18 / 22
18 俺、お持ち帰りされる
しおりを挟む
対峙する二人、遠藤と狗乃森は俺の接近に気付いていなかった。ふと思いついた俺は、学校につきものの二宮金次郎の像によじのぼって、そこから狗乃森に向かって飛び降りる。
そのまま高笑いする狗乃森の後ろ頭を蹴倒してやった。
ざまあみやがれ!
猫の姿で狗乃森の背中を踏んづける。
地面に這いつくばって悲鳴をあげる狗乃森。
あー、すっきりした。
こちとらお前のせいで散々な目にあったんだよ。このくらいは別にいいだろ。
「幸宏」
遠藤が俺の姿を認めて驚いたように目を見張る。
微かにアクアブルーに光る瞳に安堵の色がよぎった。
遠藤は倒れた狗乃森はもう見ないで、俺だけを見て少ししゃがんで両腕を広げる。
俺は狗乃森の頭を念入りに踏んづけながら地面に降り、なにやら筆記用具が散らばっている地面を注意深く走り抜けて、遠藤の腕の中に飛び込んだ。タイミングを合わせて遠藤が俺を抱え上げる。
自分の足で歩くのは面倒くさい。後は遠藤が抱えて運んでくれるだろう。
「……うぐぐ、待て」
黒猫(俺)を抱えた遠藤は、倒れている狗乃森を放って校門へ歩き出した。
その背中に声が掛かる。
「覚えてろよ……遠藤、須郷!」
恨み文句を言われた遠藤は肩越しに振り返って嘆息した。
「覚えないさ。そんなに暇じゃない。お前と違って有限の命を持つ僕達は、どうでもいいことにかかづらってる時間がもったいないんだ」
「くっ」
ぐうの音も出ない正論だったらしく、狗乃森は悔しそうにする。
遠藤はもうそんな狗乃森は気にせずに自宅への道と思われる経路を進み始めていた。夜道は暗かったが、月光を受けて遠藤の眼鏡の奥の瞳が淡くアクアブルーに輝いている。遠藤の猫族の瞳には道がはっきり見えているようだ。
歩きながら遠藤は俺に軽く話しかけた。
「幸宏、鞄は?」
そうだ、鞄。持ち物はどこにやったっけ。
猫の姿だと返事ができない。
俺は首を傾げながら遠藤を見上げた。
「まあいい。明日はやく学校に行って鞄を探せばいい。僕も手伝おう」
返事がかえってこなくても良かったらしく、遠藤は勝手に決めた。
仕方ない。今から学校に戻るのは嫌だし、それしかないだろう。
安定感のある遠藤の腕の中で揺られながら、俺は夜風を吸い込んだ。
風に混じるミントの匂い。
爽やかで胸がすっとするような匂いは、なぜか遠藤の身体から漂ってくる。こいつ何か香水でも使ってんのか。この匂いを嗅いでいると、なんだか体が熱くなる。むずがゆくなって……。
「幸宏?」
腕の中で身じろぎした俺に気付いたらしく、遠藤が不思議そうにする。
そのアクアブルーの瞳と目があって、俺は心臓が高鳴るのを感じた。俺を見た遠藤は目を細めて、ふっと笑う。冷たい色の筈のアクアブルーに宿る熱を感じて、俺は身震いをした。
そのまま高笑いする狗乃森の後ろ頭を蹴倒してやった。
ざまあみやがれ!
猫の姿で狗乃森の背中を踏んづける。
地面に這いつくばって悲鳴をあげる狗乃森。
あー、すっきりした。
こちとらお前のせいで散々な目にあったんだよ。このくらいは別にいいだろ。
「幸宏」
遠藤が俺の姿を認めて驚いたように目を見張る。
微かにアクアブルーに光る瞳に安堵の色がよぎった。
遠藤は倒れた狗乃森はもう見ないで、俺だけを見て少ししゃがんで両腕を広げる。
俺は狗乃森の頭を念入りに踏んづけながら地面に降り、なにやら筆記用具が散らばっている地面を注意深く走り抜けて、遠藤の腕の中に飛び込んだ。タイミングを合わせて遠藤が俺を抱え上げる。
自分の足で歩くのは面倒くさい。後は遠藤が抱えて運んでくれるだろう。
「……うぐぐ、待て」
黒猫(俺)を抱えた遠藤は、倒れている狗乃森を放って校門へ歩き出した。
その背中に声が掛かる。
「覚えてろよ……遠藤、須郷!」
恨み文句を言われた遠藤は肩越しに振り返って嘆息した。
「覚えないさ。そんなに暇じゃない。お前と違って有限の命を持つ僕達は、どうでもいいことにかかづらってる時間がもったいないんだ」
「くっ」
ぐうの音も出ない正論だったらしく、狗乃森は悔しそうにする。
遠藤はもうそんな狗乃森は気にせずに自宅への道と思われる経路を進み始めていた。夜道は暗かったが、月光を受けて遠藤の眼鏡の奥の瞳が淡くアクアブルーに輝いている。遠藤の猫族の瞳には道がはっきり見えているようだ。
歩きながら遠藤は俺に軽く話しかけた。
「幸宏、鞄は?」
そうだ、鞄。持ち物はどこにやったっけ。
猫の姿だと返事ができない。
俺は首を傾げながら遠藤を見上げた。
「まあいい。明日はやく学校に行って鞄を探せばいい。僕も手伝おう」
返事がかえってこなくても良かったらしく、遠藤は勝手に決めた。
仕方ない。今から学校に戻るのは嫌だし、それしかないだろう。
安定感のある遠藤の腕の中で揺られながら、俺は夜風を吸い込んだ。
風に混じるミントの匂い。
爽やかで胸がすっとするような匂いは、なぜか遠藤の身体から漂ってくる。こいつ何か香水でも使ってんのか。この匂いを嗅いでいると、なんだか体が熱くなる。むずがゆくなって……。
「幸宏?」
腕の中で身じろぎした俺に気付いたらしく、遠藤が不思議そうにする。
そのアクアブルーの瞳と目があって、俺は心臓が高鳴るのを感じた。俺を見た遠藤は目を細めて、ふっと笑う。冷たい色の筈のアクアブルーに宿る熱を感じて、俺は身震いをした。
0
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる