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地底の迷宮
81 異文化コミュニケーションは楽しいです
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天井が閉じたので光が無くなった。自分の手足も見えない暗闇に、ルーナが悲鳴を上げている。落下はまだ続いているみたいだ。
俺は片腕でローズを抱きしめ、もう片手を前に差し出した。
「明るくなれ!」
手のひらに火の球が浮かんだ。
周囲の景色が見えるようになる。
真下に浮かび上がった光景に俺はぎょっとした。
「あれって巨人?!」
仰向けに横たわっているのは、エスペランサで街を襲っていた巨人に似たものだった。あっちと違って土や泥を被って草が生えてる訳じゃないけど、代わりに砂埃を被っている。
「うわわ」
俺たちは巨人の腹の上に着地した。
落下の衝撃があると思ったのだが、柔らかいクッションの上に落ちたか、身体が羽毛になったように、ふわりと降りる。
「フトンガ、フットンダ……!」
巨人の目がカッと赤く光って、抑揚の無い声がした。
ええと……この巨人がしゃべっているのかな。
「駄洒落?」
「スベッテシマッタ。ファーストコミュニケーション、シッパイ」
俺はローズを抱え直した。
ルーナは俺の背中にぴっとり張り付いて「寒いわ、色々と」と呟いている。状況は分からないけど、巨人はがっかりしているっぽい。俺は何となくフォローした。
「……会話の始まりにしては唐突だったけど、失敗じゃないと思うよ」
「アリガトウ。アナタ、ヤサシイネ。トコロデ、ワタシノムネ二アル、ボタン、オシテ」
「ボタン?」
巨人の胸の中央に突起部があったので、足でエイヤっと押し込んでみる。すると巨人の肌に穴が空いて、中から丸い金属のボールが出てきた。
「ダッシュツ、セイコウ!」
今度は巨人じゃなくてボールがしゃべってる。そいつは虫の羽のような二枚の耳をパタパタさせて、空中を浮遊した。
「君、誰?」
「エーアイユニット、エムリット、ダヨ!」
「エムリット、ね。ところで俺たち、地上に戻りたいんだけど」
手のひらに浮かぶ火の球をかざして、周りの状況を確認した。
俺たちは巨人が入るくらい広くて大きな空間にいるようだ。
どっちに行けば、外に出られるだろう。
転移魔法が使えない以上、どこか抜け道を見つけないとな。
「コッチ、コッチ!」
エムリットは地面を跳ねるように飛んで、俺たちを案内し始めた。
「……ちょっと。信じるの? ゼフィ」
俺の後ろを歩くルーナが聞いてくる。
「今のところ罠の気配は無いからね。というか、君がそもそもの元凶なのに、何でしれっと俺を盾にしてるの?」
「うるさいわね、怖いからに決まってるじゃない!」
ルーナは三角の猫耳を伏せ気味にして震えている。
まあいいか、このままでも。
エムリットの行く先を手のひらの火球で照らすと、分厚い金属の扉が見えてきた。
「デグチ」
「閉まってるね……」
「エイヤッ!」
「エムリット?」
俺はぎょっとした。
エムリットは閉まった扉に体当たりしている。
ガツン! と痛そうな音がして、エムリットは跳ね返ってきた。
「何やってんの?!」
「トビラ、アケル」
「いや、その前に君が壊れちゃうよ!」
俺が止めるのも聞かず、エムリットは扉に体当たりを続ける。
何回か繰り返すとバチッと火花が散った。
扉には傷ひとつ無い。
エムリットの方が凹んで、パチパチ火花を散らしている。
「もう止めなよ。なんでこんな無茶をするんだ」
これ以上やらせるとエムリットが死にそうだ。
俺はローズを「抱いてて」とルーナに預けると、エムリットの身体を両手で握って体当たりを止めた。金属の球体は熱を発していて、手が火傷しそうだ。
「ダッテ、イチマンネンブリ、ニンゲント、シャベッタ」
「一万年?」
「ナガカッタ。サビシカッタ。ヤットアエタ、ニンゲン。ソトニダシテアゲナイト」
「エムリット……」
良い奴じゃないかエムリット。俺は少しホロリときた。
経過年数の単位が変だけど、きっと長い間ひとりだったから惚けて間違えてるんだろう。
それにしても扉が邪魔だ。
天牙を持っていれば叩き斬ってやったのに。
「ニンゲンノ、ヤクニタツ。ソレガ、エムリット、ソンザイリユウ!」
「おい!」
エムリットは俺の手から抜け出すと、勢いよく扉にアタックを掛けた。
今までで一番大きな音が鳴り、扉が揺れる。
衝撃で、扉の中央に紙一枚の隙間ができた。
弾き飛ばされたエムリットが煙を上げて地面に転がる。
「プシュー……ゴメンナサイ。ゲンカイ……」
「いいや。よくやってくれたよ、エムリット。ここからは俺が何とかする」
俺は両手を前に出して集中する。
剣は無いけど魔法を使えば……!
