に座ってスマホをいじっている。
その時、玄関で呼び鈴が鳴った。
「はーい」
心菜は、インターホンで玄関のカメラ映像を確かめてぎょっとする。
黒いスーツの男が警察手帳を掲げて立っている。
「鳳心菜さんですね。少しお話を伺いたいのですが」
「ちょ、ちょっとお待ちを!」
通話を一旦切って、しゃがみこんだ。
「どうしようどうしよう。心菜が殺したのがバレてしまいましたか。でも死んでないって枢たんが言っていました……よし」
心菜は意を決して立ち上がった。
念のため、枢と真に追加でメッセージを送る。
身だしなみを整えて玄関の扉を開けた。
「はい……何のご用でしょう……?」
玄関に佇んでいたのは、黒い制服を着た警官と、砂色のトレンチコートを羽織った眼鏡の若い男だった。
「昨日、丸八通りで日本刀を用いて戦闘を行ったのは、あなたですね?」
「!!」
トレンチコートを羽織った男が言った。
彼は薄い眼鏡の向こうから鋭利な視線を心菜にそそぐ。
「な、何のことですか?! 心菜は関係ないですにゃ!」
心菜は動転して、思わず語尾に「にゃ」を付けてしまった。
「隠さなくても大丈夫です。我々はあなたを逮捕しにきたのでは、ありません」
「え……?」
「人間の到達限界である、Lv.100を突破した冒険者は貴重な存在です。貴女には是非、私たちの日本を守るため力を貸して頂きたい」
予想外の話の成り行きに、心菜は唖然とする。
「協力、ですか?」
「私は佐々木と言います。詳しいことは署でお話させてください」
佐々木は、心菜をどこかに連れ去ろうとしている。
信じて付いていっていいものか、心菜は悩んだ。
「……待てよ。ソイツを見つけたのは俺らが先だ」
第三者の声が割って入る。
いつの間に侵入されたのか、庭の方から、赤いジャンバーを着て黒いサングラスを掛けた男が姿を現した。
「よう。リベンジに来たぜ」
「あなたは……!」
昨日、通りで心菜に切りかかってきた男だった。
玄関先に緊張感が走る。
警察官と佐々木は、突然現れた男に身構えた。
「……ボス。予定通り、彼女の弟くんを確保しましたぜ」
家の中から声がした。
心菜はぎょっとして振り返る。
黒いシャツにジーンズの若い男が、弟の空輝を背負って出てきた。
「空輝!」
「こいつは人質だぜ、嬢ちゃん。俺たちに従ってもらおうか」
「なっ?!」
弟は何か魔法を掛けられているのか、ぐったりして動かない。
台所にいる祖母は無事だろうか。
心菜は唇を噛んだ。
男たちに付いていくしか無さそうだ。
俺はその朝、寝坊して心菜からのメッセージを確認するのが遅れていた。
心菜> 助けて枢たん
心菜> 警察が職務質問しにきたみたい
警察?
心菜は真も入れたグループチャットで俺に連絡してきた。
何か尋常じゃない事態に巻き込まれているのかもしれない。
真> 大丈夫か? ったくもう、心菜ちゃんはトラブル巻き込まれ体質だなー。
真からの返信。
文面からは、ちゃかしながらも冷静に頭を働かせようと努める幼馴染みの真剣な様子が伝わってくる。
真> 枢、今どこだ? 合流しようぜ。
俺は合流地点を入力しながら、パーティーの仲間の位置を確認するマップを呼び出す。心菜は移動しているようだ。行き先は……代々木公園だ。
「枢!」
「昨日振りだな、真」
原宿駅で真と合流する。
真は暗雲立ち込める代々木公園の方角を眺めて言った。
「ダンジョンに何の用だろうな。キナ臭いぜ」
全く同感だ。
再度マップを確認すると、心菜は代々木公園の中にいるようだ。
一昨日と違い、公園の出入口は黄色い「立ち入り禁止」テープで封鎖されている。しかし、俺たちは気にせずテープを飛び越えて公園に入った。
「……契約完了だ。手始めにこのダンジョンを攻略して、俺たちのアジトにする」
赤いジャンバーの男が、青ざめた心菜に向かって何か言っている。
俺たちは不穏な場に割り込んだ。
「心菜!」
「おや、昨日の……パーティーを組んでたのか。Lv.1の詐欺師にLv.50の魔法使い……俺らの敵じゃねーな」
赤ジャンバーの周囲には、四人の男女が立っている。
心菜の弟を背負った黒シャツの青年。
鞭を持ったライダースーツの女。
学生服を着た大人しそうな少年。
拳にメリケンサックを付けたスーツの男。
いずれもレベル五十以上だ。
俺は立ち止まって、彼らのステータスを確認する。偽装してる奴もいるな……。
「鳳、パーティーから離脱して、そいつらを討て」
「!!」
心菜は蒼白な表情で、ゆっくり手元に日本刀を召喚して握りしめる。
だいたい状況は分かったぞ。
