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第一部

24 隠れていた才能

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 ヤハタは、袴をはいたコケシに似た機体だ。
 武装は長槍。塗装は十円玉と同じ銅色だ。
 仮想霊子戦場に入った俺は、自分の機体を確認していた。戦場は相変わらず天国みたいな花畑だ。
 
『量産機のヤハタで、れっきとした古神であるホスセリに勝つ? 本気で言っているのか?』
 
 花山院の声が聞こえてくる。
 敵の機体ホスセリは、爆発した花火のような形をしていた。イガグリとも言う。要は丸くてトゲトゲなのだ。
 針ネズミみたいに、体を丸めてローリングアタックしてくるんだぜ。知ってる。なんで知ってるかというと、一回、対戦したから。
 キョウの名前で挑んで、初手は負けている。その時に傾向は把握したから、今回の対戦は勝算が無い訳ではなかった。
 
『知らないなら教えてやろう! ヤハタと古神の違いを!』 
 
 花山院は、俺が過去に対戦したことがある相手だと気付かなかった。
 懇切丁寧に解説してくれる。

『ヤハタは五行の陰陽術を使えない機体だ。攻撃は長槍のみ!』
 
 無属性ってことだ。コノハナサクヤみたいに、炎で攻撃するようなオプションは無い。
 
『その長槍は攻撃力に乏しく、敵の古神の装甲を貫くことは出来ない。また装甲も正規の古神より薄く、防御手段は無きに等しい!』
 
 だから知ってるってば。
 ちなみに俺は今、ヤハタで勝ち進むのにハマっていて、登録済の他の機体のオモイカネやアマツミカボシを使っていなかった。あれはチートな機体だから、使うのは勿体ない。
 花山院は、仮想霊子対戦の総合四位だ。
 成績の二十位以内は皆、ヤハタ以外の古神で勝ち上がっている。例外は斎藤さんと俺だけだ。だから俺はヤハタ一筋の斎藤さんを尊敬する。
 
『一撃でも当たれば、こちらの勝利だ! さあ行くぞ! 爆裂疾走!』

 花山院は馬鹿の一つ覚えみたいに、炎をまとって丸くなると、一直線に突進してきた。
 
「はいはい、回避っと」
 
 俺はペダルを踏み込んで、最小限の動きで避ける。
 続くターンして戻ってきた攻撃も、サクッとかわす。
 
『反射速度で劣るヤハタで回避しただと?!』
 
 花山院が動揺する。
 ヤハタは縁神を介して操縦しない分、操縦と挙動の間に独特のズレが発生する。古神なら考えるだけで操縦にフィードバックされるんだけどな。
 おまけにホスセリの攻撃は一直線に見えて、微妙にカーブしている。普通は回避しようとしても、その微妙なズレに気付かずに当たってしまう。
 俺は……何となく分かる。
 敵の間合いというか、攻撃の軌道というか、とにかく当たる前に先読みできる。これを「見切り」と呼ぶのだろうか。
 
『くそっ、なぜ当たらない!!』 
 
 パチンコ玉のように縦横無尽に駆け回るホスセリだが、俺には一回も当たらない。
 愚直に操縦を極めた斎藤さんには悪いが、この「目」を持っていることが、おそらくチートなのだろう。
 元の世界でも勘がいいと言われることがあったが、「見切り」を活かせたのはドッジボールくらいだった。 テニスなどのスポーツなら活かせたんだろうけど、放課後は横暴な幼馴染みに付き合わされて部活動には行けなかったな。
 結局、俺の才能はこの世界の古神操縦で、初めて日の目を見た訳だ。
 
「始まったばかりだけど、終わりにしようか」
 
 唯一の武装である長槍を、地面に置く。
 花山院が暴れたおかげで花畑は荒れて穴ぼこだらけだ。だが、これからする戦法のためには、ちょうどいい。
 
『武器を手放すだと?!』
 
 花山院は疑問に思ったようだが、深く考えずにまた突進してくる。
 今度は俺は避けなかった。
 炎のボールになったホスセリが、地面に置いた長槍と接触する瞬間、長槍の先端を思い切り踏んで、梃子てこの要領でホスセリを跳ね上げる。
 