氷の魔法で扉に出来た隙間を埋め、こじ開ける。
「はあっ!」
白い水晶のような氷の柱が地面から生えて扉を貫いた。
次の瞬間、氷は砕け散り、割れた扉だけが残る。
「相変わらず出鱈目な威力の魔法ね……」
ルーナが呆れた顔をした。
「ヨカッタ……エムリット、ココデ、オワカレ……」
煙を上げるエムリットの、目のような部分が点滅した。
今にも動きを止めて死んでしまいそうだ。
「ちょっと待った」
「?」
俺はエムリットに時の魔法を使った。
「……モトニ、モドッタ?」
ほんのちょっとだけ時間を巻き戻して、エムリットを回復させた。微妙な力加減が難しいんだよなー。
エムリットは自分の身体の具合を確かめるように、くるくる回ってとび跳ねた。
「スゴイ! アナタ、マホウツカイ?!」
「魔法使いだけど」
「ワオ!」
何故か魔法使いというところに感動されている。
そんな珍しい生き物かな、魔法使いって。
「アナタ、エムリットノ、マスターニナッテ!」
「はい?」
「ナマエ、ナマエ!」
エムリットに名前を聞かれて、俺はちょっと考えて「ゼフィ」と答えた。偽名のセイルをここで名乗る必要は無いだろう。
「ゼフィ! マスタートシテ、トウロク! エムリット、マスターヲ、サポートスル!」
「よく分からないけど、友達になったってことかな。よろしく、エムリット!」
細かい事を考えるのは諦めて、俺はエムリットを仲間として受け入れた。ルーナは納得いかないという顔をしている。
「おかしいわ……あの水晶球は、世界を破滅に導く鍵という大層なキャッチのアイテムなのに! 全然ゼフィが不幸にならないじゃない?!」
「騙されて変なものを買わされたんじゃないの」
世界を破滅に導く鍵かー……巨人……まさかね。
巨人から出てきたやつと友達になっちゃったよ。
俺は片腕でローズを抱きしめ、もう片手を前に差し出した。
「明るくなれ!」
手のひらに火の球が浮かんだ。
周囲の景色が見えるようになる。
真下に浮かび上がった光景に俺はぎょっとした。
「あれって巨人?!」
仰向けに横たわっているのは、エスペランサで街を襲っていた巨人に似たものだった。あっちと違って土や泥を被って草が生えてる訳じゃないけど、代わりに砂埃を被っている。
「うわわ」
俺たちは巨人の腹の上に着地した。
落下の衝撃があると思ったのだが、柔らかいクッションの上に落ちたか、身体が羽毛になったように、ふわりと降りる。
「フトンガ、フットンダ……!」
巨人の目がカッと赤く光って、抑揚の無い声がした。
ええと……この巨人がしゃべっているのかな。
「駄洒落?」
「スベッテシマッタ。ファーストコミュニケーション、シッパイ」
俺はローズを抱え直した。
ルーナは俺の背中にぴっとり張り付いて「寒いわ、色々と」と呟いている。状況は分からないけど、巨人はがっかりしているっぽい。俺は何となくフォローした。
「……会話の始まりにしては唐突だったけど、失敗じゃないと思うよ」
「アリガトウ。アナタ、ヤサシイネ。トコロデ、ワタシノムネ二アル、ボタン、オシテ」
「ボタン?」
巨人の胸の中央に突起部があったので、足でエイヤっと押し込んでみる。すると巨人の肌に穴が空いて、中から丸い金属のボールが出てきた。
「ダッシュツ、セイコウ!」
今度は巨人じゃなくてボールがしゃべってる。そいつは虫の羽のような二枚の耳をパタパタさせて、空中を浮遊した。
「君、誰?」
「エーアイユニット、エムリット、ダヨ!」
「エムリット、ね。ところで俺たち、地上に戻りたいんだけど」
手のひらに浮かぶ火の球をかざして、周りの状況を確認した。
俺たちは巨人が入るくらい広くて大きな空間にいるようだ。
どっちに行けば、外に出られるだろう。
転移魔法が使えない以上、どこか抜け道を見つけないとな。
「コッチ、コッチ!」
エムリットは地面を跳ねるように飛んで、俺たちを案内し始めた。
「……ちょっと。信じるの? ゼフィ」
俺の後ろを歩くルーナが聞いてくる。
「今のところ罠の気配は無いからね。というか、君がそもそもの元凶なのに、何でしれっと俺を盾にしてるの?」
