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第二部
64 スタートアップミーティング
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今回は、コンゴウ船内での戦いなので、古神に乗らない。
相棒の狸には念のためスサノオで待機して欲しかったが、狸は嫌がった。
「言うことを聞かないと葉っぱをむしるぞ?」
「……!」
狸の頭の葉っぱをつまむと、意外に簡単に取れた。
植物に詳しい訳じゃないが、狸がいつも頭に載せている葉っぱは、絵に描いたような丸みを帯びた流線形で、桜餅を包む桜の葉に似ている。
「へー。いつでも青々としてるから、たぬきの一部かと思ってたけど、取れるんだ」
「……」
「……なんか、ごめん」
ぶるぶる震えて涙を流す狸に、俺は罪悪感が半端なくなってきて、葉っぱを返した。
結局、狸を連れていくことになった。
「気になってはいたんだが、そのたぬきは、響矢の縁神《よりがみ》なのか?」
弘が、俺と狸のじゃれあいを見ながら聞いてきた。
「ああ、そうだよ」
俺は反対したが、押し切られる形で弘は同行することになっている。
御門さんの判断で武器は渡さないことになった。下手に真剣や銃を渡して、味方を傷つけられたらかなわない。護身のための木刀だけ装備させている。
そういえば弘は、この世界に来てから縁神を得ていない。
怖いから触りたくないけれど、興味がある的な複雑な面持ちで狸を見ている。
「古神に乗るのに、縁神が必要だと聞いたが……」
古神操縦者を目指していた弘は、縁神に興味があるのだろう。古神の操縦をする時に、五感をフィードバックするため、縁神の仲介が必要なのだ。
「響矢くんのたぬきは愛嬌があって可愛いね。うちのオサキギツネも、もうちょっと愛想がよくなったらいいんだが」
「御門さん、縁神はキツネなんですか?」
詰襟に袴を着た書生姿の御門さんは、腰に下げた水筒の蓋を開けてみせた。
三角形の鼻先が見えたが、すぐに奥にひっこむ。
オコジョみたいな縁神だな。
「シャイなんですね」
「そうなんだ。なかなか人前に出てこない」
俺は、会話に加わらずぼうっとしている景光を振り返った。
「景光は、どんな縁神を連れてるんだ?」
「……」
「景光?」
俺と同じく日本刀を装備している景光は、名前を呼んでやると我に返ったように、こちらを見た。
「どうかしたのか?」
「いえ……縁神ですか。俺のはトカゲです」
景光が腕を上げると、尻尾がコバルトブルーの小さなトカゲがするすると指先まで登ってくる。
「うわぁ、かわいい! 俺、縁神はトカゲの方がいいかも」
「……」
「冗談だよ、たぬき」
俺は隅っこに行きかけた狸を捕まえ、抱え上げてモフった。
「えーー、皆さん、作戦を確認してもいいですかね?」
「小坂さん、ごめん。なごみすぎた」
「仲が良いのは良いことですけどね」
すっかり忘れていたが、戦艦コンゴウが設置されている飛行場の一角で、俺たちは集まって最終ミーティングをしているところだった。
俺が強権を使って参加してもらった小坂さんが、作戦の説明をしてくれる。
「突入後、まずは戦艦コンゴウの機関制御室を目指します。船が動かせないように、制御を奪ってしまいましょう。その後、連中の首魁がいると思われる艦橋を制圧します」
「小坂さん達、技師を実戦部隊が護衛する。僕と響矢くんは切り込み役だ」
御門さんが補足する。
小坂さんたち技師チーム、俺たちを援護する銃で武装した突入チームの面々が、神妙な顔つきで頷いた。
「響矢くん、締めに一言」
「俺?」
総大将だろうと、御門さんが目線で言っている。
仕方なく俺は、狸を胸に抱えたまま前に進み出た。
「えー、皆さん、命大事にでお願いします。危なくなったら遠慮なく脱出してください。俺と御門さんが、絶対皆さんを家族のもとに返すんで」
昔ならこんな台詞、口が裂けても言わなかっただろうな、と思う。
今は……皆を守る力があると自覚しているし、その力をどう振るうべきかも分かっているつもりだ。
「「「はい!!!」」」
俺の台詞は、違和感なくその場に響き渡った。
部隊の面々は気合の入った返事をしてくれる。
よかった、言う事を聞いてくれて。若造だと侮られたり、狸モフるなと突っ込まれたらどうしようかと思った。これもご先祖様の威光のおかげか。
「響矢……」
「なに、弘?」
「お前、変わったな」
弘が初めて見る人を見るように、俺をまじまじと凝視した。
俺は、ふっと笑う。
「変わってないよ」
自分に自信がないのは、以前と変わらない。
モブで雑魚な村田くんが何をやっているのやら。
だけど、先祖代々受け継いできた遺志がある。
――響矢くん。古神との同調率を上げる方法を久我家が知っていること、そして君の霊力の高さには、理由がある。
叔父さんが教えてくれた。
俺の強さは、努力して手に入れた強さじゃない。
