異世界転移でモブの俺はよくある不遇パターンかと思ったら、イケメン幼馴染みは一般人で俺が救世主になってるんだが

空色蜻蛉

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第二部

36 叔父さん家が幽霊屋敷になっていた件

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 昔から英雄を輩出する家として有名な久我だが、俺が異世界転移してくるまで寂れていた。長く古神操縦者が出せなかったため、乗る者のいない久我専用の古神ロボットのメンテナンス費用で家計が火の車になったのだ。家臣は呆れて久我を見放した。
 かくして過去は荘厳華麗だった屋敷は見る影もない、ペンペン草ばかりの幽霊屋敷に変貌していた。しかもホラー効果を増強する、狐火がピョンピョン飛び回っている。
 
「ここが久我家……没落したというのは、本当だったのですね」
 
 景光が、壊れた門構えを見てコメントする。
 最近、来ていなかったけど、前より酷くなってないか……おかしいな。
 
「お邪魔しまーす。こんばんわー、叔父さん」
 
 俺はずかずかと敷地内に踏み込み、扉をガラリと開けた。
 気分は、実家へ帰省した息子だ。
 
「おかえりー、響矢くーん……」
「うわっ」
 
 叔父さんが燭台を手に現れた。
 真っ暗で、蝋燭の火で下からライトアップされた叔父さんは、真夏の恐怖動画の登場人物みたいだ。
 怖いから電気を付けようよ!
 
「い、いったいどうしたの叔父さん。屋敷に灯りも付けないで」
「ちょっと事情があってね。でもさすがに響矢くんが来たから、灯りを付けても怒られないよね?」
「誰が怒るんだよ。叔父さんが屋敷の主でしょ」
 
 叔父さんの言動がおかしい。
 問い詰めようとしたところで、門の前に誰かが立った。
 
「追い付いたぞ!」
「逃げた先が、荒れ放題の無人屋敷とは都合がいい。ここなら人目を気にせず殺せるな」
 
 景光の追っ手だ。
 男たちは、真剣を抜いてジリジリと迫ってくる。
 
『……許しも得ず、敷地内に勝手に入ってくるとは……』
 
 突然、奇妙なエコーがかった男性の声が響いた。
 
『……何たる不届き者。出直すがよい!……』
 
 夏なのに肌寒いほど気温が下がる。
 冷たい風が夜の庭に吹いた。
 見えない大きな透明な手につまみあげられたように、追っ手の二人組の男の体が、空中に浮き上がる。
 
「うわあああっ」
「こ、これは霊障?! 本物の幽霊屋敷だったのか?!」
 
 二人組の男は空中でもがいた。
 見えない手は、ポーンと男たちを門の外へ放り出す。
 男たちは地面で尻餅を付いた。
 
「くそっ、仕事は中止だ! 逃げるぞ!」
 
 ポルターガイストに怯えた男たちは一目散に逃げ出した。
 俺は何も言えずに彼らの後ろ姿を見送る。
 
「ほら、怒られたでしょ」
 
 叔父さんが、やれやれと肩をすくめた。
 いい加減、状況を説明してくれませんかね。
 
 
 
 
 屋敷の照明がフル稼働したため、久我家は幽霊屋敷から、ちょっと古くて汚い屋敷にチェンジした。
 俺は景光を伴い、座敷に上がって叔父さんに向かいあう。
 叔父さんの妻の紀子さんが、よく冷えた麦茶を配膳してくれた。
 
「古神オモイカネを天照防衛特務機関に譲渡したから、古神のメンテナンス費用は払わなくてよくなったはずだろ。家計に余裕ができたんじゃないの?」
「実は借金もしていてね。つい先日、払い終えたんだ。それで蓄えが尽きてね。響矢くんの言う通り、これからは古神維持費用を払わなくて良いのだが、今は現金が無い状態なんだ」
 