「うるさいわね、怖いからに決まってるじゃない!」
ルーナは三角の猫耳を伏せ気味にして震えている。
まあいいか、このままでも。
エムリットの行く先を手のひらの火球で照らすと、分厚い金属の扉が見えてきた。
「デグチ」
「閉まってるね……」
「エイヤッ!」
「エムリット?」
俺はぎょっとした。
エムリットは閉まった扉に体当たりしている。
ガツン! と痛そうな音がして、エムリットは跳ね返ってきた。
「何やってんの?!」
「トビラ、アケル」
「いや、その前に君が壊れちゃうよ!」
俺が止めるのも聞かず、エムリットは扉に体当たりを続ける。
何回か繰り返すとバチッと火花が散った。
扉には傷ひとつ無い。
エムリットの方が凹んで、パチパチ火花を散らしている。
「もう止めなよ。なんでこんな無茶をするんだ」
これ以上やらせるとエムリットが死にそうだ。
俺はローズを「抱いてて」とルーナに預けると、エムリットの身体を両手で握って体当たりを止めた。金属の球体は熱を発していて、手が火傷しそうだ。
「ダッテ、イチマンネンブリ、ニンゲント、シャベッタ」
「一万年?」
「ナガカッタ。サビシカッタ。ヤットアエタ、ニンゲン。ソトニダシテアゲナイト」
「エムリット……」
良い奴じゃないかエムリット。俺は少しホロリときた。
経過年数の単位が変だけど、きっと長い間ひとりだったから惚けて間違えてるんだろう。
それにしても扉が邪魔だ。
天牙を持っていれば叩き斬ってやったのに。
「ニンゲンノ、ヤクニタツ。ソレガ、エムリット、ソンザイリユウ!」
「おい!」
エムリットは俺の手から抜け出すと、勢いよく扉にアタックを掛けた。
今までで一番大きな音が鳴り、扉が揺れる。
衝撃で、扉の中央に紙一枚の隙間ができた。
弾き飛ばされたエムリットが煙を上げて地面に転がる。
「プシュー……ゴメンナサイ。ゲンカイ……」
「いいや。よくやってくれたよ、エムリット。ここからは俺が何とかする」
俺は両手を前に出して集中する。
剣は無いけど魔法を使えば……!
氷の魔法で扉に出来た隙間を埋め、こじ開ける。
「はあっ!」
白い水晶のような氷の柱が地面から生えて扉を貫いた。
次の瞬間、氷は砕け散り、割れた扉だけが残る。
「相変わらず出鱈目な威力の魔法ね……」
ルーナが呆れた顔をした。
「ヨカッタ……エムリット、ココデ、オワカレ……」
煙を上げるエムリットの、目のような部分が点滅した。
今にも動きを止めて死んでしまいそうだ。
「ちょっと待った」
「?」
俺はエムリットに時の魔法を使った。
「……モトニ、モドッタ?」
ほんのちょっとだけ時間を巻き戻して、エムリットを回復させた。微妙な力加減が難しいんだよなー。
エムリットは自分の身体の具合を確かめるように、くるくる回ってとび跳ねた。
「スゴイ! アナタ、マホウツカイ?!」
「魔法使いだけど」
「ワオ!」
何故か魔法使いというところに感動されている。
そんな珍しい生き物かな、魔法使いって。
「アナタ、エムリットノ、マスターニナッテ!」
「はい?」
「ナマエ、ナマエ!」
エムリットに名前を聞かれて、俺はちょっと考えて「ゼフィ」と答えた。偽名のセイルをここで名乗る必要は無いだろう。
「ゼフィ! マスタートシテ、トウロク! エムリット、マスターヲ、サポートスル!」
「よく分からないけど、友達になったってことかな。よろしく、エムリット!」
細かい事を考えるのは諦めて、俺はエムリットを仲間として受け入れた。ルーナは納得いかないという顔をしている。
「おかしいわ……あの水晶球は、世界を破滅に導く鍵という大層なキャッチのアイテムなのに! 全然ゼフィが不幸にならないじゃない?!」
「騙されて変なものを買わされたんじゃないの」
世界を破滅に導く鍵かー……巨人……まさかね。
巨人から出てきたやつと友達になっちゃったよ。
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