セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

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第一部 世界熔解

05 その頃の異世界

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 駅前の繁華街は閑散としていた。
 皆、モンスターを恐れているのか、外出していないようだ。店もいくつかはシャッターが降りている。
 今日は学校は休みだ。明日は学校あるのかな。永遠に休校でも俺は構わない。
 パーティーを組んだ俺たち三人は、作戦会議のために駅前のうどん屋に入って、なぜか一番安いカレーを頼んだ。ちなみにカレーは心菜のリクエストだ。
 
「さて、これからの行動方針を決めたいところだが……」
「はい! 秘密基地を作りましょう!」
 
 心菜はスプーンを持った手を挙げて提案した。
 
「崖がゴゴーっと二つに割れたら、隊員の乗った飛行機が発射するんです」
「意味不明だ。却下」
 
 俺は頬杖を付いて、真を流し見た。
 真はへらりと笑う。
 
「そうだなー。今の内にダンジョンに潜って、宝箱を開けまくろう……とした冒険者から財産をくすねる準備をしようぜ。代々木公園の前に換金所を作って、素材を安く買い取る。そして転売する」
「なんで闇商売始めるんだよ。却下」
 
 どいつもこいつも、ろくな事を考えねーな。
 
「じゃあ枢っちは何をするんだよ」
「俺?」
 
 真と心菜は、俺の答えを待っている。
 
「……道具屋をやりたい」
「枢っち、生産系ジョブが好きなの? 魔法使いなのに?」
「できなかったから、したいというか……」
 
 異世界でクリスタルの体だった時、小さな工房を営む職人の生活を見て、良いなあと思ったのだ。大富豪で無くて良い。貧乏だけど自分の好きな物を作る、慎ましくて平穏な生活がずっと続けば良い。
 あれ? いつの間にか本題から逸れてる気がするぞ。
 何の話をしていたっけ。
 俺が悩んでいる間、真はあっけらかんと話題を変えた。
 
「俺たちの中では、心菜ちゃんが最高レベルかー。Lv.100を越えてるやつなんて、めったにいないもんな。ま、普通の人間の限界レベルは100だし」
「そうなのか?」
「そうだよ。枢っち、どうしたん? そんな難しい顔をして」
 
 確かに人間はLv.100以下が多かったな。寿命があるから、レベル上げする時間が限られているんだ。俺は人外だから関係なかったけど……。
 
「枢っち、ステータス偽装してるよな。本当のレベルはLv.50じゃないだろ」
「ギクッ」
 
 真の指摘に、俺はひきつった顔をした。
 
「本当のレベルは?」
「……九九……八十一……なんちゃって」
「そうかーLv.81かー……なんて誤魔化されるか! 本当はいくつなんだよ?!」
「……999」
 
 真と心菜は「何言ってんだコイツ」という表情になった。
 なんか……すんません。
 
「後で本当のレベルを教えてくれよー」
「……うん」 
 
 俺は頷きながら、当分ステータスを明かすのは無理だな、と諦めた。
 
 
 
 
 その日の夜。
 俺は、異世界の夢を見た。
 
 
 
 
 目を開けた時……俺が見たものは自室の天井ではなく、瓦礫の散らばる大広間だった。
 異世界のアダマス王国にある守護結晶《じぶん》が祀られた大聖堂。
 ヒビが入ったクリスタルの俺の身体は、半壊した大聖堂の床に転がっている。
 いったい何がどうなってるんだ?!
 広間は穴ぼこだらけで天井は崩れ落ち、青空が見えていた。
 イイテンキダナー(棒読み)。
 しばし放心する。
 
「……おお、またしても聖なるクリスタルが、我々を救ってくださった」
 
 煤と灰に汚れた神官服を着た人々が、恭しく俺を持ち上げ、丁寧に台座に戻す。復旧工事が始まるみたいだ。
 状況から鑑みるに、ここはあの金色のヤマタノオロチと戦った後の世界らしい。敵の攻撃を受けて、もう死ぬ! と覚悟した後、何故か現実世界で目覚めた訳だが、異世界の方の続きである。
 
「暗雲の主は去り、空が帰ってきた。なんたる奇跡だ……」
 
 この日を国民の祝日にしよう、とか偉い人が言ってるようだ。
 俺のおかげで休みが増えて良かったな、うん。
 それにしても異世界の石ころに逆戻りか。
 もしかして「死ぬ前にもう一度心菜に会いたい」と思っていたから、願いが叶って一時的に現実に帰ったのかな。
 
 つらつら考えていると、上空で突風が吹く。
 真珠のような鱗を持つ竜が広間に降りてきた。
 
「皆のもの、攻撃するな! あれは竜神ぞ! 敵のモンスターではない!」
 
 神官たちは驚いて臨戦体勢になるが、すかさず白い髭を蓄えた偉そうな爺さんが制止する。
 賢明な判断だ。
 
『祝福の竜神リーシャン Lv.999』
 
 黄金の角を額に戴いた、美しい白い鱗の竜神リーシャン。
 何を隠そう、石ころでボッチの異世界の俺にできた、希少な友達である。
 
「心配したよ~、アダマント! 砕けちゃったかと思った! 君がいなくなったら僕は寂しくて死んじゃう!」
 
 リーシャンの声は高くて性別が分からない。
 そんなキンキン喚くな。
 傷《ヒビ》に響くだろ。
 
「あー、ヒビが入ってる! アダマント~!」
 
 リーシャンは俺の傷を見て大騒ぎした。
 石ころの俺はしゃべれない。
 だがリーシャンは読心能力があるらしく、ぼんやり俺の意思や感情を読み取って会話してくれる。きちんと話せたら俺の名前はカナメだと伝えられたのだが、そこまで正確な意志疎通はできなかった。
 
「君が放った光で、黙示録獣アポカリプスは頭をいくつかが吹き飛ばされ、退散したんだよ」
 
 黙示録獣アポカリプスとは、あの金色のヤマタノオロチのことだろうか。
 
「そうだよ。奴はこの世界を平らげることを一旦、諦めたみたい。別の世界に向かっている」
 
 別の世界、だと……?
 
「時空のメルトダウンの影響で、この世界は今、別のジ・アースという世界と繋がっているんだ。黙示録獣《アポカリプス》はジ・アースへ向かった。そちらの世界の方が滅ぼしやすそうなんだろ」 
 
 な、なんだってーーっ?!
 俺は驚愕しながら、同時にリーシャンの台詞が重要な情報を含んでいることに気付く。
 心菜との再会はやっぱり現実だった。
 異世界が現実世界を侵略しつつある。
 えらいこっちゃ。
 
「なんでそんな焦ってるの? もうっ、アダマントの考えていることがもっと詳しく分かれば良いのになー」
 
 リーシャンは手足をバタバタさせた。
 床が壊れるから止めて。
 それに読心能力を発達させるより、普通に肉声で話をしようよ。考え読まれるとか怖い。
 現在世界の地球でなら、人間の身体だから普通に会話できるんだけどな……あちら側に戻るにはどうしたらいいんだ。
 
「今度は悩んでる。うーん……しょうがないな。次に来る時は、壁の補修ができるミラクル修正テープを持ってくるよ! きっとアダマントの傷も直るから!」
 
 頼んでない。ひとを壁と一緒にすんな。
 
「じゃあ、またね!」
 
 言いたい事だけ言って、リーシャンは壁の穴から帰って行った。
 黙って隅で佇んでいた神官の一人がぼそりと言う。
 
「竜神さま……どうせなら大聖堂の補修を手伝って下さらないのでしょうか」
 
 それ、俺もちょっとそう思った。
 
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