『うわああっ、落ちるぅぅ!!』
 
 悲鳴を上げる花山院。
 一拍おいて、空中に投げ出されて体勢を崩したホスセリが、顔面から着地して自滅する音がした。
 
『敵の機体に撃破相当の損傷を与えました。貴方の勝利です』
 
 ふっ。アイアムウィンだぜ。
 
 
 
 
 ヘッドギアを脱ぐと、室内は静まり返っていた。
 花山院は盛大に引きつった顔をしている。
 
「さ、さすが西園寺さんの弟様だ」
「様?」
「まさに圧倒的強さ。この花山院、感服いたしました!」
 
 どうしよう。戦いの前と後でこの落差。
 一転してへりくだった物言いになった花山院に、俺はげんなりする。
 
「ヤハタの槍に、あんな使い方があったとは。武器として使うことばかり念頭にあって、道具として使うなど考えた事もなかった」
 
 斎藤さんが感心したように言った。
 
「勉強させてもらったよ。気が向いたら、操縦学の学舎に遊びに来てくれ。いつでも歓迎する」
「はい、ありがとうございます」
 
 気のせいか学生たちが俺を見て「弟様すごい」などと言っている。ちょっと待て。なんだ弟、って。まさか定着しないだろうな。
 
「弟様! たぬきをお持ちしましょうか?」
「結構だ。あと付いてこなくて良いから」
 
 荷物を持つ、イコール狸を持つ、と言ってくる花山院を、しっしっと追い払う。
 
「ふむ。ナリヤは、サイトーとはまた別次元の強さだね。今まで辺境の島国と侮っていたが、私は日本に興味が出てきたよ」
 
 サンドラは楽しそうに俺を見た。
 
「で? 次は何を見せてくれるんだい?」 
「……」  
 
 そういえば俺は何しに学校に来たんだっけ。
 
「響矢。なーりーやー。友達が欲しいと言ってたの、忘れた?」
「おう、そうだったな姉さん」
 
 見かねた咲良が軌道修正してくれた。
 恵里菜さんに「学校に通ってください」と言われた時、通わないという選択肢もあった。しかし俺が学校に来たのは、普通の友達が欲しかったからだ。
 普通の友達。
 イケメン幼馴染みの弘と一緒の時は、引きずり回されて、他の友達と遊ぶ時間が無かった。それに普通の奴らは、弘の近くに寄って来なかった。
 俺はずっと無茶ぶりしない、荷物を持たされたりしない「普通の友達」に飢えていたのだ。
 
「姉さん、ゲットしやすい普通の友達は、どの辺の草むらに生息しているんだろう」
「響矢……友達は玉を投げて捕まえるものじゃないんだよ?」
 
 咲良は呆れた顔をしている。
 
「普通かあ。響矢の言う普通って、例えばどんなの?」
「例えば……あまり格好良かったり、可愛かったりしなくても良いんだ。飛び抜けた特技が無くてもいい。皆でワイワイ一つの事に取り組むのが、楽しいんじゃないかな」
 
 俺は、ちょっと宙を見上げて考えてから答える。
 鞄の中で狸が大きなあくびをした。
 
「あ、そうだ。響矢にピッタリな学舎があるよ!」
 
 咲良が指をパチリと鳴らす。
 
「作業着の人たちが、年中、何も出ない地面を掘ってるの。おしゃべりしながら、のんびりまったり!」
「ほほう、俺の希望に近いな」
「でしょう? 古神発掘学だよ。響矢にぴったりじゃない!」
 
 古神発掘学。そんな学舎があるのに、なぜ今までアマテラスの機体は見つかっていないんだろうな。
 
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