上 下
77 / 126
竜の娘

75 精神と時の部屋を作りました

しおりを挟む
 ピエールは「セイルがグスタフを自分の竜として登録した」と聞いて嘲笑した。
 
「よりにもよって、あの太っちょでノロマな竜を……笑い死にさせる気か」
 
 火山に生息する竜は、捕まえて自分の竜にしていいルールだった。しかしグスタフは、いつも学校の前に寝転がっていてとても強そうには見えない。だからこれまで、誰も自分の竜にしようとはしなかったのだ。
 
「所詮は田舎の小国よ。見る目が無い」
 
 周囲の評価はそんなものだった。
 ところで、セイルとピエールのやり取りは侍女経由でフレイヤにも伝わっている。
 
「フレイヤさま!」
「……」
 
 フレイヤはぼんやりしていた。
 侍女マリンは嘆息する。
 王女は祭りの見物以来、ずっと上の空だ。
 
「ぼうっとしてると、セイルさまを取られてしまいますよ!」
「取られる?」 
 
 マリンの言葉に、フレイヤは我に返った。
 
「ご存知ないのですか? セイルさまの人気が上がってきていることを」
「し、知ってるわよ。上級剣士の腕を持っている上、あの機転のきく振る舞い。輝くような銀髪に翡翠の瞳、年齢に見合わない落ち着いた所作。人気になって当然だわ……」
 
 くわえて、繊細な美貌だが太陽のように明るいティオが隣に並ぶと、美少年二人の二重後光ダブルエフェクトで目がくらむ。
 二人を絵に描きたいなと思いながら、フレイヤは拳を強くにぎった。
 その様子を見ながらマリンは続けて言う。
 
「課題を見事こなせば、セイルさまの評価はさらに上がることでしょう。そうなれば外国人だと敬遠していた貴族たちも、彼を味方に引き入れようと動き始めるかもしれません」
「それって」
「具体的には、彼を指名したお見合いなどでしょうか」
 
 フレイヤは「がーん!」と音を立てて硬直する。
 
「どうしよう……」

 フレイヤは初めて感じる気持ちに当惑していた。
 自分に優しく微笑みかけてくれた、綺麗な男の子。
 彼が他の女の子と親しく話す姿を想像するだけで、胸を焦がすような想いが沸き上がってくる。
 
「ピエールは私の婚約者じゃないと、セイルさまに伝えたいわ」
 
 混乱する彼女が導き出した結論とは……!
 
 
 
◇◇◇
 
 
 
 わずか一週間でグスタフの脂肪を落とすのは無理がある。
 そこで俺は火山の洞窟に時の魔法を掛け、時間の歩みを遅くした。
 
「この中で一週間を過ごしても、外では一日しか経たないから安心して」
「キョッ(安心できるか!)」
 
 嫌がるグスタフを無理やり洞窟に放り込んで、氷で出入口を閉ざした。
 三日経って様子を見に行くと、グスタフは予想通り痩せていた。
 しかも飲まず食わずの三週間で悟りを開いたらしい。
 なんだか賢そうな顔つきになっている。
 
「キュエー!(窮すれば通ず)」
「あ、課題が終わったら元通り太っていいよ。食べるから」
「キュヒッ(酷い)」
 
 スマートになったグスタフを残りの日程でびしばし鍛えて。
 竜騎士クラスの課題が出される日がやってきた。
 
「これから渡す地図に書かれた島へ行き、二日以内にベルガモットの果実を取って来てください。なお、この課題に使う竜は二頭目以降の竜とします」
 
 先生が地図の書かれた紙を配る。
 俺は王子様ティオの代わりに紙を受けとる。地図と言っても、空から見て目立つ木や岩が目印に書いてあったり、海岸がゆるい線で表現されているだけの簡易なものだ。
 
「馬鹿な、それがグスタフだと?!」
「キュイー(何か文句ある?)」
 
 スマートになったグスタフを見上げ、ピエールが目を剥いている。
 グスタフが自分の力を誇示すよう炎を吐くと、余波を浴びたピエールのカツラが煙を上げて消失した。
 
「僕の毛がっ!」
 
 さらばヅラ。お前の勇姿は忘れない。
 俺はショックで茫然自失になっているピエールを置いて、ティオと一緒にグスタフに竜鞍《サドル》を付けて乗り込んだ。
 
「出発!」
 
 グスタフは崖の上から飛び降りて、風に乗って飛行を始める。
 遠くに見える南の海が目的地だ。
 
「ティオ」
「何?」
「お前の白竜、スノウは竜舎に置いてきたんだよな」
 
 俺は気になることがあって、後ろに座るティオに聞いた。
 ティオはきょとんとする。
 
「うん 。もちろんだよ」
「後ろを見てみ」
 
 指で後方を示す。
 ティオは俺の指す方向を振り返り、ぎょっとした。
 
「え? あれってスノウ?! なんで追いかけてきてるの?! それにスノウに乗ってるのは誰?!」
 
 少し距離を置いて、雪のように白い竜が飛んでいる。
 白竜の背には、マフラーで顔を隠して黒い色眼鏡を掛けた、華奢な体格の人物が乗っていた。遠いから男か女かも分からない。
 
「俺たちの課題を邪魔したいのかなー」
「スノウが僕たち以外の人を乗せるなんて」
 
 俺は困惑しているティオの肩をポンと叩いた。
 
「交代」
「え?」
「これグスタフの手綱たづな。あとよろしく。俺はスノウに乗ってるのは誰か、確かめてくるよ」
 
 グスタフが旋回して引き返し、スノウに近付く。
 腰の天牙を握りしめて、俺はグスタフからスノウに飛び移ろうとした。
 
「ちょっとゼフィ!」
 
 慌てるティオを残し、空中にダイブする。
 さあ、不審者の正体を暴いてやるぜ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

世界最強だけど我が道を行く!!

ぶちこめダノ
ファンタジー
日本人の少年ーー春輝は事故で失ったはずの姉さんが剣と魔法のファンタジーな異世界にいると地球の神様に教えられて、姉さんを追ってラウトという少年に異世界転生を果たす。 しかし、飛ばされた先は世界最難関のダンジョンで しかも、いきなり下層で絶体絶命!? そんな危機を乗り越えて、とんでもなく強くなったラウトの前に現れたのは・・・ それから、出会った仲間たちと旅をするうちに、目的を忘れて異世界を満喫してしまう。 そんなラウトの冒険物語。 最後にどんでん返しがある予定!? どんな展開になるか予測しても面白いかも? 基本的にストレスフリーの主人公最強ものです。 話が進むにつれ、主人公の自重が消えていきます。 一章は人物設定や場面設定が多く含まれているのですが、8話に《8.ざっくり場面設定》という、2〜7話までのまとめみたいなものを用意しています。『本編さえ楽しめれば、それでいい』という方は、それを読んで、2〜7話は飛ばしてください。 『ストーリーも楽しみたい』という方は、2〜7話を読んで、8話を飛ばしてください。 ちなみに、作者のオススメは後者です!! 作品へのご意見は感想でお聞かせいただけると嬉しいです。 感想には責任を持って全てに返信させていただきますので、何かあればご遠慮なくお申し付けください。 ※不定期更新

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...