天性の才能とか、そういうものでもない。
恵まれた俺には、この力を先祖に恥じないよう使う責任がある。
相棒の狸には念のためスサノオで待機して欲しかったが、狸は嫌がった。
「言うことを聞かないと葉っぱをむしるぞ?」
「……!」
狸の頭の葉っぱをつまむと、意外に簡単に取れた。
植物に詳しい訳じゃないが、狸がいつも頭に載せている葉っぱは、絵に描いたような丸みを帯びた流線形で、桜餅を包む桜の葉に似ている。
「へー。いつでも青々としてるから、たぬきの一部かと思ってたけど、取れるんだ」
「……」
「……なんか、ごめん」
ぶるぶる震えて涙を流す狸に、俺は罪悪感が半端なくなってきて、葉っぱを返した。
結局、狸を連れていくことになった。
「気になってはいたんだが、そのたぬきは、響矢の縁神《よりがみ》なのか?」
弘が、俺と狸のじゃれあいを見ながら聞いてきた。
「ああ、そうだよ」
俺は反対したが、押し切られる形で弘は同行することになっている。
御門さんの判断で武器は渡さないことになった。下手に真剣や銃を渡して、味方を傷つけられたらかなわない。護身のための木刀だけ装備させている。
そういえば弘は、この世界に来てから縁神を得ていない。
怖いから触りたくないけれど、興味がある的な複雑な面持ちで狸を見ている。
「古神に乗るのに、縁神が必要だと聞いたが……」
古神操縦者を目指していた弘は、縁神に興味があるのだろう。古神の操縦をする時に、五感をフィードバックするため、縁神の仲介が必要なのだ。
「響矢くんのたぬきは愛嬌があって可愛いね。うちのオサキギツネも、もうちょっと愛想がよくなったらいいんだが」
「御門さん、縁神はキツネなんですか?」
詰襟に袴を着た書生姿の御門さんは、腰に下げた水筒の蓋を開けてみせた。
三角形の鼻先が見えたが、すぐに奥にひっこむ。
オコジョみたいな縁神だな。
「シャイなんですね」
「そうなんだ。なかなか人前に出てこない」
俺は、会話に加わらずぼうっとしている景光を振り返った。
「景光は、どんな縁神を連れてるんだ?」
「……」
「景光?」
俺と同じく日本刀を装備している景光は、名前を呼んでやると我に返ったように、こちらを見た。
「どうかしたのか?」
「いえ……縁神ですか。俺のはトカゲです」
景光が腕を上げると、尻尾がコバルトブルーの小さなトカゲがするすると指先まで登ってくる。
「うわぁ、かわいい! 俺、縁神はトカゲの方がいいかも」
「……」
「冗談だよ、たぬき」
俺は隅っこに行きかけた狸を捕まえ、抱え上げてモフった。
「えーー、皆さん、作戦を確認してもいいですかね?」
「小坂さん、ごめん。なごみすぎた」
「仲が良いのは良いことですけどね」
すっかり忘れていたが、戦艦コンゴウが設置されている飛行場の一角で、俺たちは集まって最終ミーティングをしているところだった。
俺が強権を使って参加してもらった小坂さんが、作戦の説明をしてくれる。
「突入後、まずは戦艦コンゴウの機関制御室を目指します。船が動かせないように、制御を奪ってしまいましょう。その後、連中の首魁がいると思われる艦橋を制圧します」
「小坂さん達、技師を実戦部隊が護衛する。僕と響矢くんは切り込み役だ」
御門さんが補足する。
小坂さんたち技師チーム、俺たちを援護する銃で武装した突入チームの面々が、神妙な顔つきで頷いた。
「響矢くん、締めに一言」
「俺?」
総大将だろうと、御門さんが目線で言っている。
仕方なく俺は、狸を胸に抱えたまま前に進み出た。
「えー、皆さん、命大事にでお願いします。危なくなったら遠慮なく脱出してください。俺と御門さんが、絶対皆さんを家族のもとに返すんで」
昔ならこんな台詞、口が裂けても言わなかっただろうな、と思う。
今は……皆を守る力があると自覚しているし、その力をどう振るうべきかも分かっているつもりだ。
「「「はい!!!」」」
俺の台詞は、違和感なくその場に響き渡った。
部隊の面々は気合の入った返事をしてくれる。
よかった、言う事を聞いてくれて。若造だと侮られたり、狸モフるなと突っ込まれたらどうしようかと思った。これもご先祖様の威光のおかげか。
「響矢……」
「なに、弘?」
「お前、変わったな」
弘が初めて見る人を見るように、俺をまじまじと凝視した。
俺は、ふっと笑う。
「変わってないよ」
自分に自信がないのは、以前と変わらない。
モブで雑魚な村田くんが何をやっているのやら。
だけど、先祖代々受け継いできた遺志がある。
――響矢くん。古神との同調率を上げる方法を久我家が知っていること、そして君の霊力の高さには、理由がある。
叔父さんが教えてくれた。
俺の強さは、努力して手に入れた強さじゃない。
天性の才能とか、そういうものでもない。
恵まれた俺には、この力を先祖に恥じないよう使う責任がある。
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