弟を人質に取られて従わされてるのか。
俺は、心菜のステータスも念のため確認した。
状態が「契約中」か。呪いの一種だな。従わないと苦痛が走ったりする、条件を付けた魔法の契約だ。汚い真似を……。
「真、レベルを交換するなら、あの一番背が低い学生服を着た奴にしろ。偽装してるけど、あいつが一番レベルが高くてLv99だ」
「!……分かった」
俺の出した指示に、真が驚いた顔をしたが、素直に頷く。
「なっ、僕の偽装を見抜いた?! 偽装Lv.90だから看破されたら通知があるはずなのに……」
敵の学生くんは自分のスキルに自信があったのか、信じられないといった様子だ。
「隙を見て空輝くんを取り返してくれ。心菜は、俺に任せろ」
俺が一歩踏み出すと、赤ジャンバーが舌打ちした。
偉そうに心菜に命令する。
「たかがLv.50の魔法使いが、大口叩いてくれるじゃねえか。やれ!」
「で、でも!」
「大丈夫だよ、心菜」
安心してかかっておいで、と俺は両腕を広げて見せる。
心菜は覚悟を決めた表情になり、日本刀を鞘から抜いた。
「やあああああっ!」
気合いの声と共に、心菜が刀を振り下ろす。
俺は動かない。
彼女の刀は、空中に浮かび上がった半透明の青白い光の板に弾かれる。
「何?!」
「……常時発動の自動防御スキルだよ。スキルLv.200以下の攻撃を一切無効化する」
俺は涼しい顔であえてスキルの効果をばらした。
敵の動揺を誘うためである。
案の定、慌てた赤ジャンパーは俺に直接、魔法を飛ばしてきた。
「なら、特殊魔法、眠りの雲!」
視界に『Lv.200以下の魔法を遮断しました』とメッセージ。
おそらく敵さんには『遮断されました』とでも出ているのだろう。
赤ジャンバーの顔がひきつる。
「無駄だ。物理も魔法も特殊も、スキルレベルで引っ掛かったらアウト」
「そんなチートスキルがあったのか?!」
厳密に言えば、奴らの考えているチートスキルとは似て非なるものだけどな。
異世界のセーブポイントの石だった時の俺の称号「けして砕けない石」「永遠に輝くクリスタル」……人々の祈りに応える形で追加された俺の「聖晶神」としてのスキル、それが自動防御だ。
「……心菜、朝メッセージくれてたんだな。気付かなくてごめん」
「枢たん……」
俺は、スマホに届いていた彼女のメッセージを思い出す。
心菜> 異世界で、色んな人と出会って友達や家族に恵まれたけど、いつも心のどこかに穴が空いたみたいだった。枢たんがいない人生なんて、つまらないよ。
心菜> 枢たんは異世界でどんな一生を過ごしたの?
心菜> 私のこと、たまには思い出してくれた?
「……俺も、お前がいない異世界なんてつまらなかったよ。今度は一緒に冒険しようぜ」
「枢たん!」
心菜は瞳を潤ませて、俺の腕の中に飛び込んできた。
俺は彼女をしっかり受け止めて抱き締めると、片腕を前に伸ばして赤ジャンバーを見据える。
「まどろこしい解呪の手順を踏むのは面倒だ。こういうのは術者を倒すのが手っ取り早い。死ぬ覚悟はできてるよな?」
「ま、待て! お前も仲間に加えてやるから」
「チンピラの仲間なんかに誰が入るか」
落雷の音が響いた。
赤ジャンバーは雷に撃たれて悲鳴を上げるが、すぐに黒い炭の柱になり、ボロボロと崩れ落ちる。
「おい……あっさり人を殺しやがったぞ……!」
メリケンサックの男が恐怖して後ずさった。
「……空輝くんは返してもらうぜ」
敵が動揺している隙を付いて、真が「いかさま」でレベルを入れ替え、黒シャツの青年を倒す。大人しそうな学生の少年も、ついでに裏拳で地面に沈めている。
「十秒待ってやる。すぐに逃げないとお前らも消し炭な。ほら、十、九、八……」
「くそっ、覚えてろ!」
俺がカウントダウンを始めると、さすがに勝ち目が無いと感じたのか、メリケンサックの男は捨て台詞を残して逃げ出した。
他の仲間も急いで去って行く。
俺の胸に顔を伏せていた心菜が、顔を上げておずおずと聞いてくる。
「枢たん、あの人、殺しちゃったの?」
「いーや」
「?」
俺は口の端に笑みを浮かべた。
セーブポイントとしての俺のスキル「時間巻戻」。俺がスキルで「記録保存」した冒険者は、死んでも予め指定した場所で蘇生する。
今頃、赤ジャンバーは昨日戦った丸八通りの路上で飛び起きて、呆然としていることだろう。
心菜は既読の付かないSNSアプリの画面を見て嘆息した。
今朝、心菜は枢にメッセージを送っていたのだが、枢が魂だけ異世界に飛ばされていたなんて知るよしもない。
SNSアプリは閉じて、今度はニュースや異世界関連の情報をチェックする。