 叔父さんはニコニコ笑顔で説明する。
 しかし久我家がそこまで困窮していたなんて、俺は聞いていなかったぞ。

「お金が必要なら、俺に相談してくれれば良かったのに」
「いや、さすがに甥っ子に金の無心はできないよ」
 
 まあ、そうだよな。
 
「ちょうど盆だっただろう。先祖の霊が現世にやってくる季節だ」
「盆?」
 
 突然、叔父さんの話の風向きが変わったので、俺は困惑した。
 
「現金が無くて、仏壇に十分なお供えが出来なくてね。お盆を過ぎたんだけど、ご先祖様があの世に帰ってくれなくて」
「はあ?!」
 
 先ほど男二人組を吹っ飛ばしたのは、本物のポルターガイスト、本物の幽霊の仕業らしい。
 異世界だから、精霊神獣妖怪もいれば、そりゃ幽霊もいるか……。
 
「ご先祖様の幽霊?」
「そうそう。ほら、響矢くんが入ってきても無反応だっただろう。家族を傷付けたりはしないのさ」
 
 それで叔父さんは「響矢くんが帰ってきたから灯りを付けても大丈夫だよね」と言った訳か。分かったような分からないような。
 
「ちなみに居残ってるご先祖様って、誰?」
「久我透矢だよ」
「!!」
 
 景光が、いきなり顔を上げて前に乗り出した。
 
「それって幕末の古神復活戦争で活躍した、あの久我透矢ですか?! ご本人の霊魂なんですか?!」
「そうだよ」
「うーわ、会ってみたいなあ!」
 
 歴史上の人物が、現世に舞い戻って来ていると知って、景光は大フィーバーだ。気持ちは分からんでもない。俺だって織田信長や坂本龍馬の幽霊が現れたら、実際どんな人物だったか話してみたくなる。
 しかし自分が生まれた地球の歴史にいない英雄で、しかもご先祖様なので、俺は今ひとつ感激できない。
 
「ふーん。とりあえず挨拶して、そんで説得して、あの世に帰ってもらうか。仏間にいるの?」
「響矢くんは冷静だねー。ああ、仏間におられるよ。暗い方が落ち着くそうだ」
「幽霊だけに? あ、お供え物持ってきてないや。代わりに、たぬきを供えちゃ駄目かな?」
 
 俺の膝の上の狸がビクッとした。
 適当な冗談を、叔父さんは笑顔でかわす。
 
「駄目だと思うよ」
 
 ですよね。
 一方、なぜか景光は慌てている。
 
「ちょっと、大丈夫なんですか?!」
「何が」
「偽物だってバレたら、追い出されるんじゃ」
 
 景光は、俺が久我家の血を引いていない偽物だと思い込んでいるらしい。
 ところで叔父さんはやっと景光に視線を向けて「この子誰?」と間抜けた事を言っている。
 
「じゃあご先祖様に鑑定してもらおうか」
 
 説明するのが面倒になった俺は立ち上がり、仏間を目指した。
 襖《ふすま》をパンッと開くと、暗闇の中に正座してブツブツ言っている若い男がいた。
 
『心配じゃなあ。心配じゃ。この屋敷の荒れ具合。抜けておる優矢だけで、この先切り盛りしていけるのじゃろうか。不安で彼岸に帰れんわい』
 
 幽霊は、見た目の年頃は俺より少し上ぐらい。袴を着て、頭は月代を剃っている。時代劇に出てくる若殿様の格好だ。
 叔父さんに灯りを付けてもらう。
 仏間は明るくなり、畳の広い座敷が見渡せるようになった。
 
「はじめまして。あなたの子孫の響矢です」
 
 自己紹介すると、ご先祖様はガバッと振り向く。
 
『おお、響矢じゃないか。大きうなったのう!』
「あれ? ご存知でした?」
『わしら死人は、異世界に行き来し放題じゃから、響矢の事も知っておるよ。久我家に元気な男の子が生まれたと、あの世で祝杯を上げたのが昨日のようじゃ』
 
 景光が人差し指を俺に向けて「本物?」と泣きそうな顔をする。
 
「だからそう言ってるだろ」
「大変、失礼をいたしましたーーっ」
「え? この子なに? どうしたの?」
『若いのぅ』
 
 畳に土下座する景光。叔父さんは仰天して、ご先祖様はホッホッと笑っている。
 
「透矢爺ちゃん、この家は綺麗に改装して、仏壇にメロンを供えるから、安心して帰っていいよ」
『しっかりしとる響矢がおれば久我家は安泰じゃのう。ところで、そのモフモフはなんじゃ? 響矢の縁神か?』
「ああ、そうだよ。たぬき撫でてみる?」
 
 ご先祖様は、狸をモフッてからご満悦で帰っていった。
 叔父さんは手拭いを取り出して額の汗をぬぐう。
 
「はー。助かったよ響矢くん。ところで、その子は友達かい?」
「うん、今日友達になった。こいつ、家出したんだってさ。叔父さん家においてやれないか? 代わりに屋敷の炊事洗濯掃除なんでもやるって」
 
 景光が唖然とした顔で「友達?」と聞き返した。
 
「そう、友達」
 
 俺はフフンと笑って言う。
 
「掃除してくれるのかい?! 嬉しいなー。屋敷が広くて手が回らなかったところだよ! 来てすぐに、一気に二つも三つも懸案を解決してくれるなんて、さすが響矢くん!」
 
 叔父さんは大喜びだ。
 こうして俺は景光を助け、幽霊屋敷になっていた久我家を助けたのだった。一晩でえらく人助けしちゃったぜ。
 
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