「昨夜、大量に出現したモンスターの群れを、誰かが魔法で一気にやっつけたみたいだけど……誰がやったのかな」
異世界転生者の間で、モンスターの残骸の写真などと一緒に「炎か雷の魔法だな」「一人でこの数を倒すのは無理だから、複数の魔法の使い手が連携したか」などと討論されている。
今日も学校は休みらしい。
祖母は台所で料理をしており、弟は調子が悪いらしく自室で休んでいた。心菜は一人、縁側に座ってスマホをいじっている。
その時、玄関で呼び鈴が鳴った。
「はーい」
心菜は、インターホンで玄関のカメラ映像を確かめてぎょっとする。
黒いスーツの男が警察手帳を掲げて立っている。
「鳳心菜さんですね。少しお話を伺いたいのですが」
「ちょ、ちょっとお待ちを!」
通話を一旦切って、しゃがみこんだ。
「どうしようどうしよう。心菜が殺したのがバレてしまいましたか。でも死んでないって枢たんが言っていました……よし」
心菜は意を決して立ち上がった。
念のため、枢と真に追加でメッセージを送る。
身だしなみを整えて玄関の扉を開けた。
「はい……何のご用でしょう……?」
玄関に佇んでいたのは、黒い制服を着た警官と、砂色のトレンチコートを羽織った眼鏡の若い男だった。
「昨日、丸八通りで日本刀を用いて戦闘を行ったのは、あなたですね?」
「!!」
トレンチコートを羽織った男が言った。
彼は薄い眼鏡の向こうから鋭利な視線を心菜にそそぐ。
「な、何のことですか?! 心菜は関係ないですにゃ!」
心菜は動転して、思わず語尾に「にゃ」を付けてしまった。
「隠さなくても大丈夫です。我々はあなたを逮捕しにきたのでは、ありません」
「え……?」
「人間の到達限界である、Lv.100を突破した冒険者は貴重な存在です。貴女には是非、私たちの日本を守るため力を貸して頂きたい」
予想外の話の成り行きに、心菜は唖然とする。
「協力、ですか?」
「私は佐々木と言います。詳しいことは署でお話させてください」
佐々木は、心菜をどこかに連れ去ろうとしている。
信じて付いていっていいものか、心菜は悩んだ。
「……待てよ。ソイツを見つけたのは俺らが先だ」
第三者の声が割って入る。
いつの間に侵入されたのか、庭の方から、赤いジャンバーを着て黒いサングラスを掛けた男が姿を現した。
「よう。リベンジに来たぜ」
「あなたは……!」
昨日、通りで心菜に切りかかってきた男だった。
玄関先に緊張感が走る。
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家の中から声がした。
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黒いシャツにジーンズの若い男が、弟の空輝を背負って出てきた。
「空輝!」
「こいつは人質だぜ、嬢ちゃん。俺たちに従ってもらおうか」
「なっ?!」
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心菜> 警察が職務質問しにきたみたい
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心菜は真も入れたグループチャットで俺に連絡してきた。
何か尋常じゃない事態に巻き込まれているのかもしれない。
真> 大丈夫か? ったくもう、心菜ちゃんはトラブル巻き込まれ体質だなー。
真からの返信。
文面からは、ちゃかしながらも冷静に頭を働かせようと努める幼馴染みの真剣な様子が伝わってくる。
真> 枢、今どこだ? 合流しようぜ。
俺は合流地点を入力しながら、パーティーの仲間の位置を確認するマップを呼び出す。心菜は移動しているようだ。行き先は……代々木公園だ。
「枢!」
「昨日振りだな、真」
原宿駅で真と合流する。
真は暗雲立ち込める代々木公園の方角を眺めて言った。
「ダンジョンに何の用だろうな。キナ臭いぜ」
全く同感だ。
再度マップを確認すると、心菜は代々木公園の中にいるようだ。
一昨日と違い、公園の出入口は黄色い「立ち入り禁止」テープで封鎖されている。しかし、俺たちは気にせずテープを飛び越えて公園に入った。
「……契約完了だ。手始めにこのダンジョンを攻略して、俺たちのアジトにする」
赤いジャンバーの男が、青ざめた心菜に向かって何か言っている。
俺たちは不穏な場に割り込んだ。
「心菜!」
「おや、昨日の……パーティーを組んでたのか。Lv.1の詐欺師にLv.50の魔法使い……俺らの敵じゃねーな」
赤ジャンバーの周囲には、四人の男女が立っている。
心菜の弟を背負った黒シャツの青年。
鞭を持ったライダースーツの女。
学生服を着た大人しそうな少年。
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いずれもレベル五十以上だ。
俺は立ち止まって、彼らのステータスを確認する。偽装してる奴もいるな……。
「鳳、パーティーから離脱して、そいつらを討て」
「!!」
心菜は蒼白な表情で、ゆっくり手元に日本刀を召喚して握りしめる。
だいたい状況は分かったぞ。
弟を人質に取られて従わされてるのか。
俺は、心菜のステータスも念のため確認した。
状態が「契約中」か。呪いの一種だな。従わないと苦痛が走ったりする、条件を付けた魔法の契約だ。汚い真似を……。
「真、レベルを交換するなら、あの一番背が低い学生服を着た奴にしろ。偽装してるけど、あいつが一番レベルが高くてLv99だ」
「!……分かった」
俺の出した指示に、真が驚いた顔をしたが、素直に頷く。
「なっ、僕の偽装を見抜いた?! 偽装Lv.90だから看破されたら通知があるはずなのに……」
敵の学生くんは自分のスキルに自信があったのか、信じられないといった様子だ。
「隙を見て空輝くんを取り返してくれ。心菜は、俺に任せろ」
俺が一歩踏み出すと、赤ジャンバーが舌打ちした。
偉そうに心菜に命令する。
「たかがLv.50の魔法使いが、大口叩いてくれるじゃねえか。やれ!」
「で、でも!」
「大丈夫だよ、心菜」
安心してかかっておいで、と俺は両腕を広げて見せる。
心菜は覚悟を決めた表情になり、日本刀を鞘から抜いた。
「やあああああっ!」
気合いの声と共に、心菜が刀を振り下ろす。
俺は動かない。
彼女の刀は、空中に浮かび上がった半透明の青白い光の板に弾かれる。
「何?!」
「……常時発動の自動防御スキルだよ。スキルLv.200以下の攻撃を一切無効化する」
俺は涼しい顔であえてスキルの効果をばらした。
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おそらく敵さんには『遮断されました』とでも出ているのだろう。
赤ジャンバーの顔がひきつる。
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「……心菜、朝メッセージくれてたんだな。気付かなくてごめん」
「枢たん……」
俺は、スマホに届いていた彼女のメッセージを思い出す。
心菜> 異世界で、色んな人と出会って友達や家族に恵まれたけど、いつも心のどこかに穴が空いたみたいだった。枢たんがいない人生なんて、つまらないよ。
心菜> 枢たんは異世界でどんな一生を過ごしたの?
心菜> 私のこと、たまには思い出してくれた?
「……俺も、お前がいない異世界なんてつまらなかったよ。今度は一緒に冒険しようぜ」
「枢たん!」
心菜は瞳を潤ませて、俺の腕の中に飛び込んできた。
俺は彼女をしっかり受け止めて抱き締めると、片腕を前に伸ばして赤ジャンバーを見据える。
「まどろこしい解呪の手順を踏むのは面倒だ。こういうのは術者を倒すのが手っ取り早い。死ぬ覚悟はできてるよな?」
「ま、待て! お前も仲間に加えてやるから」
「チンピラの仲間なんかに誰が入るか」
落雷の音が響いた。
赤ジャンバーは雷に撃たれて悲鳴を上げるが、すぐに黒い炭の柱になり、ボロボロと崩れ落ちる。
「おい……あっさり人を殺しやがったぞ……!」
メリケンサックの男が恐怖して後ずさった。
「……空輝くんは返してもらうぜ」
敵が動揺している隙を付いて、真が「いかさま」でレベルを入れ替え、黒シャツの青年を倒す。大人しそうな学生の少年も、ついでに裏拳で地面に沈めている。
「十秒待ってやる。すぐに逃げないとお前らも消し炭な。ほら、十、九、八……」
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他の仲間も急いで去って行く。
俺の胸に顔を伏せていた心菜が、顔を上げておずおずと聞いてくる。
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「いーや」
「?」
俺は口の端に笑みを浮かべた。
セーブポイントとしての俺のスキル「時間巻戻」。俺がスキルで「記録保存」した冒険者は、死んでも予め指定した場所で蘇生する。
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